経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




17/1/16(923号)
今年の展望と昨年暮れの出来事

  • 今年の展望

    年頭に相応しく一年を見通すような話をしたいところであるが、特に今年はこれが難しいのである。各種のメディアも、今年中に起るであろう出来事の予想といったものを例年以上に熱心に取上げているように筆者は感じる。人々が今年こそ何か大きなことが起るのではないかと密かに思っていることがこの背景にあると考える。

    客観的に見ても、中国の軍事的な海洋進出や北朝鮮の核開発など不穏な動きが大きくなっている。またISによるテロも引続き起っていて終息する気配がない。さらにEUの弱体化や韓国の混乱を見ていると「世界は一体これからどうなるのか」と誰しも先の見通しが付かないといった状態である。

    さらにトランプ米大統領の登場も事態の見通しを難しくしている。まず選挙中に言っていた政策がどのように実現されるか不明である。そもそも16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」で述べたように、トランプ米大統領の政策や主張は矛盾だらけである。


    主要国の中で政情が比較的安定しているのは日本だけである。噂されていた衆議院の解散も当分ないようである。ただ他国の混乱や不規則な行動に、日本はとんだとばっちりを受ける可能性がある。しかし連日追掛けているのが小池都知事というのであるから、日本のマスコミは相当ボケている。

    筆者は、トランプ大統領とトランプ政権は必ずしも一緒と考える必要はないと思っている。もちろんトランプ政権の政策にトランプ大統領の考えや主張は反映される。しかしトランプ大統領の言っていることを全て政権が実行するわけではない。筆者は、トランプ政権がどう転がるのかを見極めるには、やはり政権発足後の数カ月の様子を見る他はないと思っている。


    元英金融サービス機構(FSA)長官アデア・ターナー氏が、年明け1月6日に安倍総理や黒田日銀総裁を訪問した(投資家ジョーズ・ソロス氏が同席)。この重要な出来事を日本のマスコミはほとんど伝えていない。当然、ヘリコプターマネーに関連した話が出ている。たしかにターナー氏は、安倍総理に直接的なヘリコプターマネー政策を奨めたということではないと言っている。氏は既に日銀が大量の日本国債を保有しているのだから、その20%程度(80兆円)を永久債(コンソル債)に換えてはどうかと安倍総理等に提案したと言っている。

    もちろんこれを財源にした財政政策を奨めたことは確実であろう。ターナー氏もこの一連の政策が、後で振り返るとヘリコプターマネー政策だったと見なされるかもしれないということを認めている。まず永久債の発行とその日銀買入れは筆者の長年の提案でもある。そして日銀の保有する国債を永久債に換えるということは、その永久債が市場に二度と売却されないことを意味すると考えて良い。つまり世間で言われている出口戦略と関係がなくなる。


    最も注目されることの一つは、一体誰が多忙な安倍総理等にターナー氏を引合わせたかということである。ターナー氏は世界的に大きな反響を呼んだ「債務と悪魔の間で」の著者であり、ヘリコプターマネーの一大権威である。したがって安倍政権に近い筋にヘリコプターマネー政策に賛同する者がいると認識して良いと筆者は思う。

    世間のヘリコプターマネーへの関心は、半年前と比べるとちょっと低くなっている。しかし底流ではむしろヘリコプターマネー政策実現への動きは確実なものになりつつあると筆者は感じている。本誌は、昨年末、6週間に渡り「ヘリコプターマネーに関するQ&A集」を掲載した。筆者の一番の関心事は、今年はどれだけヘリコプターマネーの理解が進みこの政策の実現に前進が見られるかである。


  • 昨年暮れの出来事

    昨年暮れの出来事の中から二つ取上げる。一つは真珠湾アリゾナ記念館での安倍総理の演説である。総理は米国の寛容さを示すエピソードとして、終戦直後の食料援助に言及している。本文は「日本が見渡す限りの焼け野原、貧しさのどん底の中で苦しんでいた時、食べるもの、着るものを惜しみなく送ってくれたのは、米国であり、アメリカ国民でありました」である。

    終戦直後の米国の援助物資はララ物資(LaRa・・Licensed Agencies for Relief in Asia(アジア救援公認団体))と呼ばれている。これによって命を助けられた日本人は多数いる。またこのララ物資が発端となり学校給食が始まったという話がある。


    日本人は、長い間、ララ物資を100パーセント米国民の自主的な善意の援助と思っていた。しかしこの裏には浅野七之助氏という日系米国人の大きな働きがあった。浅野氏は岩手・盛岡出身のジャーナリスト(サンフランシスコ邦字紙「日米時報」を発刊)である。氏は終戦直後の日本の惨状にいたたまれず、「日本難民救済会」を設立し日系人に声を掛け祖国日本に救援物資を送ることに奔走した(ブラジルの日系人からも寄付を募った)。

    浅野氏は、食料などの援助品を米軍に掛け合い日本に送ってもらったのである。戦後間もない頃の日本人は、これを米国の善意のプレゼントと勘違いしていた。たしかにその後、金額的に見てもララ物資は大きくなりとても日系人の寄付だけではとうてい賄えないものになっている。おそらく米国の援助部分が大きくなったと思われる。しかしララ物資の先鞭をつけたのはこの浅野七之助氏という事実を忘れてはいけない。

    この話は決して米国民の寛容さを否定するものではない。米国民の対日感情が非常に悪かった時代に、米軍が日本に援助物資を届けてくれたことはむしろ画期的なことである。むろん日系ではない米国人の大きな協力もあった。ただララ物資の裏に浅野氏等の日系人の働きがあったことは戦後長い間伏せられていた。安倍総理の演説を聞き、この話を思い出したしだいである。


    もう一つは宍戸駿太郎筑波大名誉教授の訃報である。宍戸教授は11月28日に逝去された。この報に筆者が接したのは、日本経済復活の会からのメールであった(宍戸教授は日本経済復活の会の顧問)。どうも半年くらいの闘病であったようである。前に小野さん(日本経済復活の会会長)と話をした時、最近宍戸教授と連絡が取れないとう話を聞き心配していた。

    おそらく消費再増税が延期が決まった頃からご容態が悪くなったと推察される。宍戸教授は消費増税に反対してきた数少ない経済学者の一人であった。まことに残念である。


    筆者が宍戸教授から直接的・間接的に教わったことは非常に大きかった。16/7/4(第898号)「奇異な話二題」などで述べたように、2001年に内閣府発足が採用したマクロ経済分析のシミュレーションモデルの問題点を指摘したのは宍戸教授であった。また04/10/25(第364号)「クライン博士を招いてのシンポジウム」が実現したのも教授の尽力による。

    今日、日本はばかな経済学者で溢れている。元々、まともな経済学者は故宍戸教授などほんの数名であった。日本の経済論壇を考えると前途はまことに暗い。



筆者の都合で来週は臨時休刊する。再来週は久しぶりに中国に関連したことを取上げる。



16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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