- VIX(恐怖指数)
今週は予定を変更し、混乱している世界の金融市場を取上げる。これまで筆者は米国発のサププライム問題を今日まで起っている金融問題の単なる発端と述べてきた。仮にサププライムローンだけが問題であったなら、金融の混乱も今頃には峠を越えていたと考えられる。
筆者は07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」で述べたように、「金余り」こそが今日の混乱の根源と考えている。さらにこの「金余り」を流行りの金融工学技術で大きく増幅したことが問題の本質と捉えている。問題はサププライムローン問題からずっと範囲が広がり、損失額も大きくなっている。
サププライム問題は一番最初に症状として現われたが、これは問題の一部に過ぎなかった。実際、メディアも最近では今日の金融の混乱をサププライム問題とは呼ばないようになっている。筆者はレバレッジバブルの崩壊という表現が適切と思っている。
リーマン・ブラザーズの破綻を境に、市場の雰囲気が一気に悪くなった。資金の流れが極端に悪くなったのである。しかしこの徴候はかなり前からあった。今年の1月から本格的にFRBは利下げを行った。この時筆者が「おや」と思ったのは、金利引下げにもかかわらず末端の住宅融資金利などが逆に上がったことである。また融資の選別はその前から厳しくなっていた。
また米国の利下げにもかかわらずLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)がずっと高く推移していた。特にリーマン・ブラザーズ破綻をきっかけにLIBORが一段と高くなった。しかし金利が高くなっただけでなく、銀行間で資金の出し手がいなくなったのである。今日、銀行に資金を供給しているのは各国の中央銀行である。つまり利下げや金融の緩和が末端には全く行き渡っていないのである。
今日、市場を支配しているのは理屈ではなく「恐怖」である。どんなに大きな金融機関であっても破綻のリスクがつきまとう。リーマン・ブラザーズの破綻はそれを証明したことになる。今、金融市場は異常な空気に包まれている。
アメリカ人は変なことを考える。この市場の恐怖の度合をVIXという指数(シカゴオプション取引所)にしている。別名で恐怖指数と呼ばれている。これは株価(S&P500)の変動率を元に計算されている。この指数の値が30を越えるようだとパニック状態という話である。ところが先週あたりではこの値が50とか60、そして70になっている。過去にない数値である。今日の金融市場の恐怖感はまさにパニックを越えているのである。
損失を公的資金で補填するということで、3月にベア・スターンズがJP・モルガン・チェースに吸収された。リーマン・ブラザーズも、どこかが資金を出すか、あるいは最悪でも政府によってベア・スターンズと同様の救済処置が採られると皆が思っていた。しかしこの期待が裏切られたのである。
人々は、当初リーマンが破綻した9月ではなく、シテイなど大手銀行の7〜9の決算が出る10月が金融混乱の一つの「山」と感じていた(筆者も本誌でそのように言っていた)。つまり10月までは、金融市場の混乱も小康状態を保つと思っていた。しかし証券会社の6〜8月の決算が出た9月に、金融界の混乱が前倒しされたのである。しかも混乱の程度が予想を越えていた。
米政府はリーマンを救済する(ベア・スターンズの場合と同様に損失を政府が補填すれば、大手銀行が吸収合併していた)かどうかの苦しい選択に迫られた。しかし政府は救済を断念したのである。この選択が正しかったかどうか議論があろう。たしかにこれを境に世界的に株価の暴落が起った。またAIGは公的資金が投入されるまで追い詰められた。恐怖指数は跳ね上がったのである。
しかしリーマン破綻による金融市場の混乱が、米国や欧州の政府の対応を急がせたとも言える。米国の金融安定化法もこの金融危機を背景に成立した。たしかに金融安定化法や協調利下げはまだ効果を生んでいない。しかしだんだん問題の所在がはっきりしてきた。次の注目は金融機関に対する公的資金による資本注入であり、米政府もこの覚悟を固めたようである。
もしリーマンの破綻がなければ、米国政府の対応はもっと手間取っていたと思われる。つまりリーマンの破綻後の一連の金融不安は、各国の政府を動かした。したがってこれがレバレッジバブル崩壊による混乱を収束するまでの道のりを縮めたと言える。
- 今週は一つのイベントの終了
それにしても先週の金融市場は凄まじかった。各国の株価は一週間で20%前後暴落している。混乱は他の市場にも広がっている。各国の長期国債が売られ、「質への逃避」と買われていた「金」までも金曜日には大きく売られた。バルチック海運指数は9月26日の3,746からたった2週間で2,221と41%も下落した(今年5月20日の史上最高値11,793からは何と81%の下落)。株が売られると原油や金が買われるということもなくなった。
今回の日本の株価暴落について言えば、87年のブラックマンデーや、90年代初頭の土地バブルの崩壊時とは様相が違う。ブラックマンデーの時には、世界的な株価の暴落の連鎖を東京市場が止めた。日本だけ、実態経済が強かったのである。この時には日本の平均株価は数カ月で元に戻った。
土地バブル崩壊の時は、日経平均が史上最高値である4万円附近からの長期下落であった。ところが今回、リーマン破綻時には日経平均が既に12,000〜13,000円とかなり安くなっていた。この安い水準からの大暴落である。しかもたった3週間の出来事である。また今回は外人売りが凄まじかったことも付加えておく。
先週末にG7が開かれ、具体的ではないが各国も大きく踏込んだ政策を実行することを確認した。どうも今週も大きな動きが有りそうである。注目のシティなど米大手銀行の7〜9月決算が公表される。先日、バンク・オブ・アメリカが前倒しで7〜9月決算を発表している。対前年度同期比で大幅な減益であった。これから推し量るとシティやJPモルガン・チェースの決算も相当悪そうである。
しかし大手銀行の決算発表で一連のイベントは一旦終了する。これまでの経験則では、ここまで売込まれればそろそろ株価も反発しても良い。まず決算が予想より良ければ株価は反発するであろう。また悪くても「これでアク抜け」と反発に転ずる可能性がある。さらにヘッジファンドの決算売りや換金売りも一巡する。筆者もある程度の確率で反発するものと見ている。
ところで今日の市場は誰も経験したことがない雰囲気に包まれている。リーマン破綻以降の株価暴落で、市場参加者が心理面で傷付いている。いわゆる「トラウマ」である。いずれ株価は一旦上昇に転じる。しかし何かのきっかけで下落すると、かなり大きな下げを演じる可能性が高い。投資家の心理に今回の株価暴落劇が蘇るのである。このような事はブラックマンデーの時にも経験した。
心理面の傷が癒えるには時間が掛かる。筆者は、心理が改善するには実態経済が良くなる必要があると考える。ブラックマンデーの時には、土地バブルが始まった頃であり、日本だけは投資家の心理は比較的早く癒えた。しかし今回の場合は、これから世界経済が下降に向かおうとしているのである。
今後の世界の注目は、金融市場から実態経済に移る。たしかに株式市場が実態経済を先取りしている面はあるが、それにしても株価の下げるピッチが速すぎる。
各国政府は、金融危機の対応に追われ、今のところ実態経済の悪化に対応できていない。しかし実態経済が悪いことが、連鎖的に金融機関の経営を不安定にさせている。金融に対する緊急措置が一段落すれば、次は経済の立直しである。そして実態経済に明るい材料が一つでも出てくれば、市場の雰囲気がガラっと変わることもある。相当難しいが、例えば住宅価格の下落が止まる徴候が見られるとか、自動車の売上が対前年比でプラスに転じるといったことである。
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