経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/12/5(919号)
ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))

  • インフレターゲット政策の有効性

    先週号で述べたように、ヘリコプターマネーへの反対論の大きな理由がインフレや物価上昇への懸念である。もしこれを払拭することができるのなら、ヘリコプターマネー実現にとって大きな進展となる。


    〈解説〉ヘリコプターマネー反対派は日本のデフレギャップがわずかGDPの1〜2%と主張する。しかし推進派はこの数字が現実離れしていると批難する。これに対して反対派は、国際標準の算出方法を用いて算出した結果と譲らない。しかし推進派は、国際標準の算出方法は発展途上国や慢性的に供給不足が続いている国を前提にしていると指摘する。したがって日本のように慢性的に需要が不足する国には適用できないとさらに反論する。

    このようにデフレギャップの数値に関する議論は、平行線を辿り水掛け論になってしまう。まさにこの議論は時間と労力の無駄である。そこでヘリコプターマネー推進論者は物価上昇の可能性をある程度認め、むしろこれを制御する方策を提案する方が合理的であり建設的と考える。その一つがインフレターゲット政策である。

    Q20:物価上昇を抑えるには、インフレターゲット政策が有効と聞きます。インフレターゲットとは一体何ですか

    A:これは物価上昇率を一定の範囲に抑える政策です。一般的には、金融政策が主な手段になります。物価上昇率が設定した限度を越えそうになったら、中央銀行が金融を引締めるといった具合です。 〈解説〉インフレターゲット政策を導入している国は現実に有り、特に英国を始め欧州諸国に多い。実際、英国ではこれが発動されうまく行ったと聞く。しかし最近はインフレターゲットがあまり話題にならなくなった。これも先進国では物価がほとんど上がらず、むしろ雇用や所得格差の問題の方がより深刻なテーマになっているからであろう。

    Q21:日銀は2%の物価上昇率を目標としています。これもインフレターゲットですか

    A:たしかに広い意味でインフレターゲット政策と呼べるかもしれません。しかし本来のインフレターゲット政策は、物価上昇が問題になっている国で物価上昇を抑えることを目的に導入します。ところが日銀のインフレ目標政策は、逆に低い物価上昇率を金融緩和によって引上げようとしています。物価が上がるのを抑える本来のインフレターゲット政策は成功していますが、日銀の物価を引上げるというインフレターゲット政策は必ずしもうまく行っているとは言えません。

    Q22:ヘリコプターマネー政策導入で物価の上昇が懸念されるのなら、それこそ同時にインフレターゲット政策を導入することが考えられますね

    A:まさにその通りです。ヘリコプターマネーの賛同者も無限で野方図なヘリコプター・マネー政策を主張していません。一定の物価上昇率までと、ヘリコプターマネー政策に制限を設けることは十分考えられることです。また従来のインフレターゲット政策は中央銀行が単独で行いますが、ヘリコプターマネーに伴うインフレターゲット政策の場合は中央銀行(日銀)と政府が一体となって実施することになるでしょう。

    〈解説〉インフレターゲット政策では、まず容認される物価上昇率の限度を設定する。日本なら3〜4%程度の物価上昇率が適当と考える。ヘリコプターマネー政策によって物価上昇がこの限度に近付いたなら、政府は財政支出を抑え日銀は金融政策のスタンスを引締め気味に転換することになる。ただここ30年間で、一番物価上昇率が大きかったのはバブル経済絶頂期であったが、それでも3%程度の物価上昇であった。


  • 資産(不動産)バブルへの対処

    〈解説〉一般の物価の制御にはインフレターゲットという手段がある。しかし土地などの資産の価格の高騰が起りうる。もし資産価格の高騰が国民生活に悪影響を及すようなら、ヘリコプターマネー政策の導入に際して何らかの予防措置を考慮しておくことも必要である。

    Q23:一般の物価の制御方法は分りましたが、バブル期のような不動産価格の高騰が心配ですね

    A:ご指摘の通りこの問題は大事なことです。一般の物価の制御にインフレターゲット導入を提案しましたが、資産バブルの制御は難しいところがあります。1990年前後の日本の資産バブルは対処を間違えたと見られます。


    Q24:資産バブルへの対処も金融引締めということになりますか

    A:第一弾の政策は金融引締めということになりますが、本格的にバブルが生成される段階では金融政策はほとんど効かなくなるようです。また過度に金融引締めを行うと、他の一般の経済活動に多大な悪影響を及すことになります。このように金融政策は決して万能ではないと思われます。

    資産バブルの制御には、金融政策だけに頼るのではなく異常な価格での取引を直接規制する方法が考えられます。これに関し国土利用計画法の監視区域制度の活用を提案します。またこれの適用面積を小さくしたり、届け出制から許可制に法改正することも考えられます。

    〈解説〉先の資産バブルへの対処として高金利政策や土地融資の規制で行った。しかし抜け道があったり、高金利政策の効果が小さかったのが現実である。たしかに金利を仮に10%と高くしても、地価が短期間に2倍、3倍となるのだから効き目は限られていた。むしろ金融引締め政策はバブルとは関係のない一般企業の経営に悪影響があった。

    国土利用計画法の監視区域制度がもっと活用されても良かったと思われる。これは87年に制定されたが、実際に監視区域が多く指定されたのはバブル崩壊が始まった91年頃からである。また地価高騰を沈静化されるため地価税が導入されたが、これが成立したのも91年であった。

    Q25:つまりヘリコプターマネー政策の導入に際しては、一般の物価だけでなく資産価格の高騰にも注意が必要となりますね

    A:たしかに一般の物価の方は上がりにくくなっています。これは消費の構成が変わり、需要が増えても価格が上がらいものや、逆に値下がりするものの割合が大きくなっているからと思われます。

    これに対し土地などの不動産は、需要増加に対し供給が簡単には増えません。また投機資金が不動産市場に流入した場合、思わぬ地価の高騰という事態を招きます。

    〈解説〉物の価格は需要と供給で決まるという伝統的な理論がいつも正しいわけではない。まず市場の競争状態に価格が左右される物がある。また石油製品のように輸入価格の変動に影響を受ける物がある。

    さらに最近の傾向として、需要が増えると逆に値段が下がる物が目立つようになった。例えばIT機器や通信費などである。しかもこれらの消費全体に占める割合が大きくなっている。このように所得が増え需要が増えても、単純に物の価格が上がり続けるとは限らない。

    一方、土地などの不動産は需要が増えても簡単には供給を増やせない(供給サイドが非弾力的)。特に不動産市場には投機マネーが流入し易く、これによってバブルが生じやすい。ただ今日、日銀は空前の金融緩和を行っていますが、心配するほどの不動産の値上がりは見かけない。しかしヘリコプターマネー政策の導入ということになれば、不動産の価格の動向に一層の注意を払って行くことが必要である。



来週もQ&A集の続きであり、物価上昇以外のヘリコプターマネー政策への批難や反対論を取上げる。日銀の独立性や為替への影響について述べることになる。



16/11/28(第918号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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