経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/5/30(893号)
安倍政権の次のハードル

  • 消費税に対する空気の変化

    消費増税について安倍総理が最終判断を表明する直前とあって各人が自分達の立場から総理に色々と具申している。また消費増税延期問題が同一日選と微妙に絡んでくると人々は考えている。とにかく全ては参議員選前の総理の最終判断を待つ他はないという状況にある。しかし今週はとりあえず、消費増税が延期されるという前提で話を進めることにする。


    まず消費増税が再延期されることに筆者も大賛成である。また前回とは違いほとんどのエコノミストがこれに賛成している。さらに延期でなく凍結を主張する人々が極めて多くなっている。このように再増税延期が決まった1年半前とは日本の雰囲気とか空気がガラッと変ったのである。

    当時、安倍総理は既定路線(15年10月から10%に消費増税)通り増税を実施するよう各方面から強く迫られていた。まず大手マスコミは増税キャンペーンを繰返していた。ほとんどの経済学者とエコノミスト、そして経済団体や労働組合までもが増税を促していた。自民党内も14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」で述べたように、「野田党税調会長を中心とした増税推進派の議員連盟の参加者が100名を越え、一方、45名ほどいた議員連盟「増税を慎重に考える会」は財務省官僚の切崩し工作で三分の一に減った」という状況であった。


    筆者は、消費増税や財政に対する日本人の考えが根本的に変ったとはまだ考えない。しかし16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」で述べたように、まさに人々の財政問題に対する考え方が大きく変る前夜と思っている。ただ「雰囲気」や「空気」などは確実に変ったきたと感じられる。

    「空気」が変った理由はいくつかあるがここでは三つくらい挙げておく。一つ目は14月4月の消費増税によって、その後の日本経済は沈んだまま回復できなくなっていることである。しかも今日の日本経済は辛うじて円安と原油安で支えられて来た面が強い。しかし頼りの円安も既に限界であり、今後はむしろ円高に振れる可能性がある(日本の経常収支は黒字幅が拡大し、貿易収支も黒字となった)。この状況で再増税を行えばとんでもないことが起りそうと一般の人々も薄々感じている。


    二つ目は「マイナス金利」である。まず大半の人々は、日本の政府が大変な借金を負っていると誤解している。ところが昨今の「マイナス金利」である。常識では起こり得ないことが起っているのである。素人でも借金をした方が儲かるのではと考えるようになったとしも不思議はなく、日本の財政に対する感覚も変り始めている。

    人々にとって経済数値の中で株価、失業率、そして成長率といったものに対し馴染みはあるが、金利は分かりにくいものである。ところその金利が驚くことにマイナスになったのである。たしかに日本の財政は最悪と言われている。しかし「マイナス金利」という大きなインパクトが、人々が真実を知るためのきっかけとなる可能性がある。そのうち「1,000兆円を超えると言われている国の借金は実質的にたった100〜300兆円」という真相も徐々に浸透するのではと筆者は期待している。


    三つ目は、これまで疑うことさえ躊躇されるような「権威」や「エリート」といったものの化けの皮がはがれ始めたことである。まず消費増税の影響は軽微と言っていた御用学者である経済学者・財政学者は完全に世間から完全に信用を失った。いい加減なことを言って来たからである。

    このついでの話であるが経済学者だけでなく、憲法学者や政治学者の「権威」も急落中である。本物の「権威」は依然として残るであろうが、これまで絶対と思われていた偽者の「権威」はこのように次々と壊れ始めている。

    例えば「権威」であった朝日新聞は嘘新聞ということがバレた。また米国大統領候補のトランプ氏が日本は勝手に自国の防衛を考えるべきと言い放ち、日本のインチキ護憲派法曹人達を慌てさせている。頭に「国際」と付いた政治学者の都知事の面白過ぎる言動によって、偽者「エリート」の虚像は叩き壊されている。これらの全ては戦後レジームから生まれてきたものと筆者は見ている。


  • 安倍政権にやってもらいたいこと

    どうせ消費増税を先送りするのなら、安倍政権にはついでに次の二つのことをやってもらいたいと筆者は考える。一つは「2020年のプライマリーバランス回復」の放棄であり、もう一つは「税と社会保障の一体改革」の完全見直しである。これらは安倍政権の発足前に既に決まっていたものであるが、安倍政権の運営を著しく阻害している。たしかに安倍政権のメンバーがこれらの決定に直接関与していなくとも、公党である自民党の政治家の一人として何らかの責任を負っていることは理解できる。

    しかし安倍政権がデフレ脱却という大きな目標を掲げる以上、これらの縛りは極めて邪魔である。たしかに両者とも響きは美しいが、これらは財務官僚や厚労官僚が政治を支配するために作った仕組と筆者は理解している。これらを推進するため三党合意で動いた政治家がいるが、彼等は官僚のシナリオにまんまと乗せられたのである。しかしこれらの政治家はこのことにまだ気付いていないため、いまだにこの二つの縛りにこだわっている。


    まず13年4月に日銀が国債の買入れ限度を外した時点で、「2020年のプライマリーバランス回復」は意味がなくなった。実際、日銀は既に300兆円もの国債を買入れ、国の実質的な借金は100〜300兆円まで減っている。つまり財政再建なんて既に達成済みである。この仕組についてはさんざんと本誌で説明してきたが、これが理解できない政治家は政治に関わるべきではないとまで筆者は思っている。


    「税と社会保障の一体改革」の方ももっともらしく聞こえる。しかしこれは消費税を上げなければ、社会保障費は増やさないということを意味する。ところが必要な社会保障費は現状より大きい。また長寿によって高齢者人口がますます増えることは確実であり、今後、必要な社会保障費はずっと大きくなる。さらに一方では若年層への手当ての増額も必要である(ただし高齢者に対する社会保障費を削って若年層に回すという発想に筆者は猛反対)。

    増える社会保障費を賄うためには最低でも15%の消費税が必要と御用学者は言っている。しかし15%は軽減税率を考慮しない数字である。したがって軽減税率を考えると20〜25%の消費税率になる。ところが5%から8%に上げただけで日本経済は沈没したのである。つまり増える社会保障費を消費税の増税で賄うなんて絶対に不可能な話である。

    しかも16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」で述べたように、既に日本は消費税の重税国家になっている(軽減税率を採用してこなかったため)。8%の段階で、国税に占める消費税の割合は、大きいといわれているドイツを既に追抜いていると推定される。ところがこの事実を知らないため、ほとんどの人々は日本の消費税負担はまだ小さいと誤解している(かなりの財務官僚もそう思っているようだ)。したがって15%の消費税率なんて考えられない話である。そもそも社会保障を逆進性が強い消費税で賄おうと言う発想がおかしい。

    たしかに筆者達が主張しているようなヘリコプター・マネーやシニョリッジ政策で不足する社会保障費を賄うことが考えられる。しかしいきなり政治家がヘリコプター・マネーと言えば世間は混乱する。岡田民進党代表が「再増税は19年まで延期し、必要な社会保障費は赤字国債で賄う」と言っているように、まず赤字国債で賄うという方針が穏当と筆者は思う。


    「2020年のプライマリーバランス回復」と「税と社会保障の一体改革」が絶対不可侵と捉えるなら、国民を代表する政治家でさえ完全に自由度を失うことになる。国勢選挙で幾度も勝ち内閣支持率が高くても、これらが原因で時の政権は必要な政策が打てないことを意味する(日本国憲法とよく似た構図)。これこそまさに政治家が官僚に支配されている姿と言える。かと言って安倍政権が「2020年のプライマリーバランス回復」と「税と社会保障の一体改革」を簡単に捨てることもできない。

    昨年は憲法の解釈を整え直しうまく安保法制を改定した。次は「2020年のプライマリーバランス回復」と「税と社会保障の一体改革」をどうするかいうことになる。消費税の再増税延期を実現しても、次のハードルが待ち構えているのである。



来週はヘリコプター・マネーの話に戻る。




16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
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15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
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15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
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