経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/2/20(927号)
トランプ現象の研究

    参考になる米国議会における勢力の推移

    連日、世界中がトランプ大統領の言動とトランプ政権の動きに振回されている。トランプ大統領の就任から一ヶ月が過ぎるが、トランプ政権がこの先どうなるのか読めない状態が続いている。今日の状況を見て、政権発足直後なのに既にレームダックになっているという声さえ出ている。

    たしかにフリン大統領補佐官の辞任や進まない閣僚人事を見て、誰しもトランプ政権は一体どうなるのか不安に思っても仕方がない。またトランプ大統領の発言が大きく変わる場面も数多く有り、周囲は当惑している。しかしトランプ氏が選挙中に選挙スタッフを大きく入れ替え、やっと当選に漕ぎ着けたことを考えると、トランプ大統領が、今後、大胆に変身するということは十分有り得ると筆者は見ている。

    ちなみにトランプ大統領のこの変身で助かり安堵したのが日本である。日米主脳会談の結果を見れば分るように、選挙中の日本への攻撃的な発言は消えて無くなった。これからはトランプ大統領の言動のうち、変わらないものと変わるかもしれないものを見極めることが重要と筆者は考える。


    トランプ政権がどの方向に進むのか判断できるまでにはまだ数カ月は要すると筆者は思っている。それまでは経済・通商政策や外交・安保政策の関連で、スタンスがはっきりしない事柄が多いはずである。比較的はっきりしているのはエネルギー政策と金融関連の規制緩和である。また減税の実施は決まっていると思われるが、財源の話の段階に進めばどのような形になるのか不透明である。同様に財源で揉めると思われるインフラ投資も、どのように実施するのか予測は難しい。


    ところでトランプ氏が大方の予想を裏切って大統領選に勝利したことを「トランプ現象」と称する人々がいる。たしかに選挙中のトランプ氏の言動は、到底、次の大統領には相応しくなかった。また世論調査には現れなかった「隠れトランプ票」というものが番狂わせを演出した。米国全体がまことに分かりにくくなっているのである。

    トランプ政権の行方がはっきりするまで時間が掛るのなら、その前に「トランプ現象」が起った米国について研究しておくことも価値があると考える。また「トランプ現象」は米国民の一時的な気紛れで引き起されたとは思われない。筆者はこれを理解するには「米国全体の底流に流ているもの」を正しく把握することが大切と考える。


    この具体的な方法の一つとして、次のような米国議会における勢力の推移を見てみることも有益ではないかと筆者は考える。(ただし年によって民主党、共和党以外の政党の当選議員もわずかにいるが表では省いた)

    米国議会における勢力の推移
                上 院下 院
     年 大統領名民主党共和党民主党共和党
     90 ブッシュ(父)5644267167
     92 クリントン5743258176
     94 クリントン4852204230
     96 クリントン4555206228
     98 クリントン4555211223
     00 ブッシュ5050212221
     02 ブッシュ4851205229
     04 ブッシュ4455202232
     06 ブッシュ4949233202
     08 オ バ マ5741257178
     10 オ バ マ5347193242
     12 オ バ マ5545201234
     14 オ バ マ4454188246
     16 トランプ4852194241



    トランプの後はまたトランプ

    米国の国政選挙は、2年毎、上院が三分の一、下院が全員改選となる。国政選挙はまず大統領選と同時に実施される。さらに大統領選が行われない2年後にも行われ、これは中間選挙と呼ばれている。上院議員は各州2名ずつ割当てられる。下院の議員数はまず人口比で50州に割当てられ、議員は小選挙区から選ばれる。ただし下院の選挙区割は各州が決める。

    まず16年の選挙結果について先に述べる。大統領選でトランプはクリントンで勝ったが、得票数ではわずかに下回った。同様に上院下院ともわずかに民主党が善戦したと言える。しかし後ほど説明するが民主党の低落傾向に歯止めがかかったとは言えないと筆者は考える。


    前段の表を見て特徴的なことがいくつか指摘できる。まず10年の選挙(中間選挙)で下院は民主党が大敗したことである。これは小選挙区の区割が共和党にとって有利になる形で変更されたためである(区割は州の権限)。選挙区を都市部と農村部に分けたため、民主党支持者が集中する都市部(人口も増えている)では民主党が大勝するが、保守層の強い農村部では軒並み共和党が勝ったのである。

    10年以降の選挙でも、下院の民主党・共和党の勢力図はほとんど変わっていない。おそらく現在の区割が続く限り、下院で民主党が勝つことはほとんど不可能である。「一票の格差が違憲状態」と日本で大騒ぎされていることが、米国ではまかり通っているのである。


    もう一つの特徴は、クリントン、オバマなど民主党の大統領は就任当初は人気が高く、その影響もあってか上院・下院とも民主党が大きく勝っている。しかし時を経るにつれ人気が落ち、政権末期にはボロボロになっている。そしてこのことによって民主党は選挙で勝てなくなる。

    総じて民主党の大統領候補は演説がうまく、米国民にアッピールし最初は大きな期待を与える。しかし期待はいつしか失望に変わり反感さえ生まれるといったパターンが特徴と筆者は感じる。一方、共和党出身の大統領は無骨でスマートさに欠ける。しかしなかなかしぶとく政権末期になっても一定の支持を維持する。レーガン大統領なんかはこの典型であろう。ただトランプ大統領の場合はどうなるか今のところ不明であり、いずれにしても1年半後の中間選挙が注目される。


    米国民の保守化が指摘されている。しかしこれをうまく証明することはなかなか難しいと筆者は考える。ただ民主党に代表されるリベラリズムに対する疑問や反感が強くなっているという感想を持つ。米国民が浮ついたリベラルに飽き、本音に基づいた行動を採り始めたと筆者は感じる。

    この根拠の一つが民主党候補予備選におけるサンダース候補の追い上げである。一時はクリントン候補に迫る勢いがあった。サンダース候補の熱烈な支持者は、サンダース氏の大学の無償化など過激な主張に共鳴した。莫大な大学教育費用の負担は若者達にとって切実な問題である。サンダース上院議員は決してリベラルの代表ではなく、リアリズムを体現するものであった。

    数年前ウォール街占拠という出来事があった。これは米国における所得格差が一向に是正されないどころか、むしろ拡大していることに腹を立てた人々の示威行動であった。ところがオバマ政権はこれにも何ら対応できなかった。

    もし仮にトランプ政権が大学教育費用の問題の解決に一歩でも踏出すことがあったならば、トランプ大統領の支持率は急速に上がる可能性がある。オバマケアに関しても、廃止ではなく改善すればこれもトランプ大統領の評価を上げることになる。また増え続ける移民についても、大多数の米国民は本音ではおかしいと思っていると筆者は感じる。

    一方、各種のリベラル勢力によって支えられている民主党は落ち目である。しかし自分達にビジョンがないのにトランプ政権を攻撃することにだけには長けている。まさに日本の民進党に似てきた。


    トランプ大統領時代は直に終わるだから、数年間の我慢であるという声がある。支持率も大統領就任時から下がったというマスコミの調査報告がある。しかし支持率は依然40%程度あり、そんなに下がっていない。しかもこの40%はかなり固い支持と筆者は見ている。トランプ政権は米国民の本音で支えられていて、この支持層は必ず選挙に出かける。

    今のトランプ政権が行き詰っても次に現れるのは次の「トランプ」と筆者は予想する。ただもっと洗練された「トランプ」であろう。またひょっとすると今のトランプ氏が洗練された「トランプ」として変身するかもしれない。



来週は今週の続きである。



17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
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16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
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16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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