経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




18/6/11(989号)
デフレギャップの分析

    デフレギャップを誤魔化す人々

    2週前から「永久債を日銀が買って100兆円の基金を作る」という一見無茶な政策を提言している。しかし日本経済の現状を考えると、これこそが一番合理的な政策と筆者は確信している。今のままでは永遠に日本経済はジリ貧路線を歩むことになる。

    この政策は「シニョリッジ(ヘリコプター・マネー)」と呼ばれるものである。伝統的な経済学ではこれを異端とか劇薬と見なす。しかし日本経済の現状では、このような劇薬的な政策が必要と筆者は考える。

    これも日本の経済が先進各国の中で一番成熟しているからである。米国は多くの移民を抱えるなど新興国的な要素を持つ。また欧州はEUの拡大によって、新たな投資機会と需要を得た。このように欧米には、日本に比べ多少の救いがある。しかしいずれこれらの効果も限界が来て、そのうち米国や欧州も日本を追掛けるように低成長の世界に入るものと筆者は見ている。


    先週号でデフレギャップの話をしたが、「シニョリッジ」政策においてはこれが一番重要なポイントとなる。筆者は、2002年から一年ほど丹羽経済塾(丹羽春喜大阪学院大学名誉教授を中心にした勉強会)に参加し、シニョリッジについて学んだ。しかし丹羽教授の講議の半分はこのデフレギャップに関するものであった。

    デフレギャップは供給と需要の差である。ところが日本政府(内閣府)が公表しているデフレギャップや潜在成長率の数字は、デタラメであり異常に小さい。丹羽教授はこれに毎回怒っていた。これについては06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」などで説明した。


    デフレギャップを小さく算出するのは「だから経済成長のためには構造改革しかない」といった間違った結論に人々を誘導するのが狙いと思われる。これは需要サイド重視のケインズ経済学を目の仇にする新古典派経済学者(ニュークラシカル派)の仕業と丹羽教授は指摘していた。丹羽教授は多くの日本の経済学者が信奉しているシカゴ学派のルーカス教授をいつもヤリ玉に上げていた。これについては02/12/9(第277号)「ルーカスの子供達」で取上げた。

    ルーカス教授の供給曲線(ルーカス方程式と呼ぶべきもの)と言うものがが曲者で、どの生産段階でも設備の稼働率は100%と言うことになっている(つまりデフレギャップはゼロ)。これは明らかに「作った物は必ず売れる」といった古典派経済学の基本理念である「セイり法則」に通じる。04/11/1(第365号)「妄言・虚言の正体」で取上げたA教授もこのルーカス方程式に基づく経済理論を唱えていた。問題は、このA教授のような学者が内閣府に出向しいい加減なデフレギャップを算出していることである。


    一方の丹羽教授は日本の供給力を「オークンの法則」に基づき算出していた(オークンの法則については説明を省略)。丹羽教授の計算では、日本のデフレギャップは数百兆円にもなる。ただ参加者の筆者達はこの数字に正直ピンとこなかった。しかし筆者達は日本のデフレギャップが巨額だということは認識していた。

    このようにデフレギャップを正確に計測することは難しく、仮にそれが正しく算出できても多くの人々がその数字に納得するとは限らない。むしろシニョリッジ政策に伴って物価が上昇した場合の「制御」を考えた方が「生産的」と筆者は考える。インフレターゲットを政策に組込むのもその一つである。例えば物価上昇が3%に達したら、シニョリッジ政策を中断するとか金融を引締めを行うといった決まりを設けるといった方法が考えられる。


    日本の需要不足(貯蓄過多)の要因

    前段で述べたように、筆者は供給サイドからデフレギャップを議論することは「空中戦」に陥ると考える。むしろ需要サイドから、また資金の流れから分析した方が分りやすいと考える。日本のデフレは慢性的な需要不足、つまり貯蓄の過多が主な原因と筆者は見る。

    またこの日本のデフレは03/6/30(第303号)「経済の循環(その2)」で説明したように、経済循環において「漏出(ろうしゅつ)」が「注入(ちゅうにゅう)」を上回っていることが常態化していることを示す。古典派・新古典派の経済理論では、このような場合には金利がパラメートとして動き(この場合には低下)貯蓄過多は解消されることになっている。ところが今日の日本においては、金利がゼロ(実質金利はマイナス)になっても貯蓄過多は解消されない。それほど日本のデフレは深刻と見るべきである。結論を申すと、したがって日本にはシニョリッジ政策しかない。


    本誌はこれまでこの日本の需要不足(貯蓄過多)の要因を幾度となく取上げてきた。これらを列記すると「バブル崩壊に伴う需要不足」「消費人口の減少による需要不足」「将来不安に備えた消費のセーブ」「所得格差拡大による消費性向の低下」ということになる。これらを一つずつ検討する。ただ最後の「所得格差拡大による消費性向の低下」はサマーズ元米財務長官等が唱える説であり、日本より米国の方が関係が深いと思われるのでここではこれ以上の言及を省略する(消費性向の小さい高額所得者の所得割合が増えることによって、全体の消費性向が低下)。


    まず「バブル崩壊に伴う需要不足」を取上げる。バブル経済においては資産価格が高騰し、このバブルが崩壊すると資産価格は反動で大きく下落する。人々が注目するのは、資産を高値で買い損害を被った側である。このバブル崩壊で傷付いた人々は、当然、消費や投資を控えるため全体では需要不足が起る。

    筆者が注目するのは、一方の資産を高値で売り抜けた人々の消費・投資行動である。もしバブルで大きな利益を得た人々が、この利益を全て使ってしまえば需要不足は解消する。ところが資産を売って得られた代金の大部分は銀行で眠ったままになる。したがってバブル崩壊は経済循環において「漏出」が「注入」を上回る現象を引き起す。つまりバブル経済の生成と崩壊が起ることによって、世の中の余剰資金は大きくなると筆者は分析する。

    特に地価の高い日本では、バブルの崩壊がなくとも土地の売買が起る度に貯蓄過多が起ると筆者は考える。この様子は04/10/11(第362号)「日本経済のデフレ体質の分析(その2)」で取上げた。ちなみに家計部門は70年から93年までの24年間で140兆円もの土地を売越している。この代金の一部は今日でも貯蓄として眠っている可能性がある。


    「消費人口の減少による需要不足」は、小子高齢化が進む日本にとって深刻な問題である。13/4/8(第751号)「久しぶりの「朝まで生テレビ」」で述べたように、総務省統計局のホームページによれば、消費金額は30才台、40才台でピークを打ち、50才台、60才台で極端に落ちる。したがって30〜50才の消費人口が減り続ける日本では、消費が伸びるはずがない。

    「将来不安に備えた消費のセーブ」の深刻さも、今後、注目されるであろう。将来の公的年金支給の不安が囁かれ、30〜50才の消費世代の人々さえ消費を抑える傾向が見られる。また公的年金を補うため、個人年金に入る人々もいる。これは将来のために今日の消費を減らす行為である。明らかににこれも経済循環における「漏出」が「注入」を上回る現象を引き起す。

    国も将来不安に備え、公的年金の保険料の引上げを行い、また消費税増税分の大部分(8割)を財政再建に回している。これらも経済循環における「漏出」の増加である。つまり日本政府自らがデフレを助長しているのである。これでは多少所得が多少増えても、日本経済が低迷から脱却することは無理である。

    とにかく安倍総理の周りには本当の経済が分っている者が少ないのである(そのうち取上げるが経済スタッフは入れ替えるべき)。いまだに「成長戦略で経済成長」と間抜けなことを言っている。1〜3月がマイナス成長になるのも納得である。金融緩和だけに頼る今日の政策の転換が必要であり、今のうちに大量に国債を発行し財政政策を大胆に行うべきである。金利は上昇しないし、物価もさほど上がらない。



来週は、今進めている話を中断し予定通り米朝主脳会談を取上げる。



18/6/4(第988号)「デフレギャップと社会保障」
18/5/28(第987号)「100兆円の基金の設立」
18/5/21(第986号)「北朝鮮情勢他」
18/5/14(第985号)「環境の激変に対応できない財務官僚」
18/4/30(第984号)「「ノーパンしゃぶしゃぶ」事件の顛末」
18/4/23(第983号)「日米主脳会議に対する筆者の感想」
18/4/16(第982号)「通商摩擦は中国の敗北」
18/4/9(第981号)「米中の通商摩擦の行方」
18/4/2(第980号)「森友学園問題の真相」
18/3/26(第979号)「米中貿易戦争」
18/3/19(第978号)「米朝主脳会談を推理」
18/3/12(第977号)「トランプ政権の脆弱な経済スタッフ」
18/3/5(第976号)「米国でのシニョリッジ政策」
18/2/26(第975号)「世界的な「金余り」の実態」
18/2/19(第974号)「VIX指数の不正操作」
18/2/12(第973号)「VIX指数暴落か」
18/2/5(第972号)「日本政府の貸借対照表」
18/1/29(第971号)「日本の経済論壇の病根」
18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」
18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」
17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


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