経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




18/6/4(988号)
デフレギャップと社会保障

    デフレ経済の日本だからこそ可能な政策

    先週号で「永久債を日銀が買って100兆円の基金を作る」といった政策を提言した。この基金を財源に政府は自由に財政支出を行うことができる。またこの100兆円の基金は、国民の負担がほとんどないという極めて「うまい話」である。ただし「国民の負担はほとんどない」の「ほとんど」の意味は後ほど説明する。

    提言そのものは簡単なものである。またこの政策の形が多少変わっても筆者は構わないと思っている。もしこの政策が理解され広く支持されるのなら、これが本当に実行されるかもしれないと筆者は期待する。ところでこの政策のポイントは、先週号の最後に述べた「デフレ経済の日本だからこそ可能」という部分である。日本と異なり、供給力が乏しいアルゼンチンなどではとうてい無理な政策と考える。


    デフレギャップがあるということは、供給が需要を上回っていることを意味する。また供給が需要を上回っているということは、需要が増えても商品・サービスはスムースに提供される。しかもこの日本のデフレギャップは大きいので、かなりの基金を取崩し財政支出に使っても(したがって需要が増える)、物価上昇は限られると筆者達は踏んでいる。

    財政支出によって国民所得は増え、国民所得が増えることによって国民の消費が増える。つまりこれによって日本の経済成長率は大きくなる。経済が成長すれば、多少なりとも投資も増える可能性がある。また投資が増えることによって、さらに生産力が増すことになる。このように基金取崩しによる財政支出は、好ましい経済の循環を生む。


    ところで世の中ではデフレギャップが否定的に捉えられている。デフレギャップは生産設備の遊休や失業を意味する。つまりデフレギャップが大きいとは、設備の稼働率が低く多くの失業者が存在する不景気を連想させる。

    たしかに需要が増えなければデフレギャップは解消されず、経済活動は低迷したままである。今日、日本は経済成長のために、金融緩和や成長戦略を実行している(機動的な財政政策はアベノミクスの1年目だけ)。しかしこれらの需要創出効果が限られているので、日本の経済成長率は普通の国で一番低い。これは最終需要が増えていないからである。


    安倍総理が先頭に立って、企業に賃上げを訴えている。しかし給料が少し増えても、所得税や社会保険料が増えるので、肝腎の可処分所得はあまり増えない。したがって消費も増えない。これによって日本のデフレギャップは縮小しないまま時だけが過ぎている。

    本来なら、日本は財政を使ってもっと消費を喚起する政策に転換すべきである。ところが安倍政権は、新規の国債を発行できないよう手足が縛られている。またプライマリーバランスの回復を迫られ、財政は明らかに緊縮型になっている。そもそも14年からの消費税の増税分の8割は財政再建に回されている。それどころか消費税の再増税を迫られている。


    おそらく安倍政権の中枢も財政支出が必要なことを分かっていると思われる。ところが自民党の中でも、財政規律派の力が強い。特にポスト安倍と目される若手のリーダは全て財政規律派であり、消費増税派である。このような状況なのだから、消費増税を2回延期するのが精一杯だったと感じられる。とにかく日本全体が日本の財政は最悪と言った完全な「嘘」に騙されている。とうとう日本の財政状況はイタリアより悪いと言う大バカ者まで現れた(6月2日付日経新聞の大機小機の無垢氏)。

    だから実質的に国の借金を増やさないこの「永久債による100兆円の基金」といった政策は理想的と言える。もちろんこれに対しては、疑問や反論が吹き出すであろう。これらに対しては来週号から説明を行う。


    100兆円の基金で国民一律の年金を

    前段で述べたようにデフレギャップ=不況というイメージがある。しかし筆者はデフレギャップ=余力生産力と見方を変えれば良いと思っている。むしろこの発想の転換が重要と筆者は考える。

    生産力が乏しかったかなり前の時代は、少しでも需要が増えると物価が上昇した。しかし大きな余剰生産力を持つ今日の日本ではそのようなことはない。むしろ供給側は、どのようにすれば顧客が商品を買ってくれるか、毎日、苦心惨憺している。しかし国全体の観点からは、この余剰生産力こそがむしろ財産と認識する必要がある。


    発展途上国のような経済成長途中の国は生産力が乏しいため、所得の一部を貯蓄しこれによって投資(設備投資、公共投資、住宅投資)に回す必要がある。つまり所得の全てを費消するわけには行かない。このような国でもし過剰に消費が伸びると、輸入が増え外貨不足となり通貨安となる。

    逆に日本は03/7/28(第307号)「設備投資の実態」で述べたように、ずっと高い設備投資名目GDP比率を続けてきた(常にほぼ15%以上をキープ)。この数字は米国に比べるとずっと4〜5%程度大きい(バブル期にはこれが20%超となり米国と10%近く開いた)。これによって日本は慢性的に過剰設備を抱える消費不足の国となった。これこそがデフレギャップである。これによって日本国内の需要が不足し、製品を輸出して辻褄を合わせてきた。特に橋本、小泉政権時のように緊縮財政を行った時には輸出が大幅に伸びた。しかししばらく後には為替が円高となってしっぺ返しを受けた(小泉政権時代は常軌を逸する為替介入を行って円高を阻止していた)。


    そもそもデフレギャップ(過剰生産力)は決して悪いことではない。デフレなのだから国が財政を使って国民の福祉を向上させれば良いのである(反対に日本は財政再建といった逆行路線を走っている)。生産力が乏しい国はこれが出来ないと考えれば良い。ところが日本はデフレギャップをそのまま放っているから問題なのである。日本の低成長はこれが原因である。

    デフレギャップの一方の原因となる設備投資を筆者は決して否定しない。世界的な競争力を維持するためには、ある程度の設備投資の水準を維持する必要がある(新規の投資や設備更新の投資)。これによってデフレギャップがさらに大きくなるが、これは財政を使って埋めれば良いのである。


    日本は高齢化に向かい、将来の社会保障が心配という声が大きい。特に財政規律派は「社会保障費が莫大になり、財源が大きく不足する」「だから消費増税を」と騒いでいる。しかし筆者は、将来、高齢化社会において医療・介護のサービスが十分提供されるかということが問題のポイントと考える。

    つまり問題は財源ではなく、医療や介護に関わる人員の確保と病院や介護施設の整備ということになる。これらは予算さえあれば実行可能なことである。つまり医療や介護のサービスが十分提供されるのなら、何も将来を心配する必要はない。もし仮に医師が不足するようなら、医学部の定員を増やしたり医学部の新設を行えば良いだけである。これらは「永久債による100兆円の基金」で実現可能である(増税は不要)。


    もう一つ具体的にデフレギャップと社会保障の関連を取上げる。筆者は、ずっと「国民一律の年金支給」という政策を主張してきた(月6万円程度)。これは今の公的年金の支給水準が低いことと、年金支給額に不公平な格差があるからである(ただ不公平な格差についての言及をここでは割愛)。まずこれによって格差はかなり是正される。

    国民一律の年金が支給されれば、当然、年金受給者の消費が大きく伸びる。したがってデパート、スーパー、コンビニ、そして街の商店の売上はかなり増加する。しかし日本には大きなデフレギャップが存在するので、ほとんど物価上昇を伴わないまま十分な商品・サービスの提供が可能である。

    また一律の年金支給によって、特に地方の消費が伸びる。これまでコンビニが無かった所にもコンビニが進出する可能性がこれによって生まれる。また最近ではコンビニは宅配サービスを始めており、これは地方の人々に対する福祉向上のために大きな助けとなる。この国民一律の年金も「永久債による100兆円の基金」が実現すれば可能と筆者は考える。ちなみに韓国の朴前大統領が国民に物凄く不人気になったのは、国民一律の年金制度の導入を断念したことがきっかけと筆者は見ている(当初、月3万円程度の年金を考えていた)。



来週は、日本のデフレギャップが大きくなった理由を取上げる。



18/5/28(第987号)「100兆円の基金の設立」
18/5/21(第986号)「北朝鮮情勢他」
18/5/14(第985号)「環境の激変に対応できない財務官僚」
18/4/30(第984号)「「ノーパンしゃぶしゃぶ」事件の顛末」
18/4/23(第983号)「日米主脳会議に対する筆者の感想」
18/4/16(第982号)「通商摩擦は中国の敗北」
18/4/9(第981号)「米中の通商摩擦の行方」
18/4/2(第980号)「森友学園問題の真相」
18/3/26(第979号)「米中貿易戦争」
18/3/19(第978号)「米朝主脳会談を推理」
18/3/12(第977号)「トランプ政権の脆弱な経済スタッフ」
18/3/5(第976号)「米国でのシニョリッジ政策」
18/2/26(第975号)「世界的な「金余り」の実態」
18/2/19(第974号)「VIX指数の不正操作」
18/2/12(第973号)「VIX指数暴落か」
18/2/5(第972号)「日本政府の貸借対照表」
18/1/29(第971号)「日本の経済論壇の病根」
18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」
18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」
17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


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