経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




18/4/16(982号)
通商摩擦は中国の敗北

    中国が死守する「線」は為替?

    米中の貿易摩擦問題は、本誌の予想通り中国の敗北で終わりそうである。ただあまりにも早く決着しそうなので、筆者にとっては拍子抜けである。今のところ米国の要求を中国がほぼ丸飲みするという状況になっている。

    具体的には、中国は合弁企業の資本規制の緩和・撤廃や輸入自動車の関税の引下げなどで合意する模様である。また金融市場の外資への開放でも、予定の前倒しを表明している。やはり先週号で取上げようにトランプ大統領が、1,000億ドルの追加制裁の検討を指示した時点で勝負は決したと筆者は見る。たしかに口約束ではなく中国が本当に行動を起こすまでは、これらが確定したとは言えない。しかしほぼ米国のペースで事は進みそうである。


    ただ今回の中国の譲歩は、米国だけでなく全ての国に向けたものなのか不明である。中国の硬直的で閉鎖的な資本規制と通商慣行は、米国だけでなく全ての国に適用されている。日本などは「おかしい」と思いながらこれらに従ってきた。これに風穴を開けたのがトランプ大統領ということになる。

    しかし一連の措置が仮に採られるとしても、それは米国だけが対象という事態が有り得るのである。米国は自国のために交渉しているのであり、日本など他国のためではない。おそらく必要なら日本などは中国と個別に交渉すれば良いと、米国は考えると思われる。ただそうであっても今回、もし米中の間で妥協が成立すれば、これに基づき日本も中国と交渉ができると考える。


    中国の譲歩が案外早く出た背景を考える必要がある。18/3/26(第979号)「米中貿易戦争」で取上げたように、筆者はトランプ大統領と習主席が昨年4月に主脳会談を行い「100日の間に米中の貿易問題の解決案を見い出す」と合意していたことが重要と考える。ほとんどのメディアは、これをすっかり忘れたまま「米中貿易戦争」と騒ぎ出したのである(ニワトリのように記憶力がほとんどないのがマスコミ人の特徴)。おそらく両国の合意なんて、いつもの通り外交上のリップサービス程度のものとメディアは見なしていたのであろう。

    しかしトランプ大統領だけでなく、中国もこの合意をしっかりと覚えていたと見られる。たしかに中国は、これまでのように米国はそのうち合意のことを忘れるだろうとやり過ごしてきた。したがって米中の貿易問題はほとんど進展がないまま1年が過ぎた。しかし米国がこの合意をそのうち持出して来ることを、中国は密かに覚悟していたと筆者は見ている。つまり「心の準備」だけは出来ていたと思われる。だから中国の譲歩案が案外早く出てきたと筆者は思っている。

    この合意のことを覚えていたトランプ大統領は「あれはどうなったのだ」と、突然、対中制裁を打出したのである。メディアは対中制裁を「唐突だ」「いきなり」と報道している。しかしトランプ大統領の方もこれに向けて準備してきたと筆者には感じられる。例えば今日までに政権の中枢を対中強硬派で固めてきたことが挙げられる。


    今回の中国の譲歩案は、このようにある程度準備されたものと筆者は推察している。ただし譲歩には最低限守る「線」というものがあると思われる。筆者は、中国が死守する「線」は為替と見ている。中国は、今日、人民元を米ドルに完全連動させている(いわゆるペッグしている)。

    当然、これを為替操作と見なし、米国が人民元の変動の緩和を要求しても良い。しかしトランプ政権は、今のところこれについては触れていない。深読みすれば、為替は次の機会に持出そうという米国側の魂胆なのかもしれない(韓国に対しては為替操作にクギを刺している)

    日本の円は1ドル=360円から、3〜4倍のレートに切り上がっている。同様に大幅な貿易黒字国の中国の人民元は、1ドル=2〜3人民元に切り上がっても不思議はない。しかし人民元は1ドル=8人民元台から1ドル=6人民元台に多少上がった程度の水準を維持している。もっとも大幅切上げとなれば、中国に進出している外資のほとんどは中国から逃出すことになる。


    米国はどこまで台湾に関与するか

    中国は「中国に進出する企業の資本規制」「為替の操作」「知的財産の侵害」「自動車など輸入品への高関税」など自分勝手な手段での通商を行って他国に損害を与えてきた。これらに文句を言っても、全く中国は聞く耳を持たない。一方で中国は「貿易の自由化が重要」と言っているのだからあきれる。

    中国は、毎年大きな貿易黒字を続け、巨額の外貨を溜込んだ。この外貨を使って中国は覇権主義的な政策を進め、軍備を拡張してきた。南シナ海の島々での軍事基地の建設など、信じられないほど横暴な行動を行っている。


    政治的にも中国の横暴さは際立つ。ノルウェーのノーベル委員会が中国の民主活動家をノーベル平和賞に選んだことを中国は「内政干渉」と怒り、ノルウェーからのサーモンの輸入を停止した。昨年、ノルウェー政府が腰砕けし謝罪することによってサーモンの輸入は6年振りに再開された。

    また台湾の孤立化政策などは常軌を逸している。中国は台湾と国交のある国に圧力を掛け、台湾との断交を迫っている。例えば台湾と国交を持つパラオ共和国を、中国は中国人観光客を使って揺さぶっているという話を聞く。ちなみにパラオには、以前、日本人観光客が多かったが、今日、中国人観光客が急増し日本人観光客は激減している(中国人観光客が多くてホテルの予約が取れない)。6月に日本からの直行便は運休するという。


    経済だけでなく、このように政治や安全保障の分野でもルールを守らないのが中国である。筆者は、トランプ大統領が対中制裁に関し関心のある範囲はどこまでなのか気になる。特に筆者が注目しているのが、米国の台湾政策である。中国は盛んに台湾を軍事的に牽制している。

    そもそも米国が中国との間で「一つの中国」に妥協したことは奇妙であり、中国と国交を締結したニクソン大統領とキッシンジャー国務長官の重大で犯罪的なミスと筆者は考える。中国との国交回復は、ソ連への牽制であった。しかしそのために「一つの中国」まで認める必要はなかったはずである。国交を回復したかったのは、むしろ中国の方であった。同様のことは日中国交回復にも言える。

    「一つの中国」の原則は、中国の尖閣諸島への干渉問題に繋がっている。これについて12/8/27(第720号)「最近の出来事」で、台湾の李登輝元総統が「尖閣諸島は日本領」と明言している話を紹介した。ただ続けて李元総統は、日本統治下の台湾の漁民は自由に尖閣諸島周辺で漁を行っていたと指摘し、漁を再開させてくれと日本に要望している。その後、この「入会権」の問題は日台間で解決している。ところが中国は、「一つの中国」の原則を持出し尖閣諸島が日台の問題ということは中国の問題とスリ変え、尖閣諸島に干渉しているのである。


    米トランプ政権は、台湾との絆を強化する政策を次々と打出している。まず台北に新築される米国在台湾協会(AIT)のビル(大使館に相当)に海軍陸戦隊(つまり軍隊)を配備することを決めている。米国在台湾協会(AIT)を一つの民間の機関と見なしていた前政権までとは大違いである。

    また旅行法を改正し、米国と台湾の高官が双方の国に訪れることを可能にした。さらにボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、米軍の台湾再駐留を主張している。トランプ大統領が、「一つの中国」の原則を破棄し、台湾との国交回復まで進む可能性が出てきたと筆者は見ている。当然、中国は大反発しそうだが、通商問題に対する制裁が有効と知ったトランプ大統領が、またこれを持出し中国に揺さぶりを掛けることも考えられる。



安倍総理が訪米しトランプ大統領と首脳会議を行う。来週はこれを取上げることにする。

野党や左翼マスコミの安倍政権への攻撃は、とうとう愛媛県職員のメモまで矮小化している。それにしてもメモの「首相案件」という言葉が引っ掛かる。官邸では「首相」ではなく「総理」という言い方をするという。おそらく新たに創られる国家戦略特区の制度では、この議長に首相が就く仕組に変わるという話であったろう。
もちろん新しい制度の元でも、ステップを踏んで物事を決めるのだから首相が決めるという話ではない(むしろ首相の議長としての権限は多分に形式的で、首相は最後に上がってきた案件に承認を与えるだけ)。愛媛県職員は新たに始まる国家戦略特区の制度をよく理解しないまま、このメモを作成した可能性がある。対応者は、親切心で事細かく説明したと思われる(これまで15回も申請をハネられたことに同情し、これにめげず今回も申請してほしいと言いたかった)。
しかし対応者は、自分の説明したことがこのような誤解を招くメモになるとは思わなかったであろう(捉え方によっては首相が全てを決めるといった表現)。しかも最悪なことにこの奇妙なメモを持って愛媛県職員が各省庁に陳情に向かったと思われる。どうもこのメモが加計学園騒動の元になった可能性がある。もしこのストーリが本当なら大笑いである。官僚の総理への忖度といった話などは、まさに的外れなことになる。



18/4/9(第981号)「米中の通商摩擦の行方」
18/4/2(第980号)「森友学園問題の真相」
18/3/26(第979号)「米中貿易戦争」
18/3/19(第978号)「米朝主脳会談を推理」
18/3/12(第977号)「トランプ政権の脆弱な経済スタッフ」
18/3/5(第976号)「米国でのシニョリッジ政策」
18/2/26(第975号)「世界的な「金余り」の実態」
18/2/19(第974号)「VIX指数の不正操作」
18/2/12(第973号)「VIX指数暴落か」
18/2/5(第972号)「日本政府の貸借対照表」
18/1/29(第971号)「日本の経済論壇の病根」
18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」
18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」
17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


16年のバックナンバー

15年のバックナンバー

14年のバックナンバー

13年のバックナンバー

12年のバックナンバー

11年のバックナンバー

10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー