経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




18/4/9(981号)
米中の通商摩擦の行方

    「落としどころ」が見えない米中の通商摩擦

    今日、人々の一番の関心事は米中貿易摩擦の行方であろう。4月3日、米通商代表部(USTR)は、通商法301条に基づく中国の知的財産の侵害に対する制裁関税を課す1,300品目の原案を示した。これに対し、4日、報復として中国は、25%の追加関税を課す米国の大豆、自動車、飛行機など106品目を発表した。制裁対象金額は両国とも同額の500億ドルである。

    市場参加者は「これは米中貿易戦争だ」と感じたのであろうか、4日(水曜日)の立上がりの米市場は大荒れとなった。NYダウは500ドル以上安く始まった。また報復関税の対象となる大豆は5%も安くなった。


    ところが時間が経つにつれ、市場は落着きを取り戻した。米中の通商担当者が水面下で交渉を行っているという話が伝わると、相場は上げに転じた。結局、NYダウは230ドル高で終わった。同様に大豆の価格も2%安まで戻した。

    この日の市場の動きは、今回の米中の貿易摩擦の市場の期待をよく表していると筆者は見ている。米中はどこかで妥協点を見つけ、いずれ両者の制裁関税合戦は棚上げになると市場関係者はやや楽観しているのである。ただどのような形で解決を見るにしても、案外と時間を要すると筆者は思っている。今後も市場とっては、米中貿易摩擦が大きな不安定要因となる。

    たしかに4月3日と4日の米中の制裁騒動による市場の動揺は一旦収まった。ところが4日発表の中国の106品目への追加関税に対し、トランプ大統領が5日に今度は対中制裁を1,000億ドル追加することを検討するよう指示を出した。当然、そのうち中国はこれに対する対抗策を打出すと見られ、再び米中貿易摩擦の行方は渾沌としてきた。さすがにこれを受け金曜日6日のNYダウは572ドルの大幅安で終わった。

    今回の米中貿易摩擦騒動の終息は見通しがつかない。今回は「落としどころ」というものが見えないのである。これが今度の米中貿易摩擦の特徴である。

    これまでは米中で通商摩擦が起ると、両国のフィクサー的人物が動き事態を収めてきた。例えば清華大学経済管理学院顧問委員会のメンバーが、このロビー活動の役目を担ってきたという。この委員会は中国の対米専門の外交官と米国の要人の交流の場である。この米国側のメンバーに、ポールソン元財務長官やアップルやフェイスブックのCEOなどが名を連ねている。

    中国の対米工作専門の高官と「俺は中国に顔がきく」という米国の親中派との間で話をつけてきたケースが多かったと想われる。中国は、今回の鉄・アルミ輸入の制限が公表される直前、急遽、米国に特使を2名派遣した。これら特使の中にも清華大学経済管理学院顧問委員会のメンバーがいたと見られる。ところがこのルートによる対米工作が、トランプ政権には全く通用しなかったようである。


    中国は、各国の高官や要人を取込むことに非常に長けている。日本の元総理や政党の党首の中にも、奇妙な親中派的発言を行っている者がいる。まさに彼等は中国の代弁者となっているのだ。

    このように米国の政財界にかなり中国は食込んでいる。民主党の政治家だけでなく、共和党にもポールソン元財務長官やキッシンジャー元国務長官のような親中派がいる。また中国との商売で利益を得る経済人は、中国の意向を組んだ発言を行って来た。この点では日本の財界人も同類である。

    しかし米国には、一方に中国に強い警戒感や反感を持っている政治勢力が存在している。今日のトランプ政権はこの対中強硬派で固められたと言える。今後、中国に妥協的な意見を言う高官は、トランプ政権内で居場所がなくなると思われる。このような影響もあってか、既にクシュナー氏や娘のイバンカ氏の影が薄くなっている。


    米国の対中輸出額は1.300億ドル

    トランプ大統領の中国に対する今回の制裁を「保護主義だ」「自由貿易に反し、米国の経済成長率を下げる」と観念論者は批難する。たしかに最初に波風を立てたのはトランプ大統領であった。しかしとても中国は自由貿易の優等生とは言えない。

    トランプ大統領が指摘しているように、中国に進出する外国企業に技術移転を強要したり、また進出企業には中国企業との合弁しか認めないという取決めは、明らかに資本の自由の原則に反している。また資金の本国への送金や進出企業の中国からの撤退が自由にならない。これらについて中国は「まだ中国が開発途上国だから」とこれまで言い訳をしてきた。今日の中国経済を見れば、このような話が世界に通じるはずがない。これらに対して「おかしい、理不尽だ」と言える唯一の国が米国ということになる。

    少なくともトランプ大統領までの歴代の米大統領はこれらを見過ごしてきた。本誌が指摘してきた「異常な人民元安」と「この中国への進出する企業に対する自分勝手な取決め」はもっと早くから是正されてしかるべきであった。しかし中国は巧みロビー活動によって、これらの批難をかわしてきた。


    貿易戦争には勝利者はいないという陳腐な話がある。また自由貿易こそが互いの利益となるという。しかしこれらは間抜けな観念論者のセリフである。自由貿易と言いながら、中国はとんでもなく安い水準で人民元レートを維持してきた。比較優位と間抜けな経済理論があるが(為替が操作されることを全く想定していない)、この人民元安の元では全ての製品の製造を中国で行うことが優位となる。

    この常軌を逸した安い人民元レートを維持する方法として、中国は途方もない額の為替介入を行ってきた。このため膨大な米ドルが溜り、中国はこれで米国債を大量に買ってきた。これは米国のためではなく、全て人民元を安く保つという中国の都合である。このメカニズムを理解せず、何を勘違いしたのか当時のポールソン財務長官は中国が米国債を買ってくれていると感謝していた(米国債は中国が買わずともFRBが買えば済む話)


    米国人は米ドルでどの国とも取引が出来るので、元々、為替レートやその変動に無頓着である。これが中国の犯罪的な為替操作を長年見過ごしてきた原因の一つと筆者は見ている。中国に進出している企業(主に多国籍企業)も、対米輸出を容易にする安い人民元を暗黙のうちに容認してきた。むしろ多国籍企業は、安く人民元レートが維持されるよう、米政界にロビー活動を行っていた可能性がある。

    日本も同様の為替介入を行ってきた結果、膨大な米国債を保有するに到った。しかし小泉政権時代の為替介入を除けば、日本の為替介入は、原則、異常な円高に対して防衛的に実施されてきた。製品輸出の増加を目的とした中国の為替介入とは大きく異なる。

    前述の通り、為替以外でも中国は貿易政策と商取引上で問題が山積している。ところがこれまでこれらの問題点を指摘されても中国は完全に無視してきた。しかしとうとうトランプ大統領が中国の制裁に動き出したのである。ただ筆者に言わせれば、この米国の動きはあまりにも遅過ぎたと感じる。中国は、既に制御不能なくらい異様なモンスターに成長している。


    米中の制裁合戦の行方に関心が集っている。筆者の予想は、前から言っているように米国の勝利である。米国の500億ドルの制裁に対して、中国も500億ドルの対米制裁を決めた。ところがトランプ大統領は、さらに1,000億ドルの追加制裁を検討と言い始めた。この1,000億ドルというところがポイントである。つまり制裁の対象金額は合計で1,500億ドルになる。

    ところが中国は、この1,000億ドルの追加制裁に対して、同様に1,000億ドルの対米制裁の追加とは言えない。理由は米国の年間の対中輸出額が1.300億ドルしかないからである。つまり中国が追加の制裁と言っても800億ドルとしか言えない。もし本当に中国が800億ドルの追加制裁と言ったら、筆者は笑う他はないと思う。



来週は、もう少し米中の通商摩擦の話を続ける。



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