- 予想外の為替介入
先週12日、政府日銀の円売介入が行われた。規模は20億ドル前後と報道されている。そこで今週号では、予定を変更し、まずこれを取り上げることにする。また後半では住宅の着工件数がかなり増える可能性があることについて述べる。そしてこの二つの事柄は、今後の景気の見通しを考える上で重要なポイントとなりうる。 さて世間では、今回の為替介入を意表を突くものと捕えられている。筆者も正直なところ想定していなかった。介入したレベルは108円台である。昨年の6月17日に日米共同の為替介入があり、しばらく後に円安はピークを迎え、それ以降、円はほぼ一貫して米ドルに対して強くなってきた。円の最高値は4年前の80円をちょっと切った水準である。したがって筆者は100円台ではなく、90円台くらいでの為替介入を想定していた。今回の介入は意外の一言である。しかし客観的に情勢を考えると、最近の急テンポの円高進行により株式市場は下落を続けており、また現在予定されている緊急経済対策の効果を削ぐ事態も考えられたのである。当局が危機感を持ったのも不思議ではない。特に110円を超える円高は投機筋の行動にも影響を与える。一旦110円を切ることによりオプションの「投げ売り」などが予想されていたからである。今回の介入によってこの流れは一応歯止めがかかったわけである。この事態をほっておけば、簡単に100円割れの状況が生まれていたとも考えられるのである。たしかに今回の介入は意表を突くものであったが、極めて正しい政策と評価できるであろう。 110円は一つのキーポイントである。円は昨年の6月まで一貫して安くなってきた。しかし途中円高に向かう局面があった。一昨年の6月のことである。それまで円安で推移していた為替が急速に円高へと転換したのである。ちょうど110台をつけたところで当時の榊原国際金融局長の「あまりにも円高へのピッチが速すぎる」と言う「口先介入」があり、為替はまた円安傾向に戻ったのである。当時の為替の動きについては6/23(第21号)「投機と市場を考える」を参照願いたい。このように110円と言うレベルは一つの「鬼門」となっているようである。 為替介入についてはもう一つ、米国との関係が問題となってくる。日本の経常収支の黒字額は依然大きく、世界から問題視されており、「円高」阻止の介入はこれに矛盾する行動である。米国が一応我慢できる経常収支の黒字幅の限度は、一部の米国政府高官の発言からGDPの2.5%くらいと推測される。ところが日本の経常収支の黒字幅は現在3.5%を超えている。このような状況ではたして日本による「円高」阻止の介入に賛同を得られるかである。ところが介入後、ルービン財務長官は「強いドルは米国の国益に合致している」と従来の発言を繰り返している。これは政府日銀の行動には賛成とはいかないが、反対もしない、つまり黙認と言うことを意味しているのであろうと解釈される。米国のこのような態度は、日本の経済が深刻であることへの配慮と考えられる。ただし、今後米国内での保護主義が台頭したり、産業界からの圧力が強まれば、このような米国政府の態度にも変化が生じることは当然考えられる。このようなことを考えても、今回の為替介入は絶妙なタイミングで行われたと思われる。 ここで「円」の適正な「対ドルレート」を考えてみたい。本紙では適正なレートについて何回か取り上げてきた。5/19(第16号)「金利と為替を考える」では適正なレートは103円から106円と説明した。しかしこれはアジア各国の通貨が米ドルにリンクしていた時の話であり、これらが米ドルから離脱し、暴落したため適正レートも修正が必要であった。そこで9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」で、本紙が考える適正レートを115円から120円の範囲に修正を行った。現在もこの水準が適正と考えるが、適正値は多少115円に近づいた円高の値と考えている。そしてこの適正な為替レートの修正を考えると、今回の政府日銀が介入したレート108円は決して安すぎる水準とは言えないのである。 日本の景気動向を考える上で為替レートの動向は重要である。輸出企業も今回の為替介入水準を考慮して事業計画を立てることができるのである。たしかに為替水準そのものも大切であるが、為替の安定が企業の活動にも重要である。今回の為替介入はその意味でも適切な政策と考えられる。 政府日銀はこれまで130円から146円の水準で「円買い介入」を行ってきた。それを108円で売っているのであるから、今回も確実に利益を確保している。為替ディーラが、毎日寝る間も惜しんで、為替レートの動向をにらみながら売買を繰り返しても、利益を得るどころか損を重ねるケースが多い中で、政府日銀はまたもや連戦連勝である。相場で利益を得るとはこう言うことかと教えられるのである。 ただ政府日銀の為替介入が予想より多少早かったため、今後の為替動向を読むことが難しくなった。当然、経常収支の動向や日本の景気回復のテンポも関係してくるが、一番のポイントは米国政府の考え方であろう。来年には大統領選挙があり、対日要求も厳しくなると考えられる。したがって場合によっては108円は円高の転換点ではなく単なる通過点になる事態も可能性があると思われる。
- 住宅投資増大の予感
住宅投資が大幅に増えそうである。先月12月から住宅業者の成約が急増していると言うことである。これは今後住宅着工件数の増加となり、さらにその半年後には住宅関連商品の売り上げ増につながるはずである。この原因としては「金利の低下と先高感」さらに「住宅ローン減税の具体化」が挙げられている。 ところで筆者は、「住宅減税」にはむしろ否定的であった。理由は「土地問題」の解決の方向が示されていないのに住宅だけが建てられても、そのうち住宅投資が息切れすると考えていたからである。しかしタイミング的には今回の「住宅減税」は効果があることは十分承知していた。最近の住宅投資は、本紙が予想していたように大きく落ち込んでいたが、落ち込み方がちょっと大き過ぎていたのは事実である。つまり何かの「きっかけ」があれば反動増と言うものが期待できたのである。ここで本紙ではおなじみの住宅着工件数の推移を示すと次のようになる。
25年間の推移ー単位は万件
| 73 | 176 | 81 | 114 | 89 | 167 |
| 74 | 126 | 82 | 116 | 90 | 167 |
| 75 | 143 | 83 | 113 | 91 | 134 |
| 76 | 153 | 84 | 121 | 92 | 142 |
| 77 | 153 | 85 | 125 | 93 | 151 |
| 78 | 150 | 86 | 140 | 94 | 156 |
| 79 | 149 | 87 | 173 | 95 | 148 |
| 80 | 121 | 88 | 166 | 96 | 163 |
| | | | | 97 | 134 |
3年間の推移ー単位は千件
| 95.12 | 136 | 96.12 | 138 | 97.12 | 112 |
| 96.01 | 107 | 97.01 | 105 | 98.01 | 88 |
| 96.02 | 112 | 97.02 | 111 | 98.02 | 96 |
| 96.03 | 122 | 97.03 | 113 | 98.03 | 100 |
| 96.04 | 139 | 97.04 | 126 | 98.04 | 106 |
| 96.05 | 137 | 97.05 | 123 | 98.05 | 103 |
| 96.06 | 137 | 97.06 | 121 | 98.06 | 107 |
| 96.07 | 157 | 97.07 | 113 | 98.07 | 101 |
| 96.08 | 136 | 97.08 | 112 | 98.08 | 99 |
| 96.09 | 148 | 97.09 | 115 | 98.09 | 99 |
| 96.10 | 160 | 97.10 | 120 | 98.10 | 104 |
| 96.11 | 151 | 97.11 | 115 | 98.11 | 97 |
ちなみに98年度の住宅着工件数は、なにも対策がなかったならば、120万戸くらいと推測される。歴史的に見れば、この年間120万戸と言う水準はけっして異常に低いものではないが、ここ15年くらいの着工件数に比べると一番低い数字である。したがって地価の下落、住宅メーカの営業努力などを考慮するとそろそろ反動増があっても不思議がない水準ではある。 ではどれだけの住宅投資が増える可能性があるかが問題になる。筆者は、一応年間で20万戸増と言う線を考えている。根拠は、立て替えサイクルなどを考慮した日本の住宅市場の規模が140万戸と言うことであり、日本の市場の規模に需要が回復すると言う単純な発想である。もっとも筆者は先行き不透明な日本の現状ではこの「日本の住宅市場の規模が140万戸」はもっと小さくなっていると考えている。もちろんこの20万戸増と言う数字は確たるものではなく、今後の住宅着工件数の実績を見ながら修正する必要がある。 しかし、一応この20万戸増で経済効果を試算すると景気に対するプラス効果は大きい。98年度が対前年で15万戸のマイナスに対して99年度は対前年度で20万戸のプラスである。差引35万戸、最終需要では10兆円のプラスである。これはGDPの2%に相当する。もっとも住宅投資が10兆円増えれば、他の消費がある程度減ることになり、全体では単純にGDPが2%増えると言うことではない。しかし、住宅着工件数が20万戸以上増える事態も考えられ、その場合には景気の回復にも大きな影響を与えるであろう。とにかく今後は住宅着工件数の動向が注目される。 今週号では、今後の景気動向を見通すうえで重要な「為替レートの動向」と「住宅投資の動向」について述べた。いずれの動きも景気にはプラスの要素である。筆者はこれらを含め総合的に考えると、政府の景気回復へ心構えが変わらないと言うことを条件に、99年度の日本の景気は、世間で言われているよりかなり良くなるのではないかと考えている。これについては近々本紙でも取り上げたい。 99年度に景気が回復するとしたら、輸出にはこれ以上の期待できないのであるから、今回は「公共投資」と「住宅」に活躍してもらうことになる。特に、地方財政の破綻により「公共投資」が十分機能できない現状では、今週取り上げた「住宅投資」にかかる期待は大きい。
|