経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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18/3/26(979号)
米中貿易戦争

    北朝鮮の核問題は既に決着?

    まず先週号の補足から始める。今回の米朝主脳会談については、水面下で、かなり前から話が進んでいたと筆者は思っている。ただしこれにティラーソン前国務長官が関与していなかったことは確実である。要するに米国の正式であり公式の外交ルートである国務省が、秘密折衝の現場から外されたまま話が進んだと筆者は推測する。

    筆者は、動いていたのはCIAだった可能性が高いと思っている。これまで北朝鮮に対して、CIAが色々な工作を画策しているといった話はあった。CIAが北朝鮮内でのクーデターの画策を行っているという憶測も流れていた。このような工作活動の中で「今の北朝鮮の体制を認めるのなら、核を放棄しても良い」という金正恩委員長の本音をキャッチした可能性がある。さらに一歩進んで、CIAが米朝主脳会談までセットしたことも考えられると筆者は睨んでいる。


    したがってティラーソン国務長官の後任にマイク・ポンペオCIA長官が就くことは、極めて自然の流れと筆者は見ている。つまりこれまでの秘密折衝の当事者であるポンペイ氏が、公式の外交ルートである国務省のトップに就いたと筆者は理解している。

    注目ポイントは、どこまで話を詰めて米朝主脳会談が実現する運びになったのかという点である。もちろん最重要の課題は核の放棄がどのような形でなされるかである。しかしこれ以外にも重要な課題はいくつかある。

    まず核兵器以外の化学兵器や各種のミサイルといった大量破壊兵器の扱いである。また北朝鮮軍が関与していると見られるサイバー攻撃も問題になる。さらに各国で行っていると思われる各種の工作活動もテーマになろう。つまり核以外でも北朝鮮は課題の多い国である。


    次に筆者が注目しているのは、この米朝主脳会談の経緯について、どの程度の情報が米国から日本にもたらされているかという点である。安倍総理とトランプ大統領は電話協議を行っているので、おそらくかなり正確な情報を総理は掴んでいると筆者は想像する。日本は「カヤの外」という論評があるが、筆者はそれはないと見ている。ただ総理が受取った情報がどの程度周辺に浸透しているのか不明である。

    米朝の協議が進めば、日本国内にも影響が出てくるものと筆者は思っている。ひょっとすると既にその徴候ではないかと感じられる出来事が起っている。先日、日本国内のある団体に警察の強制捜査が入ったという。ただこれと米朝主脳会談がどのような関係にあるのかはっきりとは分らない。

    ところで日本の主要メディアは決してこの手の出来事を報道しない。特に朝日・毎日・東京といった左派系メディアは、例のごとく「報道しない自由」を発揮しまず記事にしない。ともあれ米朝主脳会談が実現し、事が進めばこれらの真相は明らかになるであろう。


    各国は、最近の米国の保護貿易主義政策を強く批難している。しかし筆者が注目しているのは、トランプ政権の対中強硬路線である。「鉄・アルミ輸入制限」に始まり、通商法301条まで発動する見通しである。米通商代表部(USTR)は中国の知的財産権の侵害に「強い証拠がある」と通商法301条をチラつかせ、対象の中国製品を600億ドルとしている。

    ちなみに日本が「鉄・アルミ輸入制限」から適用除外になっていないのは、米国とFTAを締結していないからである。除外されたカナダ、メキシコはNAFT、韓国はFTAを米国と結んでいる。EUは米国とのFTA交渉を前提に適用除外になる可能性がある。米国は日本にFTA締結を迫ろうと、今のところ適用除外にしていない。日本としては、FTAではなく米国のTPP復帰を目指している。

    ともあれトランプ政権の保護主義政策のターゲットは明らかに中国である。しかしここで少し疑問が湧く。米朝主脳会談の話は進展しているが、北朝鮮問題が片付いたわけではない。したがって今後も中国から米国の北朝鮮政策への協力を得る必要があり、今、対中強硬路線を打出すことは得策ではないという見方ができる。どうもトランプ政権の対中強硬姿勢への転換を見ていると、ひょっとすると米朝の核に関する話合いは既に決着しているという推理が成立つ。


    米中貿易戦争は米国の大勝利?

    トランプ政権の対中強硬姿勢への転換は唐突という見方がある。通商法301条を持出すに到って、「米中貿易戦争が始まる」と株式市場は大荒れとなっている。これは中間選挙を目当てにしたパフォーマンスに過ぎないと酷評する者がいる。またトランプ政権の対中強硬政策は、米国内の物価上昇を招くなど自分の首を絞めるだけと言う論者もいる。それにしてもトランプ政権の主要メンバーには対中強硬派が揃った。どうもトランプ大統領は本気である。

    これに対する中国の米国への対抗策は迫力がない。通商法301条が本当に実施されれば、中国はもっと大きな報復措置を採ると言われている。しかし有効な対米報復政策はほとんどない。関税で対抗すると言っても、対象は農作物と航空機ぐらいである。もし航空機に高関税をかけようものなら、米国はもっと大きな制裁を課すことになろう。


    トランプ大統領と習主席は昨年4月に主脳会談を行い、100日の間に米中の貿易問題の解決案を見い出すと合意した。しかしその後、北朝鮮情勢の深刻化などで、トランプ政権の関心が移ったかのように見えた。中国は、米国からのシェールオイルやシェールガスの輸入を少し増やすといったお茶を濁す程度の政策で、これをかわしたと安心していたようだ。

    中国は巨額の対米貿易黒字を続けてきた。不思議なことに、米国はオバマ政権までこの状態を放って来た。このように長年、この背景にある人民元安の問題を米国が見逃して来たことは異様であった。度々人民元が異常に安いという話になり、米議会で中国の不当な為替操作を批難する声が起った。しかし中国の為替操作国の認定という動きは、何故か常に腰砕けに終わっている。1ドル=1人民元だった為替レートを、中国は勝手に1ドル=8人民元台まで大幅に切下げて行った。今日は多少切り上がって1ドル=6人民元台を維持している。


    本誌は01/5/28(第209号)「中国との通商問題」以来、人民元が不当に安く維持されていることを何度も問題にしてきた。しかし世界最大の輸入国である米国がほとんど動かないのである。中国は人民元を8元台から6元台に少し切上げるといった、これもお茶を濁す政策で誤魔化して来た。

    このような不当な人民元安が続けば、米国だけでなく日本の製造業も中国に移転せざるを得なくなると筆者は17年も前から警告してきた。実際、製品の組立といった人手のかかる工程のかなりの部分は中国に移転している。ところがWTOは為替や為替操作には全く関心がない。米国は、トランプ大統領が登場し、ようやくもう一つの中国の大問題である知的財産権の侵害をヤリ玉に挙げたのである(たしかに為替問題の方は、中国人の人件費が上がり理不尽さは以前より小さくなっている)。


    中国の不当な為替操作や知的財産権の侵害は米国でも昔から問題にされてきた。しかしどういう訳か、前述のように対抗措置は最後の段階になると腰砕けになった。これは中国による米政界に対する工作やロビー活動の成果と考える他はないとさえ筆者は感じている。実際、米国には親中派人脈がある。例えばクリントン財団に中国人が多額の寄付を行っていたことが明るみになり大問題となった。これが原因でオバマ大統領の2期目の大統領選に、ヒラリー・クリントン氏は対抗馬として出馬しなかった。

    これらの様子を本誌は10/10/25(第636号)「人民元安容認の経緯」から10/11/8(第638号)「米政府に対するロビー活動」まで3週に渡り取上げた。ところが中国の工作が効かないトランプ大統領が誕生したのである。しかも周囲を対中強硬派で固めた。中国は事の成行きを察知し、鉄・アルミ輸入制限が公表される直前、急遽、米国に特使を2名派遣した。しかしトランプ大統領は、片方には会わないなど冷たく対応している。


    「米中貿易戦争だ」と市場や世間は大騒ぎしている(貿易戦争に勝者はいないと間抜けなことを言っている者もいる)が、勝敗の行方ははっきりしている。筆者は、トランプ大統領の大勝利と見ている。これは当たり前である。中国が商人なら、米国はお客様である。まさに「お客様は神様」のはずである。お客様が売り主に対して「おたくの商売はおかしい」と言い始めたのだから、売り主である中国はこれに従う他はない。

    中国は、日本の経済成長が止まったのは、米国の要求を飲んだからと固く信じ込んでいる。例えば85年のプラザ合意によって超円高を飲まされたことが日本経済の凋落の原因と見ている(筆者は日本経済の低迷は財政規律派の台頭が原因と考える)。したがって米国の要求を絶対受入れないことを中国は方針として堅持している。実際のところ、今日まで米国の要求を政界工作などでなんとか切抜けてきた。しかし今回はこれで凌ぎ切れるのか注目される。



来週は今週の続きを考えていたが、佐川氏の証人喚問が行われるというので森友学園問題を取上げる。



18/3/19(第978号)「米朝主脳会談を推理」
18/3/12(第977号)「トランプ政権の脆弱な経済スタッフ」
18/3/5(第976号)「米国でのシニョリッジ政策」
18/2/26(第975号)「世界的な「金余り」の実態」
18/2/19(第974号)「VIX指数の不正操作」
18/2/12(第973号)「VIX指数暴落か」
18/2/5(第972号)「日本政府の貸借対照表」
18/1/29(第971号)「日本の経済論壇の病根」
18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」
18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」
17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


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