経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




18/3/12(977号)
トランプ政権の脆弱な経済スタッフ

    混乱しているトランプ政権の経済政策

    米国の政党に関し、長年、筆者は安保・外交政策は共和党、経済政策は民主党が良いと思ってきた。たしかに子ブッシュ大統領の強引なイラク攻撃を失敗と評価し、共和党の安保・外交政策に関しても問題が多いと感じる人々がいることは承知している。しかし経済政策に限っては、筆者以外でも民主党の方が優れていると思う人が多いと想像する。もっと正確に言えば、民主党の方が「まし」で共和党の経済政策はまるで「ダメ」と思っているのだ。おそらく米国の市場参加者もこれに近い評価を行っていると筆者は推察する。

    本誌に頻繁に登場するスティグリッツ教授、ポール・クルーグマン教授、バーナンキ元FRB議長などの経済学者は、皆、民主党系と見なして良いであろう。またトランプ大統領が「No.1フェイクニュース発信者」と天敵のように忌み嫌っているのがサマーズ氏である。彼が財務長官を務めたのもやはり民主党政権であった。これらの経済学者は08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」で説明したような全員ケインジアン(経済エンジニア)である。ケインジアンは共和党より民主党に近いと思われる。また学者だけでなく、現実の経済に造詣が深いと思われる経済人も民主党に近い者が多いと筆者は見ている。


    一方、共和党の周りにいる経済学者や経済論者は、ネオコンに代表される新自由主義者や「小さな政府」を指向するティー・パーティー(茶会派)である。またカルト経済学者が集結するシカゴ学派供給サイド重視の学者も共和党に近い。レーガン大統領の経済顧問であったラッファー曲線のラッファー教授なんかは、この供給サイド重視と思われる。

    しかし共和党に近い経済学者の評判は芳しくない。例えばラッファー教授の経済理論は、同じ共和党のメンバー(父ブッシュ大統領など)でさえも「ブトゥー(呪術)経済学」と揶揄していたほどである。ただしトランプ政権の大型減税はこの供給サイド重視の政策と言う面がある。


    しかしトランプ政権の経済政策は共和党の伝統的な経済思想に全て沿ったものとは言えない。例えばトランプ大統領は大規模なインフラ投資を打出している。そもそも公共投資は、連邦政府の仕事ではなく本来は州政府が行うものである。むしろこの政策は民主党色の濃いものと言える。

    米国には、政権に経済政策を諮問する国家経済会議(NEC)というものがある。委員長は大型減税を主導したゲーリー・コーン氏である。しかし最近はトランプ大統領がこのコーン氏の意見を聞こうとしない。とうとうコーン氏は、今回の鉄・アルミ輸入制限に反対し委員長を辞めるようだ。このようにトランプ政権の経済政策は、オーソドックスな共和党や民主党の基本政策を超越し、かなり混乱たものである。もっともトランプ大統領自身が昔は民主党員であった。


    トランプ大統領を観察しながら取引を行っている市場参加者は、トランプ政権の経済政策を厳しく見ている。たしかに米経済の回復に加え、大型減税、軍事力強化、規制緩和(エネルギー、金融など)、そしてインフラ投資に対して株式市場は良い反応を示し、これまで株価は史上最高値を更新してきた。しかし彼等は、トランプ大統領の経済政策だけで株価が上昇してきたとは思っていない。

    むしろトランプ大統領と周りの経済スタッフの経済に関する見識を市場は疑っていると筆者は思う。例えばドルは高い方が良いのか、あるいは安い方が良いのかで大統領と財務長官の意見が逆であったりする。このような脆弱な経済スタッフに支えられて、トランプ政権は大過なく1年間経済運営を行ってきた。これは奇跡に近い出来事である。ただ共和党内で、ティーパーティー(茶会派)の影響力が落ちているという。これが唯一の救いと筆者は思っている。


    AIは出来の悪い「教科書秀才」

    米国発の世界同時株価下落は2月2日に始まった。これはFRB議長がイエレン氏からパウエル氏に交代するタイミングで、仕手筋が仕掛けたものと筆者は見ている。当初、イエレン議長の続投も予想されていたが、共和党に近いパウエル氏が議長に就任することになった。このパウエル氏は金融政策に関しはっきりとしたタカ派(金融引締め指向)ではない。むしろ他の議長候補者よりややハト派(金融緩和維持派)という評価であった。

    そもそもFRBは2年前に過度の金融緩和政策を徐々に転換することを決定済みで、経済情勢を見ながらこれを実行してきた。議長がパウエル氏に代わったからといって、この基本方針に特段の変更ないと見られる。ところが市場はこれを素直に受取っていない。

    NYダウは2回の1,000ドルを超える大幅下落の後に大底を付けたと見られる。そして3週間ほどでNYダウは大きく戻した(7割程度)。ところが2月27日から再び4日連続で大きく下げた(下げ幅は合計で1,000ドルを大きく超えている)。この2月27日はパウエル新FRB議長が初めて議会証言に立った日である。


    しかしパウエル議長の議会証言の内容は、決して事前の予想を逸脱したものではなかった。おそらくイエレン氏であってもほぼ同じ証言を行ったと思われる。ところが市場の反応は想像以上に厳しかった(後ほど述べるがAIが間違った判断をした可能性がある)。またその直後にトランプ大統領の鉄・アルミ輸入制限の方針が飛出し、4日連続のNYダウの大幅下落となった。

    しかし筆者は、市場がパウエル議長個人だけを問題にしているとは見ない。そうではなくトランプ政権の経済政策全体への不信感が根底にあると筆者は思っている。おそらく米国の市場参加者はトランプ政権の経済スタッフを「小学生の集り」くらいに見ているのであろう。それがコーン国家経済会議(NEC)議長の辞任に見られるように、さらに「学級崩壊」を始めているのである。


    ここから市場の動きとAIの関係について述べる。2月2日からの米株価の大幅下落のきっかけは「VIX指数」の暴騰と見られる。この影響がAIのシステム取引によって増幅されたと筆者は推測する。さらにこのAIが要人の発言を瞬時に解析し、この結果を元に取引を行っているという話がある。

    ひょっとすると27日の株価下落は、AIがパウエル新議長の証言を分析し「株は売り」と判断した可能性があると筆者は推測する。AIは発言の文言だけでなく、声のトーンや発言者の表情まで分析しているという話がある。もしかするとAIがパウエル議長の証言をかなりの「タカ派」と判断した可能性があると筆者は感じている(ひょっとするとパウエル氏の本質はタカ派かもしれない)。しかしややタカ派のパウエル議長であっても、色々なしがらみがあって政策は議長一人では自由にならないという現実がある。この結果、AIの判断が間違ったことになる可能性はある。

    同様のことがトランプ大統領の鉄・アルミ輸入制限宣言による株価下落でも起ったのではと筆者は憶測している。AIが「鉄・アルミ輸入制限宣言」を真に受け単純に「これは自由貿易の危機」と判断し、自動的に株を売った可能性がある。しかし事情に熟知している情報筋は「これは大したことではない」「大統領の言っているようには絶対にならない」と最初から言っていた。案の定、輸入制限は大幅に後退した。これについてもAIは結果的に間違ったということになる。もし筆者のこれらの推理が正しいのなら、どうもAIは出来の悪い「教科書秀才」ということになる。


    ところでトランプ大統領の極端と思われる政策の決定のほとんどは時の最側近の助言によると見られる。具体的には「石油パイプライン工事の再開」「金融機関規制の緩和」「パリ協定からの離脱」「大型減税」「インフラ投資」「鉄・アルミ輸入制限」、そして「イスラエル大使館のエルサレム移転」などの政策である。

    イスラエルの大使館移転は、上院・下院が以前に議決していて(したがって米国内ではこの決定に反対がほとんど出なかった)、大統領が実施延期の大統領令を出さなければ自動的に実施されることになっていた。これに対して歴代の大統領は半年毎に実施延期の大統領令に署名を行ってきた。つまりトランプ大統領も最初の半年目には延期の署名を行っていた。ところが今回この大統領令に署名しなかったので、議会の議決が自動的に発行した次第である。おそらく大統領令に署名しないようアドバイスした側近がいたと見られる。

    面白いのはこれらの政策を助言した側近が、その後、ことごとく消えていることである。「大型減税」を主導したコーン氏も辞任する。次は一体誰がいなくなるのか。



米朝の首脳会議の話など色々と事態が急展開している。来週は、これらの中から何か適当なものを取上げる。



18/3/5(第976号)「米国でのシニョリッジ政策」
18/2/26(第975号)「世界的な「金余り」の実態」
18/2/19(第974号)「VIX指数の不正操作」
18/2/12(第973号)「VIX指数暴落か」
18/2/5(第972号)「日本政府の貸借対照表」
18/1/29(第971号)「日本の経済論壇の病根」
18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」
18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」
17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


16年のバックナンバー

15年のバックナンバー

14年のバックナンバー

13年のバックナンバー

12年のバックナンバー

11年のバックナンバー

10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー