経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




18/2/26(975号)
世界的な「金余り」の実態

    「金余り」は今に始まったことではない

    トランプ政権の減税やインフラ投資の拡大が予定され、またFRBが金融緩和政策を徐々に転換することが想定されている。これらによって米国の長期金利がこれから上昇することはほぼ常識となっている。市場関係者やエコノミストなどは、米長期金利の上昇による円安を想定している。また黒田総裁の続投とリフレ派の若田部副総裁就任が決まり、日本の低金利政策が継続し日米の金利差はさらに拡大すると思われている。

    これに対し、筆者は日本の低金利政策は維持されると思うが、米国の長期金利がどんどん上がることはないと見ている。多少上がっても長期金利上昇には限度があり、その上がり方はとてもマイルドなものと筆者は予想している。したがってFRBは政策金利を今後も上げるので米国の長短金利の差は縮小し、場合によっては18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」で述べたように、長短金利の逆転も有り得るとさえ思っている。

    ただFRBの利上げがとても緩慢なので、長短金利の逆転までは極めて長い時間を要すると予想する。サブプライムローン問題が起る前に、グリーンスパンFRBは政策金利を2年間で4%も上げた。これに対して今回の利上げは2年間でたった1%だけである。0.25%の年に3〜4回の利上げでは、短期金利はなかなか長期金利には追い付かないということである。


    今週は米長期金利の上昇が非常に緩慢と筆者が予想する根拠を示す。根拠はズバリ世界的な「金余り」である。金が余っているのだから、米国の長期金利だけが上がり続けるとは考えにくい。米長期金利が上がるということは、誰かが米国の国債を売ることを意味する。しかし米国債を売って得た資金には行き場がない。

    したがって米国債の価格が下がれば(つまり米長期金利が上がれば)、米国債を売った金でまた米国債を買うはめになる。つまり他に資金の運用先がないのである。金余りによって、既に新興国の債券は買われ過ぎている。アルゼンチンやギリシャなどリスクが極めて高い国の国債まで買われている。2年物のギリシャの国債の利回りが2%と、2年物米国債とほぼ同水準まで買われているくらいである。

    したがって一旦米長期金利が上がっても、そのうちある程度は下げるといった事態が繰返されると筆者は予想する。一方、FRBは政策金利を少しずつ上げるので短期金利は上がり続ける。したがって米国では短期と長期の金利差が縮まるというのが筆者の見立てである。


    世界的な「金余り」は今に始まったことではない。グリーンスパンFRB時代にも世界の余った金が米国に流れ込み米長期債が買われた。具体的にはアジア諸国や産油国の資金である(アジア諸国は1997年の通貨危機でIMFに酷い目に会ったので外貨を溜込むようになった)。したがってFRBがどれだけ短期金利を上げても長期金利は上がらず、最終的には長短金利の逆転現象が起ったという次第である。ちなみにサブプライムローン問題というバブル生成・崩壊はこの世界的な「金余り」が背景にあったと筆者は考える。

    筆者は、今日の世界的な「金余り」はグリーンスパン時代より大きくなっていると見る。つまり一段と長期金利が上がりにくい状況になっていると考える。


    50兆ドルもの債券の増加

    しかし世界的な「金余り」を直接的かつ客観的に示す適当な数字はない。したがって筆者の説明もこの点でやや説得力を欠くと認識している。ただしズバリ「金余り」を示す数字はないが、これを示唆するような数字はある。2月10日日経新聞3面の「債券バブル転換点」という記事の中の数字などである。なおこの記事は日経の編集委員の松崎雄典氏が解説している。数字の出所は世界取引所連盟、マッキンゼーで、一部推計している。

    これによると世界全体の債券額(国債や社債など)は、2008年から2017年末の9年間で、119兆ドルから169兆ドル(1京8,400兆円)と50兆ドルも増えている。ちなみに株式は32兆ドルから85兆ドルとこちらも53兆ドル増えている。筆者が注目するのは債券額の異常な増え方である。


    松崎氏の解説では、50兆ドルも増えた原因は、日・米・欧の中央銀行の金融緩和、特に中央銀行による市場からの国債や債券(住宅担保証券)の買上げとしている。さらにこれに加え一連の金融緩和政策によって債券価格が上昇し債券額が急激に増えたと解説している。

    ところが松崎氏は、日・米・欧の中央銀行の金融政策は転換点に来ており、これから金利上昇が予想されるという。また今後、中央銀行の出口戦略によって中央銀行保有の債券が売出されるため(テーパリング)、これによって債券価格が下落しさらに金利上昇が加速すると予言する。またこれを恐れる投資家が一斉に債券市場から逃出す可能性があると脅している。


    しかし筆者は、日経の松崎氏と全く異なる見方をしている。前段で述べたように、世界的な「金余り」現象は続いており、投資家が一斉に債券市場から逃出すような事態は考えにくいと見る。また筆者がこの記事に強い違和感を感じたのは、松崎氏が50兆ドルの債券の増額額の全てが中央銀行の金融緩和政策によると決め付けている点である。明らかに、これは「事実誤認」か「嘘」であろう。

    米FRBの債券保有額の4.5兆ドルを始め、現在の日・米・欧の中央銀行の保有債券の総額は12兆ドル程度と筆者は推計する。したがってここ9年間のこの増加額は10兆ドル程度であろう。一方、世界の債券額は50兆ドルも増えている。この差額の40兆ドルの全てが、債券価格の値上がりによるとは絶対に考えられない。当然、中央銀行以外の債券の買手がいるはずである。しかも購入額はかなりの金額と推定される。この辺りの真相を松崎氏は避けていると筆者は感じる。

    まず日本だけでなく世界中の個人や企業が将来に備え、貯蓄を増やしていると考えられる。また株価上昇によって巨額の資金を手にした者もいる。さらに世界的な所得格差の拡大が原因という論者もいる(サマーズ元米財務長官)。つまりこの貯蓄の増加額が大きいので、実物投資には回らない貯蓄の余剰は大きくなる。株式のリスクを考えると、この余剰の貯蓄のかなりの部分が債券購入に回っていると見た方が正解であろう。


    つまり世界的な低金利を中央銀行の金融緩和政策だけで説明することが根本的に間違っているのである。むしろ日・米・欧の中央銀行の保有債券の総額は、たった12兆ドルで、全体の7.1%でしかないことを認識すべきである。つまり仮に金融緩和の出口戦略によって中央銀行が保有している債券を売出しても、世界の貯蓄の余剰がそれ以上のスピードで増えている可能性がある。したがって中央銀行が放出した債券がそっくり買われ、金利が上昇しないという事態も有り得ると筆者は考える。

    そもそも筆者は、日・米・欧の中央銀行はそれほど積極的には保有する債券を売出すことはないと見ている。たしかに米国だけは、既に資産の縮小を少しずつ始めている。しかしこれも政治の要請でストップが掛る可能性があると筆者は憶測している。これについては来週取上げる。


    2月2日に始まった世界同時株安の原因は、物価上昇の懸念による金利上昇と言われている。ただ物価上昇の懸念の話は「ガセネタ」であることが直後に判明している。どうもVIX指数と同様、長期金利も一部投資家(投機家)によって操作された可能性がある(筆者は最終的には株価を操作するためと思っている)

    その証拠の一つとして、米長期国債のカラ売りが今回の株価下落の場面で急激に増えていることが挙げられる。しかし長期債の利回りは2.95%までしか上がっていない。これは追随する売りが大きくなく、むしろ膨大な金余りを背景に新規に米長期債が買う者が現れているからと筆者は考える。

    つまり不安を煽り狼狽売りを誘う日経の松崎氏のような見方に、市場参加者は反応しなくなったと筆者は思っている。これによって米株式市場は落着きを取り戻し、23日の長期金利は2.86%まで低下している。どうも米長期国債のカラ売りが少し買戻されているようだ。むしろ今後、この米長期国債のカラ売りの買戻しが続けば、長期金利はもっと下がるとさえ筆者は考える。いずれにしてももう少し様子を見る必要がある。



来週も米国の長期金利が上がりにくいことを取上げる。



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