経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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18/2/19(974号)
VIX指数の不正操作

    日本株だけ戻りが悪い

    2月2日の米国から始まった世界の同時株価下落など、市場の異変と混乱は収まりつつある。2週間経った16日のNYダウの終値は25,219.38ドルと2月1日(下落が始まる前日)の終値から3.7%安まで戻した。他の国の株価も米株に連れ安したが、米株価が戻すにつれ6〜7割程度戻している。

    ただ日本の株価と原油価格だけは戻りが鈍いようだ。16日の日経平均の終値は21,720.25円で2月1日から6.7%安と、最安値から3割程度しか戻っていない。この主な原因としては、この間に3.4%程度、円が高くなったことが挙げられる。


    円高が日本の株価の下落要因になって久しい。たしかに日本の主要企業が輸出企業であったり海外に投資を行っているケースが多いため、円高は日本の株価にマイナスになる。ただ円高がプラスになる企業もあるので、日本全体では為替変動の影響は複雑で微妙である。おそらくトータルで見れば、円高は少しマイナスといったところであろう。つまり円高は、企業業績を通し日本の株価にある程度悪影響を与える。

    為替変動が日本の株価に影響を与える要素がもう一つある。外資にとって、ドル換算すれば日本の運用資産は円高によって増える。つまり3.4%の円高は、それだけで外資にとって米ドル換算で資産が3.4%増えたことを意味する。つまり外資にとっては、日本の株価も6〜7割程度戻した感覚になっていると筆者は思っている。このように円高は、外資の日本株売りを誘因し、株価の下落要因となる。特に今日、外資の日本市場での取引比率が極めて大きくなっているので、このような円レートの変動が株価に及す影響は大きい。


    したがって日本の株価がこれ以上戻すかどうかは、今後の米株価と円レートの動きに掛っていると筆者は見ている。16日に105円台を付けるなど、直近で為替は円高となっている。しかし18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」などで述べてきたように、「円レートの中長期トレンドは経常収支と購買力平価で決まる。購買力平価は1米ドル=100円程度であり、また日本の経常収支が黒字ということからいつ円高に向かっても不思議はない」と筆者は思っている。

    つまり今日の円高への動きは、筆者の考え(中長期トレンドを考慮)に沿えば極めて合理的である。これに対し為替のプロと言われている人々やエコノミストは、ドル・円レートは金利差で決まると主張し譲らない。彼等は、これから米国の金利は上がって行くので円は安くなると間抜けなことをずっと言ってきた。ところが直近では米国の長期金利が少し上がり金利差が大きくなったにも拘らず(日本の金利はむしろ下がり気味)、逆に円高(ドル安)になっている。彼等は、今、言い訳で忙しい。


    為替のプロやエコノミストの「金利差で為替は決まる」という考えは必ずしも正確ではないと筆者は本誌でずっと指摘してきた。これが正しいのは他の全ての条件が絶対的に不変という前提が成立つ場合だけである。相手国の物価動向や経常収支、あるいは政治的リスクが変化すれば、均衡為替レートは変ると筆者は考える。

    また今日、市場が混乱したり地政学リスクが高まると安全資産の円が買われ円高になると言われている。しかし筆者はこれは妙なことと思ってきた。昔は「有事のドル買い」と言われ今日と逆であった。こちらの方が筆者にとってすんなりと納得がゆく。また為替のプロやエコノミストは、米国の長期金利が今後上がり続けるという前提でドル・円レートを語っている。しかし筆者は、米国で政策金利の利上げが続いても、米国の長期金利はそんなに上がらないと見ている。これについては来週号で述べる。


    匿名告発

    先週号で今回の米国の株価下落にVIX指数が深く関わっているのではないかと述べた。ただ今日までの株価の戻りの様子を見ていると「VIX指数暴落」と言うのは大袈裟であり、せいぜい「VIX指数ショック」ぐらいが妥当と筆者は思う。そのVIX指数は一時50くらいまで急騰する場面があったが、直近では19台とかなり落着いてきている。

    今日、米株式などの取引の9割方は、自動プログラムで行われているという。筆者は、株式取引の自動プログラムにもVIX指数が組込まれていると見る。VIX指数が高まれば、単純に株式は売るというアルゴリズムが採用されていると筆者は思っている。ところで多くの投資家が、皆、ほぼ同じ自動プログラムで取引を行っている可能性がある。

    したがってVIX指数が高くなったため投資家が一斉に株式を売出すことになり、これによって平均株価が急落した。またこの株価下落によってVIX指数が上がるという事態が起ったと考えられる。さらにこのVIX指数の上昇によって、さらに株式が売られるという悪循環に陥ったのである。

    つまり自動プログラムとかAIによる最先端の取引方式が、今回の突発的な株価暴落を演出したことになる。どちらかと言えば、地味で市場関係者も軽んじていたはずのVIX指数が自動プログラムに組込まれていたことにより、今回の大事に到ったと言えるのである。


    先週号で「ずっとVIX指数は10程度で推移していた(筆者も不思議な思いで眺めていた)」とか「VIX指数が小さな資金で動くのなら、今後も株式市場の不安定さは続く」、あるいはズバリ「VIX指数市場は操作されてきた可能性がある」とVIX指数が操作されたことを筆者はほのめかしたつもりである。ところが14日の日経新聞の3面に「恐怖指数、不正操作か 米証取委に匿名告発」という囲み記事が掲載された。もしこの話が本当なら、筆者の憶測が当っていたことになる。

    匿名氏はおそらく「インバースVIX」連動の投資信託の関連で大損してきた投資家の代理人であろう。この匿名氏は、不正操作が一般投資家に毎月数億ドルの損失を与えていたという。つまり2月2日に始まったVIX指数の急騰によってVIX指数が下がることに賭けていた投資家だけでなく、過去にVIX指数が上がる方向にずっと賭けていた投資家も大損していたことになる。今回の匿名の告発者は、後者の過去にVIX指数が上がる方向に賭け、既に損失が確定している投資家の代理人と見られる。


    匿名氏は「VIXの算出に欠陥」があり、また「投資会社が実際の取引をせず、資本(資金)も使わずにVIXを上下に動かすことが可能」と指摘している。つまり2月2月に特定(複数ということも有る)の投資会社(投資家)が、このVIX指数を使って株価操作を行った可能性を示唆している。もしこの投資会社が事前に株式をカラ売りしていたなら、莫大な利益を得ていはずだ。そう言えば日本の株式市場でも、前月に外資が1兆円を超える大量売りを2回行っていたという(買ったのが個人と日銀のETF)。

    匿名の代理人は、「インバースVIX」連動の投資信託に関連して告発を行っていると見られる。しかし実際のところこの影響による株価暴落の方が金額の規模が2桁、3桁大きいと筆者は思っている。当局による今後の捜査の進展が待たれる。ただこの告発によって、少なくとも今さらVIX指数を操作しようという「ヤカラ」は出ないであろうと筆者は考える。

    また当初、株価暴落の原因は長期金利が上昇したことになっていた。そしてこの長期金利の上昇の要因は、1月の全米の賃金上昇率が2.9%(当初2.0%と書いたが間違いと気付き14日に訂正)と想定を超えたこととされていた。しかし先週号で説明したように、賃金上昇率が2.9%と急上昇したことによる物価上昇の懸念の話は「ガセネタ」であることが直後に判明している。ところが今日に到っても、株価暴落の原因は、賃金の上昇による物価上昇の懸念や長期金利の上昇と言っている者がいる。主に財政再建主義者達である。



財政再建主義者は今後も米国の長期金利は上がり続けると主張している。筆者は上がるとしても限度があり、また上がり方はとてもマイルドと見ている。来週はその辺りを取上げる。



18/2/12(第973号)「VIX指数暴落か」
18/2/5(第972号)「日本政府の貸借対照表」
18/1/29(第971号)「日本の経済論壇の病根」
18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」
18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」
17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
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17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


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