経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




18/2/12(973号)
VIX指数暴落か

    消費再増税のムード作り

    日本の経済を扱う主要メディアであるはずの、日本経済新聞の紙面に異変が起っている。ここ半年以上、日経新聞上で経済理論や経済政策、そして財政に関する本格的な文章をとんと見かけなくなったのである。日経新聞において経済論議を掲載する代表的な紙面は「経済教室」である。

    この「経済教室」には、経済学者(財政学者)の論文、または経済論議に関する文章が掲載されるのが普通である。ところが最近、本格的な経済理論に関する文章を全く見ない(特に日本経済にかんするもの)。今日、「経済教室」に掲載されているのは「憲法改正問題」などほとんど経済や財政に関係のないものばかりが目立つ。少し経済に関する記述と言っても「EU」に関するものであったりする。


    筆者は目につく経済論文や経済理論に関する文章を切抜いているが、最近は切抜く文章が全くないのである。最後に本誌が取上げた経済論議は、17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」のシムズ理論であった(これ以降6週に渡りシムズ理論を取上げた)。つまりここ10ヶ月くらいこの手の文章を見かけていない。筆者は長年日経新聞を購読しているが、このような異変は初めてである。

    まるで日本に経済学者や財政学者がいなくなった印象がある。もっとも購読者の方も経済や財政の論議に興味を失っているかもしれない。なにしろ消費増税決定前の増税を推進するいい加減な言動によって、日本の経済学者や財政学者の信用は地に落ちている。


    ところが2月8日から二日間、日経新聞の「経済教室」に「遠のく財政健全化」というテーマで財政に関する文章が唐突に掲載された。8日は井掘利宏政策研究大学院大学特別教授の「非常時対応の正常化急げ」という文章で、翌9日は松林洋一神戸大学教授の「民間部門の資金余剰カギ」というものである。本当に久々に見かける経済・財政論議である。

    先々週号で日経新聞1月13日の大機小機の「経済政策論争の流儀」というペンネーム「風都」氏のコラムを取上げた。この中で「風都」氏は、海外のノーベル経済賞受賞者が来日し「消費税増税を急がずとも日本の財政に問題がない」と発言しているが、日本の経済学者は公式に反論すべきという声が起っていることを紹介している。ただ今回の井掘教授等の文章とこのコラムに関連があるのか筆者には分らない。たしかに「風都」氏のコラムはこれの前触れとも受取れるが。


    まず消費再増税は19年10月に想定されている。つまり時期的には、財政再建論者がそろそろ消費再増税のムードを上げたがっていると思われる。何しろ井掘教授は18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」で取上げた「「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会」の有力メンバーであった。

    今週号でこれらにもっと言及しても良いが、ただそれほど急ぐ必要のあるテーマとは思われない。したがってこれらはそのうち取上げることにする。むしろ世界的に株価が急速に下落しているので、ここからはこれを取上げる。


    VIX指数の急上昇

    先週号の最後に書いたように2月2日から米株価が大きく下落し始めた。この影響もあって日本を始め、他の国の株価もかなり動揺している。2日から米株価の大幅下落がスタートしたが、当初、原因は長期金利の上昇ということになっていた。

    たしかに長期金利は一時2.88%まで上昇したが、その後、長期金利はそれ以上には上がっていない。つまり長期金利の動きが案外安定的であるにも拘らず、米株価は下落し続けているのである。このように米株価の大幅下落の長期金利犯人説は根拠が薄い。

    そもそも当初、長期金利の上昇の要因は、1月の全米の賃金上昇率が2.9%と想定を超えたこととされた。これが物価上昇を加速させ、FRBは利上げを急ぐはずという観測が流れたのである。ところがこれは誤解を招く情報であった。実際は、米国に1月襲来した寒波の影響で労働時間が短くなり、計算上、時間当たりの賃金が上がっただけであった。この真相はすぐに知れ渡り、それ以降、長期金利の動きは落着いている。


    今回の株価下落劇にはVIX(米株価変動性)指数の動きが深く関係しているのではないかと筆者は疑っている。VIX指数とは恐怖指数と呼ばれ、シカゴ・オプション取引所が、S&P500を対象とするオプション取引のボラティリィティを元に算出、公表している指数である。数値が高いほど投資家が相場の先行に不透明感を持っているとされる。

    通常、VIX指数は10から20の間で推移すると言われている。ところが米株価がどんどん上昇し続けもう高過ぎるのではないかという声が出ているにも拘らず、ずっとVIX指数は10程度で推移していた(筆者も不思議な思いで眺めていた)。ただし株価大幅下落の直前には、12〜13程度までわずかに上がっていた(大半の投資家はこの変動に気がつかなかったと思われる)。

    ところが株価が下落し始めた2日には、VIX指数は急激に30近くまで上がった。ただ株価が下落したからVIX指数が上昇したのか、VIX指数が上がったから株価が下落したのか判然としない。ただし筆者はVIX指数の動きが株価に先行した印象を持っている。ちなみに9日のVIX指数は29.06である(9日は一時40まで上げている)。


    2月7日の日経新聞夕刊のラウンドアップにVIX指数に絡む金融商品の話が出ている。一部の投資家はVIX指数が下がると価格が上がる「インバースVIX」連動の投資信託などに投資して、ずっと高収益を得ていたという。たしかに昨年は一年を通じ平穏な相場が続いた。ところが6日までのVIX指数の大幅上昇によって、これらの投資信託は運用資産額の9割もの損失を被ったという。

    これまでVIX指数が上がらないことによって大儲けしていた投資家がいた一方で、VIX指数が上がらないことで大損をしてきた投資家がいた。VIX指数が上がる方向に賭けていた投資家である。どうもVIX指数は、上がりそうになると上昇を押さえ付ける力が毎回働いたという話がある。要するにVIX指数市場は操作されてきた可能性がある。この結果、市場に矛盾が溜っていたとも言える。

    ここからは筆者の憶測である。これまで損を重ねていたVIX指数の上昇に賭けていた投資家が、とうとう雇用統計が公表された2日に反撃に出たと推測される(大口の投資家がこの動きに加担したことも考えられる)。VIX指数の急激な上昇に直面し、驚いた投資家(指数が下がる方に賭けていた)は慌てて清算取引に走ったと見られる。これがVIX指数をさらに押上げた可能性がある。またこのVIX指数急上昇に驚いた株式市場は大幅に下落し、これがさらにVIX指数を押上げたという推理である。まさに悪循環が起ったのである。


    株価暴落には、理由がはっきりしている場合とそうではないケースがある。日本のバブル崩壊後やリーマンショックの暴落は原因が比較的はっきりしていた。しかし1987年のブラックマンデーや今回の下落は、理由がはっきりしない。少なくとも世界経済は上昇基調にあり、せいぜい株価は上がり過ぎたから下がったと言う他はない。

    ただ株価がVIX指数の変動に影響される度合が大きくなったと筆者は見る。もし今回の株価下落のきっかけがVIX指数という話が本当なら、今回は「VIX指数暴落」と名付けて良いと筆者は考える。またVIX指数が小さな資金で動くのなら、今後も株式市場の不安定さは続くことになる。いずれにしても株価に影響するものとして、これまでの金利や為替などに加えこのVIX指数にも注意が必要になったと筆者は認識している。



米株価の下落によって、世界の株価だけでなく原油価格もかなり下がっている。来週は今週の話の続きとなる。

今、筆者が注目しているのは、今週取上げたVIX指数と中国株価の動きである。中国の株価だけは世界同時株安の日に逆行して上がったが、その後は一番下げている。



18/2/5(第972号)「日本政府の貸借対照表」
18/1/29(第971号)「日本の経済論壇の病根」
18/1/22(第970号)「再びノストラダムスの大予言」
18/1/15(第969号)「今年のキーワードは「渾沌」」
17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


16年のバックナンバー

15年のバックナンバー

14年のバックナンバー

13年のバックナンバー

12年のバックナンバー

11年のバックナンバー

10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー