- 年頭にあたっての雑感
今週号は本年の第一号であり、まず最近気になった経済に関わるトピックスについて簡単に触れることから始めたい。 24兆円の政府・与党の緊急経済対策案も決まり、これを盛り込んだ予算案もこれから国会審議がなされ、ほぼ原案通りに通りそうである。本紙は今回の景気対策を、必ずしも万全なものとは考えていないが、一応評価している。世論の動向や国会の状況を考慮すれば、今回の対策はまずまずのものと考えれる。要は国の指導的立場の者達がどれだけ日本経済に危機意識を持つようになったかである。たしかに一年半前に比べれば、これには雲泥の差がある。そして今後、今回の対策でも景気後退に歯止めがかからない場合には、当然、さらなる追加対策が行われるものと考えている。そしてこのことはそのうちまた取り上げるが、筆者は来年度の景気は世間で語られるほど悪くなるとは考えていない。 金融問題に対する日経新聞の論調が大きく変わったことに対して、週刊誌が強く非難を行っている。しかし筆者の感想は「以前の日経新聞の論調がおかしかったのであり、現在これが修正されている過程にあるだけ」と言うことである。不況でほとんどの業種で売り上げが減少している中で、広告の扱い高だけは例外的に対前年で伸びるかあるいは同水準で推移していた。ところがついにこれも昨年9月からは減少幅が大きくなり、マスコミと言えど、考え方が現実的にならざるを得ない状況に置かれていると言うことが、一つこの背景にあると筆者は考えている。 長期金利が昨年の終り頃から高くなっている。特に資金運用部が国債買い入れを停止すると言う観測が報道されてからは、国債が売られ、国債価格も急落している。指標銘柄の国債の利回りは1%割れの水準から、一時は2%台に急上昇した。都市銀行は合計で10兆円以上の国債を保有しており、今回の国債価格の急落は大量の不良債権を抱える銀行にとっては痛手である。日本の長期金利は世界的に見ても、歴史上最低の水準で推移してきた。異常なまでに一本調子で買われてきた国債がついに売られたのである。しかしこれは高くなり過ぎた国債価格の一時的な調整と筆者は理解している。宮沢蔵相は「資金運用部の国債買い入れを停止」と言う報道を「大したことじゃない」と説明して、市場関係者の反感をかったが、どこかの場面で調整が行われるはずだったことは事実である。 世間には、景気対策ため今後大量の国債が発行されることで、今後も金利がどんどんと上がると予想する向きがある。特に政府の財政支出による景気対策に批判的なエコノミストにこの意見が強い。しかし、筆者は金利がどんどん上がり、3%にも4%にもなると言う予想には賛成できない。「銀行の貸渋り」は別の次元の現象であり、全体では日本国内の資金需要は資金供給に対して依然大きいことはなく、一本調子の金利上昇を想定することはできない。生保の資金運用の予定利率も引き下げられてきており、大手生保の予定利率は1.5%までになっている。金利が上昇すれば、これらの機関投資家が国債の購入を増やすはずであり、今後金利がどんどん上がる状況は考えられない。また、景気対策が効果を生み、資金需要が増えてきた場合には、反対に今後の国債発行による景気対策はそれだけ小さくて済むことになり、国債の発行が減り、この場合でも金利の上昇が緩和されるはずである。いずれにしても金利がどんどん上がることは考えられない。一番の問題は、根拠なく国債の売りが続く状況であり、この場合には景気回復に金利の上昇が障害となる。その場合には当局の柔軟な対応が必要になってくるかもしれない。 ただ「資金運用部の国債買い入れを停止」と言う報道に関連し、速水日銀総裁の「日銀が国債を50兆円も保有しているのは自然ではない」と言う発言が気になる。ではどれくらいの国債を保有するのが自然と考えるのか問いたいくらいである。たしかに中央銀行が国債を引受、通貨を市場に供給することは、物価上昇の要因となる。このため中央銀行は国債の引受に抵抗を感じるのが普通である。しかし、日銀は景気の浮揚に必要な資金の供給は続けるべきと筆者は考える。日本だけではないが、どうしても中央銀行の基本的なスタンスは通貨の安定に置かれやすく、これが景気の浮揚に障害となる事態が考えられるのである。また今だに「中央銀行の独立性」を盲目的に主張する観念論が世間には強い。筆者はこれにははっきり反対である。現在、先進国において「物価の上昇」が問題となる国はなく、今後もそのような事態はちょっと考えられない。むしろ今後、先進国においては「物価上昇」より「雇用問題」の方が深刻な問題になると考える。したがって先進国においては、「中央銀行」は通貨の安定より、政府が行う政策、具体的には「雇用問題」の解決に協力すべきと考えている。
- 景気対策としての印紙税の廃止
大蔵当局があれだけ抵抗していた「有価証券取引税の前倒し廃止」なども現実しそうであり、今回の緊急景気対策を見ると、「何でも有り」の感がある。たしかにこのような意気込みが今回の景気対策には必要なことである。それなら今後の追加景気対策を意識し、本紙でも有効と思われる景気対策を検討することにしたい。 本紙では一年以上前に本紙なりの「景気対策」を検討した。これらは10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」から
12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」であり、興味のある方は参照願いたい。ただ一年以上も経ったので、今週号から何週間かにわたりこれらに追加して景気対策を新たに検討したい。「印紙税の廃止」もその一つである。 印紙税は文書税であり、経済取引に関わる文章、具体的には領収書、契約書、約束手形などに印紙を貼付することにより納付が行われる。公表されている年間の国の印紙収入は約1兆8千億円であるが、これには登録免許税などが含まれている。これらを除いた印紙税法に規定されている印紙税は推定で約1兆円くらいである。印紙税は経済行為に伴い納付義務が生じるのであるから、これの廃止は当然経済活動にはプラスとなる。はっきり言えば、印紙税は経済活動に罰則を課すようなものであり、景気浮揚に障害になっていることは確実である。まず不況下の今日、印紙税の廃止が何故話題にもならないのか筆者は不思議なことと考えている。印紙税を廃止するチャンスはあった。消費税を導入した時である。土地関連取引を除けば、印紙税が掛かる取引には消費税が掛かる。たしかに消費税は正確には取引による付加価値に掛かるが、印紙税は課税方法は異なるがほぼ同じ取引に掛かっている。つまり筆者は、印紙税を消費税に統合すると言う考えがあっても良いのではないかと考えたのである。 詳しい話は省略するが、印紙税の廃止は昔からの筆者の主張である。そして今日「銀行の貸渋り」が問題になっており、改めてこの主張を繰り返したいのである。まず印紙税を廃止は、景気対策として効果があると考えられる。しかしそれがどの程度効果があるか、残念ながら推定することは難しい。そこで今週号では「銀行の貸渋り問題」と「印紙税の廃止」の関連について焦点を絞り、これが景気対策としての効果が期待されることを説明したい。 本紙でも以前取り上げたように、日本の金融の特徴の一つは企業間の信用が大きいことである。具体的には、勘定科目で言えば、売掛金、買掛金や受取手形、支払手形の金額が大きいのである。そしてこの企業間信用が、銀行融資と並んで日本経済の成長に寄与してきた。ところが今日、この企業間信用が縮小し始めているのである。端的にな例としては、特定の業種には現金取引でなければ商品を出荷しないと言う話が当り前となっている。問題はこのような動きがその他の一般的な取引にも広がっていることである。「銀行の貸渋り」に加え、企業間信用の縮小が現実となっているのである。銀行に対しては、一応公的資金による手当がほどこされることになったが、これによって「銀行の貸渋り」が解消されるとは考えられない。せいぜいこれ以上悪くなるのを防ぐくらいが精一杯である。救いは政府金融機関の融資の拡大だけである。したがって一方の企業間信用がこれ以上縮小するようだと、これから行われる景気対策も効果が半減することになる。 各企業は現在経営の合理化に励んでいる。合理化を行う場合、日本では、すぐに人員の削減まではいかない。まず諸経費の削減である。どの企業でもコピー代や交際費の節約に始まり、出張旅費や残業手当の削減から始まる。そして次のあたりが印紙税の節減である。この具体的な方法は支払手形の廃止である。支払手形による決済を止め、期日に現金を振り込むのである。取引先には「おたくも領収書に貼る印紙が節減できる」と説得しながら進められている。これは誰でも気がつく経費の削減であり、取引上で優位に立っている有力な企業は既に行っている。問題は、「銀行の貸渋り」に加え、このような現象が広く広がることによって民間の信用がますます縮小することである。手形割引による資金の調達ができなくなるからである。特に、支払に問題のない企業から「支払手形の廃止」が行われる可能性が強いのである。 現状では「銀行の貸渋り」の解消はほぼ絶望的である。したがってむしろこれに換る企業間の信用の拡大が必要になるのに、つまらないサラリーマンが必ず提案する「経費の削減の一項目」により世の中は逆の方向に動くのである。筆者はこの動きを止めさせるには「印紙税の廃止」しかないと考える。かりに一歩も二歩もゆずるなら「約束手形」に掛かる印紙税だけでも廃止すべきと本紙は主張したい。さらに行政当局は行政指導により、有力企業が「支払手形」から「期日現金払い」に移行するのを止めさせるべきである。また既に「支払手形による支払を止めた」有力企業にも支払手形による支払を復活させるよう要請すべきである。 世間では、経済の現状を知らないエコノミストやマスコミが「間接金融から市場を通して資金を調達する直接金融に移行する」よう日々繰り返し主張している。しかし日本の現状ではこれは無理である。そして実現が不可能なことを提案することは意味がない。むしろ現在行われている企業間信用の制度を守る方が簡単であり、現実的である。筆者は、この企業間の信用を維持し拡大する方法がなぜ世間の話題にもなっていないのか不思議なことと考えている。
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