経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




18/1/15(969号)
今年のキーワードは「渾沌」

    長短金利の逆転

    年頭にあたり、本来なら今年の見通しなんかをテーマにすべきであろう。しかし様々なことが渾沌としていて先が読めないことが多い。むしろこの「渾沌」としている話が年初のテーマとして相応しいと思う。たしかに世の中はいつも「渾沌」としているが、今年ほど先が見通せない年は珍しい。

    まず日本の人々にとって今の最大の関心事は朝鮮半島情勢の行方であろう。しかし突然にも韓国・北朝鮮の間で協議が持たれ、オリンピツク期間中の軍事衝突はないという見通しになった。トランプ大統領もこれを保証する発言を行っている。したがって朝鮮半島情勢はオリンピックが終わるまで動かないようだ。


    株価・金利・為替など経済指標の動きも「渾沌」としている。まず株価であるが、世界的に上昇していて米国のように史上最高値を記録している国もある。経済がそれほど好調と思われない国の株価までも上昇している。株価の基準となる株価収益率(PER)で見ると、どの国の株価もかなり高い水準にある。例えば米国株のPERは14〜15倍が天井と言われてきたが、今日これが20倍にもなっている。このため大きな調整か大暴落がいずれあると言われてきた。しかしこれらの予想に反し株価は上がり続けている。

    株価の推移に影響が大きいのが金利の動きである(日本の株価はこの金利に加え為替も影響)。日・米・欧の中央銀行がこれまで金融緩和を続けてきたので、たしかにこれによる余剰資金が株式市場に流入し株高を演出してきた面がある。しかし今日、各国は利上げする局面に入っている。ところがこの利上げというマイナス要因がある一方で、トランプ減税などの株価上昇要因がある。したがってこの先の株価の動きも「渾沌」としている。


    日・米・欧の中央銀行は緩和基調からの方向転換を模索している(一気に引締めということはないが)。実際、米FRBは既にQE(量的緩和)を止め、短期金利の利上げを行ってきた。しかしこの利上げが緩慢であり、利上げがあっても米株価は上昇している。たしかに昔の利上げは0.5%単位が普通であり、しかも一旦利上げを始めると短期間のうちに連続して利上げを行った。今日のように0.25%ずつ年に2〜3回程度の利上げはたしかに市場にとって優しいということになる。

    短期金利の上昇が長期金利にも波及するかも注目される。伝統的な考え方では、中央銀行は短期金利を操作するが長期金利を直接的に動かすという発想がなかった。長期金利は金融市場全体の資金の需給で決まるという考えである。中央銀行が短期資金の供給を絞ることによって、長期金融市場でも資金の需給が窮屈になり自然と長期金利は上昇するものと想定されている。ただし日本だけは例外で、日本銀行が長期金利(10年物国債)をゼロ近辺に張付けるオペレーションを行っている(直近では0.07%)。


    ところが米国では、米FRBが利上げを行っているが長期金利がなかなか上がらない。米国の長期金利(10年物国債)はやっと2.5%に上がった程度である(一時2%を割っていた)。しかし短期金利が上がるほどには長期金利が上がらないといったこの事態を筆者も予想していた。

    グリーンスパンFRB議長時代、金融引締のため短期金利を上げ続けたが長期金利は一向に上がらなかった。グリーンスパン議長はこの動きを不思議に思っていた。これは海外からどんどん米国に資金が流入したからである。この結果、とうとう長短金利の逆転という奇妙な現象が起ったのである。筆者はそのうちこれに似た現象が起るものと見ている。


    世界的な金余りが背景に

    07/11/12(第504号)「「金余り」の徒花」などで述べたように、バブルを警戒しグリーンスパンFRBは短期金利を上げ続けたがバブル生成を防げなかった。これもあってか07年にサブプライムローン問題が表面化し、続けて08年のリーマンショックというバブル崩壊となった。これは中央銀行の金融政策に限界があることを示したと筆者は理解している。

    金融政策が有効性を発揮するのは、資金や資本に希少性がある場合である。今日のように世界中で余った資金が動き回っている時代では(大きな資金流入によって米国で長短金利の逆転現象が起るような時代)、中央銀行の力はかなり減殺されると筆者は思っている。また金利は資産バフルとは関係のない一般国民の生活や企業活動にも深く関係している。したがってバブル生成を阻止するためと言っても、中央銀行は安易に大きく利上げすることはできない。


    世界的な金余りは、サブプライムローン問題の起る前より確実に大きくなっていると見て良いであろう。前段で取上げた世界的な株高もこの影響がある。しばらく前まで10%だったギリシャの2年国債の利回りが、最近2%まで低下しているのには筆者も驚いた(米国の2年国債の利回りも2%)。これも金余りの影響であろう。このように中央銀行による実態経済のコントロールが一段と難しくなっている。

    これらのバブルを予感させる現象(まだバブルとは言えないが)は、株式や金利だけでなく色々な分野に広がっている。例えば原油を始め一次産品の市場価格が上がり始めた。これに関し市場関係者はあまり納得できないような上昇理由を挙げている。しかし世界的な金余りがこの背景にあると見られる(商品市場にも投機マネーが流入し始めたと筆者は見る)


    世界的に景気が良くなり失業率が低下していると言われているが、少なくとも日・米・欧といった先進国では物価が上昇していない。物価が上昇しない現状では、中央銀行は利上げに躊躇する。これについては前回号17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」で述べたように、NAIRU(インフレ非加速的失業率)や自然失業率に基づくデフレギャップや潜在成長率の算定方法に問題があると筆者は見ている。

    とにかく今日の経済状況では、金融緩和だけに頼るのではなく財政政策にもっと重点を置くべきと筆者は考える(金融政策の負担を軽くするため財政政策を使うべき)。その意味では、トランプ大統領の大型減税や次のインフラ整備政策が注目される。少なくとも日本の消費増税なんてとんでもない話である。


    為替、特にドル・円の先行きもよく読めない。筆者は、円レートの中長期トレンドは経常収支と購買力平価で決まるとずっと言ってきた。購買力平価は100円程度であり、また日本の経常収支が黒字ということからいつ円高に向かっても不思議はない。ただ今日の円レートは110円程度なので均衡値からはさほど離れていない。つまり円高に向かう力はそれほど強くないと筆者は見る。

    逆に米国の利上げとトランプ減税による米国への資金回帰が予想される。これらはいずれも円安(ドル高)要因となる。またトランプ大統領の関心のある対米貿易収支黒字国は、中国や韓国、そしてNAFTA締結国(メキシコ、カナダ)である。円高圧力が掛るとしてもまだ先の話と筆者は思っている。


    これらの他にも世の中の「渾沌」を象徴する「物」が新たに登場している。仮想通貨とかビットコイン、そしてブロックチェーンがその一つである。本誌の読者からもこれについての解説依頼がいくつか来ている。どうも中央銀行以外の者、つまり民間が勝手に通貨を発行することに疑問を持つ方が多いようだ。

    しかし日本でも民間が昔から擬似通貨を発行している。思い浮かぶのは手形や地域通貨である(ここでは地域通貨の話を省略する)。一旦発行された手形は、通貨のように転々と業者の間を動き回り決済に使われることがある。ただ手形には決済期限があり、仮想通貨には期限がない。また決済期限があるため手形には発行者には発行利益はないが(あるのは期限の利益だけ)、仮想通貨は発行者に通貨発行利益が生まれる。

    ただシカゴに仮想通貨の先物市場が開設されたので、これまでのような野方図な価格上昇は難しくなったと筆者は見る(もしオプション取引が始まればさらに動きは穏やかになると予想される)。また仮想通貨は規制する国が出てきたようにこの先が不透明である。ともかくこの仮想通貨やビットコインは、そのうち取上げるかもしれないとしか今は言えない(経済に与える影響はまだ小さい)。



来週はノストラダムスの大予言を取上げる。ただこれについては過去に取上げたことがある。



17/12/25(第968号)「狙いは需要創出政策の阻止」
17/12/18(第967号)「経済論議混迷の根源はNAIRU」
17/12/11(第966号)「日本の経済の専門家はおかしい」
17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


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