経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




17/12/11(966号)
日本の経済の専門家はおかしい

    日本の経済論壇の「闇」は深い

    筆者は、16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」などで日本の経済学者やエコノミスト、そして日経新聞の論説委員等を批判してきた。これらの日本の経済の専門家が言っていることが「おかしい」と思うからである。また筆者は何となくこの原因を分っているつもりである。

    日本経済の低成長の原因は慢性的な需要不足と先週号で説明した。しかし日経新聞の論説委員を始め日本の経済の専門家は、どうしても原因を需要不足とは認めないのである。そこで彼等は、低成長の原因を人手不足や低い生産性など供給サイドの話で誤魔化している。


    だから人手不足を示すデータをやたら強調したがる。また間抜けなエコノミストの中には「日本は完全雇用状態」と言って譲らない者までいる。しかし先週号で述べたように、本当に日本が人手不足ならもっと賃金が上昇しているはずである。

    それどころか全てのメガバンクが大きなリストラ計画を発表している。大手銀行の事実上の定年は52〜53才という話は昔聞いたことがる。ところがそれが最近では、どうやら50才程度までに早まっているという記事を日経新聞が掲載している。日経新聞にはこのような矛盾した話が満載である。そこで今週はこのような矛盾した話を二つ取上げる。


    日本の経済成長率は、内閣府から国内総生産(GDP)の情報として定期的に公表されている。日経新聞などのメディアは、この数字の推移に基づき経済成長の様子を解説している。内閣府が公表するのは「消費、投資(設備・住宅)、政府消費、公共投資、輸出・輸入」と需要の項目毎の数字とそれらの合計である。日本経済成長率はこれらの需要項目の数字を積上げて算出されている。

    日経新聞などメディアのこれに対する分析と解説は、例えば「天候不順で消費が落込んだ」「半導体の需要が好調なので設備投資が増えた」「予算消化が進まず公共投資が減った」「円安と中国の景気持直しで輸出が増えた」といった具合である。注目されるのは全てこれらは需要サイドの話ということである。まさに先週号で述べたように「需要で日本の経済成長は決まる」のである。日本の生産性が上下したことが原因で経済成長率が変動したといった話は一切出ない。これは当たり前の話であり、需要が増えれば当然のこととして工場や商業施設の稼働率が上がり生産性が上がるのである。


    ところが日本の経済の専門家は、日経新聞などで日本経済の成長に関しては「生産性の向上が必須」「生産力の増大が必要」と供給サイドのことしか言わない。したがって彼等は「設備投資を喚起する政策が必要」「家庭の主婦も職場に狩出すような政策が必要」といった主張を繰返す。つまり日本の経済成長を決めるのは全て供給サイドという話になっている。

    ところが同じ日経新聞の紙上では、前述の通り日本の経済成長を全て需要サイドだけで分析・解説して見せるのである。明らかに日経新聞や日本の経済の専門家の経済成長に関する論調は矛盾している。筆者は、もっと辛辣に「日経新聞と経済の専門家は頭がおかしくなっている」と言う他はないと思っている。

    不思議なことに、日本の経済論壇では誰もこのような矛盾を指摘しないし問題にもしない。しかし「おかしい」と指摘する経済学者やエコノミストがいることを筆者は知っている。ところがこのような声をほとんどの日本のメディアは取上げない。まことに日本の経済論壇の「闇」は深いと言える(日本のメディアもおかしい)。


    算出方法がおかしいデフレギャップ

    もう一つの「日経新聞と経済の専門家は頭がおかしくなっている」ことを示す事例は、日本のデフレギャップの認識である。これに関しては日本の潜在成長率も関係する。筆者は06/2/27(第426号)「潜在GDPとGDPギャップ」06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」で、これらの算出方法がおかしいと指摘して来た。しかし今日でもこのインチキな算出方法が続いているのである。

    日本のデフレギャップを政府はわずか1〜2%と公表して来た。それどころか直近ではデフレギャップがなくなり、逆にインフレギャップが生じたと驚くようなことを言っている。ところが誰もこれを「おかしい」とは指摘しない。


    デフレギャップを文字通りに解釈すれば、供給力が需要を上回る場合の両者の差額ということになる。たしかに理論上では、これがゼロになることは有りうることである。しかしこれがマイナスになり、逆にインフレギャップが発生したのだからただごとではない。

    これも文字通りに解釈すれば、日本全体で需要が生産力を上回ったことになる(一部の特定の企業に限るなら有り得る現象である)。これはちょっと有り得ないことであり、少なくとも日本の景気が超過熱状態ということを意味し、当然、物価は高騰しているはずである。ところが日本経済は低迷し、物価は一向に上がっていない。日銀なんて、物価上昇率の達成目標年度を毎年延期しているほどである。


    結論を言えば、筆者が何回も指摘してきたようにデフレギャップや潜在成長率の算出方法がおかしいのである(実際のデフレギャップはずっと大きい)。しかし関係者がこれは「おかしい」と気付いているのか不明である。また「おかしい」と気付いていたとしても修正する気があるのか、これも不明なのである。

    それにしてもこの怪しいデフレギャップを基づき経済政策が実施されることが問題である。構造改革派と見られるある経済閣僚は、日本のデフレギャップや潜在成長率が著しく小さく算出されていることを知らないと思われる。この大臣は「日本の経済成長率を上げるには潜在成長率を大きくする他はない」と言っているようだ。

    日本のデフレギャップや潜在成長率を著しく小さく算出している裏には、日本経済の問題点を需要サイドから供給サイドにスリ変える意図が見える。これには財政再建派も悪乗りしている。もし需要サイドの問題、つまり需要不足が認められると財政支出による需要創出という話が避けられなくなると財政再建派は思っている。


    デフレギャップや潜在成長率の算出方法や認識の違いには、理論経済学上の対立の影響も垣間見られる。先週号で、古典派(新古典派)経済学に基づく構造改革派と財政再建派、そして財政による需要創出の有効性を唱えるケインズ主義の積極財政派という分類を行った。デフレギャップや潜在成長率を異常に小さく算出している経済学者やエコノミストは、古典派(新古典派)経済学の信奉者と見て良い。

    そもそも古典派(新古典派)経済学ではデフレギャップという概念は存在しない。古典派(新古典派)経済学の理論的な根幹をなす「セイの法則」では、作った物は全て売れることになっている。したがってパラメーターが動き価格メカニズムが機能すれば、失業者や生産設備の遊休は発生しないことになっている。

    古典派(新古典派)経済学の世界では、自然失業率以上の失業は労働者の技能が劣るからであり、需要拡大策ではなく職を得るための教育訓練が必要と説く。また遊休状態の生産設備は、既に陳腐化していて使い物にならないから廃棄すべきと考える。たしかに「セイの法則」からは、このような結論が導き出される。



今週号で取上げたデフレギャップや潜在成長率の話は、どうしても生産関数の問題に行き着く。来週は問題の根源である「可変NAIRUアプローチ」を取上げる。



17/12/4(第965号)「需要で日本の経済成長は決まる」
17/11/27(第964号)「続・「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
17/11/20(第963号)「PB黒字化は本当に国際公約か」
17/11/13(第962号)「これからの重大な政治課題」
17/11/6(第961号)「旧民進党の研究」
17/10/26(第960号)「48回衆議員選の分析」
17/10/16(第959号)「北朝鮮の国営メディアと同じ」
17/10/9(第958号)「総選挙の結果の予想」
17/10/2(第957号)「総選挙と消費増税」」
17/9/25(第956号)「解散は早い方が良い」」
17/9/18(第955号)「制裁の狙いと効果」」
17/9/11(第954号)「北朝鮮への「圧力と対話」」
17/9/4(第953号)「北朝鮮の核を考える」
17/8/28(第952号)「日本のテレビ局をBPOに告発」
17/8/14(第951号)「日本の構造改革派の変遷」
17/8/7(第950号)「今回の内閣改造について」
17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」


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