経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/10/9(958号)
総選挙の結果の予想

    カギは危機感と緊張感

    総選挙の注目点は「小池代表が都知事を辞めて総選挙に出馬するか」である。筆者は、先週号の最後に「合理性を考えるとその可能性は低い」と言った。

    筆者は、元々、小池知事が国政進出で先頭に立つ気はなかったと見ている。もしこの気持が揺らいだとしたなら、都議選で都民ファーストが大勝し自民党が大惨敗した時と考える。さらに前原民進党代表が、民進党の立候補者を希望の党に合流させることを決めた。この望外の二つのハプニングが起ったため、小池氏は都知事を辞め総選挙に出馬しようかと一瞬思ったかもしれない。


    筆者が小池知事が国政には出ないと見たのは、知事が給与の半分の返上を決めた時点である。新党を渡り歩いてきた小池氏は、新党がいつも資金で苦労することをよく知っている(政権を目指す大きな新党を創るのなら給与の返上は考えられない)。新党が消滅する時には、たいてい「金」が問題になっていた。つまり少なくとも今年の前半までは、大きな資金が必要な全国規模の新党での大々的な国政進出は念頭になかったと筆者は思っていた。

    希望の党は若狭氏など側近の救済が目的と思われ、せいぜい首都圏を中心にした地域政党を想定していると見ていた。だから新党の設立を若狭氏等に全て任せていると思っていた。ところが都議選での大勝と民進党の合流といった想定外のことが起り局面が変った。今度はマスコミがこれらを見て「政権交代が可能な新党」と騒ぎ出したのである。マスコミは、連日、「定員の過半数である233名の立候補者を立てられるか」「小池知事は衆議院選に出るか」と大騒ぎしている。

    小池新党による政権交代とマスコミは騒いでいるが、彼等は選挙情勢を全く念頭に置いていない。これも都議選の印象が強烈過ぎたからと筆者は見ている。結局、筆者の予想通り小池知事は選挙に出ないようである。


    選挙結果を予想するには、希望の党の側から分析してもあまり意味がない。まず行うのは自民党がどれだけの議席を取るかを予想することである。公明党、共産党、立憲民主党、無所属など、希望の党を除く野党の議席数はほぼ予想できる。したがって自民党の獲得議席を正しく予想すれば、自動的に希望の党の議席数が決まるという具合になる。

    問題は自民党が議席をいくつ取るかである。今回は自民党にとって厳しい。特に5月に安倍総理が「憲法改正」に言及して以降、左派系マスコミが「安倍政権打倒」路線を鮮明にした。

    しかし自民党が危機感を持って選挙に挑めば、かなり善戦できるはずだ。反対に気の弛みがあれば、ある程度の議席を失うと筆者は思っている。一つ懸念されるのが消費増税であり、2年後の増税の話を持出す必要はなく、ましてや2年後には参議院選があり消費増税をやっている場合ではなくなると思われる。同じ増税を唱えていた民進党が消えたのだから公約から外すべきである。


    自民党の選挙結果については「危機感」「緊張感」「引締め」といった抽象的な事柄が最も重要と筆者は見る。また内閣支持率が低くても善戦することがある。筆者が選挙結果の予想でいつも基準にしているのは、2000年の森政権下の総選挙である。森内閣の支持率は、10%を割るなど信じられないほど低かった。しかし総選挙で自民党は233議席と過半数(240議席)に達しなかったものの予想を大きく裏切り善戦した。またこの前回の総選挙は239議席であった(橋本政権)。しかし前回の定員が20議席多かったのだから、森政権は実質的に議席を増やしたことになる。

    これは絶望的なほど森政権が不人気だったので、自民党だけでなく支持者も必死になったからと筆者は見ている。このように小選挙区制では支持層が堅い自民党の場合、どれだけ危機感を持って選挙に挑むかで結果が大きく違ってくる。ところがこの自民党の支持層自体を怒らせた2009年の総選挙は、119議席と大惨敗を喫した(筆者も国民新党に投票した)。このように自民党の獲得議席は内閣支持率があまり重要ではない場合がある。ちなみに人気の高かったはずの小泉政権下の2003年の次の選挙では237議席と、森政権下の233議席をわずかに上回っただけであった。今回の選挙結果は内閣支持率の急落と都議選での大惨敗による危機感と緊張感がいつまで続くかに掛っていると筆者は見る。


    東京都民は退屈している

    希望の党の躍進が関心を集めている。これは都民ファーストが都議選で想像を絶する大勝利を収めたからである。さらに前原民進党が合流した。この勢いで総選挙に挑めば、希望の党は政権を奪取するような大政党になると大騒ぎになっている。

    総選挙の結果を占う上でも、この話が本当なのか都民ファーストの都議選の大勝利の要因を分析する必要がある。要因の一つとして安倍政権の支持率が急落したタイミングで都議選が実施されたことが挙げられる。これには加計問題や豊田真由子事件などが影響した。二つ目として公明党が都民ファースト側に付いたことが大きかった。もしこれが事前に分かっていたなら、自民党は候補者調整を行っていたと思われる。

    またこれは内閣の支持率急落にも関係するが、マスコミ全体が「安倍一強体制」批判を強めたことが影響した。反安倍の一環として、テレビなどのメディアが安倍体制を崩すかもしれない小池都知事を持上げる報道を続け、ずっと都民ファーストの立候補者を側面支援していたのは確かである。ちなみに小池都知事も「選挙運動はテレビがやってくれる」と言っているらしい。


    しかしこれらだけでは、都民ファーストの空前の大勝利と自民党の大惨敗を説明することは出来ない。何も安倍政権の政策が大失敗の連続で、街に失業者やホームレスが溢れ、平均株価が1万円を割る状況にあるわけではない。どう見ても都議選の結果は異常であった。たしかにこの異常な現象が全国に広がるのなら、今回の総選挙で自民党の議席が半減し政権交代が起っても不思議はない。

    それにしても東京の有権者の今回の投票行動がおかしいのである。これに対し都民は「私は真剣に考えて都民ファーストに投票した」と言うであろう。しかし公示日直前に立候補した都民ファーストの候補者がトップ当選するなんて異様である。したがって筆者の結論は「東京都民は退屈しているのだろう」と言うことになる。


    本誌で何度も言ってきたが、東京の有権者の投票行動は昔から特殊と筆者はずっと思っている。とにかく「新党」に投票してみようという雰囲気がとても強い。新自由クラブや日本新党が躍進したのも東京からであった。筆者は、都民ファーストの会が席巻したのも同様の流れに乗ったからと理解している。

    しかし新党ブームが地方には全く波及したことがないことも事実である。特に衆議院が小選挙区制に変り、小さな新党が議席を得ることはまずない。ところが何を勘違いしたのか、マスコミは希望の党の大躍進が地方にも及ぶと信じている。だから政権交代といった間抜けな話になっている。また「希望の党」という名だけで当選できると思った民進党の候補者が新党に雪崩れ込んでいる。しかし「民進党」から「希望の党」に看板を変えても、獲得票数はほとんど変らないと筆者は見ている。


    とにかく東京人は新しいものが好きである。もっと正確に言えば新しい物に飛び付きやすい性格の田舎出身者が東京に集って来たと言える(逆に昔から代々東京に住んでいる人々はむしろ保守的である)。「コーラ」が日本に入って来た時、初めて飲んだのが東京の人々である。田舎出身の東京人には「田舎者はコーラを知らないだろう」という優越感がある。どう見ても都民ファーストへの投票行動では有権者がマスコミに踊らされていたが、むしろ踊らせられていることに快感を覚えるのが東京人の特徴である。

    小池都知事が「排除の論理」を持出したので流れが変ったと、突然、マスコミが言い始めている。しかしこれは希望の党が伸び悩んだ時の言い訳の準備であろう。最初から新党ブームなんか地方に波及しないというのが筆者の見方である。むしろ「退屈」以外の都議選での自民党大敗の原因を分析する必要がある。ひょっとすると相続税制の改正による増税なんかが保守層の怒りを買った可能性がある。



来週は、日本のマスコミの異常さについて述べる。これは前から取上げるつもりだったテーマである。余裕があれば労働組合も取上げる。



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