経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/8/7(950号)
今回の内閣改造について

    良く考え抜かれた布陣

    8月3日に内閣の改造が行われ、これについては色々な評価がある。理想的とまでは言えないが、筆者は良く考え抜かれた布陣という感想を持った。昨年の内閣改造も、今回のようなメンバーを揃えたら良かったと思われる。

    13/1/28(第741号)「意志を持った「やじろべえ」」で述べたように、安倍総理は、色々な考えの人々に柔軟に対応しまたこれを得意としている。そもそも安倍政権は、発足当初から考えが違う勢力のバランスの上に立っていた。これに反し先の内閣のメンバーはちょっと片寄っていたと思われる。特に女性閣僚が問題と筆者も感じていた。それでなくとも安倍政権は発足からずっと女性閣僚が攻撃のターゲットにされ続けて来た。


    朝日、毎日、文春といったマスコミは、はっきりと倒閣路線に舵を切っている。テレビは今日まで面白がってこれに追随して来た。それにしてもマスコミのこの変化に対応するには、前の内閣の陣容はおそまつであった。

    内閣改造による支持率の行方が注目されている。民放テレビは今回の内閣改造に好意的とは言わないが、今のところ批難めいた取上げ方を行っていない。内閣支持率は大きく反転しなくとも、さらに下がる事態は避けられるのではと筆者は見ている。


    ただ安倍総理が描いた憲法改正の流れは修正されると筆者は考える。筆者は、憲法改正がもし実現するのならそれはそれで結構だと考えている。しかし筆者はそれほど憲法改正にこだわってはいない(そもそも筆者は憲法に重きを置いていない)。むしろ憲法改正で無理することにより安倍政権が潰れるような事態の方を危惧する。

    また朝鮮半島の有事を想定すると、現行の安保法制の不備を改正したり、現在の防衛体制を強化することの方が現実的と筆者は考える。17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」で取上げた予備自衛官の増員なんも考えても良い。また自衛隊の日報問題で明らかになったように、現行のPKO法の不備も改正する必要がある(現地でちょっとした戦闘行為があれば、他国のPKO部隊を残し日本のPKO部隊だけは逃げ帰ることになる)。ただ朝鮮半島リスクの高まりによって、当分の間PKO部隊を海外に出す余裕はないであろう。


    稲田防衛大臣の辞任について一言コメントしたい。マスコミなどで防衛大臣としての資質が問われていた。しかし筆者がおかしいと思ったのは、稲田氏の政調会長時代の発言からである。

    16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」で述べたように「保育士の給料を月額6千円増やす予定であるが、これは社会保障関連であり恒久財源が必要になる。したがって直には実行できない(つまり消費税の再増税が必要と言っているのと同じ)」と稲田氏は発言していた。また16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」で取上げたように、稲田氏は「1%ずつの消費税増税」を主張していた。明らかにどちらも財政規律派や財務省の意向に沿った発言である。

    ここからは筆者の想像である。これらの発言に対して官邸は、稲田氏が財務省に取込まれていると判断し、政調会長のままにして置くことの危険性を感じたと筆者は見ている。そこで政調会長職を急遽解くことにし、その代わりとしてとりあえず用意したポストが防衛大臣だったと筆者は理解している。稲田氏は国防部会に所属する国防族ではない。しかし前職の政調会長という「格」を考えると、国防大臣以外には適当なポストがなかったのであろう。また朝鮮半島のリスクレベルも今日より低かった。これらのことを考えると、筆者は稲田氏を政調会長に大抜擢したことがそもそもの間違いの始まりだったと考える。


    地雷を踏むかもしれない「国家戦略特区」

    先週号で安倍政権が構造改革派の国家戦略特区路線にのめり込むことの危険性を指摘した。「国家戦略特区」は観念論者である構造改革派が考えた施策である。議長である総理が、トップダウンで特定の地区(特区)における緩和する規制と緩和の時期を決める。もし規制緩和ができないのなら、許認可権を持つ省庁は期限までに規制緩和できない旨の合理的な理由を示す義務がある。これは挙証責任と呼ばれている。

    加計学園の獣医学部新設のケースでは、16年3月末までに許認可権を持つ文科省が「獣医学部新設はまかりならぬ」という理由を示す必要があった。しかし文科省はこれを期限までに出来なかったので「待ってくれ」と頼み込み、半年後の9月16日の二回目ワーキンググループの会合まで待ってもらった。ところがここでも文科省は有効な挙証責任を果たせなかったのである。どうも文科省は農水省が反対論を展開するものと思い込んでいたようである(ところが農水省は1校新設は止む無しと方針を既に転換していた)。この結果、今治での獣医学部新設は実質的に決まったのである。


    前の「構造改革特区」と現在の「国家戦略特区」では仕組みに違いがある。前者の「構造改革特区」は自治体と事業者がセットで申請することになっていたに対して、「国家戦略特区」は自治体がまず特区だけを申請することになっている。つまりまず愛媛県・今治市が獣医師学部新設の特区を申請し、その特区の認可後に事業者を公募することになる。この公募に応募したのが加計学園である。

    「国家戦略特区」をこのように回りくどい仕組にしたのは、政治と事業者の関係を疑われることを断ち切るためと考える。したがって安倍総理は、閉会中審査で加計学園が「国家戦略特区」に申請していたのを知った時期を問われ、申請が認可された1月20日と答え野党やマスコミを驚かせた。しかし「国家戦略特区」は政治家と事業者の関係を断つ仕組を持っている。したがって総理はこう答える他はないのである。


    政府は、加計学園の獣医師学部新設の認可は法的に全く問題がないプロセスで行われたと主張している。おそらく法的な問題はないと思われる。「国家戦略特区」はそのような仕組になっているのである。

    「国家戦略特区」の仕組では政治家は、誰が、あるいはどの事業者が特区に申請するか分らないことになっている。したがって安倍総理は、友人である加計理事長と暢気に何回もゴルフをやったり会食をしているのである。しかしこれが前川前文科省事務次官の告発めいたタレ込みが発端で問題となったのである。


    加計学園の申請認可までのプロセスを観念論者の構造改革派は、法律上何ら問題がないと突っぱねる。しかしこれを世間がどう感じるか、あるいはマスコミがどう伝えるかは政治的に別問題である。観念論者の考えるようには世の中はなっていない。場合によっては最高責任者である総理が地雷を踏むことになるのが「国家戦略特区」の制度である。

    「規制の緩和」は、規制を守ろうという勢力と緩和を進めようという勢力の戦いである。これまで規制緩和が良かったことはあるが、反対に規制緩和が問題になったこともある(耐震偽装など)。特に規制を守ろうという側はあらゆる手段を使って緩和を阻止しようとする。今日残っている規制はそのような抵抗が強いものばかりである。彼等は政治家や官僚、さらにはマスコミを使って規制緩和派を攻撃する(情報のリークなんて常套手段になっている)。筆者は、このような危険な「場」に総理を置くことが問題と言いたいのである。


    個々の規制を問題にして来たのが「国家戦略特区」の制度である。しかし今回の加計問題は、個々の規制の問題だけでなく文科省や文科省役人がどうしようもない存在だと言うことを知らしめた。この文科省が学校への補助金を握り、文科省OBの大学への天下りを違法斡旋していた。

    おそらく文科省は文科省OBだけでなく、各種のマスコミ人を大学に斡旋して来た可能性もあると見る。加計問題でこれだけマスコミが揃って安倍政権の規制緩和を攻撃した裏に何かが有るはずと筆者は踏んでいる。これらは規制の問題というより文科省の体質の問題である。



来週は今週の続きである。夏休みを控えているので早めのアップを考えている。



17/7/31(第949号)「加計問題の教訓」
17/7/24(第948号)「加計問題と日本のマスコミ」
17/7/17(第947号)「消化不良の参考人招致の質議」
17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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