平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/12/21(第95号)


米国経済の光と影を考えるーーその2
  • 相場に依存した経済
    米国経済は先週号で述べた通り、社会的ニーズが米国が得意とする分野に移行しており、今後多少の波乱があっても、それを乗り越え当分順調に推移すると筆者は見ている。と言っても波乱要因が全くないわけではない。米国経済の影としていくつかの波乱要因が指摘できる。多くの識者が指摘する波乱要因の筆頭は「高くなり過ぎている株価」である。つまり株価が大幅に下落し、実体経済にも影響する事態である。多くの人々は現在の米国の株価は高いと考えている。グリーンスパン議長も再三「根拠なき熱狂」と評して株高を牽制してきた。
    では株価がどれ位の水準なら妥当なのかを検討してみる必要がある。ところが株価の適正値も人によって大きく異なるのである。筆者は基本的には株価は企業の価値を反映したものであり、その企業の価値の測定には、M&Aで用いられていると言う手法が有効と考えている。これは3/31(第9号)「日本の株式を考える」で説明した方法で、将来の予想収益と利子率、そして現在の解散価値で算出する。しかし、この手法で全企業の価値を計算し、適正な株価を算出することは膨大な作業となる。そこで筆者は、簡便的な方法としてPERを用い、適正な株価水準を考えてみる。PER、つまり株価収益率は株価を収益で割返した数値である。現在の米国の主要企業のPERは30倍と歴史的な高水準にある。問題は適正なPERをどれ程度に見るかで、適正な株価も変わってくる。適正なPERが15倍とすれば適正なダウ平均は4,500ドルであり、適正なPERを20倍と見ると6,000ドルが適正と言うことになる。実際、PERは95年には15倍くらいで推移していたが、徐々に大きくなっているのである。筆者もこの15倍から20倍くらいのPERが適正なゾーンと考えている。たしかに今後の経済の動向にPERの適正値も影響を受けると考えられる。かりにこれから景気が拡大し、企業収益が伸びることが予想されれば、PERも大きくなるのはそれほど不自然ではないのである。しかしPERで30倍と言う数値は、米国経済が今後もものすごいスピードで拡大をすることを前提にすると言う無理な数字である。
    ところで適正な株価を考える場合に忘れてはいけない要素がある。それは利子率の動向である。前述した企業の価値の計算でも利子率は重要なファクターとなっていた。その利子率が徐々に下がっており、株価の適正値は上がることになる。95年に比べても長期金利は1 %くらい下がっている。PERが15倍から20倍が適正であったとすれば、利子率の低下によってこの適正値も修正する必要がある。これによってダウ平均の適正なゾーンは大体5,500ドルから7,000ドルに修正される。しかしこれでも現在の株価が高過ぎることは明らかである。
    投資家の立場からも現在の株価は高い。株を所有する動機は、配当などのインカムゲインと値上がり益、つまりキャピタルゲインを得ることである。もっともこれだけ株価が高ければインカムゲインを目的に新規に株式を購入することは考えられない。債券で運用した方が明らかに有利である。つまり新規に流入してくる資金はキャピタルゲインを得ることが目的である。したがって株価がこれ以上上がらないと言う判断がなされれば、株式市場に流入する資金は急速にしぼむはずである。実際、現在の平均株価は8ケ月前の水準と同じである。つまり平均的には8ケ月間キャピタルゲインはゼロであり、この「株価の上昇がないこと自体」が株価の下げ要因になるのである。
    たしかに現在の株価の適正ゾーンは、筆者が以前に考えていた水準より高くなっている。これは米国の企業がリストラなどで生産性が向上したからと言う説明があるが、筆者は他の要素についても検討すべきと考える。当然まず景気が良く、企業業績が良くなったと言うことがある。しかしこの他に労働分配率の低下状況と市場の寡占化の進行状況などについても検証すべきと考える。ところで株式オプションの株式の買い戻し費用は人件費と見ることもでき、この場合には企業収益を修正して解釈すべきと考えている。
    筆者が米国経済で問題と考えることは、あまりにも大きな部分がこの株式市場に依存していることである。個人も将来の年金を株式や株式投信で運用している。米国の運命が大きく株価に左右されているのである。勤め人も毎日、自分の保有している株の株価や株式投信の運用成績を確認してからでないと落ち着いて仕事にもとりかかれないのが現状ではないかと思われる。
    株価相場と言うものは常に動くものである。必ずしも適正なゾーンの中にあるとは限らない。反対に時にはこれを大きく下回ることさえあるのだ。社会全体があまりにも相場の行方に左右されること自体が問題である。米国の貯蓄率はついにマイナスとなった。これも株価上昇による資産効果の影響と考えられる。貯蓄率の低下はバブル期に日本でも見られた現象である。政府も株価を暴落させると、支持率が大幅に落ちることを理解しているはずである。FRBも巧みに金利を操作し、株価の大幅下落を回避している。しかし、反面あまりにも巧みに運営しているから、株価が高くなり過ぎているとも言えるのである。市場のグリーンスパン議長への信頼は絶大である。したがってグリーンスパン議長が引退すると言ったことだけで市場が大きく反応すると言った事態も有り得るのである。
    株式市場には新しい参加者も多い。つまり10年前の「ブラックマンデー」のような暴落を経験した者が少ないのである。ほとんどの参加者は上げ相場しか経験していないのである。バブル期までの日本の地価みたいなものである。筆者は相場にあまりにも依存した米国経済の「あやうさ」を感じるのである。

  • 社会の緊張の増大
    日本にいながら、米国の経済や社会について語るのは難しい。このような状況で米国経済をできる限り正確に理解するには、伝えられる経済の数字や指標をたんねんに読むしか手段はないのである。その中で意外な数字がある。「自己破産の件数」である。この件数は昨年までも増え続けていたが、今年はさらに急増しているのである。昨年の100万件がなんと今年は140万件くらいになりそうだと言うのである。日本でも「自己破産の件数」は増えているが、米国の増え方は異常である。日本の自己破産の申し立て件数は約7万件であるから、米国のそれは人口比で約10倍である。
    これが異常なのは、米国の景気が良く、失業率が歴史的に低い水準にありながら急増していると言う事実である。これが大変な数字と言うことは次の計算をご覧になれば解る。人生75年とすれば、140万人×75年=10,500万人・年となる。米国の人口を2億4千万とすれば、米国民は一生のうちに44%の者が自己破産する計算である。もっとも同一人物が複数回破産することもあるので、この数字は多少大き過ぎるかもしれない。しかし、5人家族ならそのうち二人が一生に一度は自己破産をすると言うのはすざましい。同級生が40名いたら、そのうち14,5名は破産するのである。さらにこの数値は増加の傾向にある。とにかく日米では破産に対する考え方が違うのかもしれないが、この数値は驚きである。
    筆者は、好調な米国経済にあっても、富める者とそうではない者との二分化が想像以上に進んでいることがこの背景にあるのではと考えている。したがって筆者は、失業率の低下にかかわらず、社会の緊張はむしろ増大傾向にあるのではないかと考えているくらいである。もしこれが本当ならこれも米国経済や社会の影の部分と言える。
    マスコミは、ニユーヨーク市なども好景気を背景に犯罪も大幅に減少していることを伝えている。しかしこれは景気の良い都市に限られることかもしれない。もっとも以前からニユーヨーク市は警察官の数が極端に少なく、このことが犯罪が多い理由として知られていた。つまり、本当に景気が良く、失業率が低くなったから犯罪が減ったのか、それとも単に警察官の数を増やしたから減ったのか、調べてみる必要があるのである。
    社会の緊張の増大は潜在的であり、まだ表面にははっきりと現われていないのかもしれない。また米国は「成功者」を賛える社会でもある。また寄付行為などを通じて「成功者」の利益の還元が自然に行われている。こう言った行為が社会の緊張を和らげているとも考えられる。そして下院で弾劾が可決されたが、クリントン大統領の支持率も最近まで比較的高く推移していた。とにかく今のところ、米国経済は影よりも光の方が目立っているのである。

来週号ではシンクタンクの「今後の経済の見通し」を取り上げる。今年は来週号で最後であり、新年は一週間休刊する。つまりその次の号は1月11日号である。
なお今週、「スナックトークマガジン」(http://www.adpweb.com/sna/)と言うオンラインマガジンを新たに発行したので、ご覧願いたい。これはデモンストレーション版、つまりデモ版である。このマガジンを作成するには取材などが必要になり、ちょっと大変であり、次の号は一ヵ月後ぐらいになる予定である。ただし反響がよければ、今後発行回数をもっと増やす考えである。




98/12/14(第94号)「米国経済の光と影を考えるーーその1」
98/12/7(第93号)「自自連立政権を考える」
98/11/30(第92号)「公共投資と経済を考えるーーその2」
98/11/23(第91号)「緊急経済対策を考える」
98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
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98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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