経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/7/17(947号)
消化不良の参考人招致の質議

    朝日がマスコミ界のオピニオンリーダ

    7月10日に加計学園問題で前川前文科省事務次官等の参考人招致が行われた。前川氏の証言には特に目新しいものはなかったが、いくつかの質問に窮していたのが印象的であった。これについては最後に述べる。


    まず筆者はこの問題を大きな流れの中で捉えたいと考える。もし前川氏の告発がなかったなら、加計学園の獣医学部新設は人々の関心を集めることなく進められたと思う。「総理のご意向」といった上司への報告のために作った文章は関係者だけが読み、文科省のシステムのフォルダーに残ったまま永遠に外部に知られないままでいたはずだ。ところがこれが外に出たから怪文章の類になったのである。またこのようなことは他の省庁でもままあることと思われる。

    この文章を前川氏がマスコミ各社に持込んだため大事になったのである。文章を持込んだのは前川氏と見て良いであろう。参考人招致で自民党の議員から「文章をマスコミに渡したのはご本人ではないか」と質問され、前川氏は「その質問に対する答えは差し控えさせてもらう」と答えている。

    同じ参考人として呼ばれた特区有識者委員の原英史氏は、最初は獣医学部新設を新潟で考えていたと話している。その後、変遷があり、愛媛の今治が候補に上がったと発言している。つまりワーキンググループの立場からは、前川氏の「最初から加計ありき」という話を否定していた。また原氏は安倍総理と加計理事長が友人ということは知らなかったと証言している。


    加計学園問題のポイントは、前川氏が本当に正義感に溢れた勇気ある告発者なのかと言うことと、加計学園の獣医学部新設が法的に適切に決められたかと言うことと筆者は理解している。朝日や毎日などの新聞、さらに文春などの雑誌は、一貫して前川氏を言い分を丸呑みした報道を続けている。したがって安倍政権が、加計理事長が安倍総理の友人だということで、強引に行政を歪めて学部新設を決めた疑いが強いという論調を崩していない。

    全ての民放テレビ局は、この種の政治問題でこれまでも朝日の論調を反映した番組作りをずっと行って来た。これは朝日の記事が正しいかどうかが問題ではなく、いつも朝日の記事や論調が刺激的で視聴率を稼げることを知っているからと筆者は思っている。つまり朝日が依然として日本のマスコミ界のオピニオンリーダと言える。したがって日テレが読売、フジが産経といった系列の新聞があるが、これらの論調に沿う報道を行うことは意外と少ない。今回の加計問題においても民放テレビ各局は前川氏が「白」、安倍政権は「限りなく黒」という朝日の作った設定を踏襲して放送を行っている。

    特に今回は、文春が朝日の反安倍の論陣に加わり政権を攻めている。また文春の記事をテレビが増幅して伝えるといった循環が生まれた。森友学園から始まった反安倍報道が半年も続いた結果、大した政治上の失策がないにもかかわらず安倍内閣の支持率は急落した。


    朝日や文春の戦略は、森友や加計を取上げることで、安倍総理の近親者だけが利益を得ているという印象を世の中に広めることである。この手法が安倍政権に最もダメージを与えると改めて知ったからと筆者は見ている。これは韓国の朴政権が、大統領の友人への利益供与をマスコミに攻め続けられ、とうとう倒れたことが参考になったと筆者は見ている。つまり朝日と文春は日本でも「ローソク革命」が起ることを妄想している可能性がある。

    朝日新聞の記事がよく読まれているから大きな影響力を持っているとは思われない。ほとんどの読者は新聞の見出しとテレビ欄しか読まない(読売の読者も同じ)。しかし朝日新聞の記事をテレビやネットニュースが取上げるからこそ影響力が生まれると筆者は考える。反対に発行部数が多くても、テレビがほとんど取上げようとしない読売新聞の影響力は限られる(この点を人々は分かっていない)。


    加戸証言を握り潰したマスコミ

    参考人招致の質議は午前が衆議院、午後が参議院で行われた。参議院では先々週号17/7/3(第945号)「官邸への報復」で紹介した加戸守行前愛媛県知事が参考人として質議に応じた。加戸氏は本誌で紹介したような事柄を証言した。また10年以上前、今治に獣医学部を誘致しようと東京の有力大学をいくつか尋ね回ったが「えっ、四国に獣医学部」とどこからも相手にされなかったと証言している。そんな中で手を挙げてくれたのが加計学園だったと話している。

    文科省OBで前川氏の上司であった加戸氏は「前川君は地方の獣医師不足の実状を全く知らないのだろう」に繋がる証言もしている。しかし前川発言を完全に覆し真相を語るこの参議院での加戸氏の証言は、残念ながら民放のテレビでは放送されていない(少なくとも筆者は見ていない)。新聞は、読売と産経が加戸証言を一般記事と詳細証言の両方で大きく取上げている。ところが朝日、毎日は一般記事で全く取上げていない(詳細証言で取上げているが、一般の読者はこれをほとんど読まない)。つまり朝日、毎日は自分達の主張を覆すこの加戸証言を卑怯にも握り潰したのである。


    民放テレビ各社も、加戸証言が知られるとこれまで自分達が作って来た前川英雄伝説が崩れると恐れ、なるべくこの証言に触れないようにしている。加戸証言が理解されれば、前川氏の「加計ありき」「行政が歪められた」発言が実態といかに遊離しているか分るはずである。

    特に「加計ありき」については、10年以上前から獣医学部新設で動いていたのは加計学園だけである。獣医学部新設にほとんどタッチしてこなかった前川氏はこの事実を知らなかっただけである。四国の地元から見れば「加計ありき」ではなく「ずっと加計以外に候補はいなかった」のである。

    京都産業大が加計学園のライバルと報道されているが、京都産業大が浮上して来たのは加計学園の新設が事実上決まった16年9月16日の二回目のワーキンググループの会合である。この時の議事録の最後に「この要望(獣医学部新設)は京都のほうからも出てまして(京都産業大のこと)」と簡単に触れられているだけである。つまり加計学園と京都産業大を同列で扱うことがそもそも大間違いである。京都産業大が候補を降りたのは、「広域的」は関係なく教員を期限までに集めることが出来ないと判断したからである(加計学園が先行して多くの教員を集めてしまっていたから)


    加計学園の獣医学部新設決定が速まったのは、地方創生担当相が新設を阻止したい石破茂氏から積極派の山本幸三氏に変わったからである。山本大臣は16年8月3日に就任し、16年9月16日の二回目のワーキンググループの会合でこれを事実上決めたことになる。大臣が交代し流れが変わり、この間に木曽氏という先輩が前川事務次官を尋ね「加計学園をよろしく」と挨拶している。このように閣僚の交代で完全に流れが変わったが、前川事務次官を始め文科省官僚はこの動きに気付いていなかったと見られる。しかし農水省はかなり前に「1校新設」に方針を変えていたと見られる。また安倍独裁と言われているが、石破氏が担当大臣の間は手が出せなかったと見て良い。

    文科省のドダバタは全てこの16年9月16日から16年12月22日に内閣特命担当相、文科相、農水相の間で正式に合意する間に起っている。前川氏はワーキンググループの会合で物事が決まることはないと言っているが、ルール上二回目のワーキンググループの会合でこれは事実上決まったのである。どうしても文科省として異議があるなら正式決定される国家戦略特区諮問会議(11月9日)までに申し出れば良かったのである。また前川氏は、この間に安倍総理にも何回か会う機会があったようだが何も言っていない。


    参考人招致が総理出席の元でもう一度行われる。前回が消化不良だっただけに、筆者も賛成である。またマスコミの報道姿勢も分かったので、作戦も立てやすいと考える。加戸前愛媛県知事の証言がテレビで放送されなかったのは、質議が午後に行われたことが多少影響したと筆者は見ている。もし次の参考人招致の質議も衆議院、参議院の順番ならば、今度は加戸氏の質議を午前中の衆議院で行ってもらいたい(加戸氏は高齢なので出て来てくれるかちょっと心配であるが)。

    民進党代表のレンホウ議員の「地位に恋々とした発言」に関連する質問で、前川氏は「私は潔く早々と正月明け1月5日に辞表を提出した」と証言した。しかし松野文科大臣は他で「辞表を受取ったのは1月の中旬で、1月5日は京都に視察に行っていた」と発言している(時事通信)。つまり前川氏の証言は、もし証人喚問なら偽証罪に問われる可能性がある。今度の参考人招致で真相は明らかにされるべきである。場合によっては、前川氏が「根っから嘘つき」ということの傍証になるかもしれない。



来週は加計学園問題における周辺の政治家を取上げる。



17/7/10(第946号)「前川前事務次官の参考人招致」
17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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