経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/7/10(946号)
前川前事務次官の参考人招致

    ワーキンググループの位置付け

    都議会選では、都民ファーストの会が大勝し自民党が予想外の大敗を喫した。この敗因は色々と指摘されている。まず公示日の前日、秘書に対して暴言を浴びせ暴力を振っていた自民党議員の話が週刊誌に掲載された。また稲田防衛大臣の不規則発言的な選挙応援演説が問題になった。選挙終盤で下村都連会長の「ヤミ献金問題」が週刊誌で報じられた。

    これらに加え、森友学園、加計学園の問題が尾を引いていた。さらに公明党が自民党ではなく都民ファーストと連携を組んだことが大きく影響した。たしかにこれだけの悪条件が揃えば、今回のような大敗が有り得るのだと筆者も納得している。

    ただ暴言議員に代表される「自民党の魔の2回生」については言っておきたいことがある。自民党の2回生は安倍政権の「風」だけで当選してきた「問題児」の集りという評価が定着している。しかしこの2回生の20名弱が集り「政策目標になっているPB(プライマリーバランス)の放棄」や「積極財政」を訴える勉強会を始めた。このように極めてまともな2回生の国会議員がいることに筆者は注目している。


    最近のマスコミの攻撃は自民党や安倍政権全体ではなく、安倍総理個人に照準を絞っている。森友学園、加計学園問題はまさに安倍総理やその近辺を狙ったものである。これらの問題に対する総理の国会答弁が感情的になると、「一強体制の驕り」とさらに畳み掛けるような批難を浴びせる。このようにマスコミは安倍総理個人を攻撃することが最も効果的であり有効と分かっている。

    安倍一強体制へのマスコミの攻撃が、ここ半年ほど激しくなっている。今回はテロ等準備罪(共謀罪)法案の成立阻止が主な狙いだったと筆者は見ている。今後、安倍政権が憲法改正に動けば、安倍総理個人への攻撃はさらに激しくなるものと覚悟する必要がある。


    マスコミが総理への個人攻撃に使っている題材はいい加減で、根拠が薄弱なものが多い。先々週号から取上げている「家計学園の獣医学部新設騒動」もその一つと筆者は見ている。国会は7月10日に前川前事務次官を参考人に招致することを決めた。そこで筆者が考えるこの参考人招致のポイントを今週は取上げる。

    先週・先々週号は新聞・テレビで見聞きしネットで調べたことを中心に書いた。今週は、これらに加え月刊文芸春秋7月号の前川氏の手記と国家戦略特区ワーキンググループ議事録、さらに閣議決定議事録を参考にした。ちなみにこれらの議事録はネットで公開されている。高橋洋一氏がリンクを張っているので、これを検索サーバーを使って見つければ良い(高橋洋一、ワーキンググループでヒットする)。


    まず先週・先々週号の訂正から始める。16年3月末に担当課長レベル(文科、農水、内閣府)の会議が開かれたとしたが、文科省が準備ができなかったので(獣医学部新設はまかりならぬという挙証責任が果たせなかった)流会となっていた。したがって議事録はない。また担当課長レベル(文科、農水、内閣府)の会議と記したが、正式名はワーキンググループである。

    一回目のワーキンググループは15年6月8日に開かれた。メンバーは特区有識者委員、文科省(課長、課長補佐)、農水省(課長、課長補佐2名)、事務局として内閣府の担当4名であった。ここで議論がなされ「既存の獣医学部で対応できない新たなニーズに応える獣医師を養成するのなら認める」と決定された。ちなみに議事テーマは国際水準の獣医学教育特区(愛媛県・今治市)と明らかに加計学園を念頭に置いていた。対立の図式としては新設推進派は特区有識者委員と内閣府であり、反対派が文科省と農水省であった。

    一回目のワーキンググループの結論を受け、15年6月30日に4条件を付け獣医学教育特区が閣議決定された。ただ4条件は獣医学部新設に高いハードルを課すものであった。当時の石破茂地方創生相が無理矢理ねじ込んだものと前川氏も言っている。石破氏は昔からのバリバリの農水族であり、明からに獣医師会の意向を受けこの4条件を入れたと筆者は見ている。ともあれ閣議決定で本年度中(つまり16年3月末日までに・・実際には文科省の不手際で流会)に結論を出すことが決められた。したがって16年3月末日までに挙証責任を果たせなかった文科省の負けであり、獣医学部新設は認められてしかるべきであった。ここで結論の先延しを願い出たのが文科省であった。


    二回目ワーキンググループで全てが決定

    延長戦の二回目のワーキンググループは9月16日に開かれた。メンバーは特区有識者委員、文科省(課長、課長補佐)、農水省(課長、課長補佐)、事務局として内閣府は藤原豊審議官1名であった。議事テーマは獣医学部新設である。

    この会合は獣医学部新設の可否を最終的に決めることが目的であり、反対する省はその挙証責任を果すことになっていた。文科省は許認可権を持っているのだからこの挙証責任があり、この場でこれを示す必要があった。ところが文科省は獣医学部新設に関わる4条件についての資料を提出し説明しただけであった。もし反対するための挙証責任を果すとなれば、当然、文科省は獣医師の需要予測を含め様々な客観データ(経営主体の財務状況なんかも必要になると思われる)を示す義務があった。ところがなんと文科省はこれらは今後検討すると言出した。


    一方、同様に反対の立場だった農水省は「農水省からは特に説明はない」「新設については特段コメントをする立場にない(ただし獣医師が不足しているという認識はない)」と明らかに戦線離脱している。これまでの特区有識者委員・内閣府VS文科省・農水省という図式は、特区有識者委員・内閣府VS文科省に変わった。

    文科省が挙証責任を果たせないのだから、どうも文科省を除く出席者(特区有識者委員、内閣府、農水省)は獣医学部新設はここで決まったと思ったはずである。大した議論もなく二回目のワーキンググループはわずか22分間で終了し、もちろん「総理のご意向」なんて話は一切出ていない。この会合で新設が決まって動きは速まり分科会が開かれ、最終的に国家戦略特区諮問会議(11月9日)で正式に決着した。16年12月22日の内閣特命担当相、文科相、農水相の正式合意はセレモニーである。


    山本幸三地方創生相の認識では、まず16年3月末に文科省が挙証責任を果たせなかったことで新設は事実上決まったという。延長戦の9月16日の二回目のワーキンググループでまたしても文科省は挙証責任を果たせず、これで最終確定したと山本大臣は認識している。高橋洋一氏も全く同じ認識である。筆者は、二回目のワーキンググループで99%が決まり、国家戦略特区諮問会議で100%決まったという感想を持つ。


    ところが驚くことに文科省は全く異なった認識を持っていたようである。二回目のワーキンググループこそが、これで新設が決まるという重要な会合という認識が全くなかったと見られる。もしこれによって政府の意思決定がなされるなら、当然、十分事前準備をして、さらに文科省内でどのようにワーキンググループに臨むか話合いが持たれ、様々な根回しがあったたはずである(例えばどこまで妥協するかとか)。

    しかしそのような気配は微塵も見られない。おそらく需要予測なんかは反対する農水省が用意しているだろうと甘く考え、文科省は何も準備していない(まさか農水省が反対派から離脱するとは思わなかったと見られる)。おそらく担当者(課長、課長補佐)は二回目のワーキンググループ会合で全てが決まることさえ知らなかったと筆者には思われる。明らかにこれは担当者の大失態である。しかしここからが大変であったと思われる。この会合で新設が決まると知り、おそらく担当者は必死に文科省内への言い訳を考えたと思われる。それが「総理のご意向」という怪文章となったと筆者は見ている。


    筆者は、このような文科省のていたらくを生んだ一つの要因は、担当者が変わったことと見る。一回目ワーキンググループの文科省の出席メンバーは北山課長、牧野課長補佐であったが、二回目ワーキンググループは浅野課長、辻課長補佐に変わっている。人事異動があったのである(おそらく前川事務次官就任が6月であるから、この頃省全体で異動があったと考える)。どうも担当者同士の引継ぎが適切にされていない可能性が極めて強い。つまりワーキンググループ会合が最重要という認識が新メンバーに引継がれていないのである。


    月刊文芸春秋7月号の前川氏の手記にはこの最重要のワーキンググループの話は一切出ていない。あってはならないことであるが、いまだに前川氏はワーキンググループのことをよく知らない可能性がある。つまり獣医学部新設に関する政府の意思決定の段取りやルールを、事務次官だけでなく担当者も全く知らなかったと筆者は見ている。したがってその後内閣府などとギクシャクを起こしているのも、この文科省官僚の非常識が原因と筆者は思っている。

    前川氏は手記で、10月23日の福岡の衆議院補選の結果しだいでは、獣医学部新設の結論が覆るかもしれないと思ったとトンチンカンなことを書いている。この補選では麻生副総理(獣医師問題議員連盟会長)の盟友である蔵内氏(獣医師会重鎮)の子息と故鳩山邦夫氏(安倍総理の応援団きさらぎ会を主宰)の子息の一騎討ちになっていた(結果は鳩山氏の子息の圧勝)。

    しかし獣医学部新設はこの一ヶ月以上前の9月16日のワーキンググループ会合で既に決定しているのである。獣医師会も「新設を1校に限り認める他はない」とかなり前に方針を転換していたと筆者は見ている。だから二回目ワーキンググループで農水省側は全く反対論を出していない。それにしても事務次官を始め文科省官僚のデタラメさは度を越している。もし文科省が民間企業だったら、何十回も倒産していてもおかしくない。ともあれ前川前事務次官は参考人招致で、「私は部下を信じている」で逃切る算段でいると筆者は思っている。



今週号は10日に前川前事務次官の参考人招致が行われるので早めにアップした。



17/7/3(第945号)「官邸への報復」
17/6/26(第944号)「加計学園の獣医学部新設騒動」
17/6/19(第943号)「小池都知事の不安煽り政治」
17/6/12(第942号)「米国のパリ協定離脱」
17/6/5(第941号)「テロ等準備罪(共謀罪)の話」
17/5/29(第940号)「安倍総理の憲法改正の提案」
17/5/22(第939号)「半島有事への日本の備え」
17/5/15(第938号)「朝鮮半島の非核化」
17/5/1(第937号)「予備自衛官の大幅増員を」
17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
17/4/17(第935号)「シムズ理論と「バカの壁」」
17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
17/3/27(第932号)「シムズ理論とシムズ教授」
17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
17/3/6(第929号)「移民と経済成長」
17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
17/2/20(第927号)「トランプ現象の研究」
17/2/13(第926号)「為替管理ルールの話」
17/2/6(第925号)「日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入」
17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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