経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/6/12(942号)
米国のパリ協定離脱

    二酸化炭素説はデッチ上げか

    ついにトランプ大統領がパリ協定離脱を正式に発表し、各方面から大きな反響が起っている。本誌は3ヶ月前に17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」で、この事態を予想した。つまりパリ協定離脱宣言から正式の離脱発表まで3ヶ月間要したことになる。

    トランプ大統領は、地球温暖化の原因を人が排出した二酸化炭素とする話を「デッチ上げ」と考えている。また大統領の周辺には同様の考えの者が多い。しかしトランプ大統領の認識は著しく常識から逸脱していると見なされている。もし日本の政治家が同じ発言を行えば、確実にマスコミを始め各方面から袋だたきに会うであろう。したがってパリ協定離脱が米国に大きな混乱を招くといった観測が、各国のマスコミから発せられていた。

    ところが米国で騒いでいるのはリベラルのメディアと市民団体、そして代替エネルギー関連企業などに限られ、一般の市民や市場は案外冷静にこれを受止めている。この発表の日、皮肉にもNYダウは市場最高値を記録したほどであった。「デッチ上げ」とまでは言わないとしても、二酸化炭素説が「怪しい」と見ている人々がかなりいることは事実であろう。


    本誌は20年前の97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」から、ずっとこの二酸化炭素説を「怪しい」と言ってきた。ここでは「地球の気温は500年から600年の周期で上下しており、今は200年ほど前に始まった上昇の過程にある」という話があることを紹介した。つまり人間が排出する二酸化炭素の影響なんて問題にならないほど大きな別のメカニズムが働き、大昔から地球の温度は上下に変動してきたという見解がある。グリーンランドが文字通り「緑の大地」であった暖かい時代もあったと聞く。

    IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「産業革命以降、地球は人間活動で温暖化していて、2,100年には地球の平均気温は現在より2度上がり、海面は平均で50センチメートル上昇する」との予測を発表したのが95年11月である。そしてこれに対する多くの異論・反論を排除し、たった2年後にはこの怪しい説を根拠に京都会議で各国の二酸化炭素排出量を規制する議定書を採択するに到ったのである(後に米国は離脱)。

    このように科学者の集りであるはずのIPCCとその周辺の勢力が、極めて大きな政治力を有していることは事実である。IPCCの立ち上げには米国の科学者も関与したようであるが、どうも現在は欧州勢が主導権を握っているようだ。ちなみにIPCCの二酸化炭素説が出るちょっと前までは、むしろこれからは地球は寒冷化に向かうという話が出ていた。


    IPCCの二酸化炭素説を懐疑的に見ている者は多いが、ある程度の地位の者や世間体を気にする人はなかなかこれを口に出せない。この説に疑問を呈する者は「反エコ」の烙印が押される可能性がある。それにしても筆者はたった2年の間で怪しい二酸化炭素主犯説が世界中で定着したことに強い疑惑を感じる。

    京都議定書は二酸化炭素排出量がダントツの世界第一位の中国と第二位の米国、そして発展途上国が不参加になった。そこで規制を大幅に緩め中国に参加を促し、また発展途上国には補助金を出すことによってほとんどの国が参加する体裁を整えたのがパリ協定である。米国は環境保護派が強い民主党オバマ政権の時に参加を決めたが、共和党には元々懐疑派が多かった。ただパリ協定から正式に離脱するには4年間を要する。


    怪しい話には怪しい人々が寄って来る

    地球科学分野では世界に40以上の科学者のグループがあり、IPCCに集う科学者グループはその中の一つに過ぎない。これに対し08/5/26(第528号)「地球の寒冷化」で述べたように、このIPCCの二酸化炭素説に疑義を唱える科学者グループは沢山ある。最近では酸化鉄が地球温暖化の要因になっているという新説が出ている。また日本の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」が、温暖化ガスであるメタンの濃度が確実に上昇していることを観測している(ロシアの永久凍土が解け始めていることなども影響しているのか)。

    このようにパリ協定の条項が決まった後も、IPCCの二酸化炭素説を覆すような研究結果がどんどん出ている。それにも拘らず批准国がパリ協定さえ守れば、地球の温暖化は制御されることになっている。しかし仮に数十年後に温暖化の本当の原因が人間が排出した二酸化炭素ではなかったことが判明した場合、一体誰が責任を取るのであろうか。また他に本当の原因がある場合には、完全に対応が手遅れになる可能性がある。


    ところでIPCCが温暖化の原因を人間の排出する二酸化炭素と完全に特定したとほとんどの人々は思っている。しかしこれは誤解である。IPCCは地球温暖化の原因は「『人間』が排出した二酸化炭素」の可能性が高いとしか言ってはいない。

    そもそも今日においても温暖化に関し科学者によって観測データが均一ではなく、測器の種類や精度にもばらつきがある。また今後、降水量や微粒子の動きなど未解明な現象も多く予測は大きな不確実性を伴っている。筆者は、地球の気候変動問題に関し何より先に科学がやるべき事は、本当の原因を科学的に解明することと考える。どう考えても地球の気温が500年から600年の周期で上下していることの原因を究明することが先であろう。ところが95年のIPCCの報告書が出た後、ここ20年の間は他の科学者グループの意見がほとんど封殺されて来た。


    どうして二酸化炭素主犯説が短期間のうちに世界的なコンセンサスになったのか、筆者にとって今もって大きな「謎」である。どうも「怪しい話には怪しい人々が寄って来る」と筆者は感じる。たしかに中には純粋に環境を心配している人がいるであろう。また二酸化炭素の温室効果は学校で教わることであり、簡単に人々が受入れやすかったことも事実である。

    怪しい話の一つが「ディーゼル車はガソリン車よりわずかに二酸化炭素の排出量が少なく環境にやさしい」であり、京都議定書の時から主に欧州各国がこれを主張していた。筆者は15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」などで、それはおかしな話と異議を唱えた。ハイブリッド車の開発に遅れをとった欧州の自動車メーカーが、ディーゼル車にのめり込んだだけと筆者は指摘した。驚くことに15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」が発覚し、計らずもこの話がやはり「怪しい話」であったことが証明された。

    また自動車メーカー以外でも、この「怪しい話」に飛びつきこれを推進して来た利害関係者がいると筆者は見ている。例えば代替エネルギー関連業界は、こぞって二酸化炭素悪玉説を広めたと想像する。


    ところで筆者は環境問題を重要と考え、化石燃料の消費削減にも賛成である。ただ環境問題には他にも「酸性雨」「窒素酸化物」「粒子状物質(PM2.5など)」などがある(「酸化鉄」が温暖化に影響しているならこれも加えるべき)。これらの全てを勘案して環境問題は取扱われるべきと筆者は考える。二酸化炭素の排出さえ減らせば環境問題は解決するといった、今日の片寄った風潮には強い反発を感じる。

    トランプ大統領のパリ協定離脱は、科学的根拠の薄い二酸化炭素削減騒動に一石を投じたという意味では意義があったと思われる。しかしこれで石炭の消費を増やすという話は違うと考える。中国の石炭消費に伴う「粒子状物質(PM2.5)」が飛来して来て日本は迷惑を被っているのだから、これには強い違和感を感じる。



来週は「安全」と「安心」を取上げる。



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17/4/24(第936号)「理解されないシムズ理論の本質」
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17/4/10(第934号)「経済再生政策提言フォーラムとシムズ理論」
17/4/3(第933号)「シムズ理論の裏」
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17/3/20(第931号)「シムズ理論とアベノミクス」
17/3/13(第930号)「アメリカの分断を考える」
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17/2/27(第928号)「トランプ大統領のパリ協定離脱宣言」
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