経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




17/6/5(941号)
テロ等準備罪(共謀罪)の話

    英国マンチェスターのテロ

    英国マンチェスターでISによる自爆テロが起り犠牲者が出ている。ISなどによる自爆テロのターゲットは、世界各国に広がっている。しかし残念ながらこの自爆テロは防ぎようがないと思われている。

    たしかに未然にテロを防ぐことが難しいことは分かっている。ところが不思議なことに、実際に自爆テロが起ると意外なほど早く犯人が判明する。マンチェスターのケースでは、数時間後に犯人が特定された。それどころか10名を越えるテロに関わった共犯者が、数日のうちに特定され拘束された。同様にパリやブリュッセルのテロの場合も、比較的短期間のうちに犯人や周辺の共犯者は特定された。


    つまりほとんどのテロを起こしそうな者は、前もって危険者リストに載せられているのである。英国の場合、1,000名ぐらいがリストアップされているという話である(どの国もこのようなリストを作成している)。マンチェスターの犯人の名もこのリストの中にあった。また今日のテロ事件で迷宮入りしたものはほとんどない。

    しかしテロの被害者から見ると複雑な思いがあるに違いない。犯人がそれほど短期間のうちに見つかるくらいなら、何故、事前に対策が講じられなかったかと無念に思うであろう。テロが起ってからでは本当に「後の祭り」である。


    これに対し当局にも言い分がある。リストアップされている1,000人のテロ予備軍を日頃から厳しく監視することが仮に出来たとしても、それには莫大なコストが必要となる。1人のテロ予備軍をフルタイムで監視するには10人の監視員が必要と言う。

    また仮に完璧な監視が出来たとしても、完全にはテロを防ぐことはできない。もしより完全にテロを防ぐつもりなら、リストアップされた者を全員拘束しておく必要がある。もちろんこの究極の対策は人権上で大問題となる。

    しかし英国は、これ以上テロが続くようなら、人権を今より多少軽視してもより有効な対応を採るよう迫られるであろう。考えられる対策として、リストアップされた者への監視と対応を一段と厳しくすることが挙げられる。例えば一定の条件を満たせば、裁判所の令状なしで随時強制捜査が出来るようにすることなどが考えられる。今回の自爆テロのケースに当てはめた場合、もし強制捜査によって爆弾製造現場を押さえていれば未然にテロは防げた可能性はある。


    もし英国がここまで厳しい対策を行うとなれば、当然、国際的な「人」の移動への対応も一段と厳しくなる。今回のケースでも、犯人はリビアから帰国してからまもなくマンチェスターで自爆テロを実行している。英国と同様にテロ防止を最重要政策として掲げる各国にとって、監視リストに載っている者の国際的な移動に関する情報交換はより重要になる。

    これからの時代、テロに関する適切な情報を相手国に渡せない国の人々は、他国への入国を拒否されるか制限を受けるケースが増えると筆者は考える。つまり国によってはパスポートを持っていても入国を拒否されるのである。今のところ日本のパスポートは国際的に極めて信用が高い。日本のパスポートなら173ヶ国にビザ無しで入国できる(ちなみに中国はビザ無しで渡航できるのが50ヶ国)。しかしもし日本がテロ対策に甘い国と見なされると、今後、日本のパスホート持っていても他国への入国が難しくなることが考えられる。たしかに今日の日本人はテロと無縁と思われがちである。しかし昔、実際にイスラエルのテルアビブで日本赤軍がテロを起こしているのである。


    80人もの左翼が首相官邸に自由に出入り

    今日、国会でテロ等準備罪(共謀罪)新設法案が参議院で審議されている。この法律は、国際社会の一員としてテロを含む組織犯罪を未然に防止し、これと戦うための枠組みである国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結することを目的としている。日本はこれに関して必要な法律を整えていないのでこの条約に未加盟である。

    たしかに一般の国民にとって、この新設法案がなくても日常生活に困ることはない。しかしテロの脅威が現実のものとして捉えられている欧州各国のテロ対策は、確実に強化されている。前段で述べたように、テロが起ると直に犯人が特定されるのもこれらの対策の成果と言える。


    テロが続いた英国などは、昔からテロ対策の先進国であった。英国では町中に監視カメラが設置されるなど、筆者なども大変だなあと思って来た。しかし今回のような自爆テロが起っているのを見ると、これもやむを得ない措置だったと思える。前段で述べた通り、おそらく欧州各国は、今後、人権を多少犠牲にしてもテロ防止を優先する方向に一段と進むと筆者は予想する。

    今日、日本でも至る所に防犯カメラが設置されるようになった。またこれが実際の事件の捜査に使われている。このように日本は英国などを後追いをしている。新設法案が成立すると日本はプライバシーが守れない監視社会になると野党の政治家は言うが、現実に日本は既に相当の監視社会になっているのである。


    日本の国会でのテロ等準備罪(共謀罪)の議論が極めて低次元なので筆者も驚いている。「居酒屋での発言が新設法案の対象になるのでは」と言った訳の分らない質問が出ている。民進党の中には「この法案が成立し日本が監視社会になるのなら外国に逃げる」と言った間抜けなことを言う議員がいる。

    諸外国は欧米と同様、日本より厳しい監視社会になっている国が多い。アジアでもシンガポールなどが監視を一段と厳しくしている。おそらくテロが続くインドネシアやフィリピンなどの監視体制は、今後一層強化されると思われる。米国はビザ申請に過去15年間の渡航歴や職歴を記すよう手続を改正するという。反対に日本は外国からの観光客を増やすために観光ビザの発行条件を緩和しているが、これは世界の流れに逆行していると言える。


    テロ等準備罪(共謀罪)はTOC条約加盟に必要である。これによって国境を越え移動する人々の情報をより多くの国と交換できるようになる。仮にこの情報が完璧でなくとも、多少なりともテロの抑止に役立つと思われる。各社の世論調査を見ても分るように、意外と新設法案への賛成が多い。これも一般国民レベルがテロへの警戒を強めているからと筆者は見ている。実際、深夜に多くの外国人労働者(おそらく工場などのシフトワーカー)が自転車で走り回っているのを見て、誰しもが不安を感じているであろう。

    筆者がテロ等準備罪(共謀罪)審議で気になるのが、民進党の抵抗が異常で異様なことである。反対理由は「日本が監視社会になる」「安倍一強体制への反発」「家計学園問題の解明が先」などになっている。しかしこれはあくまでも表向きであり本当は違うのではないかという見方がある。ひょっとすると民進党の強力な支援者の中に、新設法案の対象となる者がかなりいるからではと思われるのである。

    以前、飯島内閣官房参与がテレビに出演し「民主党政権時代、80人もの左翼が首相官邸に自由に出入りしていた(入館パスを持っていた)」と爆弾発言を行っている(これは故たかじん氏の番組、東京では放送していない・・ネットで探せば内容は分る)。当然、この左翼80人の中には昔の過激派活動家や公安にマークされている者も含まれていたと見られる。旧社会党が民主党に合流したのだから、民進党がこの手の勢力と繋がりがあっても当然と筆者は考える。



来週は米国のパリ協定離脱を取上げようと思っている。当分の間、情勢が流動的なのでテーマが変わるかもしれない。



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