- 国の繁栄を決めるもの
欧州経済が、ロシアの経済破綻やアジアの経済混乱の影響もあり後退局面に入った今日、依然好調を維持しているのは米国経済だけである。失業率も4.4パーセントと歴史的な低水準であり、物価の上昇率も極めて低い。7,000ドル台に一時下落したNYダウも9,000ドル台を一時回復している。今週号からこの米国経済について本紙なりの検証を行ってみることとする。今週号では米国経済の「光」の部分について述べ、来週号では「影」の部分を扱う。とにかく日本に居ながら、外部から、伝えられる数字や情報だけで米国経済を論じるのは難しいことであるが、反面、その方が客観的に案外正しい米国の経済像を捉えられるかもしれないのである。 米国経済についてはさまざまな方面から解説がある。代表的な意見は、「レーガン政権に始まる減税と規制緩和の成果」「米国経済の生産性の向上」「株価に見られるような資産価値の上昇、つまりバブル経済」と言ったところであろう。最初の意見を主張するのは「小さな政府」論者であり、二番目はニューエコノミーの立場の人々の主張である。筆者は、この「ニューエコノミー」の主張にある程度納得しているが、生産性が向上しているのは米国だけではなく、不調の日本経済も米国に劣らず生産性は向上していると考えている。つまり生産性の向上だけで米国経済の好調さの説明するのは無理と考えている。ただこれにより物価の上昇は抑えられ、景気が良くなっているにも拘わらず、金利の上昇がないことが経済の好調を維持する上で役立っていることは否定できない。筆者は、また「バブルによる資産価値の増大」が米国の経済をかなり支えていると言う考えである。そして物価が上昇しないのに景気が加熱した現象は日本のバブル期にも起こった現象でもある。ここまでは本紙の8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」から8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」を参照願いたい。ところでグリーンスパン議長も日本経済のバブルの生成と崩壊の過程には強い興味を持っているはずである。また人口の増加率で米国が1.2パーセントと言う発展途上国並みの水準を維持していることも経済成長に影響を与えている。これについても上述のバックナンバーを参照願いたい。 しかし、筆者は、今日の好調な米国経済の説明にはもっと違った角度からの分析が必要ではないかと考えるようになっている。今日なされている米国経済の説明が「減税」「規制緩和」「労働組合の弱体化」「経済のグローバル化」とどちらかと言えば技術論的な事柄に集中している。筆者は、今日の米国経済の好調さはもっと歴史的、文明論的な観点から捉えるべきと考えている。 歴史的に繁栄した国を見ると、その国の経済がうまく社会のニーズを満たしてきていると言う事実がある。長い間社会のニーズは「食料」であった。つまり「食料」を大量に供給できる肥沃な広大な土地を持つ国が繁栄してきた。しかし社会のニーズが高度化し、自国では生産できない物にニーズが移ると、世界的な交易を得意とする英国やオランダが繁栄することになった。さらに産業が発展し、石油の消費量が増大してくると、産油国が繁栄することになった。また消費財に品質の良さを求められるようになり、それに対応した日本の経済が発展することができたと考える。 反対に社会のニーズの高度化にその国の経済システムが追い付けない場合には、その国は没落する他はないのである。その好例が旧ソ連である。急速に変わる社会のニーズに社会主義の経済システムがついて行けなかったのである。仮に社会のニーズが「農産物」だけに止まっていたなら、案外旧ソ連の体制はもっと持ったかもしれない。 今日の米国経済が好調なのは、社会のニーズが米国の最も得意な分野に移ってきていることと筆者は考えている。つまり「インターネット」に代表される「情報処理」と「通信」に対する社会のニーズが増大しているのである。この分野は以前から米国が圧倒的に強い分野である。社会のニーズのこの方向への動きは加速している。したがって経済の諸条件の変化により、米国経済が一時的に落ち込むことがあっても、社会のニーズの方向が変わらない限り、また持ち直すことができると考える。 ところで日本経済についても述べると、米国に起こっている「情報処理」と「通信」へのニーズの増大と言う現象は日本でも起きていることである。ただ「インターネット」に限れば、普及のペースは米国に比べ緩慢なものである。これは両国の「人口分布」や「生活圏」などの社会環境の違いに根差していると考えている。端的に言えば、日本の社会の方が生活に便利なため、これらに対するニーズがそれだけ小さく、この分野で遅れを取っていると考えている。これについては別の機会に述べたいと思う。しかし、日本はこの分野が全く苦手と言うわけではない。また、これらを支える色々な技術を日本は持っている。したがって筆者は、けっして日本経済の将来について悲観をしていない。
- 「冷戦の終結」と米国経済
前述したように、米国経済が好調である大きな理由の一つは、社会のニーズが米国の得意分野に移行していることと筆者は考えている。しかし、これを促進した事柄にも言及する必要がある。筆者はこれはズバリ「冷戦の終結」と考えている。「冷戦の終結」は主に二つの方向で米国経済に良い影響を与えた。 一つは軍事予算の削減である。冷戦中は、米国の金利は財政の赤字と民間の資金需要が競合し、高止り状態にあった。いわゆるクラウディングアウトの状態である。また国民の貯蓄率も小さく、不足する資金は海外に依存する他はなかったのである。「冷戦の終結」と同時に政府は軍事費を削減することが可能となった。それ以降、金利は徐々に下がり始め、今日では30年国債の利回りが5パーセントを割るところまで来たのである。米国経済は金利水準にとても感応的な経済である。この持続的な金利低下が投資と消費を活発にしている大きな要素である。 これに関連し、米国では好調な経済を背景に税収が増えている。これは連邦政府だけではなく、州政府でも同様である。各州政府は税収の増加により、懸案の道路の補修などの公共投資を大きな予算で今行っている。このことはあまり報道されないが、今日の失業率の低下の大きな要因と筆者は考えている。 「冷戦の終結」はもう一つの方向で米国経済にメリットを与えた。それは軍事技術の民間への開放である。もっとも軍事予算が大幅に削減されたため、軍需産業が民間産業に変身せざるを得なかったと言う側面は否定できない。そしてこのような過程を経て、軍事技術が民間にもたされたのである。典型的な例が「インターネット」である。軍事技術の開放を「規制緩和」の範疇で捉える向きもあるが、筆者は次元が違うと考える。筆者はこれを一種の技術的なイノベーションとして考えている。 レーガン大統領の経済政策、つまりレーガノミックスについては、現在でも色々と評価が分かれている。大統領の行った「減税政策」は投資の増大を狙ったものであったが、結果は消費だけが増え、投資は増えなかったのである。この政策は「財政の赤字」と「貿易の赤字」、いわゆる「双子の赤字」の増大を生んだだけである。筆者もこの政策は失敗と考えており、「減税」は米国でさえも成果を納めなかったと言うことに着目している。しかし、レーガン大統領が「冷戦の終結」に成功させることにより、今日の米国の好調な経済の基礎を作ったことは間違いのないことである。
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