経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/5/15(938号)
朝鮮半島の非核化

    簡単には妥協できない米朝

    今日、日本人の最大の関心事はやはり朝鮮半島の地政学的リスクであろう。専門家が連日テレビなどメディアに登場し、情勢を分析し解説を行っている。ところが5月に入ってトランプ大統領の「適切な状況ならば会っても良い」といった発言が飛出し、これまでの雰囲気が大きく変わった。

    北朝鮮は今のところ核実験やミサイル発射実験を中断し、様子見に転じたと感じられる。これには韓国の新大統領や中国の圧力が微妙に影響していると言われている。ともかく日々新しい動きがあり、正確には先が読めない。しかし基本的な情勢の流れに大きな変化はないと筆者は見ている。ただ4月に急速に膨らんだ緊迫感は一旦収まっている。ところがこの今週号を書上げたと同時のタイミングで(14日午前6時)、北朝鮮は久しぶりにミサイルを発射した。


    ほんの数カ月前までの東アジアの最大の地政学的リスクは、北朝鮮ではなく中国であり、中国の海洋進出であった。この背景にはトランプ政権が誕生し、米国が中国に対する強行姿勢を打出したことが挙げられる。オバマ政権の「南シナ海への中国の進出を見て見ぬフリをする」といった曖昧な姿勢をトランプ大統領は厳しく批難した。またトランプ大統領が「一つの中国」に異論を唱えたり、米中の衝突が運命的という本も評判になっていた。

    この流れが完全に転換し、差迫った地政学的リスクは中国ではなく、やはり北朝鮮ということになった。このターニング・ポイントは4月6日の米中主脳会談だったと筆者は考える(ただその前のマレーシアでの金正男氏殺害事件などの伏線はあった)。この会談で、中国が米国の朝鮮半島の非核化政策に協力することが決まった。これは極めて重大な出来事である。


    これまでも米国による北朝鮮の非核化を狙った軍事攻撃が実行寸前まで迫ったことがあった。ところがこれを躊躇させる大きな要因が中国の存在であった。少なくとも中国と北朝鮮は同盟国であり、米国の軍事介入に対する中国の動きが読めなかった。

    そもそも中国が朝鮮半島の非核化を願っていることは確実である。しかし非核化に向けたこれまでの中国の北朝鮮への働き掛けは中途半端であった。例えば国連決議によって北朝鮮への経済制裁が行われているが、中国は北朝鮮への制裁を本気には行って来なかった。


    北朝鮮は、中国の弱腰の対応を見越しこれまで自由に核開発を行ってきた。ところで同盟国同士のはずの中朝の関係はかなり前から悪かった。例えば中国は、北朝鮮の頭越しに韓国と国交を回復し、韓国との経済の依存関係は深まる一方であった(もっともTHAAD配備で一時的に韓国との関係は悪くなっているが)。

    近年、中国と北朝鮮の関係悪化はさらに加速しているという専門家の見方があり、筆者もこれに賛同する。中国は、トランプ大統領の登場をきっかけに北朝鮮への対応を転換した可能性がある。このことを如実に示しているのが、4月6日の米中主脳会談の結果であり、この会談以降の中国の北朝鮮への対応である。


    ところで5月8、9日にノルウェーのオスロで米朝の非公式の協議が行われた。ただ協議内容が公表されないだけでなく、不思議と話が外部に漏れてこない。ちなみに今年2月にも北朝鮮側から協議を求められたが、この時はトランプ政権がビザを発給せずこれを拒否している(トランプ政権の姿勢が変わっていないので今回の協議は米国ではなくノルウェーで行ったという見方がある)。したがって協議については色々な憶測が出ている。

    衝突回避のため米朝が話合うべきという声がある。しかし米国の要求は北朝鮮の非核化であり、これに対して北朝鮮の要求は米国に核保有を認めさせることである。つまり両者の言い分は全く相容れない。したがってどれだけ話合っても妥協点を見つけることはほぼ不可能と筆者は思っている。

    これから導かれる結論は、両者の間で何らかの軍事的衝突が起るか、あるいは現在の緊張状態がずっと続くということになる。また仮に両者が話合いを始めても、簡単に問題が解決するとは筆者は考えない。さらに米国と中国の間では、どちらが先に具体的な行動を起こすか互い牽制していると見る(できるなら米国は中国が先に、また中国は米国が先にと願っている)。


    核兵器を北朝鮮が持っていることがリスク

    今日、米国が定めていると言われる「デッド・ライン」が話題になる。よく聞く話では、これは「6回目の核実験」「ICBM(大陸間弾道弾)の発射実験」を指すと言われている。つまり北朝鮮がこれらの一つでも実行すれば、米国は何らかの軍事的アクションを採るというものである。しかしこの話が本当なのか筆者は分らないと言う他はない。

    たとえ北朝鮮がこれらに一歩踏出しても、米国はまた批難声明を出すだけで何もしないというストーリが有り得る。反対に北朝鮮は「デッド・ライン」を遠の昔に越えていて、米国は朝鮮半島の非核化に向け既に着々と動いているとも考えられる。いずれが正しいのかずっと先にならなければ分らないと筆者は思っている。


    北朝鮮にさらなる核実験やICBMの発射実験を止めさせることが、米国の狙いと解説する者がいる。彼等はこれによって半島情勢の緊張緩和が実現すると言う。このような人々は、そのためにも米朝の話合いが必要と説く。おそらく韓国の新政権の考えはこれに近いと思われる。中国やロシアも口先では同様の主張を行っている(後ほど述べるが本音は全く異なると筆者は思っている)。

    北朝鮮が核実験を中断している現状では、たしかに部分的にこれが実現していることになる(と書いた途端にミサイルを発射した)。しかし朝鮮半島の非核化を目論む米国がその程度で納得するのかもう一つ分らない。特に発言がコロコロ変わるトランプ大統領のことだから、これから先の米国の軍事行動は読みづらい。ちなみに在韓米軍の家族の避難訓練を6月に実施するという未確認情報(本当なのか嘘なのか不明)がネットに流れていた。


    重要なポイントは、単にさらなる核実験やICBMの発射実験を止めるだけで米国は満足し、北朝鮮に対する次なる軍事行動や現在の経済制裁を本当に止めるのかということである。そもそも現実として北朝鮮は核爆弾製造技術を持ち、既にかなりの核爆弾を保有しているのである(ある米シンクタンクの推定では13〜30発)。本当の意味での朝鮮半島の非核化となれば、当然、これらの全てを廃棄することになる。

    核兵器を北朝鮮が持っていること自体が国際的なリスクである。これ以上の実験による核技術の向上がなくとも、北朝鮮が現に保有している核兵器がリスクとなっている。当然、米国はこのことを理解していると筆者は思っている。おそらく中国やロシアも本音では朝鮮半島の完全な非核化を強く望んでいると筆者は見ている。


    実際のところICBMなどのミサイルがなくとも、核爆弾を爆発させ核兵器として使用することはできる。漁船で運んだり、コンテナ荷物にして送っても良い。レーダーで捕えられないローテクの双発飛行機やバルーンなんかも危険である(特にバルーンは偏西風に乗せれば日本や米国本土にも届く)。このようなことは筆者が説明するまでもなく、米国を始め、中国やロシアもこれらのことは十分承知している。もちろん日本政府や自衛隊も色々と研究しているはずである。

    米国(中国やロシアも同様)などが最も懸念しているのは、北朝鮮の核兵器(含む核兵器製造技術)の拡散である。もし過激テロ組織の手に核兵器(核兵器製造技術)が渡るような事態があれば最悪である(テロを警戒する中国とロシアもこれを当然危惧している)。今でも北朝鮮製の武器は世界中に出回っている。アフリカには北朝鮮が軍事施設を作っている国まである。したがって「ICBMが米国に届くようになるまでは米国は安心している」なんて間抜けなことを言っている場合ではない。



来週号では半島情勢の緊迫化に対する日本の対応を考える。



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