経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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17/2/6(925号)
日米主脳会議への対策はアラスカ原油輸入

  • 米国産石油の輸入に関し状況は大きく変化

    10日に日米主脳会議が予定されている。これをうまく乗り越えるには先週号で述べたように、米国の「全体の底流に流ているもの」を把握しておくことが必要である。「全体の底流に流ているもの」とは長期的な米国の国益や重要な政治課題である。特にトランプ氏という異質な人物が大統領となったため、どのような要求を日本に突き付けてくるのか関係者は戸惑っていると思われる。

    しかしトランプ大統領が重視する米国の国益や政治課題について正しく理解するなら、対日要求を予想することはそんなに難しいことではないと筆者は考える。まず「通商問題」、つまり米国の対日貿易赤字問題であろう。このことはメディアを始め人々も当然と思っている。


    ところがこの問題は既に解決済みと、これまで日本の政府関係者は考えていたことも事実である。たしかに大きかった対日貿易赤字はある程度小さくなっている。またこれまでの歴代の米大統領は、長い間これを問題として取上げていない。しかし一頃より小さくなったと言え、年間7兆円程度の対日貿易赤字はずっと続いているのである。

    様子を見ていると安倍政権は、これまでの自動車関連の対米投資によって米国で雇用を創って来たという説明でこれをかわす方針と見受けられる。もしこれでトランプ大統領が納得するのなら問題はない。たしかにトランプ大統領の貿易赤字問題のメインターゲットは日本ではなく中国である。しかし日本の説明で大統領が満足しない事態が十分考えられる。


    そこで今週はその場合の腹案を提案したい。筆者は、普通の方法で日本の対米貿易黒字を減らすには限界があると思っている。米国の対日貿易赤字が大問題になった時代(80年代から)にも、「一体何を米国から輸入すれば良いのか」ということが話題になった。まず農産物輸入を大きく増やすことは当時から無理であった。ところが日本で売れそうな米国の工業製品がほとんどないのである。トヨタはGMのシボレーを輸入したがほとんど売れなかったという話である。今日でも状況は変わっていない。せいぜいボーイング社の旅客機の購入を増やすぐらいなものであろう。

    この状況に至っては、筆者は日本の対米貿易黒字を大きく減らす方法として、米国から原油・ガスの輸入を大きく増やす他はないと考える。都合良く米国は、一昨年の暮、40年振りに原油の輸出を解禁した。15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」で述べたように、米国は原油を戦略物資としてエネルギー保存・政策法(1975年制定)で輸出を長らく禁じてきたのである。この原油輸出解禁を主導したのは共和党である。この背景としてはシェールオイルとシェールガスの増産が見通せるようになったことが挙げられる。このように米国産石油の輸入に関しては、状況が大きく変わっているのである。

    しかしシェールオイルとシェールガスを輸入すると言っても問題がある。シェールオイルとシェールガスが集積するのは東海岸(大西洋側)やメキシコ湾岸である。これらを運ぶといっても距離とコストの問題がある。たしかに昨年、パナマ運河の拡張工事が終わりかなり大きな船も通れるようになった。どうもLNG船はなんとか通れそうである。しかし大型の原油タンカーは難しいようである(どうも15万トンクラスが限界)。

    そこで日米主脳会議では、米国から原油とLNG(液化天然ガス)の輸入を増やすことを前提に、トランプ大統領に太平洋側に通じるパイプラインの建設を日本が要請することを筆者は提案したい。場合によっては、日本もパイプライン建設に投資を行うことを申入れることも有り得る。


  • 最良はアラスカ原油の輸入

    前段で述べたようにLNGは直にでも輸入を増やせそうである。しかし原油はパイプラインが完成しないとなかなか輸入が困難と考える。「キーストンXL」というパイプラインも、今回の大統領令が出るまで工事は長らく中断していた。

    また新たなパイプライン建設に対しては、環境保護団体の激しい反対運動が予想される。特に米国の西海岸のカリフォニア州やワシントン州などは民主党の強いところである。場合によってはカナダを迂回させることも考える必要がある。


    このように米国でシェールオイルが増産されても、簡単には日本に輸入することはできないのである。そこでもう一つ提案したいのは、パイプラインの完成までシェールオイルの代わりにアラスカ原油(ノース・スロープ原油)を輸入することである。

    ただノース・スロープ原油の産出量はピーク時の210万b/dからかなり減っている。つまり輸入すると言っても今のところ量的に限界がある。ところでアラスカの産油量が減ったのは、政府(特に民主党政権)が深海原油掘削に長らく許可を出さなかったことが一因である。ところが今回、トランプ大統領はこれにも許可を出した。つまりこのアラスカでの石油開発にも日本の投資が考えられる。


    シェールオイルが脚光を浴びているが、むしろ筆者は日本にとってはアラスカ原油の方が有望と見ている。アラスカから米国内の精製地まで原油を運ぶのと日本がアラスカから運ぶのでは、距離的にそんなに違わない。

    また日本にとってアラスカ原油の輸入は、原油輸入先を分散させるためにも望ましい。また総じて米国産原油は軽質留分が多く精製しやすい。このようにアラスカ原油の輸入は、日本にとっても良いことばかりなのである。


    筆者は、日本はアラスカ原油輸入という政策を早く打出した方が良いと思っている。対米貿易黒字が問題になりそうな国として他に中国や韓国が考えられるが、これらの国も対策としてアラスカ原油輸入に行き着く可能性がある。つまり日本はこれらの国に先んじてアラスカ原油輸入を打出すべきである。

    次に筆者提案の米国からの原油(アラスカ原油)とLNGの輸入は金額が問題になる。まず原油の輸入量を50万b/dとして、1バーレル50ドル、1米ドル113円で計算すると年間約1兆円となる。LNGの年間輸入額は5,000億円程度を見込む(日本の輸入額の10%)。つまり両者の合計は1.5兆円になる(数年前の高価格時代だったら3兆円程度)。

    日本の対米貿易黒字7兆円に対して、この1.5兆円の対応を十分なものか意見が別れるであろう。しかし1.5兆円は乗用車100万台分(1台150万円として)の輸出金額に相当する。日本の自動車輸出は年間190万台ということを考えると、これはかなり有力な対策と筆者は考える。


    これらの対策の他に、日本の内需拡大政策を説明すべきと考える。ヘリコプターマネー政策を別にして、これから日本政府は財政支出を増やし内需拡大を行うことを言明するのである。もちろん防衛費の増額も有り得る(GDP比1%突破も念頭に)。

    トランプ大統領は日本を為替操作国と思い込んでいる。これ対して日本政府は誤解と強く反論している。しかし10/8/30(第629号)「外為特会の31兆円の評価損」で指摘したように、小泉政権時代、日本が為替操作まがいの為替介入を行ったことは事実である。たしかに今日為替介入を行っていなくとも過去にそれに近いことをやっていたのであり、無理に反論しない方が良いと筆者は思う。

    日米で為替管理のルール作りという話が出るなら対応を考えておく必要がある。筆者は、経常収支の状況に加え購買力平価も考慮した為替管理ルールというものがあっても良いと考える。これによって一定の範囲内に為替を落着かせるのである。この為替管理ルールに則れば、おそらく80円前後のレートは過度な円高であり、130円を越えるレートは円が安過ぎると判定できる。したがってこのような行過ぎた円高・円安には為替介入が可能と日米で取決めれば良いと筆者は考える。



来週は今週の続きである。



17/1/30(第924号)「そんなに変ではないトランプ大統領」
17/1/16(第923号)「今年の展望と昨年暮れの出来事」
16/12/26(第922号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(まとめ)」
16/12/19(第921号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(モラルハザード他」
16/12/12(第920号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他」
16/12/5(第919号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプターマネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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