経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/12/12(920号)
ヘリコプターマネーに関するQ&A集(日銀の独立性他)

  • 日銀の独立性を考える

    ヘリコプターマネーへの最大の批難は物価高騰の懸念であるが、これ以外にも「日銀の独立性が脅かされる」や「円の暴落が起る」といった批難や反対論がある。今週はこれらを取上げる。


    Q26:ヘリコプターマネー政策は「日銀の独立性を脅かす」とよく聞きますが

    A:日銀を始め、世界の中央銀行には政府に左右されない行動が求められます。いわゆる「日銀(中央銀行)の独立性」の話です。しかし「日銀の独立性」だけを強調するのはやや観念的と言えます。国の経済の発展を第一に考えると、政府と日銀は協調することがもっと大切と思われます。特にヘリコプターマネー政策を実行するには、日銀の協力は欠かせません。

    そもそも中央銀行の独立性がことさら叫ばれたのは、物価上昇が状態化し国民生活がこれで脅かされた時代です。政府が人気取りのために財政支出を増やしインフレを引き起すと決めつけられていたのです。これをくい止めるのが中央銀行の第一の役目と思い込まれていました。しかし時代が変わり、今日、問題なのはインフレではなくデフレです。

    〈解説〉観念的な人々は、日銀などの中央銀行は「こう有るべき」であり、このことは大昔から決まっていると強く思い込んでいる。その代表が中央銀行の独立性である。ところが今日の中央銀行の形が出来上がってから、わずか100年ちょっとしか経っていない。

    特に米国FRBなんかは、多くの国民や政治家の反対をかわし1913年にやっと設立された(ほとんどの国会議員が地元に帰ったクリスマス休暇中に、賛成議員だけで抜き打ち的に設立法案を通した)。ちなみに日銀の設立は1882年である。しかもこの100年の間に中央銀行の機能や働きは随分と変わっている。

    Q27:しかし1997年に日銀の独立性を高める日銀法改正を行っていますが

    A:これはバブル経済の反省から実施されたと考えます。観念的な人々やマスコミの後押があってこの改正は実現しました。また大蔵省の日銀への関与を最小にすることも目的の一つと思われます。しかし見方を変えると、バブルの生成の責任を日銀だけに押付けた形になります。

    〈解説〉ところで日銀法改正後、独立性を巡ってちょっとした出来事が起った。独立性を重んじる速水日銀が、2000年、政府の猛反対にもかかわらず突然ゼロ金利を解除した。ほとんどのマスコミは「日銀の独立性」を重んじた改正日銀法を盾にこれに賛同した。ところがITバブル崩壊もあって一年も経たないうちに、速水日銀はゼロ金利政策に逆戻りした。速水氏が日銀出身の総裁だったということで、この失態により日銀と日銀出身者の総裁への信頼感は低下した。

    Q28:たしかに日銀法の再改正の声が出ているようですね

    A:はい、与党の一部から日銀法改正は大間違いだったという声が最近上がり始めています。ところでほとんどの国では、中央銀行の執行部は政府が任命し議会が承認するという形を取っています。つまり政治が中央銀行のトップを始め政策委員を決めているのです(日銀も同様)。この状況を踏まえると、観念論者が考えるような中央銀行の政治からの完全独立という事態は絶対に有りえないことです。

    〈解説〉日銀法だけでなく、国全体の仕組や法律はインフレ防止を目的に出来上がっている。終戦直後(昭和22年)に成立した財政法も同様である。ところが今日の日本の問題はインフレではなくデフレである。まさに時代錯誤の法律群が残っているのである。つまり本来ならこれらの根本的な改正が必要である。ただ改正を行うとなると多大の労力と時間が必要になる。したがってこの現行法下で仮にヘリコプターマネー政策を実行するとなれば、現行法が許すギリギリの範囲ということになる。


  • 円の暴落はあるか

    ヘリコプターマネー政策の為替への影響を考えておく必要がある。しかし為替の動きは、市場に投機マネーが流入しているので複雑である。また市場で決まる為替水準が間違っている場合があって、この調整が短期間に起ると為替の乱高下となる。


    Q29:ヘリコプターマネー政策は為替変動にどのような影響を及しますか

    A:ヘリコプターマネー政策の為替への影響を予測することは、不確定な部分が多くかなり難しいのが現実です。この一つの理由として、為替市場に投機マネーが流入していることが挙げられます。投機筋を含めた市場参加者がヘリコプターマネーは円売りと見れば円安になり、反対に円買いと見れば円高になります。

    ここ半年くらいヘリコプターマネーの話が出る度に、多少為替が円安に振れ株価は上昇しています。たしかにヘリコプターマネー政策で日本の経済成長が高まれば輸入が増えるので、これは円安要因となります。また物価が多少上昇することを考えると、日本の実質金利が低下するのでこれも円安要因となります。どうも短期的には円安に振れる可能性がやや優位と見られます。

    しかし日本の景気が良くなれば、日本に投資機会を求める資金がどっと流れてくる事態が有り得ます。これは円高要因です。つまりヘリコプターマネー政策によって、為替は円安にも円高にも振れる可能性があります。したがって円安、円高の双方に備えた対処を考えておく必要があります。特に投機マネーによって、この変動が増幅されるので注意が必要です。

    〈解説〉投機筋などの市場参加者にとって目安とする為替レートは、必ずしも正しく適切な水準ではない。市場参加者にとって、為替取引の第一の目的は取引によって利益を得ることである。つまり実際の為替レートが均衡値や適正水準から掛け離れていても、もっと円安になると見れば円を売るということになる。

    Q30:ヘリコプターマネー政策によって、日銀の信認が失われ円が暴落するという話を聞きますが

    A:円安になる可能性は有りますが、暴落ということはないでしょう。ただ投機マネーの影響もあって変動幅は大きくなる可能性は有ります。しかし日本の経常収支は大きな黒字であり、極端な円安が長く続くとは思われません。少なくとも円安に対して欧米から大きな不満が出るはずです。また日本は膨大な外貨準備を持っており、これによる為替介入が可能です。実際、過去にこの為替介入を実行し円安傾向を反転させた実績があります。

    〈解説〉円レートが均衡値を大きく離れた円安になったことが何度か有る。まずレーガン大統領時代、ボルガーFRB議長が国内のインフレを抑えるため高金利政策を続けた。このため日本国内から資金が米国に流出し続け、為替は円安(米ドル高)で推移していた。これも影響し米国は対日貿易赤字が膨らんだ。特に日本は、大平政権時代から始まった緊縮財政による財政再建政策が続き、内需縮小によって企業は輸出に活路を見い出す他はなかった。

    しかし米国の財政赤字と貿易赤字は限度に達し、日米を始め先進国は米ドル高是正を目的に1985年のプラザ合意に到った。この効果は劇的で、260円程度(プラザ合意直前では235円)で推移していた円レートは、一年後には150円の円高となった。

    2度目は橋本政権の末期の1998年、やはり日本からの資金流出が続き円レートが145円とかなり円安となっていた。これに対し日米の協調介入が行われ、たちまち円安は是正され円高となった。この時には、日本は外貨準備を少し取崩し為替介入を行った。これらの例から分るように円安の是正は比較的確実に実現する。つまり円の暴落という事態はちょっと考えられない。

    Q31:むしろ円高になった方が問題は深刻ということですか

    A:ヘリコプターマネー政策によって短期的には円安に振れる可能性は大きいのですが、その次には日本経済活動が活発化すると投資機会を狙った資金の流入が考えられます。特に世界的に行き場のない巨額の資金が滞留しています。一旦円高傾向が定着するとなかなか是正が困難です。円安には対策が考えられますが、円高には日本単独の為替介入くらいしかありません。しかし日本のような経常収支が黒字の国が、為替介入で円を安くしようという行為はなかなか相手国から認められません。

    〈解説〉ヘリコプターマネー政策によって日本経済が活性化すると、前述のように投資資金が流入して来る事態が考えられる。資金の流入規模にもよるが、思わぬほどの円高も有り得る。特に一時的にも円安の局面があれば、日本の不動産が割安となり外資による不動産投資が急増する可能性がある。このような事にも対処を考えておく必要がある。



来週もQ&A集の続きであり、金利の変動やモラルハザードを取上げる。



16/12/5(第919号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(物価上昇編(2))」
16/11/28(第918号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))」
16/11/21(第917号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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