経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/11/28(918号)
ヘリコプターマネーに関するQ&A集(物価上昇編(1))

  • 反対論者の「またその話」

    先週号でヘリコプターマネー、つまりシニョリッジの概要を説明した。これは国や日銀が新たに通貨(貨幣・紙幣)を発行し、その通貨発行益を財政支出の財源に使うという政策である。たしかにこれに対して「そんなうまい話があるはずがない」と懐疑的な人は多い。このような人々には丁寧な説明が必要であろう。

    またヘリコプターマネーに対して、大半の経済や金融の専門家から「ヘリコプターマネーなんてとんでもない」と強烈な批難が出ているのが現状である。ただ批難のかなりの部分は、誤解や認識不足によるものである。しかしヘリコプターマネーを推進するには、これらの批難にも応えて行く必要がある。


    〈解説〉ヘリコプターマネーを否定する意見には色々とあるが、ほぼインフレや物価上昇の懸念に集約されると見られる。例えばヘリコプターマネー政策で経済が成長しても物価が上昇するので実質GDPは増えないといった意見が多い。したがってもし指摘のような問題が起る可能性は小さいと認識されるなら、ヘリコプターマネーの実現は大きく前進する。

    Q13:第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本のハイパーインフレは通貨膨張が原因と聞きます。ヘリコプターマネーはまさにこの通貨膨張政策ではないですか

    A:通貨膨張とは極端な資金供給の増加です。例えば中央銀行よる紙幣の大増刷などによって起ります。通常、通貨膨張に伴ってまず需要の急増が起り、この需要増に伴って物価が上昇します。その典型例が第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本です。

    しかし大戦後のドイツや日本の状況は、極めて特殊なものでした。戦争で生産設備の大半が破壊され、労働者も戦争に狩出されていました。つまり供給サイドが極端に脆弱になっていたのです。この状態で需要が増えたため物価が高騰したのです。

    また戦争が終わった直後は、人々が大いに動揺しています。政府が人心をまず安定させるため、中央銀行に紙幣の大増刷を要請することは有り得ることです。日本も大戦後、日銀券の大増刷しています。当時の日本政府や日銀は、ある程度の物価上昇を覚悟し通貨の供給を増やしたと見られます。物価より人心の安定を優先したのでしょう。しかしこれらの例外的なケースを持出して、今日のデフレ経済からの脱却を意図したヘリコプターマネー政策を否定するのは公平さを欠くと言えます。

    〈解説〉ヘリコプターマネーに反対する人々にもいくつかのパターンが見られる。まず未知の政策に対し素朴に警戒感を抱く人が、なんとなく反対することが考えられる。またマスコミに影響を受けやすい人が、マスコミの反対論を鵜呑みにしていることもある。しかし中には確信的にヘリコプターマネーを否定する経済学者やエコノミストがいる。彼等が決まって持出すのがこの第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本のハイパーインフレの事例である。

    ところがこれらの経済学者やエコノミストは、大戦後のドイツや日本の状況が特殊であったことは知っているはずである。つまり彼等も、これが今日のテーマになっているヘリコプターマネーを否定するための事例に相応しくないことを承知していると思われる。彼等は、ヘリコプターマネーを否定するだけでなく、これまでも財政支出増大そのものを徹底的に否定してきた財政再建派や財政規律派と見られる。大戦後のハイパーインフレの話に出くわしたら、「またその話か」と思えば良い。

    Q14:今日、日銀が国債をどんどん買入れ資金を供給しています。たしかにこれは通貨膨張政策と考えられますが、一向に物価は上がりませんね

    A:たしかに日銀は低金利に加え、金融機関の日銀口座の超過準備が莫大な金額に達するほどの超金融緩和策を採っています。つまり今日の日本は通貨膨張状態と言って良いでしょう。しかし企業や個人は、金融機関が貸出しに積極的でこれだけ低金利が続いているのに、お金を借りて投資や消費を行おうとしません。

    したがって国内需要も盛上がりません。また国内需要が増えないことによって、国内の設備投資も低調に推移しています。このように資金が実態経済に流れない状態なので、需要は増えず物価も上がりません。

    Q15:日銀の超金融緩和だけでは経済は活性化しないのですか

    日本が高度成長の時代だったら、このような低金利や資金供給増に反応し、民間は消費や投資を増やし需要が増えていた可能性はあります。しかし日本経済が高度成長期を過ぎ成熟化した今日では、金融緩和策の効果が著しく低下していると言えるでしょう。またこのような現象は、日本だけに見られるのではなく欧米諸国にも共通しています。このため先進各国では金融政策の限界論が囁かれ、財政政策やヘリコプターマネーの関心が高まっています。


  • 見解が別れるデフレギャップの大きさ

    〈解説〉ヘリコプターマネー政策への有力な反対の理由はインフレや物価上昇への警戒である。ところが日・米・欧で今日問題になっているのは、反対に物価上昇率が極めて小さいことである。ただ物価が上がらないことが問題ではなく、経済の状態を示すバロメーターとしての物価上昇率が低いままであることに危機感が持たれている。つまり需要不足の慢性化やデフレ経済への転落が危惧されている。

    先進各国の経済不調の原因はいくつか考えられる。日本では30才台、40才台の「消費年齢世代」の人口が減少していることが大きな要因と考える。一部には「生産年齢世代」の人口の減少が原因という声があるが、需要不足なのだから大きな勘違いであろう。ちなみに「消費年齢世代」と「生産年齢世代」はほぼ重なる。

    Q16:ではデフレ経済から脱却するにはどうしたら良いのでしょうか

    A:需要を増やすために一番有効な手段は国民所得を増やすことです。国民の所得が増えると、この一定の割合が消費に回ります。消費という需要が増えると、企業はこれを見て少しずつ投資を増やすと考えます。需要が増えることによって所得が増え、また所得が増えることによってさらに需要が増えるといった好循環が生まれます。

    Q17:簡単に国民所得を増やすと言っても、その方法が思い浮かびませんが

    A:日銀は異次元金融緩和策を実施し、資金供給(マネーサプライ)を飛躍的に増やしています。しかしこの政策の限界も見えて来ました。このような状況に陥った以上は、国民の所得を直接増やす形でのマネーサプライ増加策しかありません。この具体的な方策は財政支出の増大という形でのマネーサプライの増加ということになります。

    Q18:財政支出増大によって需要や所得が増えることは理解できますが、これでは財政赤字がどんどん膨らむのでは

    A:たしかに日本の財政を心配している人は沢山います。そこでヘリコプターマネーが注目されることになるのです。ヘリコプターマネーなら国の実質的な債務は増えません。

    Q19:しかし日本のデフレギャップがGDPの1〜2%という話がほぼ定説になっています。財政支出を増やせば、需要が増えインフレになるという話をよく聞きますが

    A:ヘリコプターマネー政策に関しては、デフレギャップというやっかいな話が付きまといます。まずデフレギャップに対する考え方や計測方法には色々とあります。たしかにデフレギャップがGDPの1〜2%という話はよく聞きます。しかし一方には数十パーセントという説も有ります。

    それにしても本当にデフレギャップがGDPの1〜2%なら、供給サイドはほぼフル稼動状態ということを意味します。つまり景気が超過熱状態になっているはずです。ほとんどの民間企業の商品・製品の在庫は底を尽き、営業担当者の仕事は商品や製品の販売促進ではなく注文を断ることになっているはずです。

    〈解説〉デフレギャップ1〜2%説を唱えている学者やエコノミストも、最近では需要が数%増えると物価が上がりやすくなると言い方を後退させている。注意が必要なのはデフレギャップ1〜2%説の場合の数字が、実際にデフレギャップを計測したものではないことである。この説を唱える者は机上の計算結果をデフレギャップとしている。例えば過去数年間のGDPの平均値をGDPの天井と見なし、これと実際のGDPの差をデフレギャップとして算出しているという話である。

    一般的に、ヘリコプターマネー政策や積極財政に賛同する者は日本のデフレギャップは大きいと認識し、これらに反対する者はデフレギャップが極めて小さいと主張する。しかしデフレギャップの大きさについての両者の議論は、理屈を越えて水掛け論に終わる可能性が大きい。したがって物価上昇を危惧する人々には物価上昇を制御するインフレターゲット政策を提示し、これによって説得する他はないと考える。



来週はQ&A集の続きで、引続きヘリコプターマネーによるインフレや物価上昇について述べる。インフレターゲット政策も取上げる。



16/11/21(第917号)「ヘリコプター・マネーに関するQ&A集(基本編)」
16/11/14(第916号)「トランプ大統領誕生は良かった?」
16/11/7(第915号)「Q&A集作成のための準備」
16/10/31(第914号)「中央銀行に対する観念論者の誤解」
16/10/24(第913号)「落日の構造改革派」
16/10/17(第912号)「ヘリコプター・マネー政策への障害や雑音」
16/10/10(第911号)「事実上のヘリコプター・マネー政策」
16/10/3(第910号)「財政均衡主義の呪縛からの覚醒」
16/9/26(第909号)「日本経済こそが「ニューノーマル」」
16/9/19(第908号)「プライマリーバランスの回復は危険」
16/9/12(第907号)「労働分配率と内部留保」
16/9/5(第906号)「経済学者の討論の仕方」
16/8/29(第905号)「吉川教授と竹中教授の討論」
16/8/22(第904号)「芥川賞受賞作「コンビニ人間」」
16/8/8(第903号)「新経済対策への評価」
16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
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16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
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16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」


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