- 緊急経済対策の世間の評価
今週号は、予定を変更して政府の決定した緊急経済対策について述べる。対策は総額で約24兆円、経済企画庁の試算ではGDPを名目で2.3パーセント、実質で2.1パーセント押し上げる効果が期待されると言うことである。たしかにほとんどの項目については事前に世間で知られたものであり、株式市場の反応は今一つであった。海外、特に米国の反応は概ね良いようだが、結果をまず見たいと言うものである。つまりこれで結果が不十分だったら、追加の政策を求めてくることになろう。この米国のスタンスは極めて冷静であり、常識的である。 一方、国内の反応は良くない。特にマスコミの評価は厳しい。この理由の第一に挙げられる事柄は、マスコミがこぞって主張してきた「減税」の道筋が示されていないことである。「減税」額は6兆円超と表現されているが、中味が公表されていないのである。しかし、これは政府税調や自民党税調は現在検討途中であり、結論がまだ出ていないのだから当然のことである。マスコミ自体も、「所得税」「法人税」「消費税」と色々主張しているのが現状である。さらに最近では「住宅減税」などの政策減税が加わり、各自の主張が混乱しているではないか。大体、夏場の「金融国会」が混迷して、景気対策の作成作業が大幅に遅れたのであり、マスコミはこのことにはほとんど触れないのである。 筆者は、日本ではどのような形で「減税」が行なわれても、その効果は小さく、即効性はないと考えている。しかし、世の中には「減税」こそ最も効果のある景気対策と盲信している人々が多いので、評判が悪いが、効果が期待される「公共投資」を行なうためには、これらの人々の抵抗を和らげるために「減税」が必要になっていると考えている。つまり「減税」は効果的な景気対策を行なうのための必要経費と考えている。したがって景気対策の上では「減税」の内訳はどうでも良いのである。 たとえば「法人税減税」である。10/26(第87号)「景気対策論議を考える」で述べたように経済企画庁のマクロモデルが示すように、そのGDPの押し上げ効果はみじめなくらいに小さいのである。かりに来年度に法人税の減税が行なわれるとしても、実際に効果が現われるのは、来年の11月頃からである。つまり来年度の中間納付からであり、これから一年後である。さらに中間納付は、前期の納付額の半額か、半期の決算を行なって納付するかの選択になっている。つまり今期赤字決算の場合は、元々納付額がないと考えられるのだから「減税」の意味がない。日本の企業は総じて利益が減少しており「法人税減税」の恩恵も極めて小さくなっているのである。このように「法人税」減税はとても緊急経済対策とは呼べないのである。一方には、「法人税」を減税することによって、新しい企業が興ると言う主張があるが、これだけ景気が悪化しているのに、「法人税」の減税くらいで、企業を興そうと思う人はそんなにいないはずである。これに関連して日本では開業率が極めて低いことが指摘されているが、これについては別の機会に取り上げたい。 「公共投資」の中味についてもマスコミの評価は厳しい。かなりの部分が従来型の公共投資であり、期待された「都市型」の公共投資の割合が小さいと言うことである。宮沢蔵相も始めは「考えられるものは何でも持ってきなさい」と言う態度であったが、本心は「すばらしいアイディアなんか出てくるわけがない」と思っていたと報道されている。結果はまったくその通りである。しかし、これには無理がある。これまで「財政再建」の元で予算を削ることしか頭になかったのであるから、「急に景気に効果のある政策を考えろ」と言われても各省の官僚には対応ができないのである。これも「財政再建路線」の後遺症なのである。また財政当局にはいまだに本誌で以前に述べた「福田ドクトリン」が生きているようである。これについては来週号で述べることにする。 また、今回の対策を「年金など国民が不安に思っていることに答えていない」とか「中長期の視点からの施策がない」と言う指摘がある。筆者は、これらの意見は的外れと考えている。これはあくまでも緊急的な対策なのである。たしかに今回の対策には「フロンティア的」な政策はない。しかし、関係者の頭は今、凍り付いている状態であり、遠い将来まで見据えた政策を発想するような余裕がないのである。これは国民全体に言えることである。筆者はまず景気を良くするが大切と考える。景気が多少良くなれば、もっと大胆なアイディアも出てくると言うものである。
- 緊急経済対策の本誌の評価と来年の景気
筆者は、需給ギャップの大きさを考えると、今回の景気対策で十分と考えているわけではない。しかし、政府自民党が国債を発行してでも景気回復を行なうと言う方向に変わってきていることは評価すべきと考えている。政府もこれで十分とは考えていることはないであろう。この対策でも景気が低迷するようだと次の追加対策が検討されると言うことである。これはどうしても「公共投資」を中心にしたものになるのは必至と考えている。 今回の景気対策の特徴は、従来の対策に加え「貸し渋り対策」や「アジア対策」が盛り込まれていることである。これまでの貸し渋り対策が中小企業に重点を置いたものであったが、今回の「貸し渋り対策」はそれより規模の大きい中堅企業も対象にしたものである。これで政府の一連の金融不安に対する対策は揃ったことになる。これでも「貸し渋り」が解消する保障はなく、不十分と言う意見はあると思われるが、その場合にはさらに追加の対策を行なえば良いのである。これは今後の経済政策の重要な緊急を要するテーマとなる。 筆者が意外に感じたのは緊急経済対策の中に「アジア対策」が盛り込まれたことである。「財政再建路線」では真っ先に削られたのがODA予算であった。ようやく日本政府も「日本も一人では生きて行けない」と言う現実を真剣に考えるようになったのであろう。 今回の対策の経済効果については、前述したように経済企画庁の発表した数字があり、そのうち各シンクタンクも試算結果を公表すると思われる。筆者は、今回の対策だけではマイナス成長から脱することは無理と考えている。しかし「来年の日本のプラス成長」は国際公約になりつつある。つまり公約を守るためには、政府は必要に応じ追加の景気対策を行なわなければならない立場にある。したがって筆者は来年の景気については多少楽観している。 しかし、景気が良くなると言っても、そんなに良くなるわけでもない。一方、失業者の数はさらに増えると考えている。つまり「失業問題」は逆に深刻になると考えている。マスコミで報道されているように高齢者と新卒者の「失業問題」はますます困難になると言うことである。今回の「緊急経済対策」の中にも「雇用対策」として1兆円が盛り込まれているが、そのうちの7,000億円は来年度の雇用保険の繰入額であり、積極的な失業対策ではない。しかしこれからは、日本もヨーロッパ並に真剣に「失業問題」に取り組むことが必要な時代になったのである。これについては本誌でもそのうち取り上げるつもりである。 それにしても二年前の橋本・梶山ラインの「財政再建路線」と言うものが、今日までも多大の影響を及ぼしているのである。そしてその路線をはやしたてたマスコミやエコノミストの責任は重大である。
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