平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/11/23(第91号)


緊急経済対策を考える
  • 緊急経済対策の世間の評価
    今週号は、予定を変更して政府の決定した緊急経済対策について述べる。対策は総額で約24兆円、経済企画庁の試算ではGDPを名目で2.3パーセント、実質で2.1パーセント押し上げる効果が期待されると言うことである。たしかにほとんどの項目については事前に世間で知られたものであり、株式市場の反応は今一つであった。海外、特に米国の反応は概ね良いようだが、結果をまず見たいと言うものである。つまりこれで結果が不十分だったら、追加の政策を求めてくることになろう。この米国のスタンスは極めて冷静であり、常識的である。
    一方、国内の反応は良くない。特にマスコミの評価は厳しい。この理由の第一に挙げられる事柄は、マスコミがこぞって主張してきた「減税」の道筋が示されていないことである。「減税」額は6兆円超と表現されているが、中味が公表されていないのである。しかし、これは政府税調や自民党税調は現在検討途中であり、結論がまだ出ていないのだから当然のことである。マスコミ自体も、「所得税」「法人税」「消費税」と色々主張しているのが現状である。さらに最近では「住宅減税」などの政策減税が加わり、各自の主張が混乱しているではないか。大体、夏場の「金融国会」が混迷して、景気対策の作成作業が大幅に遅れたのであり、マスコミはこのことにはほとんど触れないのである。
    筆者は、日本ではどのような形で「減税」が行なわれても、その効果は小さく、即効性はないと考えている。しかし、世の中には「減税」こそ最も効果のある景気対策と盲信している人々が多いので、評判が悪いが、効果が期待される「公共投資」を行なうためには、これらの人々の抵抗を和らげるために「減税」が必要になっていると考えている。つまり「減税」は効果的な景気対策を行なうのための必要経費と考えている。したがって景気対策の上では「減税」の内訳はどうでも良いのである。
    たとえば「法人税減税」である。10/26(第87号)「景気対策論議を考える」で述べたように経済企画庁のマクロモデルが示すように、そのGDPの押し上げ効果はみじめなくらいに小さいのである。かりに来年度に法人税の減税が行なわれるとしても、実際に効果が現われるのは、来年の11月頃からである。つまり来年度の中間納付からであり、これから一年後である。さらに中間納付は、前期の納付額の半額か、半期の決算を行なって納付するかの選択になっている。つまり今期赤字決算の場合は、元々納付額がないと考えられるのだから「減税」の意味がない。日本の企業は総じて利益が減少しており「法人税減税」の恩恵も極めて小さくなっているのである。このように「法人税」減税はとても緊急経済対策とは呼べないのである。一方には、「法人税」を減税することによって、新しい企業が興ると言う主張があるが、これだけ景気が悪化しているのに、「法人税」の減税くらいで、企業を興そうと思う人はそんなにいないはずである。これに関連して日本では開業率が極めて低いことが指摘されているが、これについては別の機会に取り上げたい。
    「公共投資」の中味についてもマスコミの評価は厳しい。かなりの部分が従来型の公共投資であり、期待された「都市型」の公共投資の割合が小さいと言うことである。宮沢蔵相も始めは「考えられるものは何でも持ってきなさい」と言う態度であったが、本心は「すばらしいアイディアなんか出てくるわけがない」と思っていたと報道されている。結果はまったくその通りである。しかし、これには無理がある。これまで「財政再建」の元で予算を削ることしか頭になかったのであるから、「急に景気に効果のある政策を考えろ」と言われても各省の官僚には対応ができないのである。これも「財政再建路線」の後遺症なのである。また財政当局にはいまだに本誌で以前に述べた「福田ドクトリン」が生きているようである。これについては来週号で述べることにする。
    また、今回の対策を「年金など国民が不安に思っていることに答えていない」とか「中長期の視点からの施策がない」と言う指摘がある。筆者は、これらの意見は的外れと考えている。これはあくまでも緊急的な対策なのである。たしかに今回の対策には「フロンティア的」な政策はない。しかし、関係者の頭は今、凍り付いている状態であり、遠い将来まで見据えた政策を発想するような余裕がないのである。これは国民全体に言えることである。筆者はまず景気を良くするが大切と考える。景気が多少良くなれば、もっと大胆なアイディアも出てくると言うものである。

  • 緊急経済対策の本誌の評価と来年の景気
    筆者は、需給ギャップの大きさを考えると、今回の景気対策で十分と考えているわけではない。しかし、政府自民党が国債を発行してでも景気回復を行なうと言う方向に変わってきていることは評価すべきと考えている。政府もこれで十分とは考えていることはないであろう。この対策でも景気が低迷するようだと次の追加対策が検討されると言うことである。これはどうしても「公共投資」を中心にしたものになるのは必至と考えている。
    今回の景気対策の特徴は、従来の対策に加え「貸し渋り対策」や「アジア対策」が盛り込まれていることである。これまでの貸し渋り対策が中小企業に重点を置いたものであったが、今回の「貸し渋り対策」はそれより規模の大きい中堅企業も対象にしたものである。これで政府の一連の金融不安に対する対策は揃ったことになる。これでも「貸し渋り」が解消する保障はなく、不十分と言う意見はあると思われるが、その場合にはさらに追加の対策を行なえば良いのである。これは今後の経済政策の重要な緊急を要するテーマとなる。
    筆者が意外に感じたのは緊急経済対策の中に「アジア対策」が盛り込まれたことである。「財政再建路線」では真っ先に削られたのがODA予算であった。ようやく日本政府も「日本も一人では生きて行けない」と言う現実を真剣に考えるようになったのであろう。
    今回の対策の経済効果については、前述したように経済企画庁の発表した数字があり、そのうち各シンクタンクも試算結果を公表すると思われる。筆者は、今回の対策だけではマイナス成長から脱することは無理と考えている。しかし「来年の日本のプラス成長」は国際公約になりつつある。つまり公約を守るためには、政府は必要に応じ追加の景気対策を行なわなければならない立場にある。したがって筆者は来年の景気については多少楽観している。
    しかし、景気が良くなると言っても、そんなに良くなるわけでもない。一方、失業者の数はさらに増えると考えている。つまり「失業問題」は逆に深刻になると考えている。マスコミで報道されているように高齢者と新卒者の「失業問題」はますます困難になると言うことである。今回の「緊急経済対策」の中にも「雇用対策」として1兆円が盛り込まれているが、そのうちの7,000億円は来年度の雇用保険の繰入額であり、積極的な失業対策ではない。しかしこれからは、日本もヨーロッパ並に真剣に「失業問題」に取り組むことが必要な時代になったのである。これについては本誌でもそのうち取り上げるつもりである。
    それにしても二年前の橋本・梶山ラインの「財政再建路線」と言うものが、今日までも多大の影響を及ぼしているのである。そしてその路線をはやしたてたマスコミやエコノミストの責任は重大である。

来週号では「公共投資」の誘発効果について述べたい。これは今回の緊急経済対策の効果を考える際にも大切なことである。また日本の国債の格付けが引き下げられたが、これについても近々取り上げたい。




98/11/16(第90号)「公共投資と経済を考えるーーその1」
98/11/9(第89号)「「空気」を考えるーーその2」
98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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