経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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夏休みにつき、来週は休刊 次回号は8月22日を予定

16/8/8(903号)
新経済対策への評価

  • 新経済対策は小さな第一歩

    8月2日に新経済対策が閣議決定された。国と地方の直接の財政支出(真水)が7.5兆円、財政投融資が6兆円で全体の事業規模は28.1兆円である。政府の試算では、新経済対策は実質GDPの押上げ効果は1.3%となっている。

    しかしこれらの全てが16年度の第二次補正予算に計上されるのではなく、一部は17年度の当初予算などに盛込むことになっている。また仮に16年度の第二次補正予算に盛込まれたものでも、支出が翌年度にズレ込むケースも有り得る。よって政府は新経済対策が16年度の経済成長率をどの程度押上げるか試算していない。これに関し民間のシンクタンクはわずか0.4%程度と見込んでいる。


    この新経済対策をどう捉え、どう評価するかが問題になってくる。消費増税延期に加え、額としては小さいが新規国債(建設国債)を発行し第二次補正予算を組んだこと自体を評価する声はある。たしかに14年度、15年度と何故か2年続けて第二次補正予算の作成を見送ったのに対し、様変わりという感想を持つ者がいても不思議はない。

    しかし市場の評価は芳しくない。事前に「大型補正予算」と期待が大き過ぎたこともあるが、これに到底及ばない新経済対策の規模と市場は判断している。これを反映し、新経済対策の内容が明らかになるにつれ株価の動きは冴えなくなった


    また市場の「ヘリコプターマネー」への期待は大きかった。しかしこれに関してもほぼゼロ回答となっている。市場の最良のシナリオは、「大型補正予算」と「日銀のさらなる金融緩和」の組合せであった。ところがこれらの両方が期待に反しショボイものだったと市場は評価している。

    16/7/4(第898号)「奇異な話二題」で述べたように、たしかに自民党の中に本気で「大型補正予算」を組もうという動きはあったと筆者は推測する。まず14年度以降の消費増税分のほとんどが財政再建に回されていた事実が明らかになった。筆者は、これに憤った議員が「大型補正予算」と騒ぎ始めたと見ている。


    しかし財政再建派の力はまだまだ強く、この流れに対して強烈な巻き返しを図ったものと筆者は見ている。したがって新経済対策は、両者の妥協の産物になってしまったと筆者は理解している。ただ生き絶えてしまったかと思われた積極財政派が自民党内にまだ残っていたことが、今度のことで明らかになったとも言える。

    安倍政権がアベノミクスと言っているのに、消費増税を実施し、その増税分の8〜9割を財政再建に充てるなんて信じ難い施策である。これを推進してきた人々はアベノミクスに反対か、あるいは全く関心がないと思って良い。彼等は「成長戦略」でデフレ脱却ができるとうそぶくかもしれない。しかし3年以上も経つのに「成長戦略」とやらが何の成果も生んでいないことを彼等も十分承知している。


    このように評判が芳しくない新経済対策であるが、細かく見ると財政再建派の牙城がいくつか崩れている。例えば社会保障関連の歳出に関し16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」で取上げたように、「社会保障関連の歳出を増やすには、消費税の再増税が条件になる」という財政再建派が作った理不尽な概念が自民党を縛ってきた。ところが消費税の再増税を延期したにも拘らず、今回の新経済対策では「保育士の給与2%引上げ」「年金の受給資格期間を25年から10年に短縮」が盛込まれた。

    これを財政再建派の力がかなり衰えた証しと筆者は解釈している。とにかく自民党が財政再建派と構造改革派に席巻され続けた結果、日本は深刻なデフレ経済に落ち入ったのである。新経済対策はこれを撃ち破る小さな第一歩と筆者は位置付ける。先週号で唱えたようにやはり「大きな車はゆっくり回る」である。


  • 「デフレ脱却」が最優先

    正直に言って新経済対策は、筆者達の期待を下回るものであった。ただこれをきっかけにこれに続く経済対策が策定されるものと思う他はない。また今回は安倍政権の現在の力の程度を反映したものと筆者は解釈している。一強と言われる安倍政権であるが、政権実態は、色々な考えの人々や勢力の上にうまくバランスを取りながら乗っかっているのである。したがって一方向へ極端に走ることはない。

    しかし今回の新経済対策は、不十分ではあるが財政政策が有効であることを踏まえて策定されたと筆者は考える。デフレ脱却を目指すアベノミクスにとって、本来、財政政策は柱となるはずである。ところがスタートの初年度の13年度を除き、これ以降、安倍政権は完全な緊縮財政に転換した。これではアベノミクスがうまく行くはずがない。


    一番の問題は、安倍政権が「デフレ脱却」と「財政再建」という目標を同時に掲げていることである。しかし「デフレ脱却」と「財政再建」はほとんど相矛盾する政策目標と筆者は認識している。そして14年度以降は消費増税分の8〜9割も財政再建に回して来たのである。

    安倍政権は、そろそろ両者のうちどちらを優先するのかはっきりさせるべきである。当然、安倍総理は「デフレ脱却」を最優先すると筆者は思っている。消費増税を2年半も延期したことからもこのことは容易に想像がつく。後は総理の口から「デフレ脱却を優先する」とか「消費増税は延期ではなく凍結する」といった言葉がはっきりと出ることを期待する。


    自民党の税調(税制調査会)がおかしい。税調が日本の税制を検討し税制改正を答申するのは仕事なのだからかまわない。しかし税制改正がマクロ経済に大きな影響を及す場合は話は違ってくる。ところが党税調は、マクロ経済への影響を完全に無視して消費増税を決め、今回の税制改正をリードしたものと見られる。

    ましてやもし党税調が、消費増税分の8割を財政再建に回すといった秘密裏の取決めに加担していたとしたなら大問題である。これは明らかに越権行為であろう。また党税調には、財政再建にしか興味のない政治家だけが集って来るとしたなら、これも問題である。


    先週号で元英金融サービス機構(FSA)長官アデア・ターナー氏が「統合政府(政府・日銀が一体化したもの)ベースで日本の純債務はGDP比で62%(約300兆円)になる」と言っている話を紹介した(筆者も日本の実質的債務残高は100〜300兆円までに減っていると言ってきた)。これは日銀が既に300兆円以上の国債を買っているからである。これは本当の話であり、巷間言われている「日本の累積債務は1,000兆円を越え大問題」という話は真っ赤な嘘である。

    ましてや長期金利までがマイナスになっているのに、日本の財政が、何故、問題になるかということである。ほとんどの人々はまだ気付いていないが、このように日本の財政問題は既に解決済みなのである。ところが大多数の日本人はいまだに「日本の財政状況は最悪」といった嘘にずっと騙され続けている。


    しかし筆者達の言っていることの方が正しいと理解する人々がここに来て急速に増えている。この一つの大きな原因が「ヘリコプターマネー」の話の広がりと筆者は思っている。「ヘリコプターマネー」は多くの人々にとってまさに「目からウロコ」の話である。もし「ヘリコプターマネー」が理解できるなら、筆者達の言っていることも分るはずである。

    したがって日本の財政に問題がないのなら、消費増税分の8割も財政再建に回すことがおかしいと人々は容易に気付くはずである。また財政再建派が日本の財政を純粋に心配しているとは限らない。彼等の多くがアベノミクスに反対しているか、あるいはデフレ経済が永遠に続くことを願っているとも見られる。つまり全ての人々がデフレ脱却に賛同しているわけではない。たしかに高所得が保証されている公務員や既に財を成した人々なんかも、むしろデフレ経済の方が好ましいと考えるであろう。



夏休みにつき来週は休刊であり、次回号は8月22日に予定している。



16/8/1(第902号)「大きな車はゆっくり回る」
16/7/25(第901号)「アベノミクス下における注入と漏出」
16/7/18(第900号)「経済循環における注入と漏出」
16/7/13(第899号)「16年参議員選の結果」
16/7/4(第898号)「奇異な話二題」
16/6/27(第897号)「ヘリコプター・マネーと国民所得」
16/6/20(第896号)「ヘリコプター・マネーと物価上昇」
16/6/13(第895号)「ヘリコプター・マネーと消費増税の比較」
16/6/6(第894号)「消費増税問題の決着」
16/5/30(第893号)「安倍政権の次のハードル」
16/5/23(第892号)「アベノミクス停滞の理由」
16/5/16(第891号)「ヘリコプターマネーは日本の救世主か」
16/5/2(第890号)「毎年1,000件もの新製品」
16/4/25(第889号)「日本は消費税の重税国家」
16/4/18(第888号)「財政問題に対する考えが大きく変る前夜」
16/4/11(第887号)「民進党が消費税増税を推進する背景」
16/4/4(第886号)「財政問題が解決済みということの理解」
16/3/28(第885号)「終わっている日本の経済学者」
16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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