平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/11/9(第89号)


「空気」を考えるーーその2
  • 「空気」に支配された事例
    先週号11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」で、「空気」について述べたが、これに支配された他の事例を挙げることができる。戦後に限れば、第一の典型例は「安保闘争」である。特に60年安保闘争であった。日米安保は10年毎に改定されることになっていたが、60年の安保改定は、始めての改定であり、当初の安保条約の運用上の不都合な点や問題点を是正しようとするものであった。むしろ日本にとっては有利な改定であった。ところが、日本には「安保反対」の嵐が起こったのである。「安保」と言えば「反対」と言うのが合言葉であった。「安保条約」のことをよく知らない人々も「安保」は「反対」するものと思ったのであった。特にほとんどの学生は熱病に冒されたように「安保反対」を唱えていたのである。たしかにこの「安保改定」を押し進めた岸総理は戦犯であり、国民には人気がなかった。しかし、それならば「岸総理退陣」が本当であり、「安保反対」と言うスローガンはおかしいのである。
    今日「日米安保」を廃止すべきと主張している者は極めて少数派である。政党でみても、はっきり廃止を唱えているのは日本共産党くらいのものである。それならばあれだけ苛烈を極めたあの「安保反対闘争」とは一体なんであったのかと考えさせられる。今となってはなぜ「安保に反対」だったのか、誰も答えられないのである。しかも状況としては当時の方が「日米安保条約」を必要としていたのである。つまり当時としては「安保」に反対することが「空気」となっていたのである。もちろん当時のマスコミもこの流れを煽っていた。
    一つの問題は、当時の「安保反対闘争」などの政治闘争の先頭に立ち、人々を扇動していた者達が国会議員に多くいるのである。しかし彼等は今日では「安保に反対」しているわけではない。つまり主張が全く転換しているのである。どうも彼等にとっては、主張していた事柄の「善し悪し」は問題ではなかったようである。彼等にとって大切なことは「時流」に乗り、自分を売り出すことである。彼等が「国民のことを考えている」と言う日頃のセリフは口先だけである。そして彼等の本質は「アジテータ」、つまり「扇動者」である。そしてマスコミを使うことには長けており、それだけに国民的な人気も高い場合もある。アンケートを取れば、次期総理の候補者としてトップにもなるのである。おかしいのは「過剰接待問題」で事実上免職になったエリート大蔵官僚は学生時代は「安保反対闘争」の先頭に立っていた人物である。日本ではこのようなあやしい人物が要職に就いているケースがよくあるのである。あれだけ強烈に「消費税」に反対しておきながら、最近では「消費税」は必要と主張している人々もあやしい。今後はこれらの人々の行動は要注意である。
    二つ目の典型例は「細川政権人気」である。おどろくことにこの内閣の支持率は80パーセントを超えていたのである。細川総理は就任当時「自民党の政策を引き継ぎますので、国民の皆様ご安心下さい。」と言っていたのである。どうしてそんな内閣を国民のほとんどが支持していたのか、今となってはおかしな話である。もちろんマスコミもそんな「細川政権」を持ち上げていた。しかし、この内閣はほとんどを官僚にまかせるしかなく、この頃から官僚の発言力が増し、「政」と「官」の力のバランスが崩れてきたのである。筆者は、アンケート調査で国民の支持が80パーセントを超える「政策」や「内閣」は却って、問題を引き起こす可能性が大きいと考えているくらいである。今から考えてみると「細川政権人気」も一つの「空気」のしわざと考えられる。
    問題なのは最近の「公共投資反対」の「空気」である。特に景気対策としての「公共投資」にも反対が強いのである。以前は景気対策としては「公共投資」が当り前であった。むしろ「減税」は例外的対策であった。もちろん景気対策としての効果が違うからである。ところが最近では景気対策として議論されるのは「減税」であり、ほとんど「公共投資」は話題にもならない。たしかに景気対策としての「公共投資」の効果は以前より小さくなっているが、「減税」の効果も同様に小さくなっているはずである。今日でも「公共投資」の方が断然効果が大きいことは本誌10/26(第87号)「景気対策論議を考える」で述べた通りである。政策の効果を議論する時には「科学性」と言うものが絶対に必要である。しかし今行なわれている議論は全くこの「科学性」と言うものが無視されているのである。
    たしかに「公共工事」にからむ問題は多い。しかし、これは景気対策としての「公共投資」とは次元の違う問題であり、別に検討すべき課題である。「公共工事」には問題が多いからと言って、効果も期待できない「減税」を増やしても、景気の浮揚にはならないのである。たしかに最近では「都市型の公共投資」なら効果があると言う声が出てくるようになった。景気もこれだけ落ち込み「空気」も少し変わって来たのであろう。「都市型の公共投資」が効果があることは本誌も一貫して主張してきたことである。しかし、これは景気対策とし実施することではなく、継続した政策として行なってくるべき事柄である。そしてもしこれがこれまで実行されていたなら、こんなに景気も落ち込むことがなかったはずである。しかし、都市部においては、公共工事がスムーズに実施されることは難しい。都市部での公共工事には色々の障害があり、工事の消化がうまくいかないのである。つまり「都市型の公共投資」が景気対策として計画しても実行が難しいのである。したがって「都市型の公共投資」の実行が難しい現状では、景気対策としては「従来型の公共投資」を行なうことが避けられない選択になるのである。筆者は、ここに至っては、即効性を考えると「従来型の公共投資」を増やすことにも賛成である。
    そこでなぜ都市部での公共工事がうまく進まないのかが問題である。政治はこれを真剣に検討し、必要な「環境整備」や「法整備」を行なうべきであり、どうでも良い「減税」の論議はいい加減に止めるべきである。ほとんどの経済学者やエコノミストと言われている人々も、ただ「時流」に乗って今だに「景気対策」として「減税」を主張している。なさけない話である。



  • 「空気」の変化と経済政策
    先週号で述べたように「拓銀」と「山一」の破綻で「空気」も変わり、経済政策も「財政再建路線」から景気拡大政策に変わり始めた。しかし、この時点で政治家の考えが完全に変わったわけではない。橋本総理の元で「金融安定化法」は成立したが、景気対策に十分重点を置いた政策には転換できなかった。どうしても「財政再建路線」を掲げていた橋本総理は交代する必要があったのである。
    世間の「空気」も「長銀」の経営危機の表面化した頃からさらに変わってきた。筆者は、世間の「空気」が変わったのは、今回は「長銀」と言う個別の銀行の問題の発生によると言うより、これに対応する政治の動きに幻滅を感じたからと考える。「若手実務家」と言われる、「世間知らず」の連中が前面に立ち、延々とどうでも良い「法律論議」を何か月も続けていたのだから当り前である。そして世間の「空気」もようやく現実的になってきたのである。この雰囲気を後押ししたのは「長銀問題」ではなくむしろ「日米両国での株価の下落」と考えている。
    景気は現時点でも下落を続けている。筆者が考える日本における景気判断の一つのポイントは「不動産価格の推移」である。96年度の景気上昇に伴い土地の下落も一応沈静化したが、ここへ来てまた下落し始めているのである。ビルの賃貸料もさらに下がり始めている。有効な景気対策も遅れ気味であり、景気が底を打つのももうしばらくかかるようである。
    効果があやしい「減税」を一生懸命議論しているのだから、政治が本気に景気対策を考えるようになるにはまだ時間がかかると考えられる。筆者は、「空気」が本当に変わるには何か「大きな出来事」がもう一つ必要と考えている。その「大きな出来事」としては、「著名な大きな企業や企業グループの破綻」、「日本もしくは米国の株式相場の暴落」、「急激な円高」「日本近隣での安全保証上の問題発生」などを考えている。
    2年前の日本中を覆っていた「財政再建路線」の「空気」を180度転換させるのであるから、時間がかかるのは仕方がない。そしてまだその方向がはっきり定まったわけではない。現在「減税」が景気対策の中心として議論がなされているが、これが実際に実施され、「減税」がほとんど効果がないことを全国民で確認するまでは、有効な対策が本格的に実施されないのではないかと考えている。筆者は、最終的には景気対策は「公共投資」、それも従来型の公共投資の増額に落ち着くと考えている。

「公共投資」の経済効果については本誌でも何度か取り上げたことがあるが、世間ではまだ誤解があるようである。景気対策としての「公共投資」について来週号から述べてみたい。




98/11/2(第88号)「「空気」を考えるーーその1」
98/10/26(第87号)「景気対策論議を考える」
98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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