経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/3/28(885号)
終わっている日本の経済学者

  • 「2〜3年は財政収支を気にしないで財政出動すべき」

    安倍総理等は、予定通り22日の国際金融経済分析会合にポール・クルーグマン教授を招き意見を聞いた。案の定、スティグリッツ教授と同様、教授も再増税に反対した。また教授は「日本は2〜3年は財政収支を気にしないで財政出動すべきだ。ギリシャのような債務危機は起きない」と断言した。ただ持論の消費税の5%への引下げまでは言及しなかったようである。

    たしかに国際金融経済分析会合の様子を伝える報道を見て分るように、日本のマスコミの論調は一頃に比べると随分と変ってきた。以前は消費税の増税は当たり前であり、財政出動なんてとんでもないという雰囲気であった。特に民主党が「日本はギリシャのようになる」と消費税増税を推進していた頃は、大手の新聞を始めほとんどの日本のメディアは「増税キャンペーン」の先頭に立っていた。


    たしかに日本のマスコミが何をどれだけ理解したのか不明であるが、両教授の「再増税の延期」や「財政出動の必要性」といった提言をこれまでより大きく伝えるようになった。しかし日本のマスコミは、ちょっと前まで「日本の財政は最悪」とか「税と社会保障の一体改革しかない」と言った迷信を信じ込み、またマスコミはこれらの迷信をまき散らして来たのである。今さらクルーグマン教授が「日本ではギリシャのような債務危機は起きない」と言っても戸惑うはずである。

    筆者達はスティグリッツ教授やクルーグマン教授の提言を当たり前と受取っている。しかし日本においては、両教授が示すような正しい方向に舵を切るだけでも大変なのである。それにしてもこれまで長いな時間を無駄にしてきた。


    本来なら日本の財政に関わる問題に関しては、日本の経済学者やエコノミストが提言を行うのが普通と考える。少なくとも彼等こそ、これまで日本経済を研究しよく知っていることになっている。ところが今日のような肝腎な場面で、国のトップから彼等は全く相手にされなくなったのである。

    一方に少数ではあるが、経済に関し正しい見識を持っておられる経済学者やエコノミストは日本にもいる。ところが日本のマスコミがおかしいのか、ほとんどこれらの人々は表に出て来れない状況にある。16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」で述べたように、日本のマスコミ人は口先では「報道の自由」を叫んでいるが、財政問題においても報道姿勢は極めて偏向している。


    ところで消費税増税決定の前に開かれる有識者による点検会合が、日本の状況が異常なことをよく表している。まず5%から8%に引上げる際にこの会合が行われた。この時の会合に出席したほとんどの有識者は増税賛成派であり、揃って彼等は増税しても日本経済は大丈夫と言っていた。しかしこの予想は見事に外れた。これに対して反対意見を述べたのは宍戸駿太郎筑波大学名誉教授など極少数であった。

    8%から10%に引上げる再増税の際にもこの点検会合が開かれた。ところが当初、これには宍戸教授が呼ばれなかった。しかし安倍総理は、出席予定の有識者が増税派に片寄っていることに憤慨し「反対派も入れろ」と一喝した。これによって急遽、宍戸教授も再び呼ばれることになった。このように宍戸教授のような正論を唱える経済学者がいても、巧妙に表に出ないよう画策されているのがこれまでの日本である。


    日本経済について本当のことを聞くため、わざわざ外国からノーベル賞を受賞した経済学者を招かねばならないなんて異常である。しかし日本の経済学界の現状を見ると仕方がないのである。このことは08/10/6(第544号)「マンキュー教授の分類」で説明した。

    米国では経済政策決定に携わっている経済学者のほとんど(全部と言って良い)は、ケインジアンと呼ばれる現実的なエンジニアである。これに対して象牙の塔にこもって緻密な経済分析を行ったり、経済学説を研究する経済学者の一派が米国にはいる。しかしこれらの経済学者は、純粋な科学者であり現実の経済政策にタッチすることはない。

    ところが日本ではケインズ経済学が否定されてからケインジアンがほとんどいなくなり、日本の経済学者は現実を知らない観念的な科学者ばかりになった。ところが今日、政府の経済政策に関わっているのがこの現実の経済政策にタッチすべきでない経済学者と官庁の意向で動く御用学者ばかりになってしまった。日本の経済政策が迷走するのも当たり前なのである。


  • 「スティグリッツを読んでいる」

    筆者は、日本の経済学者やエコノミストの悪口をずっと書いている。悪口というより、筆者は彼等を罵倒していると言っても良い。筆者は日本の大学の経済学部なんて「失業対策事業」と言ってきた。それにしても宍戸教授などを除き、本当にろくな経済学者がいないのが現実である。

    まず金利がマイナスになっても経済は好転しないと、ほとんどの日本の経済学者は言う。では「対策」と聞かれると、彼等のほとんどは「規制緩和を進める」とか「構造改革しかない」と答える。間違っても「財政出動」とは答えない。しかし13/12/2(第776号)「何処に行った経済成長戦略」他で説明したように規制緩和によって経済が成長することはまずない。

    しかし日本のほとんどの経済学者とエコノミストは「規制緩和で経済が成長する」と言って引かない。ところが不思議なことに、彼等は規制緩和と言いながら、まず具体的に何を規制緩和するかをほとんど言わない。また仮に具体的に規制緩和の項目を挙げても、それによる経済の押上げ効果を金額で示すことはない。全く自信がないのであろう。

    「規制緩和で経済が成長する」という虚言・妄言が出始めたのは橋本内閣の頃からである。そしてこれに財政再建派が飛びついた。緊縮財政や消費税増税を実施しても、規制緩和を進めれば経済は落込まないと言っていた。このような幻想が今日でも続いているのだからあきれる。


    このように20年以上、彼等は「規制緩和」と言い続けている。規制緩和に伴い問題が起ると「規制緩和と同時に監視を強化すべき」と訳の分らないこと言い出す。それなら規制緩和するなと言いたい。ただし筆者も不合理な規制の緩和や撤廃に賛成である。ただ規制緩和で経済が成長するとは思わない。

    最初に「規制緩和で経済が成長する」と言い始めたのは中谷巌氏(当時一橋大学教授、後に玉川大学学長)である。当時、日本中がこの理論(理論というより仮説であり、いまだに正しいか証明されていない)は画期的と注目し、中谷氏は当時の構造改革派の一大スターになった。ほとんどの経済学者やエコノミストは教授から大きな影響を受け、今日でもこの理論もどきを信じている。

    ところが13/12/9(第777号)「中谷巌氏の変心」で述べたように、当の中谷氏は全く逆のことを言い始めた。08年のリーマンショックの頃「資本主義はなぜ自壊したのか」(集英社)という本を著し、今度は新自由主義や市場原理主義を極めて強い調子で批難したのである。またベーシック・インカムといった社会主義と見間違うような政策を唱えるようになった。昔の中谷氏を知っている者にとっては仰天する変身振りである。


    しかし中谷氏の変身は世界的な潮流の変化を先取りしている面がある。今日、欧米の若者の間で社会主義的思想が大きなうねりとなり始めている。筆者は、そのうち移民排斥を主張する右翼運動とこれが合体するものと見ている。反対に、今日、規制緩和を掲げたレーガンや新自由主義のサッチャーの人気は地に落ちているという。何をやっても豊になれない若者の不満が頂点に達しているのである。

    サンダース氏とトランプ氏の大統領選での善戦はこれを裏付けている。筆者はそのうち両者を合体させたような人物が米国の大統領になるような気がする。おそらく欧米のこの流れはいずれ日本にもやって来る。トマ・ピケティが注目されたのもその走りと思う。とにかく「規制緩和で経済成長を」なんて間抜けなことを言っているようでは終わっている。

    消費税の再増税延期が決定する前、ワイドショーで「増税することが法律で決まっているのだから増税すべき」と発言していた女性コメンテータの話を本誌で取上げたことがある。ところが最近、この女性コメンテータは「スティグリッツを読んでいる」と言って周囲を驚かせていた。さすがに変わり身が速いと筆者も笑った。



来週は、まず平均的な経済学者の現状を取上げ、シニョリッジ政策を進めるにあたっての課題を考える。




16/3/21(第884号)「国際金融経済分析会合の影響」
16/3/14(第883号)「信用を完全に失った財務省」
16/3/7(第882号)「「政界」がおかしい」
16/2/29(第881号)「一向に醸成されない「空気」」
16/2/22(第880号)「緊縮財政からの脱却」
16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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