経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/2/22(880号)
緊縮財政からの脱却

  • 補正予算額の推移を見れば分る緊縮財政

    筆者は、最近、「日本は財政を緊縮型にしておきながら、金融政策だけに頼る異常な状態が続いている」と指摘して来た。今週はこの説明から始める。まず金融政策が、マイナス金利導入に見られるように超金融緩和であることは周知のことである。

    ところが不思議なことに一方の財政政策が、逆に緊縮型に転換していることを誰も気にしていない。まさに日本中が魔法や催眠術にかかっているようだ。まず各年度の補正予算額の推移を示すと、13年度10.5兆円、14年度5.5兆円、15年度4.9兆円、そして16年度(来年度)3.5兆円といった具合である。補正予算額は前年度の暮にほぼ決まる。16年度(来年度)の3.5兆円も昨年末に決まり、今、国会審議中である。


    それにしても補正予算は、見事なほどにに毎年減額されている。たしかに財政の経済効果を厳密に計算するには、予算の中味(真水がどれだけ)を見たり、本予算や補正予算の使い残しや繰越しなども考慮する必要がある。しかし少なくとも補正予算額の推移をざっと見る限り、財政が緊縮型に転換していることは明らかである。

    特に14年度は、補正予算を前年度より5.0兆円も減額しただけでなく、8兆円の消費税増税を実施している。このようにいきなり14年度から財政の大緊縮が始まったのである。財政政策と金融政策を同時に出動させるといったオーソドックスな政策、つまり実質的なアベノミクスは13年度のわずか一年で終了したのである。しかしこの重要なことをアベノミクスを礼讃する者も批判的な者もあまり口にしない。


    安倍政権内の重要経済閣僚の中にも、基本的な経済理論を誤解している者がいる。この大臣は消費税増税による経済の落込みが予想されるが、14年度に向け5.5兆円の補正予算を組んだから大丈夫と言っていた。しかし補正予算額は前年度である13年度の10.5兆円から5.0兆円も大幅に減額されている。

    補正予算が5.0兆円減額されたことによるマイナスの乗数効果が生まれたのである(乗数値を2とすれば10兆円の最終需要の減少)。さらに消費税増税によるマイナス効果を加えると、14年度は財政政策だけで25兆円程度の最終需要が減った。したがって14年度がマイナス成長になったのは当たり前の話である。ちなみに14年度の補正予算額が決まった時点で、本誌は13/11/25(第775号)「アベノミクスの行方」で「14年度はゼロないしマイナスの低成長」と予測した(間抜けなエコノミストや御用学者に成り果てたほとんどの経済学者はV字回復すると言っていた)。


    筆者は、14年度も15年度も当然、第二次補正予算が組まれるものと思っていた。しかしその気配さえなかった。たしかに日本経済は円安効果と資源安によって辛うじて支えられて来た。つまり財政を出動させなくとも、金融緩和によって円安さえ続けばなんとかなるといった錯覚を政府関係者は持った。

    ところが先週号で述べたように、円安と金融緩和の関係が怪しくなった。1月29日にマイナス金利を導入を決定したにも拘らず、その後数日の間に円高へ向かった。しかし先週号で指摘したようにこの動きは、経常収支が黒字化した日本にとって決して理不尽なものではない


    日本中のほとんどの人々は、日本経済がまずい方向に進んでいることに気付いている。また日本経済は万策尽き窮地に陥っていることも薄々感じている。今頃「規制緩和」「構造改革」なんて言っても誰も信じない。

    しかし日本の財政再建派の力は強く、長らく「財政政策」は禁じ手とされてきた。また「20年のプライマリーバランスの回復は常識」と日本国民はマインドコントロールされて来た。政治家も「財政再建は実現すべき公約」と、「財政出動」には触れたがらなかった。

    このような日本でも、ようやく財政政策の有効性を説く者が少し現れるようになった。「金融政策は限界に来たが、財政政策があるではないか」といった当たり前のことを言い出し始めたのである。つまり金融緩和を行うと同時に財政政策も必要といった常識を持つ者がチラホラと出てきたのである。


  • 150兆円積立てることが出来れば「可」

    前段で述べたように、「財政政策」と口に出すのも勇気が必要な今日の日本である。このような雰囲気に支配されているから、たった3.5兆円といった冗談のような額の来年度の補正予算が決まったのである。しかし新アベノミクスの20年の名目GDP600兆円を実現するには、もっと大胆な財政出動しかないと筆者は考える。


    それにしても財政出動や積極財政に対する逆風は依然として強い。例えば「財政出動」と言うと、必ず「ではその財源は」という声が起るのである。これまでの筆者達なら、それに対して「政府紙幣」や「国債の日銀買入れといった実質的なシニョリッジ」で財源を賄うと答えているであろう。しかし筆者達の考えを理解しこれに賛同する者は、まだまだ少数派である。

    ところが現実を見ると、大胆な財政出動が必要な事態が差し迫っている。これに対してもっと現実的な対応が必要と考える。一つには特別会計の埋蔵金を財政政策の財源に充てるというアイディアが出ている。たしかに当面はそれでも良いと筆者も考える。しかし筆者が考える財政出動は、この一桁上の規模であり、しかもかなり継続的な財政支出増である。とても特別会計の埋蔵金で賄える額ではない。


    ところが思いがけないのが、昨今の歴史的な低金利である。これを利用しない手はない。今日、日本政府がまず行うことは先週号で少し触れた大量の国債発行と筆者は考える。しかもなるべく償還期限の長い国債の発行が理想的である。

    しかし資金の用途は特に定める必要はない。将来の社会保障費に充てるというのなら、「社会保障基金」なんかが名称としては適当かもしれない。とにかく超低金利のうちに政府が出来る限り大きな資金(貯蓄)を作ることが大事である。直にこの使い道を探るというものではないので(もちろん財政政策にそのうち使う)、国民の理解も得やすい政策と筆者は思う。


    仮にもしその後金利が上昇した場合は(つまり国債価格が下落)、国債を買戻せば利益を得ることができる。また反対に金利が低くなるようでがあれば(可能性としては段々と小さくなる)、さらに国債を発行して政府の貯えをもっと大きくすれば良い。

    もちろん日銀が、これらの国債を買いオペの対象にし購入することも考えられる。その分の国債に関わり国が支払う金利は、最終的に国庫に戻ってくるので国の負担はゼロになる(いわゆるシニョリッジ)。ただそこまで低金利で多額の資金が確保できるのなら、シニョリッジにまでは今すぐ踏込むことはない。


    もちろん確保した資金の使い道は筆者にも腹案がある。筆者は、国民一律の年金制度の財源に使うのが良いと思っている。支給開始年齢や金額によって必要な金額は異なるが、150兆円くらい積立てることが出来れば一応「可」とする。

    ただ具体的な資金の用途は今議論する必要はない。漠然と国民が将来の社会保障に不安を持っているから、金利が異常に低い間に将来を見据え財務当局が裁量で資金を積立てているとすれば良い。


    では今日の超低金利がいつまで続くかという話になる。筆者は、「さらにマイナス金利を拡大する」「さらに量的緩和を続ける」と日銀が言っている間は今日の低金利は続くと見ている。もっと正確に言えば、投機筋を含めた市場がどこまで日銀の金融緩和政策の継続を信じるかに掛っていると筆者は思っている。

    筆者はあと2〜3年はいけるのではないかと踏んでいる。ところで今週号の筆者の政策提言は極論と承知している。しかし決して不合理ではないと思っている。これだけの低金利になっていながら民間が資金を一向に使おうとしないのだから、政府がこれを借入れ将来に備えることは決して間違ってはいない。



来週は昨今の市場の激しい動きにコメントを行いたい。また余裕があるなら酷過ぎる日本の国会審議を取上げる。それにしても軽減税率の議論を見ても、民主党の国会議員は頭がおかしくなっているのではないかと思われる。




16/2/15(第879号)「超低金利の今こそ国債発行を」
16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
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15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
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