経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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16/2/15(879号)
超低金利の今こそ国債発行を

  • 投機筋は市場の矛盾を目掛け仕掛ける

    最初はサプライズと見なされた日銀の「マイナス金利」政策によって、一時的に株高、円安が実現したが、その後は一転し株安、円高に振れている。しかしこれに似たシーンは何度も見ている。イスラム国がバクダッドに迫り地政学的リスクが叫ばれた時に原油価格はピークに達し、その後は一転して下げ続けている(世間はもっと上がると思った)。円も昨年末の米国の利上げで安値を付けた後、円高に転じた(正確には利上げ決定の少し前から円高に転換)。これについても世間と間抜けな日本の経済学者・エコノミストは、米国の利上げが続くのだからもっと円安になると言っていた。

    しかし筆者は3ヶ月前15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」の中で、「米国の12月の利上げ噂されていて、それが実施されると円安のピークを迎える」「むしろその後は少し円高に戻す」と予測した。どうやら筆者の予想通りの展開になっている。ただ筆者の想定していたより円高のピッチはやや速い。


    筆者は今日の市場が投機筋の思惑で動いていると認識している。たしかにこれは昔からのことであるが、特に近年この要素が強まっていると感じる。この背景として世界的な金余りがあると本誌では言い続けて来た。

    またCTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザーズ・・商品投資顧問)ヘッジファンドなどが活発に取引を行っていることも、市場動向に大きな影響を与えている。それに対して各国の政府や中央銀行は、ほぼ無力の状態に陥っている。各国の政府は財政政策に躊躇し、中央銀行は打つ手が既に限界に達している。欧州や日本のマイナス金利はまさにその象徴である。投機筋は、これを見透かし自分達の利益を最大にするよう活発に取引を行っている。


    しかし投機筋は計算をせず無闇に動いていると考えるのは大きな間違いである。筆者は、投機筋というものは市場に発生した矛盾を目掛けて仕掛けると見ている。これに関し本誌は15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」で「1992年のジョージ・ソロスによる英ポンド暴落劇」の話を紹介した。

    原油価格暴落は、異常な高値が続いていたことで狙われたのである。本誌で何度も説明したが、原油価格の長期の動きに需給関係や地政学的リスクはほとんど関係がない。またドル・円の推移についても同様のことが言える。


    そこでついでに円相場の動きに言及する。3年前(当時は超円高からの是正が開始した時期)の13/1/14(第739号)「年頭にあたり」で「今回の円安のメドを、購買力平価の104〜107円(OECDは104円)程度」と述べたように、為替は購買力平価に収斂する傾向がある。また為替の動向は、購買力平価に加え経常収支に影響される。経常収支が大きな赤字であった3年前から(原発停止や原油高で化石燃料の輸入額が増え、円高が加わり貿易収支は大きな赤字)、昨年は経常収支がとうとう黒字に転換するまでに到った(貿易収支が大きく改善)。つまり今日においてはいつ円高に移行しても不思議はなかったのである。

    3年前まで大きな貿易赤字が続いていたのにずっと超円高といった矛盾した状態が以前は続いていた。たしかに円安に反転したきっかけは黒田日銀の大胆な金融緩和であり、ここ2年間の円安はこの矛盾の解消の結果と考えべきである。つまり円安移行の根底には、為替水準が購買力平価と掛け離れ、また大きな経常収支の赤字というものがあったと筆者は理解する。


    しかし最近までの120円台の円相場は、逆に購買力平価から見ると明らかに行過ぎた円安への是正と筆者は見ていた。したがっていつかこの矛盾を投機筋が突いてくると思っていたのである(経常収支の黒字転換を待っていたとも感じられる)。今回の円高はどこまで行くかはっきりしたことは言えないが(知りたかったら投機筋に聞いてくれと言う他はない)、方向としては日本の購買力平価であり、是正のピッチは日本の経常収支の動向と筆者は思っている。

    世界的に金が余っている今日、中央銀行は無力とは言わないが思われているほど強力ではない。例えばグリーンスパン時代、一生懸命に金融を引締め何回も短期金利の利上げを行ったが、長期金利の方は一向に上がらなかった(これによって長短金利が逆転)。これは世界の余剰資金が米国へ大量に流れていたからである。FRBの金融引締めにもかかわらず、これが米国でバブルを発生させ、後にサブ・プライム問題やリーマンショックを引き起したのである。


  • 世界経済を見渡しても良いことがない今日

    実際のところ米国が利上げを年に4回やろうが、2回にしておこうが、実態経済にはほとんど影響はない。ただ投機筋がそれを利用してどのように仕掛けてくるかと言うことである。例えば仮に3月に予定されている米国の利上げが中止になるケースが有り得る。

    もしその時点で株価や原油価格が、投機筋が考える均衡値より下がっていたなら、利上げ中止をきっかけにこれらを一時的に反転させるかもしれない。反対にもっとこれらに下げる余地があるのなら「そんなに米国経済は悪いのか」とさらに株価や原油価格を下げる方向に動くのではないかと筆者は想像している。

    筆者は、政府の経済政策や中央銀行の金融政策が有効そうに見えるのは、それらが投機筋の思惑と一致する時だけと考えている。それにしても「世界経済を見渡しても良いことがない今日」である。その中で利上げという無理筋の政策を米国が本当に続けられるのかが注目される。


    各国(特に先進国)には打つ手がないと思われている。まずマイナス金利に見られるように金融政策は完全に手詰りである。ところが不思議なことに「それならば財政政策の発動」という声がほとんど起らないのである。

    これはどの国にも財政均衡主義者という大ばか者がいて、彼等の力が大きいからである。彼等の「ギリシャのようになる」という脅し文句で、各国政府だけでなく国民も金縛りになっている。しかし金利がマイナスになるなど、世の中には余剰の資金が溢れているのである。「今こそ国債を発行し、その資金で財政政策を行え」という声が出ても良さそうなものだが、なかなかそのような気配がない。


    それでも欧州では、国によって「今こそ財政政策を」という声が出るようになった。日本でもようやく「財政政策が必要では」という話がチラホラ出始めた。特に日銀のマイナス金利政策の効果が限定的であったことが分り、世の中の雰囲気が少し変ってきたと感じられる。

    そのような中、日本の長期金利がマイナスになった日の報道ステーションの解説に信州大学の経済学部の教授が出演していた。まずこの教授は「日本の金融政策は限界に来ている」と発言した。これに対して「ではどうしたら良いか」という質問が司会者(古館)からあった。ここで筆者はひょっとするとこの教授は「財政政策」に言及するのではと淡い期待を持った。

    しかし教授は「規制緩和を進めることです」「規制緩和によって投資機会を増やすことが重要」と力強く言っていた。案の定と言おうか、やっぱり日本の経済学者は何の役にも立たない。今日、文系の学部を廃止しろという声は出ているが、筆者は少なくとも経済学部と憲法の講座は廃止した方が世の中にとって良いと本当に思っている。


    最後に予定通り「マイナス金利」政策導入を踏まえた政策提言を行う。筆者は、一瞬たりとも長期金利がマイナスになるなど超低金利になった今日、日本政府が一番にやるべきことは今のうちに多額の国債を発行することと考える。出来ることなら最終的に100兆単位の国債発行が望ましい(筆者は密かに150兆円程度発行できれば良いと思っている)。

    しかもなるべく償還期限が長い国債の発行が理想である。一番良いのは英国で戦前発行されていたコンソル債のような永久債である。しかしこれが理解されないか、あるいは抵抗があるのなら100年債でも良い(発行の可能性といった機動性を考えると取り敢えず50年債でもギリギリ可か)。100年債は、既にメキシコや中国で発行され、英国でも発行を検討されたものである。日本で一番長い国債は40年債であるが、来年度の発行予定額はたった2.4兆円である。日銀の余計な当座預金が210兆円もあるのに、この程度では小さ過ぎる。

    発行利回りは、40年債が1.2%程度であるから50年債や100年債は1.5〜2.0%と予想される。政府は低金利で発行した国債を財源にして取り敢えず100〜200兆円の基金を設置する。名称は「社会保障基金」が適当と筆者は思っている(本当にこれは将来の社会保障に使う)。たしかに実際にこのこの基金を取崩して社会保障に使うには国会の承認が必要である。しかし逆に国会の承認を得てこのような基金を設置するとなれば何年かかるかわからない。したがって基金だけをとにかく先行させ設置するというのが筆者の提言である。


    とにかく「世界経済を見渡しても良いことがない今日」である。まず今週の春節明けの上海の株式市場の動向が気になる。また投機筋は人民元を売り崩そうとはりきっている。米国では社債市場が怪しくなっている。欧州も大手金融機関の不良債権問題とギリシャ問題が再燃しそうである。

    その中でたった一つ良い事は歴史的な超低金利である。どの国の政府が一番先にこれに気付きこれを利用するかである。当然、大量の国債発行が正解である。政府ができることはまだまだあるのである。



今週は前置きが長くなり、主たるテーマの説明が不十分になった。来週は、再びこれを取上げる。

自民党の若手国会議員の訳の分らない不祥事が続いている。しかしこれは筆者が密かに予想していたことである(ただ予想以上に酷い)。原因は国会議員立候補者の公募である。永田町周辺には国会議員になることだけが目的の若いが怪しい人々が沢山いる。このような人々は、今日は「小沢新党」、明日は「民主党」といった具合にうろうろと各政党の間を回っている。とにかく政党の公募があれば、どの政党であっても公認を受けるため応募する。そのような人々が公募で自民党にもやって来たのである。

本来なら「この人は見識がある」と周りから政治家になることを奨められるような人物が理想であるが、諸事情によってそのような人が政界に打って出るケースは少ない。また実社会で苦労し世の中の矛盾を糺すといった人が政治家を目指しても、既にかなり年配になっているのが実情である。
たしかにタレント事務所もタレント希望者を公募するが、合格者は1万人に1人といった具合である。そこまで確率が小さいのなら、たしかに合格者の当たり外れは小さくなる。しかし政党の公募となれば、ハードルはずっと低くなると筆者は思っている。筆者は、有為な人材が政界を目指せるよう、年金など国会議員の待遇を良くすることを提案する。




16/2/8(第878号)「日銀の「マイナス金利」政策の実態」
16/2/1(第877号)「CTAヘッジファンドの話」
16/1/25(第876号)「今後の原油価格の動きは「売り投機筋」に聞いてくれ」
16/1/18(第875号)「日本の経済論壇は新興宗教の世界」
16/1/11(第874号)「日本のデフレギャップは資産(財産)」
15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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