経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




16/1/11(874号)
日本のデフレギャップは資産(財産)

  • 2001年のマクロ経済モデルの変更

    今年のコラムを開始するに当り、昨年の本誌を読み返してみた。昨年の主なテーマは「原油価格の推移」「中国関連」「安保法制」、そして「シニョリッジ政策」であった。特に中国関連は、「急速な経済成長の鈍化」、「中国の外貨準備事情」と2回取上げた。これらはいずれも大きなテーマであり今後も取上げることになる。

    ところで筆者が最も重要と考えるテーマは、やはり15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」からスタートした「シニョリッジ政策」である。日本には「シニョリッジ政策」が絶対に必要と筆者は思っている。しかし人々の理解がほとんど進んでいないのが現状である(既に300兆円ものシニョリッジ政策が実施されているにも拘らずである)。したがって今年の筆者の目標は、いかにこの政策を分かりやすく説明するかということになる。


    とにかく筆者達が簡単な事と思っていることがなかなか理解されないのである。たしかに筆者達の説明にもまずさがあったことを認めざるを得ない。しかしシニョリッジ政策が人々に認識され浸透すると、これまで言ってきた「嘘」がバレて立場がなくなく人々がいる。彼等はこの流れに徹底的に抵抗している。

    彼等とは具体的に構造改革派と財政再建派であり、これまで虚言・妄言を吐いて来た者達である。彼等は相変わらず薄弱な根拠の言説を繰出して人々を惑わしているが、これについては来週号で取上げることにする。今週はその準備である。


    昨年のコラムを読み返してみて、意外と重要な事に言及したものを見つけた。昨年の第一号の15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」である。筆者はこの号で、日本の経済学者やエコノミストが言うことが著しくおかしくなったのは、2001年に政府(内閣府)がマクロ経済シュミレーションモデルを変更してからと指摘した。それまで使っていたマクロ経済モデルは旧モデルと呼ばれ使われなくなったのである。

    日本が新たに導入したIMFのシミュレーションモデルは、11/12/19(第691号)「シミュレーションモデルの話」で取上げたように典型的な新古典派一般均衡モデルである。既にポンコツの新古典派経済学を体現したのが、この新古典派一般均衡モデルと筆者は考える。ところが日本の経済学界を席巻している新古典派経済学者は、それまで使っていたマクロ経済モデル(ケインズモデル)を旧来モデルと称することによって、いかにも古くて役に立たないかのような印象を与えている。本当のところ役に立たなくないだけでなく、間違いを起こしているは新モデルの方である。


    もっとも筆者は、マクロ経済のシミュレーションモデルを全面的に信頼しているわけではない。例えば経済の構造が変化すればシミュレーションモデルの修正が必要になるが、必ずしもそれが適切に行われているとは限らない。これは旧来のマクロ経済モデル(ケインズモデル)にも言えることである。

    ただ新古典派一般均衡モデルには決定的な欠陥があると筆者は指摘したい。それは需給のギャップ、つまりデフレギャップを過小に見積もっていることである。日頃、表に出て発言しているほとんどの経済学者やエコノミストは、日本のデフレギャップを0.5%とか1%と間抜けなことを言っている。


    これは政府(内閣府)のマクロ経済シュミレーションモデルがそうなっているからである。このモデルではデフレギャップを過去数年のGDPの平均値から現実のGDPを差引いて算出している。これに対して筆者達は02/12/2(第276号)「日本のデフレギャップの怪」で述べたように、実際の供給力を反映したGDP(つまり実際の物理的な供給力の天井)から現実のGDPを差引いたものをデフレギャップと認識する。つまり内閣府のような奇妙な算出方法を採れば、デフレギャップが異常に小さくなるのは当たり前である。


  • 将来の社会保障は全く心配する必要がない

    日本のような過剰設備が常態化している国は、大きなデフレギャップを常に抱えてきた。それにも拘らず、デフレギャップがほとんどないと強弁するのが日本の経済学者やエコノミストである。彼等は過去数年のGDPの平均値を供給力の天井とするインチキな方法でデフレギャップを算出している。

    ところで以前、日本の生産設備の稼働率というものが公表されていた。しかしこの数字は経済産業省の調査統計部経済解析室で算出しているが、06/3/6(第427号)「GDPギャップのインチキ推計法」で述べたように、ある日をもって突然、この生データが公表されなくなった。そこで筆者が電話で担当者に問い合わせたところ実際の稼働率は72〜74%で動いているということである。この数字が公表されれば日本の経済学者やエコノミストの言っていることが直に嘘とバレるのだが、どういう訳なのかこれが表に出なくなったのである(経済産業省は、代わりに製造業の稼働率指数という加工済み数値を公表)。


    古典派、新古典派経済学では「作ったものは全て消費される」といった例の「セイの法則」が根底にある。実に現実離れした法則である。ところがデフレギャップなんて存在しないというこの間違った概念が、新古典派一般均衡モデルにも持込まれていると筆者は見ている。したがって新古典派経済学者やエコノミストは日本のデフレギャップを0.5%とか1%と異常に小さく算出するのである。

    たしかに世界には、日本と違って消費物資の生産力(供給力)が乏しい国が結構ある。南米の資源国やギリシャのような、古典派経済学が想定している19世紀のような国々である。このような国は絶対的な製品供給力が不足しているから、ちょっと需要が増えると物価が上昇する。特にこれらの国が頼る一次産品の価格が下落すると、たちまち外貨不足に陥り消費物資の輸入に支障をきたすのである。


    重要なことは、このような国に限ってIMFの支援を求めているという現実である。つまりIMFの借金取りモデルがある程度有効な国もあるという話である。しかし膨大なデフレギャップを抱える日本は、これらの国と事情が全く異なるのである。

    つまり経済の実態を見ず、日本にIMFのシミュレーションモデルなんか導入したことがそもそもの大間違いの始まりである。そしてこの欠陥シミュレーションモデルの導入には、構造改革派だけでなく財政再建派のよこしまな意図が感じられる。要するに財政を出動し需要を増やしても、デフレギャップがほとんど無いのだから物価だけが上昇し実質GDPは変らないという例の大嘘を広める道具としてこのモデルを導入したと考えられる。

    2001年にIMFの欠陥シミュレーションモデルを導入してから、政府や経済学者の経済予測が全く当らなくなった。この典型例として、一昨年の消費税増税の際、増税の影響は軽微とほとんど日本の経済学者やエコノミストは予測したが不様な結果を招いたことが挙げられる。IMFのシミュレーションモデル(新古典派一般均衡モデル)を使う限り、同様の大間違いは今後も続くことになる。


    前回号15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」で「日本には優れた品質の製品を産む技術と製造設備があり、また高度な品質のサービスを提供する力がある。これらは日本が持っている「資産(財産)」である」と述べた(金持ちのはずの産油国はこの日本の「財産」をものすごく羨ましく思っている)。この「資産(財産)」こそがデフレギャップと認識してもらって良い。

    どのような会社経営者へのアンケート調査でも、需要が増えたら場合には稼働率を上げるという回答が圧倒的に多い。もっとも実際の稼働率が72〜74%ということなら当たり前の話である。さらに需要が増え設備の稼働率が上がれば、ようやく新規の設備投資ということになる。反対に需要が増えないのなら、投資減税や法人税減税を行っても新規の設備投資が増えるとは考えにくい。


    日本は少子高齢化で年金などの将来の社会保障が問題にされている。しかし日本にはデフレギャップと呼ばれる「資産(財産)」があるのだから全く心配する必要はないと筆者は言いたい。たとえ年金支給額を増やすことによって需要が増えても、それに見合う供給力を十分に持っているのである。

    つまり単に社会保障費を増やせばこれらの問題は解決するのである。しかしこう言うと必ず「では財源は」というばかの一つ覚えの話が出る。これに対しては「シニョリッジ政策」で対応すると言えば良い。既に日銀が300兆円の日本国債を買っているくらいなのだから、社会保障費の財源となる国債を発行し日銀がこれを買えば済む話である。そしてこのような政策が可能なのも、日本には膨大なデフレギャップという財産と大きな外貨準備を持っているからである。



来週は、文芸春秋12月号に掲載された、小林慶一郎慶応大学教授の「データで見た「三本の矢」の的中率」という文章を取上げる。

サウジアラビアとイランの断交、原油価格の下落、中国株価の急落、北朝鮮の核実験などそれにしても波乱の年明けとなった。

株も世界同時安の様相である。一時的に反発する場面があっても、長期的には株価の下落傾向が続くと筆者は想っている。ただ本誌の株価予想はこれまであまり当ってないのでご注意願いたい。




15/12/21(第873号)「敬虔なクリスチャンの感覚が日本を沈没させる」
15/12/14(第872号)「「名目GDP600兆円」達成のシナリオ」
15/12/7(第871号)「日本の経済学界の惨状」
15/11/30(第870号)「堂々と新規の国債発行を」
15/11/23(第869号)「今度こそは盛上がるかシニョリッジ」
15/11/16(第868号)「小黒教授の文章(論文)への反論」
15/11/9(第867号)「小黒一正教授の文章(論文)」
15/11/2(第866号)「シニョリッジ政策は現在進行中」
15/10/26(第865号)「避けられる物事の根本や本質」
15/10/19(第864号)「安保法案騒動に対する感想」
15/10/12(第863号)「安保法制改正の必要性」
15/10/5(第862号)「フォルクスワーゲンの排ガス不正問題」
15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」


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