平成9年2月10日より
経済コラムマガジン


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98/10/26(第87号)


景気対策論議を考える
  • 各減税の経済効果
    景気対策として、色々な対策が議論されている。銀行の「不良債権問題」と「貸し渋り」は依然として重要な課題として注目されるであろうが、「長銀」の処理もほぼ決まり、今後は一番関心を集めるテーマは景気対策に移っていくであろう。政府では追加景気対策として、第三次補正予算が具体的に検討している。
    しかし、今だに世間やマスコミの間では、景気対策として「減税」を求める声が大きい。本誌が主張する景気対策は「公共投資」である。「減税」は景気対策としての効果が極めて小さい。同じ財政負担額なら「公共投資」を行なうべきである。実際、今年に2度の「減税」を行なったが、本誌の事前の予想通り、ほとんど効果がなかった。この経済効果はどれだけあったのか、筆者は公式の数字を目にしていないが、ある報道によれば6割が貯蓄に回されたと言うことである。消費性向が約0.6だから、通常の所得以上に貯蓄に回る割合が大きかったのである。減税の仕方が悪かったわけではない。現在直ぐに対応できる形で、かつ効果が一番期待される形で行なわれたのである。減税は所得の低い層により有利な形で行なわれた。つまり消費性向が大きい層ほど「減税」の恩恵は大きかったはずであり、減税が効果を生みやすかったはずである。それにもかかわらず、減税の経済効果がなかったのである。
    もっとも、一番消費性向の大きい層には、今回の減税の恩恵はほとんどなかった可能性がある。この層はもともと所得税をほとんど納めていないので、税金の還付もなかったのである。
    ここで登場してくるのが「商品券」である。これを国民一律に配ると言うアイディアである。予想通り、「減税」を主張していたエコノミストなんかからは猛反発が出ている。これらの人々の意見は「商品券が配られ、これによって消費がなされると、その分所得からの消費が減少するから効果はない」と言うことである。しかし、この「商品券」のアイディアのポイントは、所得税を納めていない層にも減税の恩恵を及ぼそうと言うものであり、概してこの層の消費性向が大きいことに着目しているのである。また、商品券により消費が行なわれると、その分本来の所得からの消費が減ると言う主張は、間違いであろう。商品券も収入であり、収入が増えれば、その増加分についてもほぼ一定の比率で消費が行なわれると考えられる。エコノミスト達の反論は多分に感情的なものであろう。しかし、筆者も「商品券」には反対である。たしかに「商品券」は従来の「減税」よりも多少効果が期待されるが、「減税」の効果がこれだけ「みじめ」な結果に終わっているのだから、「商品券」の効果にも限度がある。また筆者は、諸外国に比べ、著しく遅れた交通インフラや劣悪な住環境にありながら、景気対策として「商品券」を配っている姿がどうもみっともないと感じられるのである。歩道のない道路や地震が起こっても消防車が入れない狭い道がいたる所にあるのに、「商品券」を配っている姿を諸外国からはどのように見るだろうか。またここでは商品券にまつわる偽造などの技術的な問題などは割愛する。
    どうしても「減税」と言うことになれば、「消費税」の減税しかないと思われる。たしかに所得税や法人税に比べ、景気対策としての効果は期待される。それは消費性向が大きい所得層への恩恵が大きいからである。しかし、不思議なことに「消費税」の減税の経済効果を試算した数字を、筆者はこれまで目にしたことがない。「消費税減税」にはガードが堅く、実現性があまりないようである。筆者も特に「消費税」の減税に積極的に賛成ではない。そもそも筆者は、景気対策としての減税自体に賛成ではないのである。繰り返すが、理由は効果が小さいからである。上記で述べたように、減税に回す財源があるなら、それをそっくり「公共投資」に回すべきと考えているのである。これについては別の機会に述べるが、筆者はあと15年くらいは「公共投資」に積極的に支出すべきと言う考えである。それ以降は、この財源の多くを「年金」支出にそっくり移すべきと考えている。15年後とは団塊の世代が年金を受取始める頃であるが、これらついてはその機会に述べたい。
    ほとんどのエコノミストは「小さな政府」の信奉者であり、景気対策として「減税」が効果があると主張する。彼等は「タイミングが遅い」とか「額が小出し」だからと、減税が効果なかったことを認めないのである。そのうち「恒久減税」なら効果があると言い出した。どうもこれは、4/13(第61号)「恒久減税を考える」で述べたフリードの「恒常所得仮説」によるものらしい。筆者は、一歩ゆずり、この仮説が仮に正しいとしても、減税分のうち消費に回る比率の増加はたいしたことはないと確信している。むしろ「恒久減税」では消費性向の小さい所得層の収入の増加率が大きいことから、全体ではさらに消費に回る比率は小さくなることもありうると考えている。これらの間違った主張をしている人々の一部は、今度は「住宅減税」などの政策減税なら効果があると主張し始めている。これらの人々の主張は、本誌でも指摘したようにまさしく「逃げ水」である。
    たしかに「政策減税」は誘発投資を生みやすく、「所得減税」や「法人減税」より効果が期待ができる。しかしこれは以前から使ってきた景気対策の手法である。今回はこれをさらに拡充すると言うことである。しかし、筆者は資産価値が下落し続けている現在では、あまり効果が期待できないと考えている。税金が多少助かっても、資産の価値の下落が続くなら、それほど大きなインセンティブにはならないからである。さらにこの不況がどこまで続くかも問題である。半年後に景気が上向くのなら、これらの「政策減税」も有効であろう。しかし、不況が当分続くと言うことになれば、ほとんど無効となろう。インセンティブとしての「政策減税」は単なる「需要の先食い」に終わる可能性がある。96年度はかなり高い住宅の着工件数を記録した。しかし、この中には消費税アップ前の仮需、つまり「需要の先食い」があったのである。97年度と98年度の住宅の着工件数の大幅な減少はこの要素もあると筆者は考えている。つまり「政策減税」をおこなっても、効果は最初だけであり、その後に反動が待っていることになる。
    「住宅減税」を主張する人々は、減税額を一兆円くらいに想定している。そんな額で景気が上向くと思っているのことが、現実離れしている。しかし、「政策減税」を大きくすることは別の問題があると思われる。そもそも筆者は、「税金」が直接人々の経済活動や生活のあり方を過剰に規制したりや誘導することはおかしいと考えている。ところが日頃「小さな政府」を主張し、つまり政府は経済の活動に干渉するなと言っているエコノミストが「政策減税」を主張しているのだから、筆者も首をひねらざるをえないのである。

  • 各景気対策の経済効果
    今回の景気対策は、大変大きなものになる必要がある。ただ世の中には色々な意見があり、最終的に必ずしも景気対策として一番有効な方法が採用されるとは限らない。筆者は、公共投資が一番効果があり、財源をこれだけに集中されるのが最善の景気対策と考えている。しかしこれには色々障害がある。このことについては後日にまた述べることになるので、ここでは省略する。
    政府や世間では色々な方法が景気対策として検討されたり、主張されている。しかし、ほとんどそれらの効果が冷静に語られることがないのが不思議なのである。次の表は各景気対策の効果である。これは10月22日の日経新聞に載っていた経済企画庁のマクロ計量モデルの数値である。各数値は各々1%増やした場合の実質GDPの増加率である。短期金利だけは1%の利下げの場合である。
    実質GDP押し上げ効果
    公共投資所得減税法人減税短期金利
    1年目1.220.410.060.09
    2年目1.290.570.240.37
    3年目1.160.220.350.63

    これらの数字の一部は2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」で取り上げた数字と異なるが、これは実質と名目の違いの他に、後者の数字は経済対策の効果の累積を示したものと筆者は理解している。
    この表から解るように、あきらかに景気対策としては公共投資が優れている。所得減税の約3倍の効果である。分析方法が違っていても、以前に本誌で紹介してきたこれまでの数字と同様の結果になっている。つまり公共投資の経済効果は他の景気対策に対して比べようもなく大きいのである。たしかに公共投資の効果も以前に比べると小さくなっている。しかし、他の対策も同様に小さくなっているのであるから、景気対策としての公共投資を否定することは間違っていると断言できる。
    「法人税の減税」と「短期金利の引き下げ」は効果が小さいだけでなく、即効性にも欠け、とても景気対策とは言えないのである。特に名目の短期金利は下がるところまで下がっており、政策としてはこれ以上下げることは不可能である。
    橋本総理が、米国や世論の要請を受けて行なった「特別減税」がみじめな結果に終わったのも、この表の数値を見れば、納得できることである。米国やIMFは日本の実情をよく理解しておらず、要求する政策も「減税」が中心であった。どうも米国などの主張は、日本のマスコミの論調にも相当影響をうけていることが考えられる。また欧米と日本では景気対策に大きな違いがある。これについては本誌3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」を参照願いたい。そもそも米国では、公共投資は州政府が行なうものであり、連邦政府には景気対策としての「公共投資」と言う発想すらないことが考えられる。日本の経済学者の多くも米国に留学したり、米国の教科書で勉強しているため、同様に「公共投資による景気対策」に違和感を感じるのだろう。
    冒頭に述べたように景気対策には色々意見がある。現在有力な案は10兆円の財政支出と6兆円を超える減税の組み合わせである。筆者が注目するのは「10兆円の財政支出」である。減税については特に効果を期待していない。しかし、「10兆円の財政支出」だけを行なうにはまだ世間には抵抗も大きいのであろう。つまり、筆者は、減税は「10兆円の財政支出」をスムーズに行なうための必要経費と理解している。既に決着がついているはずの議論を繰り返すには時間がないのである。

景気対策については、これまで「公共投資」は無駄と言うのが定説であり、マスコミは「減税」を強くを主張していた。各種のアンケートでも、景気対策として「公共投資」を推す声は皆無に近かった。銀行に関しても、公的資金の投入はタブーに近かった。しかしここに来て、「公共投資」でも都市型の公共投資は良いのだと言う声がようやく出てきた。また、破綻前の銀行にも公的資金を投入することを容認する声が確実に大きくなってきた。たしかに雰囲気と言おうか、「空気」が変わってきたのである。日本においてはこの「空気」が政策決定に重要なのである。来週号ではこの「空気」について述べてみたい。




98/10/19(第86号)「為替レートの今後のトレンドを考える」
98/10/12(第85号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその3」
98/10/5(第84号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその2」
98/9/28(第83号)「経済の「あいまいさ」を考えるーーその1」
98/9/21(第82号)「為替レートのトレンドを考える」
98/9/14(第81号)「バブルの清算と公金投入を考える」
98/9/7(第80号)「公金投入の整合性を考える」
98/8/31(第79号)「政治と経済の混乱を考える」
98/8/10(第78号)「今回の不況の原因を考える」
98/8/3(第77号)「新政権の人事を考える」
98/7/27(第76号)「小淵新自民党総裁誕生を考える」
98/7/20(第75号)「橋本総理退陣を考える」
98/7/13(第74号)「マスコミの驕りを考えるーーその2」
98/7/6(第73号)「マスコミの驕りを考えるーーその1」
98/6/29(第72号)「参院選と経済を考える」
98/6/22(第71号)「為替介入の背景を考える」
98/6/15(第70号)「橋本総理と円安を考える」
98/6/8(第69号)「日本の金融を考える」
98/6/1(第68号)「経済への関心を考える」
98/5/25(第67号)「世論と経済政策を考えるーーその2」
98/5/18(第66号)「世論と経済政策を考えるーーその1」
98/5/11(第65号)「アンケートと経済政策を考える」
98/5/4(第64号)「今回の景気対策を考える」
98/4/27(第63号)「消費の限界を考えるーーその2」
98/4/20(第62号)「消費の限界を考えるーーその1」
98/4/13(第61号)「恒久減税を考える」
98/4/6(第60号)「今回の自民党の景気対策を考える」
98/3/30(第59号)「米国の対日経済要求を考える」
98/3/23(第58号)「新日銀総裁の就任を考える」
98/3/16(第57号)「今回の不況の深刻さを考える」
98/3/9(第56号)「日米の景気対策を考える」
98/3/2(第55号)「日経新聞と経済を考えるーーその2」
98/2/23(第54号)「日経新聞と経済を考えるーーその1」
98/2/16(第53号)「貸し渋りと景気を考える」
98/2/9(第52号)「政治と経済を考える」
98/2/2(第51号)「官僚と経済を考える」
98/1/26(第50号)「「小さな政府」を考えるーーその3」
98/1/19(第49号)「「小さな政府」を考えるーーその2」
98/1/12(第48号)「「小さな政府」を考えるーーその1」
97/12/22(第47号)「需要不足の日本経済を考える」
97/12/15(第46号)「景気の現状と対策を考えるーーその8」
97/12/8(第45号)「景気の現状と対策を考えるーーその7」
97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」
97/11/24(第43号)「景気の現状と対策を考えるーーその6」
97/11/17(第42号)「景気の現状と対策を考えるーーその5」
97/11/10(第41号)「景気の現状と対策を考えるーーその4」
97/11/3(第40号)「景気の現状と対策を考えるーーその3」
97/10/27(第39号)「景気の現状と対策を考えるーーその2」
97/10/20(第38号)「景気の現状と対策を考えるーーその1」
97/10/13(第37号)「市場の心理を考える」
97/10/6(第36号)「公共事業とマスコミを考える」
97/9/29(第35号)「リクルート事件と経済を考える」
97/9/22(第34号)「ロッキード事件と経済を考える」
97/9/15(第33号)「住宅と貯蓄を考える(その2)」
97/9/8(第32号)「住宅と貯蓄を考える(その1)」
97/9/1(第31号)「労働組合と経済を考える」
97/8/25(第30号)「競争時代の賃金を考える」
97/8/18(第29号)「米国経済の生産性の向上を考える」
97/8/11(第28号)「米国の景気を考える(その2)」
97/8/4(第27号)「米国の景気を考える(その1)」
97/7/28(第26号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その2)」
97/7/21(第25号)「内需拡大と整備新幹線を考える(その1)」
97/7/14(第24号)「香港返還と中国経済を考える(その2)」
97/7/7(第23号)「香港返還と中国経済を考える(その1)」
97/6/30(第22号)「日本の米国債保有を考える」
97/6/23(第21号)「投機と市場を考える」
97/6/16(第20号)「規制緩和と日米関係を考える」
97/6/9(第19号)「ビックバンと為替を考える」
97/6/2(第18号)「内需拡大と公共工事を考える(その2)」
97/5/26(第17号)「内需拡大と公共工事を考える(その1)」
97/5/19(第16号)「金利と為替を考える」
97/5/12(第15号)「規制緩和と景気を考える」
97/5/5(第14号)「為替の変動を考える」
97/4/28(第13号)「日本の物価と金利を考える(その2)」
97/4/21(第12号)「日本の物価と金利を考える(その1)」
97/4/14(第11号)「日本の土地価格を考える」
97/4/7(第10号)「当マガジン経済予測のレビュー」
97/3/31(第9号)「日本の株式を考える」
97/3/24(第8号)「たまごっちと携帯電話を考える」
97/3/17(第7号)「政府の景気対策を考える」
97/3/10(第6号)「オリンピックと景気を考える」
97/3/3(第5号)「為替レートの動向を考える(その2)」
97/2/24(第4号)「為替レートの動向を考える(その1)」
97/2/17(第3号)「日本の金利水準と為替レートを考える」
97/2/10(第2号)「国と地方の長期債務残高を考える」
97/2/1(第1号)「株価下落の原因を考える」「今後の景気動向を考える」

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