経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/10/5(862号)
フォルクスワーゲンの排ガス不正問題

  • vw問題は現在進行中

    フォルクスワーゲン(vw)の排ガス不正問題が大きくなっている。本誌は15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」で、デイーゼル車が「エコ」と言われていることが奇妙であると指摘した。このことが発覚する5ヶ月前のことで、問題の先取りとしてはかろうじてセーフのタイミングである。

    ただvwの問題は現在進行中であり、なかなか取上げづらい面がある。vw首脳は早く決着を付けたがっているようであるが、問題はまだまだ広がりを見せる気配である。また他社にもこの問題が飛び火することが考えられ、そうなれば収拾のつかない事態となる。


    しかしさらなるvw問題の解明は、監督する当局の調査やマスコミの取材力に委ねる他はない。本誌が出来ることは、この問題が起った背景などを本誌流に解説し論点を整理することである。まず今回発覚した問題の元は乗用車に搭載されたデイーゼルエンジンである。昔はトラックなどの大型車だけに搭載されていたデイーゼルエンジンが、いつのまにか乗用車にも使われるようになっている。特に欧州では、自動車販売台数でデイーゼル車がガソリン車を上回るほどの人気である。

    デイーゼル車が売れるようになった第一の理由は経済性である。欧州でも軽油(デイーゼル)の方がガソリンより安い(日本は税金の関係で両者の価格差はもっと大きい)。またデイーゼルエンジン方がガソリンエンジンより力があり、これによってデイーゼル車は加速性に優れているだけでなく燃費が良い。

    したがって燃費の良いデイーゼル車が普通のガソリン車より、二酸化炭素の排出が少なく「エコ」と欧州では認識されている(もちろんハイブリッド車の方がさらに燃費は良いが)。特に2000年代に入り石油価格が高くなり、燃費が良いとされるデイーゼル車が「エコ」車としてさらに売上を伸した。


    しかしデイーゼル車がガソリン車に劣るところがある。まずデイーゼル車は、燃料の燃焼方法が異なりエンジンを頑丈に作るためコストが掛かる。しかしデイーゼル車メーカの言い分としては、燃費が良いので数年でペイできると言っている。

    もう一つのデイーゼル車の大問題が排ガスである。デイーゼル車の問題となる排ガスの成分として粒子状物質(PM2.5など)とNOX(窒素酸化物)がある。ディーゼルエンジンは粒子状物質を少なくするため完全燃焼(温度を上げる)を目指せばNOXが増え、反対にNOXを抑えようとすれば粒子状物質が増えるという関係にある。

    しかしここでもデイーゼル車メーカは、燃費を落とすことなく排ガスを清浄化する技術の開発に成功したという。この成果がクリーンディーゼル車ということになっている。デイーゼル車の排ガス浄化装置には高価なプラチナ(白金)とプラチナに比べ比較的安価なパラジウムを少し使う。これに対して通常ガソリン車の排ガス浄化装置は安価なパラジウムだけを使用している。ちなみにvw問題発覚後、プラチナの価格は下がりパラジウムの価格は上がっている(つまり商品市場はガソリン車に需要がシフトすることを織込んでいる)。


    フォルクスワーゲン社は、排ガスの検査中は排ガスを浄化装置を通し、実際の走行中は排ガス浄化装置を回避させるプログラムを組込んでいた。しかしここからの話の結論がまだ曖昧なままになっている(この辺りは専門家も半分憶測で話をしている)。排ガス化装置を通すと出力が低下し燃費が悪くなるのか、あるいは排ガス浄化装置を通すと浄化装置の劣化(白金触媒の活性が低下)が進み頻繁に高価な装置の取替が必要になるのかがはっきりしないのである。

    場合によっては、これらの両方(燃費悪化と浄化装置の劣化)が起ることも有り得る。vw社は1,100万台のリコールに直面している。しかしリコールと言っても難しい。排ガスプログラムの修正だけということにはならない。もし燃費の悪化や排ガス浄化装置の劣化が伴うのなら大きな問題が残ることになる。もっとも本当にクリーンディーゼルのメカニズムの開発に成功しているのなら、それに取替えるという手段はある。しかし本当にクリーンディーゼル車の開発に成功していたなら、なぜ問題となったようなデイーゼル車を直近まで製造していたのか大きな疑問が残る。


  • デイーゼル車が「エコ」なはずはない

    11年以上前から筆者はこの種の問題を取上げ、04/6/28(第350号)「テロと中東石油」などで「欧州はディーゼル車の方がガソリン車より二酸化炭素の排出量が少なく「エコ」と間抜けたことを言っている」と指摘してきた。しかし古くは97/12/1(第44号)「京都会議と経済を考える」でも「ディーゼルエンジンがガソリンエンジンより逆に「窒素酸化物」の排出が多いとすれば、この施策は環境問題に逆行する可能性がある」と疑問を呈していた。つまり本誌にとってこのテーマは、18年間も拘わってきたものである。

    そもそも筆者は、二酸化炭素による地球温暖化説を疑っている。仮に地球温暖化の犯人が二酸化炭素としても、人間が排出する二酸化炭素が原因とは限らないと筆者は主張してきた。そのような論点をまとめたのが08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」」である。人間の排出した二酸化炭素の地球温暖化犯人説が一人歩きした結果、わずかに燃費が良いデイーゼル車の方がガソリン車より「エコ」と決め付けるような非常におかしな話が欧州では常識になっている。


    石油製品は原油を精製した炭化水素の連産品である。原油を精製すると炭素原子が一つの物から、炭素原子が十を越える石油製品まで同時に製造される。常温では炭素原子数1〜4個はガス状(メタン、エタン、プロパン、ブタンの順番)であり、5個以上のガソリン、灯油、軽油、重油(ガソリンは炭素原子数は一番少なく比重も小さい)は液状である。さらに炭素原子数が多いアスファルトやピッチは流動性に乏しかったり固体である。

    一般に炭素数の少ない軽い炭化水素ほど不純物を除去し易く、クリーンな燃料と認識されている(例えば主成分がメタン、エタンのNLGによる発電はクリーンと認識されている)。同様に同じ液状の燃料でも、昔から最も軽いガソリンがクリーンとされてきた。ところが二酸化炭素の地球温暖化犯人説が登場してから急に、ガソリンより軽油(デイーゼル)の方がクリーンで「エコ」という奇妙な説が広まったのである。

    したがってこの説によればメタン・エタンと軽油がクリーンで、ガソリンは一番ダーティーということになる。それなら一層のこと軽油より重い重油やアスファルトを燃料にした車を開発した方が、もっと「エコ」ということになりかねない。実際、大型船は重油を燃料に航行しているのであり、重油でも車は走るはずである。


    今回のvwの排ガス不正問題騒動で筆者が奇妙に思うのは、デイーゼル車の問題としてNOX(窒素酸化物)だけが取上げられていることである。もう一つの汚染物質の粒子状物質(PM2.5など)の方はほとんど触れられていないのである。中国の大気汚染物質が問題となっているが、これは粒子状物質(PM2.5など)によるものである。

    さらにPM2.5より小さな粒子状物質であるPM0.5やPM0.1といったものが、近年、深刻な健康被害を引き起すと問題になって来ている。つまり粒子状物質に関して環境基準の見直しがなされる可能性が出ている。もしvwの排ガス不正問題をきっかけに粒子状物質の環境規制が強化されれば、デイーゼル車は完全にアウトとなる可能性がある。

    実際、15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」で取上げたように欧州の大都市でも粒子状物質(PM2.5など)の大気汚染が問題になってきている。パリなどでは「ディーゼル車を禁止しろ」という声まで出ているという。たしかに欧州の粒子状物質よる大気汚染の犯人がディーゼル車と判明したわけではない。しかし日本のマスコミがこれらに触れないことがむしろ不思議である。


    欧州がデイーゼル車に傾斜したのは、ハイブリット車の開発で日本に遅れをとったからという話がある。そしてこれに使われたのが、怪しい人類が排出する二酸化炭素による地球温暖化説と筆者は思っている。ところでvwの排ガス不正問題がどれだけ広がるか現時点では不明である。おそらく問題が深刻なだけに最後は政治的な決着になると思われる(かなりうやむやの決着)。しかし筆者は、将来、「2000年代の初頭にはデイーゼル車はエコと勘違いされていた」といった話になるような気がする。少なくともハイブリット車の開発に進んだ日本は正しかったと筆者は考える。



9月29日日経新聞夕刊のウォール街ラウンドアップがスイスの資源大手(資源商社)グレンコア社の株価が28日に急落したことを取上げている。ちなみにこれが影響してか当日の米ダウは312ドルも下落した。商品市場も同社が資金確保のため、資源商社が資産圧縮を行うという思惑から下げ圧力が掛かっている。

グレンコア・エクストラータ社は15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」で取上げた資源商社の一つである。さらに15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」で「高値で原油を買った投資家や資源商社など、さらに産油国(供給増の話にも繋がる)が、資金繰りに窮して原油の投売りを始めるかもしれない」と筆者は警告したつもりである。もし同社が経営破綻ということになれば、世界経済に与える影響はかなり大きい。今週号のデイーゼル車問題のように問題先取り精神の本誌であるが、今のところ本誌が取上げてから半年くらい経って現実が追い付いて来るようである。

筆者のパソコンは相変わらず調子が悪く、来週号を発信できるか心配である。これもあって来週のテーマは未定である。




15/9/28(第861号)「今回の安保騒動」
15/9/21(第860号)「数年後、中国はIMFの管理下に?」
15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」


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