経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




15/9/21(860号)
数年後、中国はIMFの管理下に?

  • 中国リスクの本質

    中国に関し、様々なリスクが大きくなっている。リスクの一つが中国経済の減速である。これまでのような高度経済成長が難しくなったことが明らかになっている。中国経済の長期低迷によって資源価格が下落し、これが世界的なリスクの一つとなっている。中国経済の減速を示す数値が公表される度に、世界中の株価が少なからず影響を受けている。

    しかし中国経済の減速は予想されていた慢性的なリスクであり、今日、もっと重大で差迫った危機が別にあると筆者は考える。経済の減速ばかりに関心を持つようだと、むしろ今日の中国リスクの本質を見誤ると思う。ましてや中国には構造改革(国有企業の整理統合など)が必要といった構造改革派が好むような議論は、まさに的外れと考える(構造改革派は、構造改革で全ての問題が解決すると思い込んでいるバカ者の集まりである)。


    本誌は、15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」で、中国が外貨の資金繰りに窮しているのではないかという大胆な仮説を提示した。筆者は、中国にとっての差迫った最大のリスクとはこのことと思っている。

    毎月、大きな貿易黒字・経常黒字を続けているのに、中国の外貨準備高は減り続けている。8月も米国債券を相当売却したようである。中国が外貨の資金繰りに窮していることを、このことが示していると考える。つまり自国通貨の下落を必死にくい止めようとしている他の発展途上国と、中国は同じ立場に陥っていると見られるのである。


    ところで10/7/19(第624号)「中国の日本国債購入」で取上げたように、外貨準備が急増した2010〜11年に、中国は日本の国債や株式をかなり買っていた。ピーク時の日本国債保有額は20兆円を越えている。ところが13年辺りから日本国債を売却し始めたと推測される。ちなみに中国の日本国債の保有額は12年12月が20.5兆円で13年12月が14.3兆円である。ただし直近の保有額のデータを捜したが見つからない(話題にもならないところを見ると、中国は日本国債をほとんど処分したものと筆者は思っている)。

    また中国は、最近まで日本の有力企業の株式を政府系ファンド「0DO5オムニバス」を通し4〜5兆円保有していた。ところが今年の3月末の各企業の株式名簿から「0DO5オムニバス」の名が全て消えたのである。たしかに中国の場合、保有有価証券の名義を他に換えるという話をよく聞く。例えばルクセンブルクのファンドに名義を換えるといった具合である。しかし米国債まで処分しているところを見ると、まず日本株などの外貨資産を片っ端から処分したと見た方が正解のようである。


    筆者は、中国の外貨の資金繰りが苦しいという前提で話をしている。仮にこれが本当なら、そうなってしまった原因を探る必要がある。筆者は、資金流出に加え、中国には膨大な隠れ借金があるのではないかと推理する他はないと思っている。もし隠れ借金があるのなら追求する必要があるが、残念ながら相手が中国ということなので正確な事情は不明である(ひょっとすると地方政府が借りている?)。

    15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」で、日本の財務省公表の数字から、中国の政府と民間の対外負債を244兆円と算出した。この計算では、14年末の中国の対外純資産残高は214兆円ということになる。ところが中国の対外負債は、そんな程度ではなく500〜600兆円という説が飛出している(つまり前述した隠れ借金は250〜350兆円という計算になるが、ちょっと大き過ぎる気もするが)。とにかくこの話が真実に近いなら、中国の対外純資産残高は、214兆円ではなく完全にマイナスということになる。ましてや中国の外貨準備高に闇に消えた2兆ドルが含まれている可能性を考えると、中国の実態は大借金国ということになる。

    まず中国は、今日、国外への資金流出に直面している。さらに膨大な借金の返済に迫られていると筆者は見る。中国の今年の経常黒字額は40兆円(3,300億ドル)と予想されている。たしかにこれはドイツを抜き世界一である。それにも拘わらず外貨の資金繰りが苦しいとしたなら、年間の中国国内からの資金流出額と債務返済額の合計は、40兆円をはるかに上回っていると考える他はないのである。


  • 人民元取引の自由化は「悪魔の囁き」

    中国の金融システムが分かりにくいことも中国リスクの一つである。最も分かりにくい話の一つは「中国人民銀行が金融緩和を行うと、市場にとって逆に金融引き締めになる」といった現象である。「そんなばかなことがあるか」と、さすがにこの話は筆者もよく理解できなかった。ところがこれは中国で現実に起っていることなのである。

    唐突な8月の人民元切下以降、中国の株式市場などが動揺したため人民銀行は政策金利や預金準備率の引下げなどの金融緩和を行った。ところが、今日、人民元には先安感が生まれている。人民元が将来安くなるのなら、今のうちに人民元で借金した方が得と人民元の需要が増え、銀行間の取引金利が上昇したというのである(一時的に翌日物金利が10%まで急騰)。もちろん借金で調達した人民元は、いずれオフショア市場で外貨に換金されるものと考えられる。


    中国人民銀行は、昨年辺りから政策金利や預金準備率の引下げなどの金融緩和を行ってきたことになっている。ところが中国のマネタリーベース(発行通貨と人民銀行への銀行の預け金)が、今年の3月以降、減り続けているという話がある。どうも表面的には金融緩和を実施しているようであるが、反対に資金の海外流出を警戒し引締めている可能性さえ見受けられる。

    実際、3月まで1%であった銀行間の翌日物金利が8月には3%まで上昇している。さらに中国の場合難しいのは、人民元の供給増を外貨の流入額に見合った額に抑えていることである。したがって中国に外資(外貨)が大量に流入していた時代には、市中に資金が大量に供給されていた。ところが逆に中国からの資金流出が起ると、自然と資金不足が起るといったメカニズムである。

    つまり中国政府(人民銀行)が意図したかどうかに拘わらず、国外への資金流出が起れば自動的に金融が引き締ると見られるのである。つまり「金融緩和=将来の人民元安」という市場の認識が、金融緩和の効果を消すと筆者は理解する他はないと思っている。ところで筆者は、日本にはセーニアリッジ政策(政府紙幣発行や日銀の国債買入れによる調達資金によって財政支出を増大)が必要とずっと訴えて来た。しかし中国でこれをやると、たちまち資金流出が起って外貨不足を招くことになると筆者は見ている。


    香港のオフショア市場の人民元の短期預金金利は、5%台から4%台まで下がっている(以前はもっと高かった)。発展途上国の中には中国より金利が高い国はあるが、先進国では預金金利はほぼゼロまで下がっている。したがって米国を始めとした諸外国からの圧力によって人民元高が続いていた時代は、2010年に開設した香港オフショア市場に膨大な資金が集った金利が高く、かつ人民元に先高感があったのだから当然の資金の流れである

    この大量の資金が中国本土に流入し、不動産バブルを加速させたと考えられる。ところがこの資金の流れが逆転し始めたのである。ただ預金金利が下がり人民元に先安感があるのならば、これは自然な流れである。


    筆者は、中国の経済政策は八方塞がりにあると考える。輸出力を強化するために人民元を切り下げると資金流出が起る。逆に資金流出を防ごうと人民元を高く維持しようとすると、設備投資が抑えられ経済は失速し、さらに輸出競争力を失うのである。

    中国の首脳部も混乱しているようである。次々と政策を打出すが、それが裏目となって中途半端なまま中断されるといった具合である。また政権上層部には改革派と反改革派がいて、意見はまとまらないようである。筆者は、そもそも人民元を国際通貨にしようという試みが間違いの始まりと思っている。


    人民元が国際通貨として認知されるには、人民元取引の自由化が必要という欧米先進国の声が、結果的に「悪魔の囁き」だったのではないと筆者は見ている。この声にほだされて中国は香港にオフショア市場を開設した。オフショア市場を開設した2010年は、まさに11年から5年間のSDR算出基準を決定する年であった(つまりSDR採用通貨の比重を決める)。オフショア市場開設は明らかにこれを意識した施策と筆者は理解する。しかし人民元自由化のためのこのしゃれた政策が、中国の躓きの元となった可能性がある。

    中国からの資金流出は止まっていないようである。ただ中国はまだ大量に米国債を保有しているので、後1年は大丈夫と考える。しかし2年後、3年後となると、筆者もよく分らない。最悪のケース、中国はIMFの管理下に置かれているか、あるいはIMFの管理下に置かれてもしょうがない状態になっているかもしれないと筆者は大胆に予測する。軍拡とこの外貨の資金繰り難こそが最大の中国リスクと筆者は思っている。出鱈目なデマを飛ばすなと言われそうであるが、自分から言うのは躊躇されるが、不思議と本誌の将来予想は当っていることが多いのである。



来週はようやく成立した安保法制を取上げる。




15/9/7(第859号)「中国の為替戦略の行き詰り」
15/8/31(第858号)「唐突な人民元の切下」
15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
15/8/10(第856号)「鰯の頭も信心から」
15/8/3(第855号)「個別的自衛権だけなら国連からは脱退」
15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインパクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
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14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
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14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
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14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
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14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」


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