経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/8/31(858号)
唐突な人民元の切下

  • 投機資金の流入と流出

    人民元の切下や中国株価の暴落など、連日、中国の出来事が世界を驚かしている。これらに対し識者が色々と解説したり論評しているが、もう一つ説得力がないのが現実である。たしかに中国では情報が統制されていて、外国人が分析に必要な情報を入手することが困難である。それどころか中国の主脳でさえ、自国の情報を正確に掴んでいるか怪しいと筆者は思っている。

    中国に関しては、14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」で「比較的信頼できる経済数字を基に、全体を推理する他はない」と筆者は述べた。この難しい状況は、今日になっても少しも変っていない。また中国は一党独裁の中央集権の国ということになっている。しかし中国の実態は、反対に権力と情報がかなり分散されていると筆者は認識している。


    世の中には、中国通とか中国の専門家と呼ばれている人々がいる。中にはかなり確度の高い個別の情報を中国から得ている者もいる。しかしそのような人々でも物事が中国全体に及ぶと、いつも適切な分析ができているとは限らない。

    中国の当局も、漏れては困る情報の流出に神経を尖らせている。まずマスコミ関係者の入国や活動がチェックされている。したがって仮に確度の高い情報を得ても簡単には記事にできない。文芸春秋8月号に読売新聞の元中国駐在員の加藤隆則氏が「習近平暗殺計画」という記事を書いている。最近の党幹部や官僚の粛正・追放劇を見ていると、なんとなく納得の行く内容である。加藤氏は、読売新聞では記事にできなかったので、会社を辞め文芸春秋に投稿したのである。

    このようにこと中国に関して、日本のメディアもまさに13/2/18(第744号)「群盲象をなでる」状態である。この困難な状況でも人民元や中国株価などについて、分析や今後の推移を予測する必要がある。しかしこれにはやはり推理小説を読むような方法しかない。この方法の一つとして、中国全体の資金の流れを見ることが有効と筆者は考える。特にリーマンショックの2年後の2010年以降の資金の流れが重要である。


    08年のリーマンショック後の数年、新興国の中で比較的に順調な経済成長を続けて来たのは中国だけであった(ただし中国政府公表の経済成長率は最近多少下がっているが)。これには4兆元の経済対策(国が1兆元、地方が3兆元)が効いたと考えられる。また10年以降、海外(特に香港経由)からの大量の資金(つまり外資)の流入があったことも影響したと筆者は見ている。ただし中国に流入した外資は、投機的な性格を帯びていたことに留意する必要がある。この投機資金(ホットマネー)が、少なからず中国の実態経済に影響を与えてきた。

    海外から投機資金(外資)は、設備投資だけでなく多くが不動産投資に向かった。不動産投資としては、直接の不動産取得の他にシャドー・バンクや理財商品(銀行が取扱う高利回り投資信託)などを経由したと見られる。


    中国では地方政府が中心になって不動産開発を行ってきた。しかし地方政府は、地方債の発行が厳しく制限されていたので(今日になって多少緩められた)、傘下の融資平台を通じて資金を調達した。そしてこの融資平台がデベロッパーとなって不動産開発も行ってきた。つまり地方政府が主体となって不動産開発業を営んできたのである。

    融資平台は、正規の銀行融資に加えシャドー・バンクや理財商品で資金を調達した。特に中国の場合、正規ルートである銀行の金利が低いため、資金はこれらの不正規ルートに流れやすい。この資金は中国国内勢の資金に加え外資(おそらく香港経由)によって膨らんだ。この外資(ホットマネー)の規模は大きく、結果的に中国の不動産価格を押上げることに大きく貢献した。

    ところが不動産市場崩壊に伴い外資は逃げ始めたと見て良い(もちろん外資が逃げたから不動産市場が崩壊したとも言える)。不動産市場から逃げた資金の一部は、株式市場に流入し株価の上昇を演出した(2000ポイントから5000ポイント超までの上昇)。しかし中国の株価の推移を見れば分るように、既に大半の外資はこの株式市場からも逃げている。つまり利益を求める外資にとって、もはや中国国内に止まる意味はなくなったのである。


  • SDR採用への執着が原因?

    唐突な人民元の切下が話題になっている。これに対して、輸出促進による景気対策とか、本誌のような外貨の調達という見方が出ている。たしかに結果的に不十分ながらこれらも達成したことになる。しかし中国当局の本当の狙いは、オフショアとオンショアの人民元相場の調整という説が出ている。

    人民元は、オンショワである中国国内市場とオフショアである香港市場で取引されている。オンショワでは人民銀行が基準値を設け一定の変動幅で取引されている。人民銀行はこの基準値を動かすことによって為替を操作している。

    一方の香港のオフショア市場は2010年に開設され、比較的自由に需給を反映した取引がなされている。これまでオフショアとオンショアの人民元相場は互いに連動して動いて来た。ところが最近になって、オフショアの人民元は、オンショワより2%ほど安い状態が常態化していた。つまり人民元の需要が減退していて、人民元に二重価格が生じていたのである。


    ところで15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」で述べたように、中国はIMFに人民元をSDR(特別引出権:Special Drawing Rights)に採用するよう強く要請している。今のところ米国が難色を示しているが、IMFの執行部はSDR採用に前向きである。ただしIMFはその条件の一つとして、かねてから人民元の二重価格の解消を求めていた。

    つまり今回の人民元の切下は、この二重価格の解消が目的だったとも言えるのである。ところが大きな貿易黒字を続けている中国が、為替を切下げるたことに対して国際的な批難を浴びた。特に人民元の切上げを求めて来た米国の反発が大きい。この海外からの圧力が効いたのか、中国はたった3日間で切下介入を中止した。

    また人民元の切下は、世界同時株安の一因となった。世界はそれほど中国経済が悪いのかと捉えたのである。ただ世界同時株安の背景には、米国の利上げ懸念や人民元切下に続く中国株式の暴落の影響もある(もちろんヘッジファンドが活発に動き乱高下を増幅している)。ちなみに上海の株価の下落は、一応止まったように見られるがまだ2〜3割程度は下がる可能性があると筆者は見ている。


    ところで米国などからの圧力で、以前、中国は事実上人民元高を半ば約束させられた。これにより人民元が将来確実に高くなることが見越され、投機性を持つ外資が2010年頃から中国にどんどん流入したのである(これによって中国の外貨準備高は急増した)。前述したようにこの資金が中国の不動産ブームを加速させた。このように外資の流入は人民元高と一体であった。

    今日、この動きが逆転し始めたのである。そして人民元の切下はこの動きを加速させる。将来人民元が安くなるのなら、当然、投資家は人民元を保有していると損をすると考える。もし切下の目的が人民元のSDR採用ならば、とんだ不測の事態を招いたことになる。


    また当局の思惑はさらに外れ、オンショア(国内)で人民元を切下げたが、オフショア(香港)ではさらに人民元が下がったのである。つまりIMFのSDR採用の条件を満たすには、一段の人民元の切下が必要になった。したがって当局があくまでもSDR採用に執着するようだと、さらなる切下が有り得るという話である。

    オフショアの人民元がオンショワより安いことが常態化していることから分るように、中国から資金が逃げ出しているのである。外資だけでなく、中国国内勢からも資金を海外に移そうという動きが大きくなっていると伝えられている。つまり中国の当局は本当に難しい局面に置かれている。

    ところが当局の当事者能力の方が怪しい。政策が、中途半端であったり、チグハグなことが続いている。また中国ではどこの誰が個々の政策を実際に決定しているのかさえさっぱり分らない。少なくとも習近平主席ではないことは確かなようである(習近平主席は方針を出すだけ)。しかしこのような混乱は中国という国の実態をよく表していると筆者は思っている。



来週号は、今週の続きである。本当に中国という国は分らない国であり、その意味で危ない国とも言える。

8月29日の日経夕刊のウォール街ラウンドアップは、中国人民銀行が2週間で1,000億ドルの米国債券を売ったという噂を載せている。売った債券は米国債ではなく政府機関債や住宅ローン担保証券(MBS)という。米国債の売却だと目立つからという推理が成立つ。米債券売却について、人民元防衛のための介入資金として米ドルが必要になったという憶測が流れている(中国から資金が逃げ出しているから)。ことの真偽はいずれはっきりするであろう。




15/8/24(第857号)「改めてメガ・フロートを提案」
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15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
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15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
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15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
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15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
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15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
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15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
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