経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/8/3(855号)
個別的自衛権だけなら国連からは脱退

  • 憲法と自衛隊の関係の矛盾

    安保法制の改正は、戦後、何度も実施されて来た。しかしその度に国会は荒れ政権に逆風が吹いた。出来るなら政権を担う者にとって避けたい政治課題である。今回、安倍政権は支持率を落としながら法案の成立を目指している。むしろ安倍政権は、支持率がある程度低下することをやむを得ないと割切っている。

    ある意味では腹を括っていると言える。しかしこのような重要法案を通すにはそのような心構えが必要と筆者は思っている。ただ今回は、支持率の下がり方は想っていたより緩やかと筆者は感じている(マスコミが騒いでいるほどには下がっていない)。それにしても、昨年、消費税10%への増税を取り止めたことは本当に大正解であった。


    安保法制の改正はいつも国民のはっきりとした支持が得られない。今回も15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」で、「「今国会での成立に賛成」はメディアによって25〜30%程度である。また「安保法案に対する政府の説明が十分かという問いに対しては、「十分」が10%程度と一段と低くなる。」と述べた。そして筆者は、政権・与党がどれだけ丁寧に説明しても、これらの数字が上がることはないと言ってきた。

    ちなみに憲法第9条含みの憲法改正に賛同する者は30%程度であり、憲法改正はとても無理と筆者はずっと言ってきた。ところがこのように評判の悪いはずの安保法制の改正であるが、与党は次の選挙では負けない(逆に大勝している)。今回も安倍政権の支持率は少し下がったが、自民党の支持率は変らない。むしろ安倍政権を攻めている民主党の支持率の方が下がり気味である。

    そこで今週は、どうして安保法制に手を付けることに国民が大きな抵抗感を持つのかを筆者なりに考えてみる。筆者は単純にマスコミ報道が悪いといった話ではないと思っている。また不思議なことに重要なこの種の分析や研究は、ほとんど誰もやって来なかった。


    まず大きな原因は、「憲法」と「自衛隊」、あるいは「憲法」と「日米安保条約」の関係と筆者は見る。まず憲法は、学校教育(教科書)で法体系の中で最高位のものであり、決して冒してはならないと徹底的に教えられている。特に現行憲法の中で最重要なのが「戦争放棄と戦力を保持しないこと」を唱った第9条である。

    ところが同じ教科書に武力行使を目的とする自衛隊の説明がある。教科書で勉強したほとんどの学生は、これこそ矛盾と感じるであろう。ところがほとんどの国民は武力を持つ自衛隊の存在を認めている。つまり国民は、日本国憲法に自衛隊が矛盾していることをある程度は認識している。しかし現行憲法について考えることが一種のタブーになっていて、ほとんどの者は深く考えようとはしない。もし左翼思想の教師なら簡単に自衛隊の方が違憲と言い切るであろう。しかしそうではない普通の教師や人々で、学生に両者の関係を矛盾なく説明が出来る者はほとんどいないと思われる。


    人々は、憲法と自衛隊が矛盾していることを薄々認識しているのである。この矛盾を承知しながら自衛隊という存在をほとんどの人々は肯定し受入れて来た。しかし憲法と自衛隊の関係を正面から考えることは人々にとってストレスとなる。

    ましてや安保法制の改正となれば、これまで自分でどうにか納得してきた両者の関係がまた変化することになる。つまりこれによって憲法と自衛隊の矛盾に対するストレスがさらに増幅されることになる。安保法案に対する政府の説明が十分と答える割合が10%と異常に低い最大の原因は、この憲法と自衛隊の関係の矛盾と筆者は見ている。通常ならそのような法律を通すことは問題であろう。しかし必要な法案ならそのような状況でも成立させることが政府・与党の責務と言える。当然、反対する者は法案の違憲性の判断を最高裁に求めることになる。

    はっきり言えば、護憲派や憲法学者が何と言おうと日本国憲法の方に問題があると筆者はまず訴えたい。15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」で説明したように日本国憲法の成立ちはデタラメであった。しかし現行憲法は、進駐軍の占領政策を進めるために作られた暫定の憲法であったから、このデタラメさが許容されたのである。本来ならサンフランシスコ講和条約が発行した時に破棄し、日本は自主憲法を制定すべきであった。しかし当時の日本政府は経済を優先したため新憲法の制定を怠ったと言える。さらに左翼運動が盛上がったため、憲法改正でさえ事実上不可能になった。


  • 主張の前提条件は明らかにすべき

    安保法制の改正が国民に理解されない二番目の原因は、議論する者が自分達の主張の前提条件を明らかにしないことである。これについては10/5/31(第617号)「議論の前提条件」で取上げた。互いに前提条件を隠しながら議論をするなら、百万年間議論しても結論に達しないのである。今回の安保法制の改正論議も、この議論のパターンが踏襲され神学論争に陥っている。

    おそらく今回も参議院が時間切れとなって採決が行われ法案は成立すると見られる。国民の理解を得ないままの議論が続き、最終的に結論が出るということになる。しかしこのように論議方法に問題があっても組織を守るには有効に働く。例えば民主党が議論の前提を明らかにすれば、党内から異論が噴出し民主党は分裂に陥る可能性がある。


    今回の安保法制の改正の議論の参加者は、大きく分けて政府・与党、民主党、その他の野党、そして憲法学者などの護憲派の四つになる。ただ憲法学者などの護憲派は、個別的自衛権や自衛隊までも違憲と言っているほどであり、全く話にならないのでまず除外する。したがって「ほとんどの憲法学者は安保法案を違憲と言っている」と野党やマスコミが彼等の言葉を引用することがばかげてる。先週号の朝日のアンケートを用いて説明したように、日本の憲法学者は学者ではなく異常な思想を持つ政治活動集団である。

    また民主党を除く野党も、言っていることがはっきりしないので取りあえず外す。したがって安保法制論議は、実質的に政府・与党と民主党の両者で行われていると割切れる。まず政府・与党は、今回の改正論議で割と自分達の法案の前提条件を明らかにしていると筆者は思っている。「憲法の解釈を変更し集団的自衛権も限定的に認める(最高裁の砂川判決が根拠と明言)」「日米の同盟関係を強化して抑止力を高める」「中国や北朝鮮の軍拡が脅威」といった具合である。いずれも過去の自民党政権ならタブー視し、はっきりとは言ってこなかった事柄ばかりである(今まで誤魔化してきた)。


    一方、民主党はいつものように主張の前提条件をはっきりさせない。一応、個別的自衛権と自衛隊を認めると言っているようであるが、自衛隊も認めない憲法学者の言葉を度々引用するなど自分達の考えをはっきりさせない。特に衆議院では、憲法学者・護憲派に近い党内左派の議員を前面に立て、無意味な論争(徴兵制など)に政府・与党を引込んでいた。つまり最初から民主党は真面目に議論をするつもりがなかったのである。

    しかし15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」で述べたように、「民主党は政権時代に日米安保条約を認めてきたのだから、集団的自衛権を全面的に否定することはできない」と筆者は認識している。ましてやおもいやり予算額(1,800億円余り)を5年間現状維持で米国と確約したのは民主党政権(菅政権)であった。今になって集団的自衛権を絶対に認めないなんて、民主党は本当に記憶力のない者達の集りである。


    自衛権を認める限り、これを個別的と集団的に分けることはあまり意味がない。自衛権を行使するに当り、他国と同盟関係を結ぶことが有効と見られるのなら、日本単独での防衛(個別自衛)にこだわる方がおかしい。ただたしかに集団的自衛権行使によって他国の戦争に巻込まれることを極端に嫌う国はある。唯一スイスである。

    スイスはまさに徹底的に個別的自衛権にこだわっている。スイスは、NATOはもちろんEUにも加盟せず、さらに国連にも加盟していない。国連の実態は、集団自衛を越え集団安全保障を目指す機関である。国際秩序を侵した国に対して、軍事を含めた制裁を行うのが国連である。この国連決議で白黒を鮮明にすることがリスクになると考え、スイスは国連に加盟しないのである。


    ところが日本は、喜んで国連に加盟し(国連加盟が認められた時には記念切手まで発行された)、平気でイラン、北朝鮮、そしてロシアへの制裁決議に賛成しそれらを実施している。つまり日本は集団的自衛権を飛び越え、既に集団安全保障体制にどっぷり漬かっているのである。

    もしスイスのように個別的自衛権にこだわるのなら、民主党は国連脱退を強く訴えるべきである(これは決して極論ではない)。また憲法学者は、個別的自衛権も認めていないのだから安保法制の改正を違憲という前に、自衛隊も「違憲」とはっきりと言うべきである。このような発言の前提条件を明らかにしない卑怯で横着な論客が、国民に混乱をもたらし安保法案を分かりにくくさせている。



来週は、安保法制の改正についての現時点でのまとめである。夏休み直前なので土曜日あたりにアップを予定。

本文でスイスが国連に加盟していないと話をしたが、10年前に加盟している(2002年に加盟を決定)。したがってこれは筆者の事実誤認であり謝罪する。ただスイスは国連機関の誘致には積極的であったが、スイス国民の多数が長い間、国連加盟に反対してきた歴史がある。つまりスイスも一歩普通の国に近付いたのである(そのうちEUにも加盟するかもしれない)。しかし個別的自衛権だけにこだわるのなら、以前のスイスのように国連にも加盟しないという方針の方が分かりやすい。




15/7/27(第854号)「時代に取残された人々」
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15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
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15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
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