経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/7/27(854号)
時代に取残された人々

  • 反安保の騒ぎは今回が最後

    今回の安保法制改定の動きに伴って、左翼や護憲派の言論活動が一時的に活発化した。しかし話のほとんどは根拠の無いデマであった。「戦争法案」や「徴兵制」などはその典型である。しかしデマと分っていても、いつものようにマスコミが面白がって取上げるので(マスコミは騒ぎが大きくなって発行部数が増えたり視聴率を稼げれば良いと思っている)、ある程度は国民の間に広がる。

    今回も左翼や護憲派のデマの中には荒唐無稽過ぎるものや、それをも通り越し思わず笑ってしまうものがあった。ある護憲派の大学講師の沖縄の離島での講演がネットで話題になっていた。彼は「中国の軍事費の増大が問題になっているが、これは中国の人口が大きいからである。一人当りの軍事費は米国より小さく、中国はまだ軍事大国とは言えない」とのたまった。

    これに対して「アラブ首長国連邦の一人当りの軍事費が米国より大きいから、アラブ首長国連邦は米国より軍事大国となるのか」といった突っ込みがあり、思わず筆者も笑った。またある論客は最近自衛隊機のスクランブル急増について「航空自衛隊が安倍政権にゴマをすって出動を増やしている。これまでならスクランブルを掛けなかったものまで自衛隊機がスクランブの対象にしている」と全く根拠のない話をしている。しかしこの程度のデマは今回の安保国会でも溢れていた。

    昔から左翼や護憲派のデマは定評がある。たしかに以前は、このようなデマでも国民にかなりの効果があった。「安保」と言えば、反射的に「反対」と普通の人々でも応えたものである。しかし時代が変り、左翼が退潮した今日、これらのデマはあまり相手にされていない。実際、筆者は、反安保のばかばかしい騒ぎは今回が最後になると見ている。後ほど取上げるが、朝日新聞などは既に方向転換を始めたと筆者は見ている。


    左翼や護憲派の一つの頂点に立つのが日本の憲法学者である。そして彼等の奇怪な発言が目立つ。6月4日の衆院憲法審査会で「集団的自衛権(つまり安保法案)は違憲」と表明した三名の憲法学者の中の一人が、午後のワイドショーに出演していた。安保法案の成立が確実になった段階であり、安保法制への今後の対処がテーマであった。

    この憲法学者は「我々は、新しい安保法制の違憲性の判断を最高裁に求めることを考えている」と答えた。そして彼はこれには三つの方法(手段)を考えているという。筆者が大いに注目したのが二番目に説明した方法である。


    彼は、安保法制の改定によって自衛隊の活動範囲が広がり、これに伴って自衛隊員に犠牲者が出ると想定している。犠牲者が出れば、遺族などを巻込み安保法制を改定した政府に訴訟を起こすことを考えているという。この訴訟の中で最高裁に安保法制改正の違憲性の判断を求めると、この憲法学者は得意げに話をしていた。

    まず犠牲となった自衛隊員の家族が、本当に訴訟を起こすかどうか分らない。しかし憲法学者を中心とした護憲派の人々は、人の不幸をネタに自分達の主張を世の中にアッピールするつもりなのである。つまりとんでもない「ヤカラ」である。このように日本の憲法学者は、目的のためなら手段を選ばないといった左翼特有の性格を持つ存在と筆者は思っている。さすが宮沢俊義教授といった卑怯者の遺伝子を引継いだのが今日の憲法学者である。


    先週号で述べたように、日本の憲法学者の中で客観的かつ学術的に憲法や日本国憲法を研究している者はほとんどいない。彼等が精力的にやっていることは、研究ではなく政治活動である。しかも日本の憲法学者には、かなり思想が片寄った者だけが残っている。また彼等の関心があるのは第9条だけである。

    国際情勢の悪化や日本の安全保障に不安が高まっている昨今である。今回の安保法制改定による日本の防衛体制の整備は当然のことである(特に米国軍の力に衰えが見える今日)。本来なら中国漁船の海上保安庁船への体当たり事件が起った2010年辺りから準備すべき法案であった。ところが民主党政権は何もしなかったのである。

    先週号の内閣府の国民意識調査で示したように、むしろ一般の国民の防衛意識の方が高まっている(近年、ほとんどの日本国民は自衛隊と日米安保を肯定的に見ていて、しかもこの比率が年々大きくなっている)。この結果、時代に取残されたのは、一部マスコミと過激な労働組合(日教組や自治労など)のOB(年金生活者)や反基地活動家、そして日本の憲法学者だけになった。


  • 朝日は左翼陣営から抜けた?

    前段で日本の憲法学者の異常さを紹介したが、この異常さを示すデータがさらにもう一つある。先週号で取上げた朝日新聞のアンケートの中に憲法改正の必要性を問う質問があり、憲法学者の105名の中で、何と99名が改正の必要性がないと答えたのである(実に94.3%)。まず15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」において、筆者は国によって憲法観が大きく異なることを説明した。

    一つは成文憲法を絶対と捉え一般の法律が憲法に逸脱することを許さないドイツやフランスなど、大陸派の国である。これに対して英米のような成文憲法を軽く見る一方で、判例を重視する国がある。このような国(英米派)は憲法改正にこだわらない。特に英国は成文憲法さえ持たない。日本の憲法学者は明らかに成文憲法を重視する大陸派である。日本は、憲法学者が大陸派であり教科書もこれに沿った記述であるが、現場での実際の法運用は英米派的である(これについては来週号で再び取上げる)。

    しかしドイツやフランスといった大陸派の国は、現実や環境の変化に合せるため当然のごとく憲法を頻繁に改正する。ところが大陸派のはずの日本の憲法学者は、実に94.3%が頭から憲法改正を否定しているのである。つまり日本の憲法学者は矛盾した考えの持ち主ということが明らかである。これから分るように日本の憲法学者は決して皆がイメージする学者ではなく、特定のイデオロギーに染まった政治活動家なのである。


    ところで朝日新聞が日本の憲法学者の異常さを証明するアンケート調査を行ったことに筆者は関心を持った。日本の新聞などの言論機関はある程度色分けされている。端的に言えば、最近まで朝日は左翼の代表格であった。実は今回の安保法制改正の動きが起って、朝日新聞がどのような報道姿勢で挑むのか筆者はずっと注目していた。

    昨年、朝日新聞は従軍慰安婦などのねつ造報道が明らかになって世間から叩かれた。この騒ぎが大きくなったため、月刊文芸春秋が朝日新聞と朝日新聞出版者の社員(20〜40才代)にアンケート調査を行い(最終的に18名が回答)、彼等の生の声を昨年の文芸春秋12月号に掲載した。筆者がその中で特に注目したのが40代の東京本社の編集局の社員の回答である。


    彼は「右派から朝日は組織ごと「左翼」のような攻撃を受けているが実際は違う」と話している。また「最近の二十代〜四十代までの記者に思想的背景などまずない」と言い切っている。また彼は誤報(筆者から見れば記事のねつ造)は、「左翼偏向」ではなく官僚主義がはびこる会社(朝日)で「手柄を上げたい」という欲求が原因としている。つまり朝日の記者は、左翼でもないのに左翼を装った根拠の薄い記事を書いてきたと筆者は理解した。したがって朝日はいつでも紙面の雰囲気を変えることが出来るということになる。

    たしかに1990年前後にソ連崩壊や天安門事件などが起り、社会主義・共産主義に幻想とシンパシーを持つ左翼思想が大きく退潮した。したがって二十代〜四十代は、これ以降に入社したのだから、左翼思想に染まっているはずがない。ただ逆に言えば、それ以上の年代には左翼思想に染まった者がかなりいたということになる。


    これまでの日本の左翼運動では、左翼思想の持ち主と社会活動家が結び付いていた。社会活動家とは、反戦・平和主義、反基地(反米)、反原発、反公害、女性解放などを訴えている者達である。昔、左翼運動家は日本が社会主義化すれば、恒久平和が訪れ公害や女性差別もなくなると主張していた。また彼等は、米国の核は「悪い核」であるが、ソ連や中国の核は「良い核」であると間抜けなことを平気で言っていた。

    ところが肝腎の左翼思想が大きく退潮したのである。こんな中で安保法制改正を各報道機関がどのように伝えるかが注目された。たしかに筆者は朝日新聞が変ったと感じた(ただ週刊朝日などは変っていないようである)。ネットのニュースやテレビで紹介している各新聞の見出しを見る限り、筆頭格の朝日が抜け、左翼陣営に残ったのは毎日新聞、東京新聞、そして共同通信だけになったと見られる。特に毎日とTBS系列の突出した左翼振りが目立っていると筆者は感じる。



来週は、何故、日本では安保法制が理解されず、安保法制の改正に支持者が増えないのかを考える。




15/7/20(第853号)「宮沢俊義という変節漢」
15/7/13(第852号)「「緊縮財政路線」はジリ貧路線」
15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
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14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
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14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
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14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
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14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
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