経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




15/7/13(852号)
「緊縮財政路線」はジリ貧路線

  • これまでのギリシャ関連コラム

    ギリシャの国民投票は、「EUの緊縮策受入れ」に反対する結果となった。筆者は15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」で、6月末までにはなんとかEUとギリシャの間で妥協が成立するのではないかと楽観的に見ていた。まさかの国民投票まで進み、しかも大差で「EUの緊縮策」を拒否する事態は予想できなかった。つまり選挙結果を見る限り、一見、チプラス首相とギリシャ国民は大きな賭に出たことになる。


    本誌は、09年10月にギリシャの債務問題が表面化した後、何回もギリシャ経済を取上げてきた。ギリシャの今日の状況を理解し今後の行く末を占うため、これらを今一度読み返してみる。最初が4年半前の10/2/22(第604号)「積極財政への雑音」で、「ユーロという共通通貨を使っているこれらの国々のバブル崩壊後の経済の推移に興味がある」とし、「各国政府が独立して経済政策を行っているのに、ユーロという統一通貨を使用していることの矛盾」を指摘した。ここで筆者はギリシャのユーロ離脱を示唆したつもりでいた。

    ところでドイツなどの欧州諸国は、08年のリーマンショック後から続けてきた経済対策の転換を模索していた。これに利用されたのがギリシャの債務問題であったと筆者は理解している。このことを10/7/5(第622号)「サミットの変質」で「ギリシアの財政問題に端を発し金融市場の混乱が起り、この出来事を利用して景気対策を縮小しようとした」と指摘した(実際、英国は増税まで行った)。

    驚くことに、当時、ECB(欧州中央銀行)は金融引締めに動いた。筆者はこれらが完全に間違った政策と述べたが、警告通り欧州経済は再び経済不振に陥った。その後、慌てて経済政策を再び転換させた。

    金融政策がまともになったのはECB総裁がトリシェからドラギに替わってからである。ドラギ総裁は、ドイツなどの反対派を押し退け、加盟各国の国債を買入れ始めた。このように観念論者が多い欧州諸国の首脳は、現実の経済をどこまで分っているのか不明である。筆者は欧州各国の首脳がほとんど経済の素人と見るが、ここは重要な点である。ちなみにこのサミット参加した菅首相は、何を勘違いしたのか消費税増税の検討を開始した。


    ユーロ諸国とギリシャの間では、金融支援とその交換条件となる緊縮財政受入れの協議が始まった。一方、欧州全体の金融市場の安定を目指した仕組、例えば欧州金融安定基金(EFSF)の各国出資分の信用枠の拡大(4,400億ユーロに拡大)などの整備が進められた(後に欧州安定メカニズム(ESM)に移行)。これらの様子を11/10/3(第680号)「現実論者VS観念論者」11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」11/11/14(第686号)「物事の本質」で紹介した。しかしギリシャに関し筆者は、これらの対策は単なる時間稼ぎであり、もし根本的な解決を目指すなら「ギリシャのユーロ離脱しかない」と結論付けた。

    とにかく筆者は、ギリシャに対するEUなど債権国の要求する対策を悲観的に見ていた。そのことは12/6/4(第710号)「ギリシャ化の話」12/6/11(第711号)「schole(スコレー、暇)の話」12/6/18(第712号)「世界中「展望がない」」で述べた。実際、ギリシャは金融支援を受けるため緊縮財政をかなり受入れてきたが、経済は低迷し失業問題は一向に解決していない。これが今回の「EUの緊縮策受入れ」に反対する国民の投票結果に繋がったと考えられる。


    民間金融機関が持つギリシャに対する債権(ギリシャ国債など)を各国政府が肩代わりした。これは民間金融機関のリスク低減し、金融機能を復活させることが目的であった。またECB(欧州中央銀行)は積極的に各国の国債を買入れし資金を放出した。ただECB(欧州中央銀行)の金融緩和だけでなく、世界的に金余りで資金が欧州の金融市場に舞戻った。

    この結果、14/6/2(第799号)「金利低下の背景」で取上げたように、欧州各国の金利は急速に低下した。ギリシャの国債利回りは、一時35%まで上昇したがこの頃には6.5%まで低下している。このようにギリシャの債務問題に端を発した欧州の金融市場の混乱は一応峠を越した。


  • ユーロ離脱しかない

    欧州の金融市場が落着くことによって、人々の関心はギリシャから離れた。しかし筆者は、ギリシャ経済の根本的な改善にはユーロ離脱が必須条件と考えていたので、逆に問題解決までにさらに時間を要することになったと思った。予想通り、EUやIMFなど債権団が突き付けた「緊縮財政路線」では、ギリシャ経済は一向に良くなっていない。むしろこれによってギリシャはジリ貧路線を歩んでいたのである。

    筆者は、11/10/17(第682号)「解決策はユーロ離脱か」で述べたように、4年前からギリシャはユーロを離脱した方が良いと主張してきた。チプラス政権の行動は、最終的にギリシャのユーロ離脱に繋がる可能性がある。しかしギリシャやチプラス政権がどこまで腹を括ったのか今のところ不明である。

    チプラス首相は、先日、EUの要求に譲歩する案を提示した。これにはギリシャの議会も賛同したが、「EUの緊縮策受入れ」に反対した国民は反発している。どうもチプラス首相の行動も一貫性に欠ける印象を受ける。またギリシャ側の譲歩案をEUやIMFなど債権団も呑む方向である。


    率直に言ってユーロ離脱はギリシャ国民にとって「茨の道」である。しかしEUやIMFが要求する「緊縮財政路線」によるジリ貧路線は、痛みは小さいが「茨の道」であることに変わりはない。筆者は同じ「茨の道」なら、将来に展望が見えるユーロ離脱を選ぶべきと考える。

    たしかにEUのギリシャに要求している改革案も全てが悪いわけではない。例えば公務員改革やコネ社会の是正などはギリシャにとって必要な政策である。ユーロを離脱するにしても、身綺麗になってから実行した方が良いことはたしかである。ギリシャにとって最も必要なのは、経済成長のための新規投資であり、これによって失業を減少させることである。しかしEUとの妥協案では、新規投資を喚起することは不可能である。


    財政破綻した国で復活を遂げた国には、アルゼンチン、ロシア、そしてアジア経済危機後のアジア諸国(韓国を含む)がある。これらの破綻した国の共通点は、自国通貨を米ドルにペッグして実力以上の為替水準を維持してきたことである。

    そしてアルゼンチンとアジア諸国はIMFの支援も受けたが、復活の一番のきっかけは自国通貨を大幅に切下げたことにある。ロシアも同様に通貨が大暴落した。たしかに自国通貨の暴落は、国民にとって「茨の道」である。しかしこの厳しい道を通らなければ経済の復活は難しい。ギリシャがいつの時点でユーロ圏から離脱するかが最大の注目点である。


    筆者がギリシャ問題を今週号で取上げたのは、これにかこつけ日本の財政問題をクローズアップしようという不埒な動きがあるからである。例えば報道ステーション(テレビ朝日系)などでも、財政なんか分っていない解説者が「ギリシャの財政問題は日本にとっても他人事ではない」と真面目くさったコメントをしている。またいつもの役に立たない経済学者は「ギリシャより財政が悪い日本の方が問題」と大嘘をついている。筆者が日本とギリシャでは事情が全く異なると言っても、これを説明するには多大な労力を要する。本誌はこれを18年間もやってきたのである。

    日本の財政問題は、日銀が国債の保有限度額を撤廃(それまでは国債保有額の限度を日銀券の発行額とする内規があった)した時点で解決済みとなった。これについては、またそのうち取上げる。これが可能なのも日本では供給力が需要を大きく上回るからである。供給力が慢性的に不足してかなりの日用品を輸入に頼るギリシャと日本は対照的である。

    ちなみにギリシャはプライマリーバランス(PB)はプラスになっている。つまり財政再建論者の主張しているプライマリーバランスの回復なんて何の意味のない言葉である。財政の善し悪しは、金利水準や外貨準備高、さらに国内の金余り状況など(他にも指標は沢山ある)を総合的に見る必要がある。プライマリーバランスだけが、唯一の財政状況を見る基準なんて本当にばかげている。



今週、安保法制国会が佳境に入り注目されるところである。来週は、憲法と憲法学者についてもう少しディープな話をする。

原油価格が下落した。中国の景気の先行きが不透明なことや在庫の増加が理由として挙げられている。しかし一番大きい原因は、イランとの核協議の行方と見ている。協議は難航し13日に延期され、妥結はまだ見えていない。また米議会の承認もハードルが高い。しかしもし協議が整い制裁が解除されれば、原油価格は相当下落する可能性がある。




15/7/6(第851号)「議論のすり替えとデマ」
15/6/29(第850号)「安倍政権に対する提言」
15/6/22(第849号)「憲法は不要」
15/6/15(第848号)「22才のベアテが作った日本国憲法条文」
15/6/8(第847号)「中国は外貨不足?」
15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」


13年のバックナンバー

12年のバックナンバー

11年のバックナンバー

10年のバックナンバー

09年のバックナンバー

08年のバックナンバー

07年のバックナンバー

06年のバックナンバー

05年のバックナンバー

04年のバックナンバー

03年のバックナンバー

02年のバックナンバー

01年のバックナンバー

00年のバックナンバー

99年のバックナンバー

98年のバックナンバー

97年のバックナンバー