経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/6/8(847号)
中国は外貨不足?

  • 海外投融資の不良化

    今週は、先週号の訂正と補足から始める。まず日本の外貨準備高を150兆円と述べた。この数字は正しいのであるが、日本の国債を外国人がある程度保有していて、これが日本の政府にとっての負債になる。したがって「政府の外貨準備が150兆円程度であるから、日本の民間の対外純資産残高は217兆円程度と算出される」と述べたが、正確には「民間の対外純資産残高は(217兆円)+(外国人の日本国債保有額)」となる。

    また中国に関しても政府が発行する国債を外国人が保有していたり、中国政府が外国から借入れていることが考えられる(この金額は分らない)。したがって先週号で「中国の民間は244兆円もの巨額の対外負債を負っている計算になる」と述べたが、「民間は244兆円」という表現は正確ではなく、「政府と民間の負債が244兆円と表現すべきであった。もっとも中国の場合、民間と言っても、負債を負っているのはほとんどが国営・国有企業と考えられ、これは政府と一体のものと考えて良い。


    さらに先週号の「主な国の対外純資産残高」で、日本の財務省が中国の負債として拾い上げ切れなかったものもあると思われる。巷に中国の対外負債が300兆円を超えているという話がある。しかしこの「対外負債300兆円」説は、あながち間違いではないと筆者も感じている(実際はもっと大きいことも有り得る)。

    本当に世間の認識通り、中国の外貨準備高が3兆8,400億ドル(458兆円)もあるのなら、中国の外貨の状況は安泰のはずである。しかし一方で中国(民間を含め)が244兆円(一説では300兆円超)もの巨額の対外負債を負っているという矛盾がある。実際のところ外貨準備高が本当に458兆円もあれば、外国から金を借りる必要はないはずである。


    ここが先週号で指摘した「闇に消えた2兆ドル」問題の核心である。たしかに外貨準備の全てを米国債など比較的安定した資産だけで運用する必要はない。中国のように外貨準備を国営・国有企業を通して海外投資に振向けることも考えられる(特に中国の国有企業は外貨を借入ることが難しい)。ところが中国の場合、先週号で述べたようにかなりの海外投融資が不良化している可能性が強い。

    もし中国の膨大な海外投資がうまく行っているなら、そこから大きな収益が得られているはずである。また当座の資金が必要となれば、海外の優良資産を少し売れば対処できるはずである。しかしそれが出来ないからこそ海外からの膨大な借入金を抱えるはめになったと筆者は推測する。


    おそらく年間40兆円の貿易黒字だけでは、元利返済と新規の海外投資を賄えないのであろう。さらにこれまでに海外から中国に流入した資金の一部が反対に逃げ出しているという話が出ている。この話が本当なら、中国政府の資金繰りが苦しいという説をさらに補強することになる。以前は、外国からの資金流入の方が大きく、放っておくと人民元高になるため外貨を買って人民元を放出していたほどで、外貨が不足するという事態はなかった。

    中国の海外に対する投資は、収益目的の資源開発(かなり損失を出している)だけでない。地政学的な観点で多額の投融資を、例えば反米国家のベネズエラなどに注ぎ込んできた。しかしこれらも悉く不良化している。またインドを牽制するためにバキスタンに投資を行ったり、ギリシャへの影響力を強めるためギリシャの国債もかなり買ったりしている。さらにラオスにカジノを作って大失敗といった風に数多くの杜撰な投融資を行ってきた。

    中国は都合の悪い話が外部に漏れないないよう情報統制している。したがって外部の者は疑いながらも、いまだに中国は外貨準備高を458兆円も持つ「金満の国」で、経済も7%といった高度成長を続けていると思い込まされている。しかし実態は経済がマイナス成長に陥り(筆者の推定では)、資金繰りにもかなり窮していると筆者は見ている。


  • 数々の外貨不足の徴候

    先週号から中国が資金繰り難であるという話をしてきた。これはあくまでも筆者の推定であるが、中国が資金繰りに窮していると考えると最近の中国の不可解な動きの辻褄が合うのである。筆者が一番注目しているのが、中国の継続的な米国債の売却である。中国は米国債保有を米国への脅しに使うといった戦略的な位置付けをしてきた。つまり米国債の買増しがあっても、これまでの中国ならば売却は有り得ない話である。

    ちなみに中国が保有する米国債を売却すると言っても脅しにはならない。そっくりFRBが買えば済む話である。保有額は140〜150兆円であり、QE3で米FRBが毎月買入れていた米国債等の額を考えると容易い話である。むしろ米国債をちまちま売っている様子を見ると、中国の手元資金が相当苦しいことを窺わせる。

    ただ筆者は中国の資金繰りが苦しいと言っているが、これは人民元のことではなく外貨に限った話である。人民元の不足なら中国人民銀行が通貨を増発すれば済む。しかし外貨が不足しているからこそ、中国にとって事態が深刻と筆者は思っている。


    中国は、今、IMFに人民元をSDR(特別引出権:Special Drawing Rights)に採用するよう強く要請している。SDRはIMF加盟国の仮想国際通貨である。これは主な加盟国の通貨の為替レートを過重平均(標準バスケット方式)して算出されている。現在(11年から15年まで)は、米ドル41.9%、ユーロ37.4%、円9.4%、ポンド11.3%の過重平均で決めている。

    加盟国は、出資額の範囲内でSDRを引出すことが出来る。ちなみにこれまでSDRを引出した例はなかったが、ギリシャがIMFからの借入金返済のため5月にSDRを取崩した。ギリシャはSDRが底をついたので、EUからの72億ユーロの融資が実行されなければ今月いよいよデフォルとなる。ギリシャは6月5日期日の返済を月末の一括返済に繰り延べた。結論が6月末に先送りされたのである。筆者は、それまでに何らかの妥協が成立するのではないかと見ている。


    SDRの算出基準は5年毎に見直されていて、明らかに中国は16年からの基準変更を睨んでいる。中国人民元のSDR採用要請は、たしかに中国の貿易額を見れば当然という声がある。しかし中国のSDR採用要求の執拗さにむしろ筆者は引っ掛かる。中国の大国意識だけでは説明がつかない。

    おそらく中国の狙いは、SDR採用によって人民元を国際通貨として世界的に認知させることだと筆者は理解している。中国は、SDR採用により米ドルではなく国際通貨と認知された人民元で支払いを済ますことを企んでいると筆者は見ている。そしてこの話も中国の外貨不足と合致する。

    観念論者の集りであるIMFの幹部は、中国の人民元のSDR採用に対して色好い返事をしている。筆者は、IMFがFIFAと同類になったのではとさえ思うほどである。しかし米国が人民元のSDR採用に時期尚早と強い難色を示している。


    アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の話も中国の外貨不足の延長線上にあると筆者は思っている。中国は、アジア開発銀行(ADB)から既に多額の借入を行っている。中国はADBに対する出資比率が6.46%に過ぎないのに投融資全体の25.3%を占める。最近では6割の案件が中国という話である。特にADBの投融資は、世銀より審査が甘く、金利が低く、さらに長期である。

    つまり中国は、既にアジア開発銀行(ADB)から搾り取れるだけ搾り取ったのである。これ以上、ADBから搾り取ることが出来なくなったので、自前でアジアインフラ投資銀行(AIIB)を創り各国(もちろん本当の狙いは日本)から資金を巻き上げようとしていると筆者は思っている(安倍政権は実にうまくかわしている)。ADBの投融資の審査が長く機動性に欠けるなんて、中国流の勝手な言い分である。しかし世間にはこの中国のいい加減な話を信じている愚か者が多く、日本は後手を踏んだとばかげた事を言っている。


    事情に疎い欧州各国も、何か良い事があるのではないかと(そんなものはあるはずがない)、AIIB参加を表明している。しかし今年末の正式な設立までに紆余曲折が有りそうである。欧州勢の中には土壇場で参加を取り止める国も出てくる可能性がある。

    1,000億ドルの出資金の払い込みと言っても、振込先が中国の銀行なら確認のしようがない。英国などは、自分の国の道路がガタガタで最悪の状態である。アジアのインフラを心配するより、自国の道路を補修する方が先と筆者は思っている。

    日中の財務対話が3年振りに開かれ、中国は麻生財務相を歓迎している。少し前までの日本への態度が嘘のようで、筆者には極めて気持ち悪く感じる。おそらく日本からの対中投資が想定外に激減していて、中国の外貨の資金繰りに支障をきたしているのであろう。間違っても中国国債なんか買わされてはいけないと筆者は思っている。ところが中国国債購入と中国人観光客の来日がセットになっているとも考えられるのである。



来週は、久々に経済を離れ、憲法と憲法学者を取り上げる。

今週取上げようと思った中国の株価は、先々週大きく下げる場面があったが、先週はそれを埋め、さらに上海総合株価指数は5023まで上昇した。今週中に史上最高値を付ける可能性がある。中国の株式市場はバブルというよりまさに「鉄火場」になっている。




15/6/1(第846号)「中国は資金繰り難?」
15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
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14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
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14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
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14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
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14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」


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