経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/6/1(846号)
中国は資金繰り難?

  • 2兆ドルの闇に消えた金

    中国にまつわるリスクを取上げればキリがないことになる。まずいつ政変が起っても不思議がないのが今日の中国の政治・社会状勢である。軍部の暴発も十分考えられる国である。また国内の情報が管理統制され、公表される各種数字に信頼性がなく、このことだけでも十分リスクである。

    そのような様々なリスクの中で、今週取上げるのは、中国の経済、特に金融に関するリスクである。たしかに中国観光客の海外での爆買いや、中国首脳部が海外に出かけ景気の良い経済協力を次々と決めていることを見ると、中国という国は金が有り余っているという印象を与えている。中国は毎年大きな貿易黒字を記録し、世界最大の外貨準備を持つ。一見するとまさに「金満中国」であり、アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立もそのような中国の金余りの一つの象徴と錯覚してしまう。


    ところが資金的に何の問題がないと見られる中国であるが、最近、奇妙な動きが目を引くようになった。まず昨年9月から中国は保有する米国債の売却を継続している。毎月の売却額は大きくないが、依然、貿易黒字を続けていることを考えると釈然としない。今年の2月には、とうとう米国債の保有額が日本を下回り2位となった。

    中国当局は、米国債売却を資産運用方針の見直しに沿ったものと説明している。また米国債の売却代金で金を買っているという観測がある。しかし国債売却額との見合いで金購入は考えにくい話である。もし中国が大量に金を買い続けているのなら、もっと金価格が上昇していても良いと思われる。


    中国の外貨準備高は1990年代にほとんどなかった(1000億ドルを超えたのが96年)。増えたのは2000年代になってからである。2000年代半ばから急増し(1兆ドルを超えたのが06年)、特に08年のリーマンショック前後からは毎年4,000億ドル程度増えている。ところが13年頃から外貨準備高の推移に変調をきたしているのである。

    中国の外貨準備高は、13年12月3兆8,800億ドル、14年12月3兆8,400億ドルと頭打ちになっている。直近の15年3月では3兆7,300億ドルとはっきりと減少に転じている。たしかにあまり減っていない印象を受けるが、14年6月のピーク時3兆9,900億ドルと比べると、9ヶ月間で2,600億ドルも減少したことになる。中国の貿易黒字が依然年間4,000億ドルの黒字を続けていることを考えると奇妙な話である。


    そもそも中国の外貨準備高は中国当局が公表しているものであり、外部の者が客観的に調べたものではない。日本の外貨準備は、ほとんどが米国債や米政府債券で運用されているので明白である。しかし中国の場合、米国債など(ユーロ債や日本国債も少しある)で運用されているのは全体の3割程度しかない。残りの7割程度(2兆5,000億ドル)の実態がよく分らないのである。


    一部は国営企業の海外投資で使われていると見られる。しかし最大で2兆ドルほどの外貨準備の行方が分らなくなっているという話がある。まさに闇に消えた金である。たしかに中国が海外での資源開発に多大な資金を注ぎ込んできたことは明らかである。しかしそのほとんどが失敗しているという話がある。この話は多少大袈裟に聞こえるが、最近の原油などの資源価格の下落の様子を見ると、中国が大きな損失を蒙っていることは事実であろうと筆者も見ている。

    ところが中国が公表する外貨準備高に関しては、投資額が簿価のままで計上されていて評価損が反映されていないという。つまり外貨準備高は、大きな粉飾決算がなされている可能性があると筆者は思っている。この他に中国政府高官が海外に持出しもう戻ってこない資金も、外貨準備に計上されたままという。だが話がここまで行くと筆者もお手上げである。


  • 本当の金満は中国ではなく日本

    中国の外貨準備高については、粉飾と見られる中国当局公表の数字しかない。そんな中、14年末の主な国の対外純資産残高が日本の財務省から発表されている(5月22日付け日経新聞)。それが次の表である。

    主な国の対外純資産残高
     国  名 対外純資産残高(兆円)
     日  本  367 
     中  国  214 
     ド イ ツ  155 
     ス イ ス  100 
     香 港  100 


    表から分るように、圧倒的に対外純資産残高が大きいのは、中国ではなく依然として日本である。日本は対外資産が945兆円に対して対外負債が578兆円である。また政府の外貨準備が150兆円程度であるから、日本の民間の対外純資産残高は217兆円程度と算出される。一方、14年12月末の中国の外貨準備高は3兆8,400億ドルであるから、458兆円(12月末の為替レート119.4円で換算)になる。財務省も、これしかないので中国が公表している外貨準備高をそのまま使っているものと見られる。つまり中国政府は巨額の外貨準備高(458兆円)を持つが、逆に中国の民間は244兆円もの巨額の対外負債を負っている計算になる。


    まず中国の対外純資産残高を算出するには、中国の対外負債を正確に把握する必要がある。日本の財務省がこれを調べ上げたのであろう。おそらく中国の対外向けの債券発行額や外国の金融機関からの借入額を一つ一つ積上げたと見られる。日頃は日本の財務省に批判的な筆者も、これは感心する調査報告と思う。

    ここで問題になるのが前段で言及した最大2兆ドルの闇に消えた金である。これを最悪のケースでカウントすると、日本の財務省発表の数字である中国の対外純資産残高(214兆円)はゼロないしマイナスに訂正される。つまり「金満中国」はまさに虚像であり、ひょっとすると中国の実態は資金繰りに窮する新興国ということになる。特に日本は政府と民間のサイフが別であるが、中国は政府と民間が一体と見られる。


    中国がひょっとすると資金繰りに窮しているのではないかという徴候がいくつかある。一つが前段で取上げた9ヶ月間で2,600億ドルもの外貨準備の取崩しと米国債の継続的な売却である(中国は、米国債保有を米国への圧力と戦略的に認識していたはずなのに)。この他に中国政府が3,000億ドルの債券を発行して資金を調達しているという話もある。

    さらに筆者が気になるのがアジアインフラ投資銀行(AIIB)である。中国が主導するインフラ投資の金融機関を創りたいのなら、中国一国で全資金を拠出すれば良い話である。出資金額を見れば500億ドルとか1,000億ドルといったちっぽけな金融機関でありながら(日本の地銀の中堅から上位行の資金規模)、面倒なことに外国から参加国を募る必要はない。ましてやしつこく日本に参加を促していることが怪しい。おそらく本当の金満は中国ではなく日本ということが分かっているとしか考えられない。

    仮にここまで述べてきたように本当は中国が資金繰りに窮しているとしても、世界でその事実を知ってる者はほとんどいないと筆者は見ている。正直に言って筆者も半信半疑の状態である。たしかにあくまでもこれは仮の話であるが、中国の国柄を考えると中国の高官でさえその事実を知らない可能性があると筆者は思っている(知っているのは極少数)。仮に筆者の話が本当なら、ほとんどの中国人はいまだに自分達の国は「金満」と誤解していることになる。



来週は、今週の続きである。今週号で中国の株価の急落も取上げたかったが、そこまで行かなかった。先週の5月28日に上海総合指数が321.45ポイントも急落した。これは6.5%もの下落であり、日経平均で換算すれば1,300円の急落に相当する。これだけ急落すれば反発するものであるが、翌29日も少し下げた。今週の中国の株価の動向が注目される。




15/5/25(第845号)「今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ」
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15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
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