経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/5/25(845号)
今こそ郵貯と財投をアジアに広めろ

  • インフラの整備こそが国造り

    ASEANを始めアジア諸国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)に我れ先と飛びついたのは、やはり各国のインフラが決定的に不足しているからである。経済成長に伴い国民の所得は増えたが、基本的なインフラの整備が全く追い付いていない。またこれ以上の経済発展にはインフラの整備が欠かせないとアジア諸国は認識している。

    日本も高度経済成長期を経験したが、当時も慢性的なインフラ不足がなかなか解消しなかった。満員電車や道路の渋滞などの問題がずっと続き、最近になってようやくこれらの解消が見えて来た。今の日本は、耐震や減災などといったもう少し高度なインフラ整備が求められる段階にある。たしかに全てのインフラが不足する他のアジア諸国に比べると日本はずっとましである。


    市場経済においては、直接的な収益が期待される事業に対しては投資がなされる。しかし直接的な収益を生まないか、あるいは収益水準が低く、また投資資金の回収まで時間が掛かるようなリスクのあるインフラの整備案件は、市場経済において置き去りにされる。したがってこれらは政府などの公的機関の負担(いわゆる公共投資)によって整備する他はない。

    公的機関の投資によってインフラが整備され、もしこれによって経済成長が達成されれば、税収が増えて投資資金は回収されることにはなる。しかし市場経済から外れたこの種の投資に関しては、回収される収益が投資額を上回る保証はない。


    このように一口にインフラ整備と言っても、収益を生むものと収益の生まないものがある。収益の生まないものとしては、生活道路の整備、河川の改修、公園の整備などが考えられる。一方、もし高い収益が期待されるインフラ整備(例えば効率的な発電設備など)であるなら、民間の方が黙っていない。そもそも儲かるような事業なら民間に任せれば良く、政府が関与する必要はない。特に今日のように世界的な金余りなら容易に資金の調達はできる。

    問題は、両者の中間にある収益水準が低く、また収益を生むまで時間が掛かるようなリスクのあるインフラの整備案件である。具体的には産業用の高規格道路、鉄道、地下鉄、港湾、空港、住宅などである。おそらくAIIBへの参加を表明しているアジア諸国は、この種のインフラ投資の資金を渇望していると筆者は思っている。


    しかし日本では、賢明にも先代が財政投融資(財投)という制度を用意していてくれた。一般庶民の小さな資金(郵貯、簡保)を郵便局が集め、政府が財投という形で高速道路や住宅建設など低収益ではあるがニーズが高いインフラ投資に使ってきた。ところがこの手の金融がアジア諸国にはないのである。

    日本では何故か財投制度が悪評さくさくである。愚かな財政学者は、いかに財投が低収益で非効率なのか研究対象にしているという。低収益なのが当たり前で、高収益ならば民間がやれば良い話である。低収益であるが、国家にとって必要なインフラの整備なら財投を使っても進めるべきと筆者はずっと主張してきた。場合によっては、財投に公的資金による補助が伴うことがあっても良い。

    日本国内で評判の悪い財投制度であるが、諸外国からは優れた制度という評価がある。日本のこの制度を是非とも取入れたいという国も現れ、日本からベトナムやラオスなどに指導を行っている。ただまだ成果が現れていないのであろうか、その後の話を聞かない。


    筆者は、インフラの整備こそはまさに国造りそのものと考える。資金も、AIIBなどの国際機関から借りるのではなく、自分達でなんとか捻出することを基本にすべきと思っている。その意味で、郵貯と財投はアジアの国々に薦められる制度である。

    時代が移り、たしかに日本における財投の役目も変化している。例えば昔は住宅融資と言ったら住宅公団融資しかなかった(他には年金融資くらい)。銀行は、大企業に対する融資にしか関心がなく、住宅融資なんて目も向けなかったのである。しかし優良企業が銀行融資を必要としなくなり、一方、住宅融資が確実に儲かることに気付き、民間の銀行が住宅融資に傾斜して行ったのである。したがって財投を使った住宅公団融資の役目も一旦終わったということである。しかし決して財投が悪かったということではない。むしろ発展段階にあるアジア諸国とって、日本の郵貯と財投という制度を今日こそ取り入れるべきと筆者は考える。


  • 欧州のご都合主義

    アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の動きが、案の定、混乱し始めた。いきなり出資金を1,000億ドルに倍増するとか、中国の出資比率を50%から30%に減らすと言った話が出ている。参加予定国が当初の21ヶ国から57ヶ国に増えたことも混乱に拍車をかけている。「欧米に対抗するための安易な思いつきがAIIBの本質」と筆者は思ってきたが、まさにそれが露呈している。AIIBに無理な意味付けをする者がいるが、無駄である。

    結果的に中国の大きな誤算は、口うるさい英国などの欧州諸国の参加であろうと筆者は見ている。まずどう見ても、AIIBは英国などの欧州勢が参加するような国際金融機関ではない。一方、最後は言いなりなりそうな肝腎の日本が参加を見送った。これは中国にとって痛手であると筆者は見ている。


    ところで欧州には観念論者が多く政策決定も観念論的である。しかし観念論だけでは、当然、事はうまく行かない。するととたんに現実的なご都合主義に走るのが欧州人の特徴である。

    リーマンショック後、世界中、一斉に景気対策を行った。ところが10/7/5(第622号)「サミットの変質」で取上げたように、ギリシャの債務問題が起ると、米国の懸念を無視し引締め政策に転換した。元々欧州には財政規律を重んじる観念論者が多いのである。さらに緊縮財政だけではなくECBは利上げまで行った。しかし欧州経済がさらに落込み失業が増えると、今度はご都合主義が発揮され、日米が行っているような量的緩和に踏切った。


    89年の天安門事件後、中国の人権状況を問題にして各国は経済制裁を行った。特に観念論者が多い欧州各国は最後まで制裁にこだわった。最初に制裁解除へ動いたのは日本であり、日本の親中派が天皇訪中を画策した(ところが中国はこの頃から愛国教育という名の反日教育を始めた)。これをきっかけに欧州各国も経済制裁解除に向かった。

    中国の人権状況は今日になっても変っていない。ところがAIIBへの参加を決めた欧州各国は「人権問題」を今度は一切持出さない。経済成長が著しい中国やアジア諸国の勢い乗ろうというご欧州独特のご都合主義がいかんなく発揮されているのである。


    欧州各国の米国とオバマ政権に対する反発が強くなっている。まず英国が送ったチャーチル像をオバマ大統領が倉庫に片付けたことに対して英国民が怒っているという話がある。像を片付けたのはオバマ大統領が奴隷貿易(中継港はリバプール)の中心であった英国を嫌っているからという。またドイツのメルケル首相も米国家安全保障局(NSA)による電話盗聴に相当立腹している。

    このようにオバマ大統領と欧州の関係は今日ぎくしゃくしている。おそらく米国と欧州の関係はオバマ退陣まで好転しないと世間は見ている。英国を始めとした欧州各国がAIIB参加を表明したのも、オバマ大統領に対するあてつけという一面がある。


    安倍総理は、アジア開発銀行(ADB)と連係しアジアのインフラ整備に5年間で13兆円投じると表明した。さらに日本政府独自に民間と組み、アジア諸国のインフラ投資に5年間で4兆円を超える支援を行う。もちろんアジア諸国はこれらの施策を大歓迎している。これらは中国主導のAIIBに対抗するものと見て良い。またAIIBが57ヶ国も参加し迷走することが確実であることに比べ、日本が主体で行う一連のインフラ投資への支援は実効が上がるものと見られる。奇妙なのは、中国高官までもが日本のこの方針を歓迎していることである。

    筆者は、これらの直接的な資金的支援に加え、前段で取上げたような日本の郵貯と財投のような仕組をアジア諸国に広めることが理想的と考える。どれだけ国際金融機関が支援しても金額的には限度がある。また資金を国際機関に全面的に頼るのではなく、自分達で資金をなんとか工面するという気持ちが大切と筆者は考える。

    インフラの整備こそが国造りとすれば、インフラ投資はアジア各国自体が主体になるべきである。また郵貯と財投の制度みたいなものこそ、国のインフラそのものと言える。日本はこれらにノウハウを提供するに止まらず、日本の負担でこれらに信用保証することも考えられる。たしかに保証金が捨て金になることも有り得るが、これはODAの一環と考えれば良い。訳の分らない資金をAIIBへの出資金としてむしり取られるよりずっとましである。



来週は、中国のリスク(チャイナリスク)を取り上げる。




15/5/18(第844号)「AIIBの資金力は「ゴミ」程度」
15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
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15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
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14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
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14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
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