経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/5/18(844号)
AIIBの資金力は「ゴミ」程度

  • 中国・朝鮮半島はまさに「鬼門」

    日本政府は、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を今のところ見合わせている。これに対しては政府の判断に賛成する声と批難するものに別れている。主な批難は「せっかくの成長機会なのに出遅れた」「欧州先進国が参加することを察知できなかったことは情報戦での敗北」「日米が参加して内部から牽制する必要がある」である。参加見送りが決まった時、これらの批難が野党から一斉に飛出したのには筆者も「一体、野党の人々はAIIBの何が分っているのか」と驚いた。

    この他に「よく分らない」や「関心がない」と言ったものがあり、こちらの方が正直な国民の多数意見と思われる。実際、本誌がここ2週に渡って取上げてきたように、AIIBを主導する中国という国は本当に実態が分らない。公表する経済数字にも相当大きな「嘘」が混じっている。とにかく信頼性が低いのが中国という国である。

    15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」で述べたように、特に中国の公表されている経済成長率は全くの嘘と筆者は見ている。ちなみに4月の数字は一段の中国経済の悪化を示している。4月の輸入の対前年同月比はマイナス16.2%とさらに減少しているのである(これは中国のマイナス成長を示唆する)。むしろ中国の経済低迷がAIIB設立の大きな誘因という見方も可能である。


    参加見送りを決めた日本政府への批難には、とにかく軽いものが目立つ。しかしこのよう難しい案件に関しては、出来る限り客観的な事実や数字に基づいて判断を下すべきと筆者は考える。まず上記の通り中国という国が分かりにくく(重要なことを隠し嘘を言っている・・例えばマイナス成長など)、これだけで信頼性の点で問題になる。本来、これだけの理由で機関(AIIB)への不参加を決めても良いと筆者は考える。

    もし出資するのなら少なくとも中国政府の正確なバランスシートを入手し、かつ相当の担保を要求すべきである。もし最初から出資金をドブに捨てても構わないというのなら、ODAの一環という認識が必要であり日本国民の理解が必要と考える。また万が一AIIBが発行する債券を購入する事態が訪れても、しっかりとした担保を要求すべきである。しかしこれらの条件を中国が飲むはずがない。つまり日本のAIIB参加は有り得ない話である。


    AIIB参加の見送りが「せっかくの成長機会なのに出遅れた」とか「日本は損をする」といった現実を無視したデタラメな話が出ている。このような事を言っている者は、いつもいい加減なことを言っていると思えば良い。

    まずAIIBが設立されれば、アジアでインフラ投資がどんどん拡大するといった大きな錯覚がある。しかしAIIBはとてもちっぽけな金融機関という事実を認識する必要がある。AIIBが対抗意識を持っているのがアジア開発銀行(ADB)である。このADBの資本金が1、500億ドル(18兆円)に対してAIIBはわずか500億ドル(6兆円・・12兆円に増やすという話が出ている)である。しかもADBも金融機関としては決して大きくなく、AIIBにいたっては「ゴミ」のような存在である。

    ADBは毎年130億ドルの融資を行っているが、これでは少な過ぎるという批難が出ているため200億ドルに増やす予定にしている。ADBは資本金以外に債券を発行していてもこの程度の融資規模である。AIIBの規模はADBの半分以下と見れば良い。つまりADBの資金規模は日本の地銀の上位行と同じ程度であり、またAIIBは地銀の中堅クラスと思えば良い。特にAIIBに日米が参加しないとしたなら、AIIBが債券を発行しても引受手が現れるか疑問である(購入者は相当高い金利を要求)。


    つまりアジアのインフラ整備に年間80〜100兆円(ピーク時、日本は公共投資額だけもで年間40兆円を越えていた。インフラ投資となればもっと範囲が広がり金額も大きくなる)が必要と考えると、繰返すがAIIBの資金力なんてまさに「ゴミ」である。また仮に日本が参加しても、AIIB主導のインフラ投資で日本にもたらされる直接利益はほぼゼロである。実際、日本の財務省官僚が代々の総裁を務めるADBの投資案件でも、日本企業の落札率はわずか0.5%(13年度実績)である。ちなみにインド24%、中国21%である。

    今の日本にとっての最大の課題は、いかにAIIB参加をどれだけうまく断るかである。米国は議会が承認しないとうまく逃げた(ルー財務長官)。ところで日光東照宮は江戸の鬼門として建てられた。日本全体にとっては中国・朝鮮半島がまさに「鬼門」(方角が悪く近寄ってはいけない)と言って断る他はないと筆者は考えている(笑)。


  • ギリシャの商品券

    ギリシャに対する金融支援の話が山場を迎えている。とにかくギリシャは資金(ユーロ)不足による資金繰り難で苦しんでいる。そんな中、公的支出(公務員給料や年金給付など)をギリシャ政府発行の商品券で賄うという驚くようなアイディアが出ている。

    商品券発行と言っているが、これはまさに政府貨幣(政府紙幣)発行、つまりセーニアリッジ政策ということである。これを将来的にギリシャ政府が回収するということになれば兌換紙幣に近い物ということになるが、おそらく発行された政府の商品券はそのまま国内で流通し続けることになると見られる。まずこれは直接的に所得を増やす形のマネーサプライの増加ということになる。


    日・米・欧で行われている中央銀行による国債購入による金融緩和は、マネーサプライの増加政策ではあるが直接所得を増やすものではない。金利低下による投資や消費の増加、あるいはもし金利低下によって為替レートが低下すれば輸出増などによる所得増が期待されるが(この他に株価上昇による所得効果)、いずれも間接的なものである。たしかに資金不足によって高金利が定着したような国には、このような間接的政策でも効果が期待される。しかし日本のように元々資金がダブついているような国では効果は限られる(やらないよりやった方が良い程度)。

    しかしギリシャのような国では、政府発行の商品券によるマネーサプライ増加は間違い無く需要を増やし、所得を増やす。しかしまさにこれは日本のようなデフレの国に必要な政策である。ただ確実にギリシャのような国では混乱を伴うと予想される。しかしこのような混乱より公的支出(公務員給料や年金給付など)停止による社会不安増大の方がより深刻ならば、商品券発行というセーニアリッジ政策はやった方が良い政策ということになる。


    日本は、明治維新の時に商品券ではなく「太政官札」というお札を発行した。明治維新当時、維新政府は徴税制度が整備されてなく資金が全くなかった。この窮地を救ったのが由利公正の「太政官札発行」というアイディアであった。「太政官札」などの政府紙幣によって維新政府の運営費を捻出し、西南の役の軍備費まで調達した。筆者は由利公正こそが明治維新の最大の功労者と思っているほどである。

    「太政官札発行」は大成功した施策であったが、後世、「社会の混乱を招いた」といった完全に間違った解釈が広まった。誤解をまき散らしたのは、主に唯物史観に染まった左翼系歴史学者である(俸給が決まっていて物価上昇に弱い公務員がこれに加担している)。左翼系歴史学者にとって、社会が安定すれば「社会主義革命」が遠のくからである(07/5/28(第483号)「荻原重秀と新井白石」で取上げた荻原重秀も同じ扱いを受けている)。日本の左翼系歴史学者なんて、デタラメさでは近隣国の歴史学者と変わりがない。

    特に注目すべき点は、「太政官札」などの政府紙幣が大量に発行されたが、03/5/12(第296号)「滝田洋一氏への反論」で述べたように明治10年までの10年間は物価上昇は限られていた。これは維新当時の日本経済がデフレであったからである。たしかに発行当初、「太政官札」は正価では流通せず(つまり打歩(うちぶ、だぶと呼ぶ))、従来の通貨の何割かにディスカウントされた。しかしこれも維新政府が発行量を制限し、打歩禁止令を出してからは収まった。


    注目点は、ギリシャの商品券が「太政官札」のようにうまく行くかである。残念ながら筆者はなかなかうまく行かないと見ている。まず商品券も、ユーロに対してかなり大きく打歩されると思われる(ユーロの5割、6割といったディスカウント)。

    また生産力が乏しく主要消費物資を輸入に頼るギリシャでは、商品券発行によって需要が増えれば直に物価上昇が起りそうである。大きなデフレギャップが存在した維新当時の日本とは事情が異なるのである。しかし商品券がディスカウントされるということは、公務員の給料や年金を実質的に引下げることを意味する。たしかにギリシャ経済にとって大き過ぎる公務員給料と年金の問題を解決するには、このような荒療治しかないのかもしれない。そもそもギリシャ経済を立直すには、緊縮財政ではなくギリシャのユーロからの離脱しかないと筆者は前から言って来た(ドイツなどのEU主要国がギリシャのユーロ離脱をどうしても防ぎたいのなら、日本の地方交付金のような資金拠出を続ける他はない)。商品券発行はその第一歩と認識している。



来週はAIIBに関するまとめを予定している。




15/5/11(第843号)「中国との付合い方」
15/4/27(第842号)「中国はマイナス成長?」
15/4/20(第841号)「ドイツ軍の敗走開始の話」
15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
14/5/26(第798号)「政策目標の変更」
14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」


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