経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/4/20(841号)
ドイツ軍の敗走開始の話

  • 昭和16年12月8日の出来事

    昭和16年12月8日は、真珠湾攻撃が開始された、つまり日本が大平洋戦争(大東亜戦争)に突入した日である。しかし偶然にも12月8日は、当時の日本の同盟国であったドイツがソ連から敗走を開始した日でもある。ドイツは同年6月から侵攻を開始し、瞬く間に中・東欧を抑え、次にソ連制圧を狙った。ドイツは連戦連勝で、まさに破竹の勢いであった。

    当初、日本の首脳部は、第二次大戦参戦に積極的な者ばかりではなかった。英米が国力で日本を圧倒していることは誰もが知っていた。ところがこの参戦消極派を抑え、開戦への道を開いたのがドイツの快進撃であった。まさに「勝ち馬に乗れ」というムードが一気に広がり、日本の参戦を後押した。「勝ち馬に乗れ」というムードは、80年代後半の不動産バブル期に見られたものと一緒である。


    ところがまさに日本が英米に宣戦布告を行った日に、ドイツ軍はモスクワから逃げ出し始めた。つまり日本はハシゴを外された形になったのである。侵攻を始めた頃のドイツの勢いは物凄く、直にもモスクワは陥落すると見られていた。しかしモスクワ攻撃までに手間取り、問題の真冬を迎えてしまったのである。モスクワに入城したが、誰もいなくなっていたので(モスクワ市民は皆逃げていた)何事もなすすべがないまま真冬迎え、ついに敗走を始めたナポレオンの場合と似ている。

    しかしドイツ軍が12月8日をもっていきなり敗走を始めたわけではない。その前にドイツが戦線でかなり不利に立たされていたと見られる。当然、ドイツ苦戦(敗走寸前)という情報は、欧州の日本の情報機関から日本政府に伝えられていたはずである。ところがこの情報を握り潰した者がいたのである。おそらく開戦の回避を意図して日米交渉にあたっていた日本の外交団にも、この情報は届いていなかった可能性がある。

    もしこの情報が握りつぶされず当時の日本の首脳部に届いていたなら、日本が本当に開戦に踏切ったか判断に迷うところである。反対に米国政府もこの情報(ドイツ軍が敗走寸前)を得ていたはずである。参戦に消極的だった米国民のムードを変えるため、米政府はドイツが敗走する前に日本を戦争に引込むつもりでいたという話がある。米国が挑発的なハルノートを日本に突き付けたのが、ドイツ敗走開始直前の11月26日であった。


    日本には今日でも、欧米の政策が先進的で正しいと観念的に信じている人々がいる。しかし全ての政策がうまく行くわけがない。中には手本としていたその欧米で、これではまずいと気付き既に方向転換した政策や、問題があると気付きながらも方向転換が難しい政策がある。

    ところが欧米で間違っていたとほぼ証明された同じ政策を、日本で強引に押し進めようとする観念論者や政治家・官僚がいる。多くの場合、この政策で利益を得る者が集って来るのでなかなか方向転換が難しくなる。酷いケースでは、欧米で既に間違ったと気付き政策転換が行われているのに、日本ではそれを無視して始めることさえある。


    典型例が欧州で実施されていた再生可能エネルギーの電気の全量買取り制度を日本に導入したことである。たしかにリーマン・ショックのしばらく後まで、欧州では太陽光発電などの再生可能エネルギーバブルが起っていた。しかしこの制度による電気料金の高騰などが問題になっていた。

    日本が、東日本大震災後、欧州を真似て太陽光発電などの再生可能エネルギーの電気の全量買取り制度を始めた頃には、欧州各国は逆にこれらを抑えに掛かっていた。例えばドイツは、太陽光発電の電気の買取価格を20円/kwhにいきなり引下げた。ところが日本政府は何を勘違いしたのか、この倍の40円/kwhというバカ高値で買取価格を設定した。しかも20年間もこの価格を固定するといったものである。筆者は、民主党政権下のこのバカ高値の買取価格決定に胡散臭さを感じる。とにかくドイツ軍の敗走開始が、人々に伝えられなかったのと似た構図である。


  • 憲法に財政規律

    11/5/30(第663号)「ニューニューサンシャイン計画」でEPRという概念を説明した。EPRは「発電所や石油生産施設などが生み出すエネルギーの総量を、施設の建設や運転などにかかるすべての投入エネルギー量で割った比率」である。つまりこの数値が大きいほど効率的なエネルギー源ということになる。ちなみにLNG火力2.14、石炭火力6.55、地熱6.8、石油火力7.9、中小水力15.9、原子力17.4である。そして問題の太陽光はなんと0.98と産出エネルギーと投入エネルギーが拮抗している。

    ただこの数字は06年7月2日の日経新聞に掲載されたもので多少古い。おそらくLNG火力と石炭火力は技術革新(またLNGと石炭の価格は多少安くなっている可能性がある)によって数値はある程度大きくなっていると見られる。また太陽光発電はパネルの生産が中国に移り安くなっている。しかしたいした技術革新はないと筆者は見ている(太陽光発電は既にハイテクではなくローテクである)。仮に多少の技術進歩があっても、元々EPRの数値が極めて小さいので、太陽光発電は効率的なエネルギー源になることはとても考えられない。以前、太陽光の中でも発電に使っていない光線を発電に使うという話があったが、それ以降パッタリとその話を聞かない(仮に技術的に可能なことがあってもコストが掛かり、EPRは大きくならないのであろう)。


    欧米で失敗したのが移民政策である。以前、移民を積極的に受入れた国があったが、今日、色々な問題を抱えることになった。移民の同化政策を試みた国も多かったが、ほとんどが失敗している。以前、04/11/22(第368号)「構造改革派の常套手段」の欄外で、オランダの移民問題を取上げたことがある。しかし最近のパリでのテロを見ても、欧州での移民の問題は深刻さを増しているようである。

    欧州の移民は、主に自国民がやりたがらない低賃金の職に就く。日本でいう3K職場(きつい、危険、きたない)である。低賃金だけでく言葉や宗教の違いによる問題もある。移民は、同じ境遇の者だけで固まり、移民先の国には同化しにくい。このような環境では、世代が代わり子供の代になっても移民先の国に溶込めないことになる。

    ところが日本では、新古典派のポンコツ経済学者やエコノミストが移民の受入れをいまだに主張している。日本の人口の減少が原因で、低成長の継続と年金制度の崩壊などが起ると彼等は主張する。しかしこれらに対してはどれだけでも対策があると筆者は言ってきた。しかし卑怯なのかバカなのかポンコツ経済学者やエコノミストは、依然として移民の受入れを主張している。彼等は欧米で移民を巡って苦悩が続いているところを見て見ぬふりをする。既に敗走しているのに、ドイツ軍はまだ有利に戦っていると思い込んでいるのであろうか。


    今日、憲法改正論議が進んでいる。ところがこの憲法改正の中に財政規律の条文を、ドサクサ紛れに持込もうという不埒な者がいる。しかし法律に財政規律を持込もうというバカげた発想は、今回が初めてではなく橋本政権の「財政構造改革法」以来ずっと続いている。このことは13/10/7(第772号)「消費税増税、次の焦点」他で説明してきた。それにしても憲法に取入れようとは異常である。

    法律に財政規律を取入れて大失敗したのが米国である。米国は、財政赤字拡大に歯止めをかけるために1985年に財政収支均衡法(グラム・ラドマン・ホリングス法)を制定した。これはグラム、ラドマン、ホリングスの3名の上院議員の発案による。

    ただこの観念的な法律の許容範囲内に財政赤字が収まらない年も当然ある。しかしその場合は、議会が「なあなあ」で財政赤字の限度増額を承認することが慣例化していた。つまりこのような法律は元々不要だったのである。一時のムードだけで、観念論者が好む法律が制定されたと筆者は思っている。


    ところがこの死んだような法律が政争の具に使われ米国中を大混乱させたのである。昨年の米国のオバマ政権の予算案を、議会で野党共和党が多数派になり財政収支均衡法を盾に拒否を続けた。いわゆる「財政の崖」騒動である。他の国から見れば「なんてバカげたことをやっているのだ」という感想を持つ。さすがに13/1/14(第739号)「年頭にあたり」で取上げたように、クルーグマンもあきれて1兆ドルのプラチナの政府貨幣を発行すれば済む話と突き放した。たった一年前の話である。

    議会との関係が悪いオバマ大統領が、議会から嫌がらせ(イジメ)を受けたのである。しかしこんなものを法律に取込めば、このようなバカげた騒動はどの国でも起り得る。過剰消費の米国でさえも大問題になったこの種の法律を、デフレ経済が慢性化した日本の憲法に持込もうとしている者達は一体何を考えているのだと言いたい。ドイツが降伏しても、そんなことは絶対に無いと言っているようなものである。このように他国で大失敗した政策が、その事実が伝えられないまま導入されるという愚かなことがこの日本ではよくある。



来週はアジアインフラ投資銀行(AIIB)を取上げる。しかし中国、また中国経済というものが分かりにくい上に、一段と不可解なAIIBはあまり取上げたくはないテーマである。また再来週はゴールデンウィークにつき休刊なので、来週は「さわり」だけにしておこうと思っている。ただ中国を扱うには、この「さわり」の部分が意外と重要ではないかと筆者は見ている。




15/4/13(第840号)「反・脱原発派の陥落は近い?」
15/4/6(第839号)「「エコ」の横暴と呪縛」
15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
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14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
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14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
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