経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




15/4/6(839号)
「エコ」の横暴と呪縛

  • ディーゼル車のPM汚染

    人々は「エコ」という言葉に出くわすとしばしば思考停止に陥る。「エコ」という言葉に対し無力となり抵抗できなくなる。ところがその「エコ」の科学性がよく問題になる。またしばしば他の「エコ」と矛盾するケースが有り、「エコ」対「エコ」の闘いになることさえある。

    地球温暖化で二酸化炭素の排出が問題になり始めた頃の話である。欧州ではディーゼル車の方がガソリン車より二酸化炭素の排出量がほんの少しだけ少ないので「エコ」と認識された。実に奇妙な話ではあるが、その後欧州ではディーゼル車の普及が進んだ。しかし筆者は、ディーゼル車はガソリン車より、粒子状物質(PM2.5など)やNOX(窒素酸化物)の排出量が多く、決して「エコ」とは言えないと本誌で指摘してきた。


    今日、PM2.5が中国だけでなくインドなど他の新興国で深刻な問題となっている。ところが発展途上国や新興国だけでなく、今日、パリなどの欧州の大都市でも粒子状物質(PM2.5など)の大気汚染が問題になってきた。粒子状物質による欧州の大気汚染は、PM2.5だけでなくPM0.5やPM0.1といったもっと小さな粒子状物質でも問題になっている(PM0.5やPM0.1はPM2.5より人体への影響が深刻とされている)。どうやら犯人はディーゼル車のようである。

    パリなどでは「ディーゼル車を禁止しろ」という声まで出ているという。ディーゼルエンジンは粒子状物質を少なくするため完全燃焼(温度を上げる)を目指せばNOXが増え、反対にNOXを抑えようとすれば粒子状物質が増えるという関係にある(このことは筆者の拙い科学知識でも何となく分る)。この技術的な問題がどこまで解決したのか分らない状態で、二酸化炭素の排出量が少なく「エコ」だという理由だけで、欧州ではディーゼル車の販売が押し進められてきたきらいがある。今日、クリーン・ディーゼルという話が出ているが、これが問題をどこまで解決しているのかよく分らない。人々の関心がPM2.5だけでなくPM0.5やPM0.1にも広がれば、クリーン・ディーゼルはアウトかもしれない。


    筆者は、04/6/28(第350号)「テロと中東石油」などで何回も「欧州はディーゼル車の方がガソリン車より二酸化炭素の排出量が少なく「エコ」と間抜けたことを言っている」と指摘してきた。当初から筆者は欧州のディーゼル車の礼讃を怪しく感じていた。しかししばらく経つと、欧州の本心みたいなものが見えてきた。

    どうもこれは「エコ」とは関係がなく、「エコ」という言葉を使った参入障壁ではないかと筆者は考えるようになったのである。乗用車は日本と米国は主力がガソリン車に対して、欧州は以前からディーゼル車の比率が高かった。欧州は二酸化炭素の排出問題を使って、日・米、はっきり言えば日本からの車の輸入を阻止したかったのではないかと考えると納得が行く。特にハイブリット技術で先行した日本車は欧州の自動車産業にとっても脅威である。これに気付いてからは、「エコ」がらみで欧州のディーゼル車の話は取上げたくなくなった。


    筆者は08/6/2(第529号)「もう一つの「から騒ぎ」」などで、IPCC(地球の温暖化についての気候変動に関する政府間パネル)もずっと怪しいと指摘してきた。IPCCの報告書を基に各国は二酸化炭素の排出を制限することになった。しかし地球科学分野には世界で40以上の科学者のグループがあり、IPCCはその一つに過ぎないないという話である。中にはこれから地球は、温暖化ではなく寒冷化に向かうと主張する学者グループさえある。この怪しいIPCCの主張に沿って「二酸化炭素の排出権」なるものが売買されるというからあきれる。まさに「エコ」の横暴である。


  • 原油価格下落でも電気代値上げ

    原油価格が下がり、また原油価格にほぼ連動するLNG価格も下がっている。これらによって日本の電気代も少し下がる傾向にある。ところが下がって来ている電気料金が、5月にまた上がるという話である。これは再生可能エネルギー賦課金が5月に上がるからである。

    東日本大震災までは、諸外国に比べ高かった日本の電気料金も順調に下がっていた。これは日本の発電に占める原発の比率が上がってきたからである(ピーク時31%)。ところが震災後、原発が止まりまた原油価格が上昇したため、電気料金は家庭用で2割、産業用で3割も上昇した。

    原油価格が下落し原発の再稼動が見えてきて、今日、ようやく電気料金が下がり始める段階にきた。ところが再生可能エネルギー賦課金が大きくなって、逆に電気代が上がる。これは「エコ」の名のもとに、主に太陽光発電が増えていることが要因となっている。


    民主党政権時代、日本中が震災後でパニックに近い精神状態にあり、どさくさ紛れに太陽光発電による電力の全量買取と買取価格の異常な高値設定を決めたことが原因となっている。申請ベースで6,680万Kwhも認可した(実際の予想される発電可能量はこの一割)。買取価格をあまりにも高く設定したため、申請が殺到したのである。業者は、この高価格なら確実に儲かるから一応申請だけはしておくと考えたのである。建前は「エコ」であるが実態は経済的利益が目的であり、前段の欧州でのディーゼル車推進とよく似た構図となっている。

    申請され認可された太陽光発電設備が、徐々に稼動を始めたのである(現在、1,180万Kwhが稼動)。しかし再生可能エネルギーによる発電が増えれば、当然、電気料金は上がる。実際、原油価格が下がり電気料金が下がるはずなのに、再生可能エネルギー賦課金が5月に改定されるため電気代は高くなるのである。


    再生可能エネルギーによって発電した電気は、発電した者が自分で使用するのなら問題はない。しかしこの発電した電気を電力会社が買取る仕組になっていることが問題なのである。発電事業者は、発電した電気を高く売り自分が消費する電気は電力会社から安く購入している。また再生可能エネルギー発電による高コストは、電力会社ではなく最終消費者が負担する形になっている。これが再生可能エネルギー賦課金である。

    再生可能エネルギーによる発電量が増えれば、電気料金がどんどん高くなる。再生可能エネルギーによる発電で先行した欧州では、電気料金の値上がりが大問題となり、再生可能エネルギーによる電力の買取価格を慌てて大幅に引下げた。日本がバカ高い買取価格を決めた頃には、欧州では買取価格は既にかなり安くなっていた(特に太陽光発電)。どうして日本があのような高い価格を設定したのか大きな謎である。ちなみに欧州の太陽光パネルメーカーは、次々と破綻し(世界のドップメーカーであったドイツのQセルズも倒産)、中国や韓国の企業の傘下に入った(輸出先として狙っているのは高い買取価格の日本の市場)。


    再生可能エネルギーによる発電は、高コストに加え「電気の質」に問題がある。太陽光にしても、風力にしても、これらで発電された電気は安定しない。発電量、電圧、周波数などにバラつきが生じるからである。

    買取る再生可能エネルギーの質が安定しないので、電力会社は火力発電で送電量を調整している。再生可能エネルギーによる発電量をカウントしないまま、火力発電で最低必要量の電力を送電しているという話さえある。つまり11/6/20(第666号)「付加価値と発電」で述べたように、再生可能エネルギーによって発電した電気は、事実上、捨てられている可能性がある。

    しかしこのような重要なことを日本のマスコミは取上げない。これも「エコ」の呪縛と筆者は見ている。また今日話題になっている元通産(経済産業省)官僚の古賀茂明氏は、以前、「日本の電気は過剰品質」と驚くようなことを言っていた。しかし日本の社会と産業はこの「電気の過剰品質(筆者達、消費者はこれが普通と思っている)」とやらを前提に動いている。まさに元通産官僚にあるまじき発言である。



来週は、今週の続きである。




15/3/30(第838号)「原油の高値時代の後始末」
15/3/23(第837号)「ドバイショック再現の可能性」
15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
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14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
14/5/12(第796号)「使えない経済指標」
14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」


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