経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




15/3/23(837号)
ドバイショック再現の可能性

  • 主な産油国は減産せず

    筆者はかなり高い確率で原油価格がさらに下がる(いわゆる二番底に向かう)と予想してきた。ただその徴候が現れるのが、筆者の想定よりちょっと早まった印象がある。先週号で1月29日の最安値43.58ドルをいつ下回るか注目されると述べた。ところが先々週の13日(金曜日)の時間外取引であっさりとこれを割込んだ。さらに先週は下値を模索する動きが続き、ついに42ドル台を付けた。その後一進一退の膠着状態に入っている。

    市場には上昇に掛ける買い投機と、下落を予想する売り投機の資金の流入が増えている。今のところ両者が拮抗し上にも下にも行く可能性がある。ただ筆者は、よほどのことがない限りいずれ下の方に向かうと予想する。今週は、膠着状態を撃ち破る要因になるかもしれない産油国の増産(これについては先週号でも取上げた)と、投機筋の原油の投売りの可能性を探る。


    先週号で価格暴落にもかかわらず原油供給が増え続けている可能性があると述べた。先週取上げたのは米シェールオイルの増産である。ところが原油供給の調整役を期待されているサウジアラビアが増産しているのではないかという話が出ている。

    新規の石油開発の費用は大きくなっていることは事実である。これは開発案件が深海とか極地といった条件が悪いところばかりになっているからである。たしかに100ドルの価格が続いても採算に乗らず、開発を途中で断念する案件も出ていた。


    しかしサウジのように生産余力が大きい国は、ほとんど費用を掛けずに原油の増産が可能である。したがってサウジが増産しているという話も有り得ることである。ちなみにクウェートも減産をしないと言っている。これらの事情に関しては後段で触れる。

    このように費用が増大しているのはあくまでも新規の開発案件の話である。既存の油田は、変動費が賄える価格水準なら生産を続ける方が合理的と考えられる。価格が安くなったからといって生産を止めれば、開発費などこれまでの投資が全損になる。

    シェールオイルの生産が減らないのも、開発費用を少しでも回収したいというケースがあるからである。ましてや高値の時に売りヘッジ(例えば70〜80ドル程度)していたものは、当然生産を続け生産物を買手に引渡すことになる。さらに先週号で話をしたように「米シェールオイルの生産効率は上がり、シェールオイルの競争力は増している」という状況にある。


    ただまだ中東の地政学的リスクを過大に捉える向きがある。例えばリビア状勢の悪化が先日までの一時的な原油価格上昇の一つの理由にされた。またWTIと北海ブレント先物の価格差が10ドルもあるが、リビア原油が主に欧州に輸出されていることが原因とされている。しかしまことに奇妙な話である。リビアの原油生産は落ちるところまで落ちていて、これ以上市場に与える影響はないと筆者は見ている。

    むしろイランへの経済制裁(核開発疑惑に伴う)の解除、あるいは一部解除の可能性の方がインパクトとして大きいと筆者は考える。制裁前のイランの原油生産量は400万b/dであったが、昨年あたりは280万b/dまで減少している(減産分は主にサウジが増産している)。したがってもし制裁解除となれば、100万b/d以上の原油供給余力が増えることになる。


  • 投機筋などの投売り

    前段で取上げたサウジの増産やシエールオイル増産、さらにはイランの制裁解除による増産は、ある程度予見が可能な供給増要因である。しかし今回の原油暴落劇の規模を考えると、筆者は突発的な供給増が連続的に起っても不思議はない段階に来ていると見ている。例えば高値で原油を買った者が資金繰りに窮し投売りを始めることなどである。

    もし原油価格が元の水準に戻らないどころか、二番底に向かうということがはっきりすれば、高値に戻ることを期待して買っていた向きが原油を投売りをしてくる可能性がある。なにしろリーマンショック後の暴落を除けば7〜8年も100ドル時代が続いた。したがって今回の下落の過程で「これは安くなった」と勘違いし、今となっては高い価格で原油を買った者が結構いたはずである。


    ただ灯軽油・重油といった石油製品の投売りは過去にもあったが、原油は安売り(例えばイスラム国などは安売りしていると思われる)があっても、これまで原油の投売りという事態は筆者も見聞きしたことがない。しかしその原油の投売りということが始まる可能性が出てきているのである。

    まず原油貯蔵スペースが満杯に近くなっている。米国の在庫は4億5千バレルと最高水準まできている。中国は昨年の原油価格下落の過程でかなり備蓄を積増し済みである。


    さらに原油の洋上備蓄が増加している。これはコストが安い陸上設備だけでは足りず、大型タンカーを使った備蓄が増えているからである。備蓄を増やしているのは資源商社である。

    原油先物市場では、決済期日の近い物より期日の遠い物の方が極端に高くなっている。これは今日の安値が異常で、これ以上は下がらず時間が経てば元の高値近くまで戻すといった希望的観測が強かったからである。たしかにIEAもそう言っていた(ところが最近になってIEAは、当面、原油価格は下がると言い方を微妙に変えている)。本誌が原油価格を取上げ始めた頃(2月初旬)には、多くのエコノミストも同様のことを言っていた。


    資源商社は、現物の原油を買って期日の遠い物を売るといった裁定取引を行っている(これはコンタンゴ(順ざや)プレーと呼ばれる)。これは先物が極端に高くなって市場価格に歪みが生じているからである。たしかにタンカーの用船料や保険費用などを負担しても僅かに利益が残るので、この裁定取引に関しては資源商社に損失は出ない。

    ただ問題はこの取引に伴う原油の洋上備蓄の増加と高値の先物を買った投資家(投機家)である。たしかにIEAの観測のように今年の後半に原油が値を戻すのなら問題は生じない。しかし今日の安値が続くか、あるいはそれどころかさらに下落することがはっきりして来た時が大変である。高値の先物を買った投資家(投機家)は、期日をさらに延す(いわゆる飛ばし)か、ギブアップする他はなくなる。

    ギブアップした場合には、洋上備蓄されている原油がどっと市場に出回る可能性が出てくる。このような投機筋の投売りが、今日のような膠着状態を撃ち破り原油価格の最安値を現出させる原動力になり得る。ただこのような投売りはまだ表面化していない(表に出ていないだけで既に行われていることも有り得るが)。


    原油価格が半分以下になり、潤沢な資金を持つサウジも苦しくなっている。先日、とうとうサウジはGTL(Gas To Liquid)装置の建設中断を発表した(天然ガスをガソリンや灯軽油といった製品に液化する装置。天然ガスを液化する従来の方法は高圧・低温によるLNG製造)。このようにサウジでさえ資金的な見通しが厳しくなっている。

    サウジ一国が減産しても、他の産油国が一緒に減産する保証はない。それなら増産を続けた方が良いと判断したのであろう。ただサウジでさえ苦しくなっているのだから、他の産油国はもっと深刻な状況にあると見られる。昨年までの高値が続くことを前提に、大型の開発投資を進めてきた産油国が多いはずである。その投資資金の決済に迫られる産油国からも原油の投売りが出る可能性がある。

    資金繰りの危機として思い出すのは、2009年11月のドバイショックである。リーマンショック後の金融危機で不動産価格が下落した。この影響でドバイ政府の持ち株会社のドバイ・ワールドとその傘下の不動産開発会社ナキール(超高層ビルやパームアイランドを建設)が突然590億ドルの返済期限を半年以上延すよう債権者に要請し、これがきっかけとなり世界の株価が急落した。最後はアブダビ国立銀行などが支援し倒産は回避された。一見豊かと思われる湾岸諸国の財力も限られているということをこの出来事は示している。筆者は、他の産油国でも今後このドバイショックと似た事が起るような気がする。



来週は引き続き原油価格の動向を取上げる。原油価格が7〜8年も100ドルといった異常な時代が続いた結果、各方面でそれを前提にした経済の動きがあった。今後、そのような時代がもう来ないということがはっきりすれば、色々なところで大きな反動があると思われる。例えば燃料電池が昨今もてはやされているが、これも原油価格がバカ高値で推移することが前提になっている。今後、原油価格のバカ高値時代の後始末が待っていると筆者はずっと考えている。来週は余裕があったならこれらにも触れたい。




15/3/16(第836号)「価格暴落でも供給増」
15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
14/7/14(第805号)「ポンコツ経済理論の信奉者達」
14/7/7(第804号)「経済成長の三つのパターン」
14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
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14/5/19(第797号)「「美味しんぼ」騒動」
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14/4/28(第795号)「推理小説のような中国経済の実態」
14/4/21(第794号)「中国1〜3月期のGDP成長率」
14/4/14(第793号)「日本のマスコミの問題体質」
14/4/7(第792号)「ウクライナとロシアの関係」
14/3/31(第791号)「怪しくなったアベノミクスの行方」
14/3/24(第790号)「中国のバブル生成の過程」
14/3/17(第789号)「バブル経済崩壊の序章」
14/3/10(第788号)「中国経済にまつわる奇妙な話」
14/3/3(第787号)「中国経済に変調(その2)」
14/2/24(第786号)「中国経済に変調」
14/2/17(第785号)「経済戦略会議から15年」
14/2/10(第784号)「理論と現実の狭間・・金利編」
14/2/3(第783号)「経済理論と現実の狭間」
14/1/27(第782号)「なつかしい経済理論の復活」
14/1/20(第781号)「窮地に立つリフレ派」
14/1/13(第780号)「新春のトピックス」


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