経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
経済コラムマガジン




15/3/16(836号)
価格暴落でも供給増

  • ソロスのポンド売り投機

    様々な原因によって、市場の価格形成が歪になることがある。しかもその矛盾を孕んだ価格水準のまま何年も推移するケースがある。例えば金利や株価、また為替などである。成功する投機(投資)家は、そのような市場の異常で矛盾する数値を見つけ出し、反対の投機(投資)を行い利益を得る。

    有名な話は、1992年のジョージ・ソロスによる英ポンド暴落劇である。当時、ユーロ導入に備えてEU各国は、自国の通貨の変動を一定の範囲に収める操作を行っていた(欧州為替相場メカニズム(ERM))。しかしこの結果、当時のサッチャー時代の英国は実力以上の為替水準を維持するはめになった。この通貨高によって、英国は経常赤字が続き経済も低迷していた。この矛盾を突いたのが、ソロスの英ポンドへの売り投機であった。

    ちなみにこれによる英ポンドの暴落によって、むしろ英国経済は少し好転した。英国経済が蘇ったとしたなら、サッチャーの規制緩和などの構造改革ではなく、ソロスのポンド売り投機のお陰である。ソロスは英ポンドの暴落劇(20〜30%の下落)で、短期間のうちに10〜20億ドルの利益を得たという。


    為替だけでなく、金利や株価など他の物にもしばしば歪みが生じる。例えば日本では80年後半からバブル発生によって不動産価格が異常に高騰した。そして2000年代に入り、世界の商品市場に投機資金が流入しバブルが生じた。金などの他の商品の価格は3〜4倍になり、中でも原油価格は5〜7倍と際立って高くなった。

    価格が「高過ぎる」とか「安過ぎる」ということは市場参加者も薄々分ることである。しかし市場価格に歪みが生じていても、なかなか是正されないのが現実の世界である。また情報発信力のある者が、本当かどうか分らない情報を流し市場の動きを操作し、値を維持しているケースも有り得る。


    しかし市場価格が実態を反映しない場合は、矛盾が段々と蓄積されて行く。そして大きな矛盾を抱えた市場価格は、何かをきっかけに調整されることになる。矛盾が大きいほど調整はより激しくなり、たいてい「大暴落」や「大暴騰」という形を取る。

    先週号で述べたように原油を除く商品は11年1月から下落に転じ、原油は昨年の夏場から暴落を開始した。特に原油価格は、上昇率が大きかったため調整もより厳しかった。そして今日の世間の関心事は、原油価格のさらなる下落があるかということである。


    上述したように価格形成が行き過ぎた場合は何とか分るものである。しかしどのタイミングで調整が開始されるかは部外者にはよく分らない。ただ市場が活況で取引が盛上がった直後から、暴騰・暴落が始まるケースが多いことは何となく分る。

    しかし一旦調整された価格のその後の推移を予想することはさらに難しくなる。しかしこの難しい段階にある原油価格の行方が、今、問われていることである。ちなみに08年のリーマンショック後、原油などの商品は大暴落したが、しばらく経って上昇に転じ2回目の天井を付けた。

    筆者もなかなかこれを予想することができなかった。おそらくリーマンショック後、各国が経済政策(金融政策と財政政策)を発動したことが影響したと考えられる。要するに世界的な金余りが続いたのである。そして11年1月からの価格下落(原油を除く商品)は、ギリシャ危機に端を発する欧州の金融危機と新興国の経済成長の鈍化がきっかけと理解している。


  • 想定外の原油供給量の増加

    先週号でこの予想が困難な段階にある原油価格の推移を予想する「カギ」として、筆者は「原油供給量の増加」と「原油・石油製品の投売りの発生の有無」を挙げた。そしてこれらが原因でもしWTIが40ドルを割ることがあれば、原油価格が二番底に向かう可能性があることを示唆したつもりである。二番底ということは30ドル割れ、また極端なケースでは20ドル割れも視野に置く必要があると筆者は思っている。


    まず供給増の可能性の話である。現実の経済(特に石油にまつわる)を知らないか、あるいは知ろうとしない観念論者の経済学者やエコノミストは「価格が半分以下にもなったのだから需要は増え、供給は減る。少なくとも供給が増えることはない」と供給増の話をバカにして一蹴するであろう。彼等の頭の中では、価格がパラメータとして動き常に需給は市場で調整されることになっている。

    しかし現実の世界では原油・石油製品の在庫が減っていないという話が出ている。しかもその原因が原油の供給増という指摘さえある。観念論者の経済学者やエコノミストが聞いたらノイローゼになりそうな話である。


    実態はまだ分らない点もあるが、価格が暴落したにもかかわらず実際に原油の供給が増え続けていることを示唆する話がいくつか出ている。しかしこれらは別に筆者が特別の秘密ルートから得たような情報ではない。誰でも目にする日経新聞の記事である。

    一つは2月の「米シェールにしぶとさ・・原油大幅安でも減産進まず」という記事である。たしかに原油掘削のリグの稼動数はかなり減り、人員削減を行ったり経営破綻した開発業者が出ていると言う。しかし掘削を止めたリグは効率が悪いものが中心である。また開発も優良鉱区に集中するようになった。

    つまり生産効率は上がり、シェールオイルの競争力は増しているという話である。これは間抜けな経済学者やエコノミストにとって想定外の展開であろう。したがって今年の米シェールオイルの生産は70〜90万b/d増えると予想するところさえある(シティグループ)。つまりリグの稼動数だけでは実態は分らないのである。


    二つ目は3月6日付け(夕刊)ウォール街ラウンドアップの「米原油相場に二番底の懸念」という記事である。ここではエクソンモービルのティラーソンCEOの今後3年間の原油価格の予想を取上げている。ティラーソン氏の予想は北海ブレント先物で55ドルとしている。WTIと北海ブレント先物の差を10ドルとすれば、WTIを45ドルと予想していると考えて良い。注目されるのは、ティラーソン氏が時価よりかなり低く予想していることである。

    本来、石油開発部門が大きい石油会社としては高く予想したいところである。ところが大手石油会社の最高経営責任者でさえ実に弱気な見通しを示しているのである。理由は「止まらない米シェールオイルの生産」と「世界的にも供給余力があること」である。「止まらない米シェールオイルの生産」については前述の2月の日経新聞の記事を裏付ける形になっている。


    ちなみに筆者は、10ドルもあるWTIと北海ブレント先物の価格差はいずれ2〜4ドル程度まで縮小すると見ている。10ドルも差があるのが不自然なのである。もし米国が原油輸出に踏出すことがはっきりしたならば、たちまちこの差は小さくなると見ている。日本が輸入するサウジアラビア原油の価格は、北海ブレント先物と連動するドバイ原油先物と、オマーン原油の価格で決まる。つまり北海ブレント先物がWTIに鞘寄せされるなら、日本が輸入する原油価格はさらに安くなるという話である。

    先週号で原油価格が二番底に向かう条件として、40ドル割れがあるかどうかと述べた。しかし40ドルとは、当然、1月29日の最安値43.58ドルを意識したものと考えてもらって良い。つまり40ドル割れうんぬんというより、その前にまず最安値43.58ドルを割込むかが問題である。その時の世界の反応によっては、二番底に向かう可能性が極めて高くなると筆者は見ている。3月13日(金曜日)のWTIはとうとう44.84ドルまで下がった。今週のWTIの動きからは目を離せられない。



来週は「原油・石油製品の投売りの発生の有無」について述べる。余計な事(筆者は重要と思っているが)を書いているためか話がなかなか予定通りには進まない。そうこうしているうちに現実の動きの方が早くなって来て、筆者も少々焦っている。




15/3/9(第835号)「原油価格は二番底に向かう?」
15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
14/11/3(第819号)「財務省とマスコミの関係」
14/10/27(第818号)「増税派の素顔」」
14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
14/10/13(第816号)「増税なんて必要ない」」
14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
14/9/29(第814号)「メディアはねつ造だらけ」」
14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
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