経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/3/9(835号)
原油価格は二番底に向かう?

  • 40ドル割れの可能性

    原油価格の今後の見通しについて、人々は様々な数字を挙げている。しかしそれらの数字に関し説得力を持った説明がほとんどない。多く人々は、自分達の「感じ」で見通しを語っているに過ぎない。どうも調査時点(つまり聞かれた時)の価格の近辺を答えているようである。したがって大半の人々はWTIで45〜60ドル程度を予想している。

    さすがに100ドルに戻るという者はいないが、70〜80ドル程度まで戻すという見通しを持つ人はある程度いる。反対に少数派ではあるが、20〜30ドルまで下落する(少なくとも一旦は30ドルを切る場面がある)という意見もある。つまり第二弾目の下落が起ることを想定したもので、シティーグループなどがこれを唱えている。


    もっと極端な見通しを語るのが、元東燃社長であり元日銀審議委員であった中原伸之氏である。ちなみに中原氏が日銀審議委員(政策委員)だったのは速水日銀の時代で、当時、バーナンキ前FRB議長は「中原氏を除き、日銀メンバーは全部ジャンク」と酷評した。つまり日銀で、ジャンクでなくまともな者は中原氏だけと言っていたのである。

    その中原氏が20ドルを割込む場面も有り得ると原油価格の見通しを語っていることが注目される。「これまで4年間も100ドルが続いて来たことが異常であった」と述べており、この点は筆者も本誌で同様のことを言ってきた。そこで先週でも用いたWTIの推移表をもう一度提示する。
    33年間のWTIの推移(ドル)
    年(暦年)WTI年(暦年)WTI年(暦年)WTI
    823393180441
    833194170556
    842995180666
    852896220772
    8615972108100
    871998140962
    881699191079
    892000301195
    902501261294
    912202261398
    922103311493


    中原氏は東燃の社長として長く石油に携わってきた。そのような人々の感覚では、標準的な原油価格は20ドル前後という認識がある。79年の第二次オイルショック後、突然、公示価格が30ドルに上がったが、これはOPECがカルテルとして機能していたから可能だったと解釈される。

    さらにその後5〜6年間は30ドル程度の価格が維持されたが、これは80年に始まったイラン・イラク戦争(イライラ戦争)が続いた影響が考えられる。しかし戦争が終結に向かう辺り(最終的には88年に終結)から価格が10ドル台に下落している。たださらに90年代も20ドル以下の価格が続いていたため石油開発のペースが落ち、この時期の開発投資不足が2000年代に入ってからの価格高騰の一つの要因となった。しかしいずれにしても「何事もなければ原油価格は20ドル程度」という感覚はさほど不自然ではない。


    もちろん中原氏も原油価格が20ドル程度でずっと推移することを予想しているわけではない(おそらく中原氏は中長期的に30〜40ドル程度を想定しているのではと筆者は勝手に思っている)。ただ一瞬でも20ドルを割るかもしれないと言っているのである。その条件として一旦40ドルを割込む場面があることを挙げている。

    1月末の43ドルを底に反転してきた今日、まず40ドルは割込まないという雰囲気が世間にはある。しかし筆者は40ドルを割込む場面は十分有りうると見ている。もし40ドルを割込む場面があれば、中原氏が想定している20ドル割れという二番底に向かうことが現実のものとなるかもしれないという話である。


    しかし話がここまで来ると(可能性を前提条件にした話)、筆者も雲を掴むようなあやふやなことしか言えない。今後の原油価格の見通しを語るには、どうしても事態が変ることを確認する時間がもう少し必要と考える。ただ40ドル割れを演出するかもしれない要因を二つ挙げておく。

    一つは原油供給量の増加である。さすがに「原油価格が半分になって供給が増えるなんて何とばかげたことを言っている」とポンコツの(新)古典派経済学の信奉者から言われそうである。もう一つは高値で原油を買った投資家や資源商社など、さらに産油国(供給増の話にも繋がる)が資金繰りに窮して投売りを始めることである。これらを確認するにはもう少し時間が必要というのが筆者の率直な気持ちである。


  • 商品市場全体の動きを見る必要性

    原油価格の動向や見通しを語るには、商品市場全体の動きも見る必要があると筆者は考える。2000年代に入って、明らかに商品市場の動きが異常になった。原因は、商品市場に実需とは関係のない資金が流入するようになったことである。

    価格変動に伴う利益(キャピタルゲイン)の他に、債券には利息、株式には配当、不動産投信には賃貸収入といった収益(インカムゲイン)が期待できる。しかし基本的に商品には収益(インカムゲイン)に相当する利益はない(先物価格の歪みを利用した裁定取引による利益は期待できるが)。そのような市場に、商品ファンドというものが組まれ大量の資金が流入してきたのである。

    たしかに商品ファンドと言っても、全ての資金が商品に振向けられるわけではなく、為替や債券への投資を組合わせている。商品ファンドについて日本では90年代に法整備が進められ、1998年に完全に規制緩和された。これは世界的な傾向であり、それまでプロの相場師や業界の専門家が仕切ってきた商品市場に、2000年代になってファンドの資金が流入してきたのである。


    筆者は、2000年代の商品市場への資金流入の先駆けとなったものが2001年11月30日のゴールドマン・サックスの投資家向けレポートと見ている。ここでゴールドマン・サックスのエコノミストのジム・オニール氏は「BRICS」という言葉を初めて使い、今後の新興国の経済成長を予想した。この経済成長に伴い、将来、「資源需要も爆発的に増えること」をこのレポートは人々に印象付けた。

    実際、先進国経済の低迷に対して、BRICSの経済成長は目覚ましいものがあった。一次産品価格も2000年に入り少しずつ上がり始め、特に2004年辺りからは上昇幅が拡大した。しかし価格上昇はBRICS諸国の需要増を正確に反映したものではなく、多分に投機マネーの流入が原因と見られる。その背景として世界的な金余りがあると本誌は07/12/3(第507号)「「金余り」と商品相場」07/12/10(第508号)「「金余り」と日本政府」などで指摘した。


    商品市場は、債券市場や株式市場に比べ市場として規模が小さい。そのような市場に大量の資金が流入したのだから商品バブルが起るのが当たり前である。しかし商品の価格が上がり続けるのだから、ファンドとしては商品を組み入れざるを得なくなった。そしてこれがまた商品の価格を押上げることになったのである。

    日本や中国、そしてASEAN諸国の資金だけでなくオイルマネーまでもが欧米に流れ、サブプライム問題や欧州経済のバブル化を引き起した。そして回り回ってこの資金が商品価格を押上げたと言える。リーマンショックで一旦商品価格は暴落したが、その後しばらく経つと商品価格は再び上昇し始めた。しかしリーマンショックから2年余り後に2度目の天井を付けたあと(11年1月辺り)は下落に転じ、今日に到っている。これはBRICSの経済成長神話に陰りが出たことが反映したと筆者は見ている。つまり「将来、資源需要は爆発的に増える」といった半分嘘のセールストークが使えなくなったのである。また15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」で取上げたボルカー・ルールももちろん影響している。


    商品価格のチャートは、金と原油を除き、驚くほど似た動きをしている。08年のリーマンショック直前に一回目のピークを付け、その後の暴落のあと、上昇を再開したが11年1月辺りで2回目の天井を付けている。そしてその後は今日まで下落を続けている。石炭やコーヒー、そして大豆などが全く同じチャートで推移しているのである。間抜けな経済学者やエコノミストが、このような市場価格の動きを実際の需要や供給で説明しようとしているから笑えるのである。

    金価格はリーマンショックでも下落せず逆に急上昇した。これは欧州を始めとした世界の金融不安を反映したからである。しかししばらく経って下落に転じ今日に到っている。つまり金だけは天井が一回である。

    また原油だけは、他の商品が11年から下落に転じたにもかかわらず、昨年14年の7月辺りまで高値を維持した。これはまず石油市場が他の商品市場より大きいこととが影響したと考えられる。また大手金融機関が石油貯蔵施設を所有するなど市場に深く入れ込み過ぎたため、撤退に手間取ったからと筆者は見ている。しかし撤退後は原油にカラ売りを仕掛けているとも推測される。とにかくゴールドマン・サックスのレポートに始まった世紀の商品価格暴騰劇は、今日、一旦幕を閉じたと筆者は見ている。そしてこの認識で今後の原油価格を見通すことが必要と思っている。



来週は今週取上げた原油供給量増と石油の投売りの可能性について述べる。これらは今後の原油価格の動向に大きな影響がある。







15/3/2(第834号)「実態がない地政学的リスク」
15/2/23(第833号)「米大手金融機関の「情報発信力」」
15/2/16(第832号)「「今が潮時」とうまく撤退」
15/2/9(第831号)「代替資源(非在来型資源)のインバクト」
15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」
15/1/26(第829号)「低調になった経済論議」
15/1/19(第828号)「「どんぶり勘定」の経済運営」
15/1/12(第827号)「IMFの借金取りモデルの導入」
14/12/24(第826号)「増税版バカの壁」
14/12/19(第825号)「総選挙後の動きと課題」
14/12/8(第824号)「今回の総選挙の注目点」
14/12/1(第823号)「「今から嘘をつくぞ」の決まり文句」
14/11/24(第822号)「解散・総選挙の裏側」
14/11/17(第821号)「再増税は延期?」
14/11/10(第820号)「日本のぺらぺら族」
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14/10/20(第817号)「消費税増税と八代亜紀」」
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14/10/6(第815号)「日経新聞のねつ造解説」」
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14/9/22(第813号)「人手不足は本当か」」
14/9/15(第812号)「経済学とニヒリズム」」
14/9/8(第811号)「サミュエルソンは新古典派?」」
14/9/1(第810号)「ハシゴを外されそうな日本」」
14/8/25(第809号)「ハシゴを外された話」」
14/8/4(第808号)「トマ・ピケティの「21世紀の資本論」」
14/7/28(第807号)「三教授のサマーズ論の解説」
14/7/21(第806号)「一家に一台が需要の天井」
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14/6/30(第803号)「サマーズとトマ・ピケティ」
14/6/23(第802号)「奇妙な話ばかり」
14/6/16(第801号)「石油は人々をおかしくさせる」
14/6/9(第800号)「ベトナム沖の一大事」
14/6/2(第799号)「金利低下の背景」
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