経済コラムマガジン 平成9年2月10日より
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15/2/23(833号)
米大手金融機関の「情報発信力」

  • 10回のうち9回までは本当の事

    今週からは今後の原油価格の動向を考えることになる。しかしその前に先週号の補足を行う必要がある。先週号で米国の大手金融機関が原油などの商品取引から撤退している話をした。しかし完全な撤退はないと見られる(例えば自己資本の3%まで投資ファンドへの出資が認められている)。ただこれまでより市場に及す影響力は小さくなると筆者は考える。

    ここで改めて大手金融機関の機能とか強みといったものを考える。当たり前の話としてまず「膨大な資金力」が挙げられる。さらに「情報収集力」と「情報発信力」が注目される。特に重要と筆者が思っているのは後者の「情報発信力」である。この他に「抜群の政治力」が考えられが、これがオバマ政権によって抑えられている。しかしオバマが退陣する2年後には、ボルカールールの緩和などにより市場に復活することを虎視眈々と狙っていると筆者は見ている。


    「情報発信力」についてもっと詳しく話をする。大手金融機関は、各種のレポートを発行し市場関係者に多大な影響を及している。市場参加者は、大手金融機関のレポートに沿った取引を行いがちになる。実際、多くのマスコミやエコノミストなどはこのレポートを鵜呑みにした発言を行っている。

    例えば15/2/2(第830号)「原油価格の動きに変調」で取上げたように、サンデープロジェクトに出演した証券系エコノミストは「原油価格は今後も上昇を続け、150ドルどころか200ドルになる」と米大手金融機関(はっきり言えばゴールドマン・サックス)のレポート通りの発言をし、世の中広くこのデマを広めてくれた。そしてこのような発言が市場に影響を与える。もちろん米大手金融機関の情報(レポート)は原油だけではなく、債券、為替、株価、さらには他の商品などに及ぶ。これについてはそのうち取上げるつもりである。


    このように米大手金融機関の「情報発信力」は侮りがたい。これも市場参加者も米大手金融機関の情報に沿った取引や運用を行って利益を得てきたことが影響していると考える。もっとも市場参加者が米大手金融機関の情報が正しいと思っているかどうかは別である。しかし米大手金融機関の情報が市場をかなり動かしてきたことは事実と筆者は見ている。

    当時、筆者は08/6/16(第531号)「原油価格とファンド」」で「瞬間的に150ドルはあるかもしれないが、さすがに200ドルはないと思っている」と冷めたコメントをした。これは米大手金融機関などが「150ドル」辺りで持ち玉を全部処分したがっていると筆者が判断したからである。案の定、2008年7月11日にはWTIは147.3ドルという史上最高値を付けた後、下落に転じた。そもそもこの前年サブプライム問題が表面化し、不動産市場から大量の資金が原油などの商品市場に流れ市場は完全にバブル状態であった。

    ちなみにリーマンショックが起ったのは「150ドルどころか200ドルになる」というレポートが出た3ヶ月後、史上最高値を付けた2ヶ月後である。「情報収集力」に長けている米大手金融機関が、リーマンショックみたいな事態を全く予想していなかったとは信じられない。リーマンショック後、瞬く間に40ドルまで大暴落したのである。今回の暴落はこれに似ている。

    しかし米大手金融機関の情報が全く当てにならないということではない。10回のうち9回まではほぼ本当の事を言っているのであろう。ところが残りの1回で大嘘を付くと理解すれば良い(だいたい自分でポジションを持って活発に取引を行っている米大手金融機関のレポートが全て正しいと考える方がおかしい)。大嘘かどうかの判断は、受取る側の「分析力」と「常識」に掛かっていると筆者は考える。


  • 額縁(肩書)だけのIEA

    では他に原油価格の動向や予想を正しく公表している機関が今日あるかという話になる(昔はCIAなんかもレポートで石油関連の予測を行っていた)。ところがこの予想が非常に難しくなっていて、適切な情報を出していると思われる機関はほぼ皆無と言って良い。2008年の大暴落や今回の暴落を正しく予測したところはなく、むしろ「もっと高くなる」という声が支配していた。かろうじて本誌は08/6/23(第532号)「原油価格の暴落予想」」で2008年の暴落を予想したが、まさか40ドルまで下がるとは思わなかった。

    たしかに原油価格が実需要と実供給だけで決まっていた時代なら、比較的正しく予想も出来たというものである。しかし今日(少なくとも半年前まで)の市場には仮需や投機マネーの大量流入があり、現実の市場価格の動きは需給を正しく反映していないと言える。ましてや石油タンクまでも所有し、米大手金融機関は活発に原油・石油の取引を行ってきたのである。このような状況なのに、いまだに今回の暴落を需給関係だけで説明しようとする日本のエコノミストは本当に間抜けである。


    たしかに国際機関として国際エネルギー機関(IEA)がある。国際的に唯一の総合的なエネルギー研究機関として世界中で認知されている。ところがこのIEAがとんでもないしろものなのである。このIEAは、歴史的に原油価格の見通しをずっと大きく外し続けている。まさに額縁(肩書)だけが立派な機関である。

    日経新聞までもがIEAの見通しの甘さを2月1日13面の「羅針盤」(米州総局編集委員 西村博之)で悔しさを交えあげつらっている(たしかに日経新聞もこれまでIEAの間違った見通しを随分とたれ流してきた・・そもそもIEAをまともに相手にしてきたことが間違いである)。まず90年代後半の石油価格の下落を見逃したこと取上げている。次に2012年11月に「100ドル強の価格が2020年にかけて130ドルに向かう」といったトンデモない予想をしたと言っている。また2003年以降の価格急騰や金融危機(リーマンショック)後の急落も見通せず、さらにシェール革命の影響を察知するのも遅れたと指摘している。


    IEAは掘削技術の進歩といった要素を無視したモデルで予想を立てたため、生産能力の拡大を見通せななかったと「羅針盤」は指摘する。ところで90年代後半の石油価格の下落も掘削技術の進歩が原因と筆者は見ている。当時、既存の油田に新しい掘削技術が適用され、本誌でも取上げたことがあるが中東では限界コストが7ドルといったケースさえ出現した。

    石油は枯渇するとの「ピーク・オイル」説を広めていたのもIEAである。この影響が強く30年で石油が枯渇するという話が昔は常識であり、皆これを信じていた。ところが30年経っても「後30年」となり、最近では「後45年」となっている。またこの「ピーク・オイル」説が原因で地政学リスクが過大評価する傾向を強めたと「羅針盤」は批難する。


    筆者は、IEAだけでなく国際機関には同じような変な思い込み(一種の宗教的雰囲気が漂う)を持つ観念論者が集りがちと見ている。このことはIMFなど他の国際機関にも言えることである。したがって何回同じ間違いを犯しても、反省しないのがIEAなど国際機関のスタッフの特徴と筆者は思っている。そのIEAは今年後半から原油価格が上がると言っている。この話を「信じるかどうかは貴方しだい」ということになる。

    ただこのIEAの片寄った情報を、これまで都合良く利用してきたのが米大手金融機関と筆者は認識している。「原油価格は今後も上昇を続け、150ドルどころか200ドルになる」といった米大手金融機関のレポートも、権威(実態は額縁だけ)あるIEAの見通しを利用したと筆者は思っている。ただ米大手金融機関にとっては、その場で利用できれば良いのであり、IEAの見通しが本当に正しいかどうかは問題ではない。このIEAの見通しと「地政学リスク」(ほとんど実態はないが)を組み合わせば、相場をかなり操作できたと筆者は思っている。

    この抜群の「情報発信力」を持つ米大手金融機関が原油市場から撤退しようとしている。今後、これに代わる情報発信力を持つところが現れるかということになる。しかしこれがなかなか難しいと筆者は思っている。先週号で取上げた資源商社も信用されていないと見る(それどころか潰れるところが出てくるのではと思っている)。したがって少なくとも米大手金融機関が仕切っていた時代(特に昨年までの4年間)は原油価格が安定(ただし高値で)していたが、今後、変動幅が大きくなるのではと筆者は思っている。



来週は、「地政学リスク」を取上げた後、今後の原油価格の見通しについて述べる。







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